いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

由美さん

2023-06-15 14:10:00 | 日記
由美さんは70歳代前半、女性。脳血管性の病気の後遺症があるが、軽度。車椅子使用中だが、立位や少しの歩行は可能。

グレイヘアのショートカットで、とても細身。中性的な魅力がある。
長年、保険の外交員をしていたそうで、成績も良かったとか。仕事柄か、話術がとても巧みで面白い。

私と2人だけの時、どんな仕事だったのか詳しく話してくれた事がある

一般的な外交員としての話しから、どんどん際どいエピソードに発展していく。最後の方では、ソープランドの風俗嬢へ、営業に行った話しになった。
「男物の背広、あつらえたんや、自分の」「それ着て、客として堂々と正面からソープへ入った」「それから、担当になった女の子に営業する。一回くらい通っても、あかんから、何回か通った」「そしたら、やっぱり身体資本の商売してる女の子らは、みんな自分の身体、心配やから、保険に入ってくれたよ」と。
私はやっぱり、トップセールスの人の目の付け所は凄いなぁ…と感心しきり。

でも由美さんには、感情のコントロールに少し難があった。
由美さんのいた老人施設は、大きなマンション型の施設で、介護サービスを利用する人も、利用しない元気な人も同居しているタイプの所だった。
そういう大人数が集まる施設では、時々、入居者間でトラブルが起こる。

ある時、由美さんと同じ階の入居者さんが、何かのことで揉めたらしい。
相手の人から、由美さんにスリッパで殴られた、という訴えがあり、防犯カメラを確認した。

音は無し。映像だけの録画の中で、2人の老婆が掴みあいの喧嘩をしていた。お互いにポカスカ殴りあっている。そのうち、由美さんがスリッパを手にして、パンパン叩いていた(繰り返すが、音は無い)。由美さん、後遺症って本当にあるのかなぁ…。
「吉本新喜劇みたい」不謹慎だが、わたしは心の中で、そう思った。

それからすぐに、私はこの施設を辞めたので、その後、この2人がどうなったのかは知らない。













毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記

2023-06-06 14:34:00 | 日記
先のブログに、高齢男性入居者が親切にしてくれる女性介護者に、老いらくの恋をする事があるという記事を書いて、思い出した。

以前、北原みのり著「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」という本を読んだ。

首都圏連続殺人犯で 死刑囚の木嶋佳苗は、3度目の獄中結婚をしている。

逮捕された時や裁判中は、彼女のその風貌と婚活詐欺及び殺人という事件に、世間が騒いでいたことを覚えている。
でも当時、その事件への私の関心は薄かった。
ところが、木嶋は3度目の獄中結婚をしているということを知って、少し興味が湧いた。

この世には一所懸命、婚活しても 一度も結婚出来ない男女が 沢山いるのに、どうして? 指一本触れられない、ガラス越しの死刑囚相手に、 恋が出来るのだろうか?

3度目の結婚相手は、週刊誌の編集者とのこと。
木嶋の言葉を記事なり、手記なりにしたいという欲望があるのかもしれない。
例えば、そういうビジネスライクな気持ちを考慮したとしても、それでも、結婚までの決断をしたことに、私の想像力は大いに刺激される。
少なくとも、3度目の結婚相手は、木嶋と結婚するために子までなした前妻と離婚している。

木嶋佳苗って、どういう女なのだろう。
裁判傍聴記の他、数冊、本を読んでみたけれど、全く 捉えどころがない。

ものすごい自己愛性人格障害者だということはわかった。と同時に、被害者に対する自責の念も、反省も、もちろん謝罪も全く示さないサイコパスだろうということも感じた。
事件当時の出会い系サイトや婚活サイトの利用者の中には、名乗り出なかった木嶋佳苗の詐欺被害者が、まだまだ 多くいるんだろうなとも感じた。

あの事件がセンセーショナルに明るみに出た時、世の男性陣は口を揃えて、「デブで ブス。あんな女の どこがいいんだ。俺は 絶対、騙されない」と嘲笑った。でも、私はそうは思わなかった。

実際に裁判傍聴をし、生身の木嶋佳苗を見た人々は、彼女の言葉には言い表せないような魅力に、少なからず引き付けられたという。特に「鈴を転がすような、可愛らしい声」と著者は書き記している。

木嶋佳苗のような女に目を付けられた、財産持ちの男性達が次々と被害者になってしまったことは痛ましい事実だか、彼らがどうしても逃れられなかったことも、私には少しわかる気がする。








昭二さん

2023-06-06 02:05:00 | 日記
昭二さんは90歳代、男性。心疾患の既往歴はあるが、体調は概ね良好。認知症もない。
体格は小柄だけれど長年、港湾関係の仕事に従事していたそうで、しっかりした身体付きをしている。

勤めていた会社では、責任のある立場だったということが昭二さんのプライド。「わしは人を動かすのが、上手かったんや」とよく話す。「動かん部下を動かすには、どうしたらいいと思う?」「口で言うてもアカンぞ。何よりもまず、自分が動くことや」と胸を張って、教えてくれる。

昭二さんは、奥さんを早くに亡くしていた。加えて、結婚して二児をもうけていた息子さんも亡くした。そして、その子どもさん達を引き取って、昭二さんが育て上げた。今は成人したお孫さん達への負担にはなりたくないと、自ら施設への入所を決められた。

家事全般をこなして来た昭二さんは、とてもマメだ。私達が家事援助のヘルプに入っても、細かく指図される。買い物には自分で行かれるが、特売品や値引き商品を選ぶ倹約家でもあった。

そんな昭二さんは、私達の同僚のある介護者に思いを寄せるようになる。

彼女は40歳代後半で、ポッチャリとした体と優しい面差しを持ち、また情のある話し言葉を使い、他の入居者様からも人気があった。ただ何かのことで、彼女がシングルマザーであるという事情を聞き、昭二さんの心にスイッチが入った。

昭二さんから彼女へのアプローチは、日ごとにヒートアップしていく。もちろん、彼女にそんな気は更々なく、いくらお断りしても「結婚してくれ」と迫られると困っていた。職場の上司からも再三、昭二さんに注意は入ったが、昭二さんはその時は「わしはそんな事、言ってない」と、とぼける。

ある日、昭二さんの部屋の窓の下に、いろんな食料品が、投げつけられたように遺棄されていた。よく見ると、半額シールの貼られたパンやお菓子やお惣菜だった。私は昭二さんの部屋へ行って、「買ってきた食べ物、捨てたん?」と聞いた。「わしはそんな事、してない」とまた昭二さんは、とぼけた。

それらの食料品は、昭二さんが意中の彼女にあげようとしたものだった。
彼女がそれを固辞したので、腹を立てて、ぶちまけたのだ。

彼女はそれから、まもなく退職して去った。

人気者の彼女がいなくなって、他の入居者様も、私達職員も寂しかった。




雅子さん

2023-06-01 01:31:00 | 日記
雅子さんは80歳代、女性。少しウェーブの掛かったショートカットの白髪が似合っている。キリッとした美人。脳血管性疾患のため、半身麻痺がある。認知症はない。

身体の麻痺はあるが、残された機能を使って、ほとんどのことは自分でされる。車椅子への移譲も自己にて行われるし、自分なりに工夫して、片手でタオルを絞ったりもされる。相当、リハビリも頑張られたようだ。

入浴も機械浴ではなく、一般浴槽を使われる。補助板と手摺りを使って、上手に入られる。もちろん介助者は付くが、洗身もほぼ自分でされる。
お湯に浸かると、いつも「お風呂が大好き」と笑顔になる。
昔から旅行も好きで、国内外を問わず、色んな所に旅行に行ったとか、全国各地の温泉巡りをしたと話してくれる。驚いたのは、車椅子になってからも、旅行には行ったと聞いたこと。事前に相談すれば、ツアー旅行にでも、一人で参加することが出来たそうだ。

そんな雅子さんは若い頃、会計事務所で働いていたが、結婚を機に退職。子どもさんも儲けたが、色々あって…離婚。シングルマザーになってからは、夜の街の高級クラブで働いていたそうだ。

私には、経理の仕事…と話してくれたが、本当のところは、どうだろう?
美人だし、ハキハキしてるし、何より頭がいい。そういう人が、高級クラブで裏方の仕事だけしていたのかなぁ?俄かには信じ難い。

雅子さんと関わっていると、病気や障害、あるいは離婚も、人の幸せや不幸せを決定づけるものではないということを学ぶ。
どんな状況の中でも、自律的に生きていこうとする心の姿勢と行動力。そういうことの大切さを雅子さんは、いつも教えてくれる。