いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

とも子さん

2023-05-11 13:19:00 | 日記
とも子さんは、80歳代女性。身体の麻痺はない。認知症は、かなり進んでいる。排泄行動に時々問題(失禁や弄便)が起こるので、こまめなトイレ誘導は必要。でも、静かで大人しい人。夜間は、数時間置きに起こす事になるのだか、それでも、とも子さんは怒ったりしない。いつでも素直に「はい」と起きて来られる。本当にそれだけで、有り難いと私は思う。

私は、とも子さんが好きだ。
誰の悪口も言わず、一日中静かに座っている。簡単な問いかけには、時々答えてくれる。
記録等のデスクワークがある時、私はよく、とも子さんの隣りに座る。私の作業を黙って見つめている。ただ、それだけ。でも何となく、とも子さんの隣りは、いつも落ち着く。側にいてくれるだけで、心が和む。とも子さんは、そんな人だ。

とも子さんに、若い頃は何をしていたの?と聞いたことがある。「パン屋さん」と答えてくれた。それから「◯◯のパン」と昔からある地元のパン屋さんの名前を、思い出したように付け加えた。そのパン屋さんで、製造の仕事をしていたようだ。でも、それ以上は、詳しく答えられない。

コロナ前のことにはなるが、家族と一緒に食事会に出掛けるという催し事をしたことがある。参加者は多くなかったが、とも子さんには、お嫁さんが付き添ってくれた。上品で綺麗な人だった。
こういう催しに実子ではなくお嫁さんが参加とは、ちょっと珍しい。とも子さんに優しく声を掛けるお嫁さんの姿を見ていると、元々、とも子さんとは良好な関係だったのだろうと想像出来た。

私は小さな声で、とも子さんに「あの人、優しいね。誰なの?」と問うてみた。
とも子さんは、にっこり笑いながら「妹…」と答えた。ちょっと切ない気持ちになった。

恍惚の人、という言葉がしっくりくるのは、とも子さんのような人だと思う。