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こちらは宇都宮敦の短歌ブログです。

一首鑑賞(44)

2016-08-28 22:42:00 | 一首鑑賞
一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ね」と思った 非常階段  東直子

「一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ね」と思った」のは、それぞれ別の時なのか同時なのかってところで読みが分かれそうだけど、同時として読んだ。「「死ね」」という言葉はあんまりいい言葉じゃないと思うけど、いや命を軽んじてるとかそういう意味ででなく、他力本願すぎじゃないって意味で、でも、この場合は「「好き」」も「「死ね」」も同じで、どちらもどうしようもない不可抗力としてやってくるので「「死ね」」でいいんだな、というか「「死ね」」しかないなと思う。「非常階段」は意味的に捉えるとあまりにこの極私的非常事態に出来過ぎ感が出過ぎるので、個人的には、殺風景なビルの外階段のイメージとの響き合いをとりたい。

(東直子『春原さんのリコーダー』本阿弥書店、1996年)