かなり前ですが、たまたまスーパーで見かけて、面白そうだったので購入。
味は・・・普通においしかったです。別に味噌風味ってわけでもなく。
で、何で白樺派？って思うでしょう。
答えは、白樺派の中心人物の一人、柳宗悦の奥様であった柳兼子さんが、その当時先進的な
モダンな料理であったカレーを作っていたのを、再現したものだからです。
それが味噌を隠し味に入れたカレー。
（わたし、醤油を隠し味に入れたりしますが、味噌は試みたことないです。今度トライしてみるか。）
大正の初めの頃、新婚の夫妻は千葉県は我孫子の手賀沼沿いに住み、同じように新婚さんの
志賀直哉夫妻も呼び寄せ、さらに武者小路実篤も我孫子に住まうようになり、他の白樺派の友人たち
も頻繁に訪れます。ですので、この味噌隠し味のカレーライスは、白樺派の文人たちにも振舞われ
愛好されたはず。なので「白樺派のカレー」なんですね。
もし興味がおありでしたら、こちらで購入できる模様。
あるいはこの「白樺派のカレー普及会」でも可だと思います。
ところで、気になるのがこのカレーの考案者とされている柳 兼子さん。
彼女は日本の声楽家の草分け的な方で、言うまでもなく高名なアルト歌手です。
明治25年生まれなので、大震災前のまだ江戸の風景の残る東京の下町で、長唄のお稽古に
励んで
育った人でした。ですので、クラッシク歌手ではありますがバックグラウンドには日本の伝統芸能が
あるんですね。
現代の我々と違って、日常的に西欧音楽に囲まれていたわけではない当時にあって、従来の
日本の
音楽とは声の出し方や響かせ方の全く違う西洋の歌曲を完成させるのって、大変なことだったと思います。
ドイツリートと日本歌曲を得意としたとある彼女ですが、彼女こそが、西欧的な声楽法を日本において
確立させた人です。
さて、芸術家としての功績も立派なのですが、それに加え一家の主婦としても、このカレー考案にみるように、
今日のように普通のおうちご飯ではなかった西洋的な食文化も、努力して日常生活に取り入れた方です。
概して白樺派の面々はハイソな生まれのハイカラさんばかりで、芸術の分野で印象派絵画とかロダンとか、
新しいものを愛し世に広めたのと同時に、食べることに関しても洋風を愛好したので、奥様方は
非常な努力を強いられたと思います。なにしろパンでもバターでも、ちょっと近くのスーパーに
行って買ってくるという時代ではないし、カレーとかシチューなんぞも、自力で一から全部作らないと
いけないのですから、それはそれは大変だったでしょうねー。
現代は、カレーの素をぱきんぱきんと割りいれて、そこそこおいしいのができるからこそ、カレーライスが
家庭の味の代表的なものであるわけで、あれを始めっから作るんだったら、そんなに頻繁に食卓に上らない
と思うなー。（いざとなったらレトルトカレーもあるしぃ。）
さて、この柳兼子さん、志賀直哉の我孫子時代の代表的な作品「和解」に、K子さんとして登場してますね。
夫の柳氏はY。
印象的なのは、志賀夫妻の第一子の亡くなる悲痛な場面。
K子さんは、泣き崩れる康子夫人を抱きしめて「康子さん。しっかり遊ばせ。ねぇ。しっかり遊ばせ。」
と自身も涙を流しながら励ましています。
志賀家の最初のお子さんの臨終に立ち会っていたK子さんは、その後長い時を経て、直哉の葬儀に
立ち会うことになります。
阿川弘之の著書「志賀直哉」によれば、いよいよ直哉の最後が近くなり葬儀の段取りを考えなくては
ならなくなった弟子である阿川氏、日頃から「無宗教」を標榜していた師の意思に沿うべく思案して
思い出したのが、以前参列した無宗教な葬儀で弦楽器の曲が終始流れていたこと。
そこで何か音楽の流れる式をと、プロの音楽家の兼子さんに相談したところ、彼女の提案で、兼子さんの
孫であり、且つ直哉の孫でもある美和子さん（当時国立音楽大学ピアノ科の4年生）のピアノ演奏が、
式の進行の間ずっと会場に流れることになりました。
つまりは、柳家と志賀家は姻戚関係になっていたというわけです。
柳宗悦氏と兼子さんの次男である柳 宗玄（やなぎ むねもと）氏は、志賀直哉の四女、万亀子さんと結婚。
その二人の長女が、この美和子さんでした。
この方が、予想以上に長時間になった葬儀の間じゅう、式進行のバックでピアノを弾き続けたのだそうです。
お孫さんの演奏であの世に送られたというのは、とても素敵なお葬式ですね。
カレーの話から始まって、あらまぁ、ずいぶんと話題が飛んだもんです。
では最後に阿川弘之から連想して・・・海軍・・・
こんなカレーがあったので紹介しておきます。（白樺派のカレーとは何の関係もないですよ）
謂れが書いてある部分を拡大しますと、
これもおいしかったですよ。
横須賀海軍カレーについて詳しく知りたい方は、ここを見てください。
それにしても、レトルトカレーってずいぶんといろんなのがあるのですねー（感心
）
