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こちらは宇都宮敦の短歌ブログです。

雪舟えま歌集『たんぽるぽる』(短歌研究社)を読んで

2011-10-10 00:59:00 | 歌集評
やさしい人、おもしろい人、しなやかな人、いろいろ素敵な人はいるけれど、僕が一番素敵だと思うのは、惜しみない人だ。雪舟えま歌集『たんぽるぽる』は惜しみない歌集だった。つまりは素敵な歌集だった。そんな感想をもつ僕の『たんぽるぽる』十首選。

  駱駝みたいまつげに雪が乗っかっているよあなたを伝説にしたい
  君がもう眼鏡いらなくなるようにいつか何かにおれはなります
  雪かきを誰がするかで殴りあう春には消える雪のことで
  寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいる
  パン袋しっかりにぎる 川面には応じきれないほどの輝き
  なめらかにちんちんの位置なおした手あなたの過去のすべてがあなた
  あなたがひとを好きになる理由はすてき森がみぞれの色に透けてく
  なんでこうつららはおいしいのだろう食べかけ捨てて図書館に入る
  よく笑う女になったけつあごのような苺をまたもみつけた
  うれいなくたのしく生きよ娘たち熊銀行に鮭をあずけて


1首目と2首目。ある種の過剰さを伴う利他的な歌たち。過剰さと他人を思うことなんて、どう考えても食い合わせ悪いはずなのに、なんでこんな歌作って嘘にならないんだろう。どちらも奇跡的な歌だと思う。3首目も、言っている内容は一見逆っぽいけど、ベクトル(始点も方向も)としては同じ気がする。

4首目、5首目、6首目。寄り弁直したり、パン袋にぎったり、チンポジ直したりといった「ひとつ」とそれを照射する「すべて」についての歌たち。悲しみのうすい皮膜に覆われた歓びを感じる。それは、ありとあらゆる可能性のなかで、きみが、わたしが、あなたが、今ここにいることは間違いなのかもしれないけれど、ともかく、きみが、わたしが、あなたが、今ここにいるんだということ。

7首目と8首目。めちゃくちゃ美しい詩情。そして、同じ泉から湧き出てくるユーモアとしての9首目と10首目。

繰り返すけど、素敵な歌集でした。おしまい。