微風/びふう

微風・びふう・・・ちょっとだけガーデニング・リース作り、ブログで綴る物語や音楽など・日々のあれこれを楽しんでいます♪

羽音・・・風の隣(物語)

2020-11-16 18:50:10 | 羽音/ブログ物語

ブログ物語

物語 / 羽音・・・風の隣ーーー (短い物語)

 

昔のアルバムを整理しながら、綾子の手は止まったまま。

開いた一ページから目が離せない、、、

 

(絵はイメージ画)

 

そこには色あせたカラー写真と白黒の写真がびっしりと貼り付けてある。

それは楽しい仲間たちの懐かしいアルバムだった。

 

「あ、、、みんな若いな、

楽しそうな顔。

みんな歌ってる歌ってる、

何を歌っていたんだろう、

あぁ、きっとあの曲だわ」

 

昼食を済ませたばかりの綾子は、

日当たりの良い部屋で昨日の事のような懐かしい日々を思い出す。

そして、最初のページを開いたままウトウトと眠くなってしまった。

 

ほんの少し経ってから、

サワサワ、、、と、聴こえてくるかすかな音で目が覚めた。

風の音?

手に持ったまま眠っていたのか、

落としそうになったアルバムをあわてて握りしめながら音のする方に眼をやると、

アオスジアゲハの真っ青な翅の模様が見えた。

 

 

いつもよく見る美しいアオスジアゲハの翅が今日は強烈に眩しく目に染みる。

あんな遠くで、

じっと止まったままのアオスジアゲハの羽音が綾子の耳元にサワサワと聴こえてくる。

まるで心地よい耳鳴りのように。

色あせた写真にもう一度目をやると、

あの頃のあの時のように青春の輝きを映し込んでいる。

 

そして、見上げると、

まだそこにいるアオスジアゲハの透けた翅の奥に、

あの時の笑い声がこだまして、

みんなの歌声が聞こえる。

微かに振るえるアオスジアゲハの翅の模様が

記憶のアルバムのようにスライドしていった。

 

 

誰かに呼ばれたような気がして振り向くと母がいた。

「何回呼んでも聞こえないのね、

まあずいぶん散らかしたままで、

何ぼんやりしてたの、、、お客様よ」

 

母の後ろから顔をのぞかせた女性がニコッと笑う。

え、誰?

でも、こんなに親しげに笑うんだから良く知ってる人のはず、、、

「ごめんなさい、どなた?誰?」

女性は両手を広げて、大きく口を開けながら、あ~♪、と声を出しはじめる。

その胸元に、綾子も大切にも持っている音符のデザインの小さなバッジが見えた!

 

「あ~、え、、、あ、もしかして由里有紀さん?」

「そうです、有紀です、、、お久しぶり!」

いったい何年振りだろう?

しかし、有紀さんの若々しさに目を見張る。

綾子は、20年前と全く変わってない有紀さんの顔をまじまじと見つめた。

 

このあたりにあなたがいるのは知っていたんだけど、

近くまで来たから寄ってみたのよと言いながら、

まだ綾子が広げたままにしていたアルバムをみて有紀さんが言う。

 

「まあ不思議、私もつい最近これと同じ写真を眺めたばかりよ、

昔の写真を整理しょうと思ったのに、結局また全部そのまましまい込んだわ。」

「そうそう、写真好きな上田さんがみんなで集まるたびに何枚も写して

焼き増ししてくれたから、、、

ほら、これも、これも、私のと同じ写真ね」

 

アルバムをめくっていると、わら半紙に印刷した楽譜が出てきた。

題名は ♪森の教会

「あれ、ファイルしてたはずなのに、どうしてこれだけここに挟んだのかな?」

 

「これよく外で歌ってたよね」と有紀さんが指さした。

「いつもみんなを連れ出して、

野外で合唱する素晴らしさを教えて下さった林先生はお元気かな?」

 

黄色くなった楽譜を手に取って、

ウー♪ と、有紀さんが音をとった、

思わず綾子も、ウー♪

二人は顔を見合わせながら歌いだす。

 

♪ ♪ た・に・ま・の・森影・・の、

あ・い・ら・しい・教会・・・

♪・♪・

開けた窓から見えるアオスジアゲハの翅が風に揺れている。

 

すると、あっちからもこっちからも歌声が聞こえてきたかと思うと、

懐かしいあの人も、この人も、

窓の外には楽譜を手にした懐かしい仲間たちがパートごとに並んで歌い始めた。

先生は?

 

葉っぱが付いたままの小さな小枝を振っている林先生が

ちらっと綾子の方を見て笑った。

暖かい陽射しの小さな花壇のまわりで先生が振る小枝の指揮棒に合わせて、

楽譜を見たりお互いの顔を確かめながら思わず微笑んだり。

にわか手作りのタクトの先に、

アオスジアゲハの翅が真っ青な空の中でかすかにふるえている。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

電車の時間に余裕をもって出発することに。

15分ほどの距離をみんなで鼻歌を歌いながら歩いた。

おしゃべりしながら、ハミングしながら、

先頭を歩いていた誰かが足音に合わせるように歌いだす、、、

 

♪ 誰かさんが、

誰かさんが、

誰かさんが見つけた・・・

 

その後を歩いていた有紀さんたちが続く。

♪小さい秋、

小さい秋小さい秋見つけた・・・

そして、そのまた後ろに続くみんなも一斉に歌いだす。

♪目隠し鬼さん 手のなる方へ・・・

 

何曲か歌い終わった頃に駅に着いてみんなベンチに腰かける。

 

林先生が、

まだ少し時間があるねと言いながら、

「じゃあ、ハイ、3ページ」 

 

いつものように、

小川さんが音叉をだしてパートごとに音をとる!

そして、先生も腰かけたままでゆっくりと手を挙げる。

 

 ♪ いつくしみ深き友なるイエスは

罪とが憂いを取り去りたもう

讃美歌312番

 

クリスマスの時期だけではなく、讃美歌もたくさん歌ったな!

 

綾子は目を閉じながらこれは夢の中だね、と思った。

だって、あれから20年たっているのに、

有紀さんも先生もみんなあの時のまま、、、

歳とったのは私だけ?

おかしいよ、やっぱりこれは夢だ!

それから一週間後、

合唱部の仲間がいつもの練習室に集まった時、

上田さんが一枚一枚に番号を付けたたくさんのスナップ写真を持ってきた。

「ほしいのがあったら何枚でもいいから注文してくださ~い」

と言いながら、みんなに写真を回した。

そのあと、

由里有紀さんがみんなに挨拶をした。

結婚するので田舎に帰ります、と。

それから今まで歌ってきた思い出の曲やお祝いの歌を合唱して、

迎えに来ていたお婿さんと有紀さんをみんなで見送った。

明るくて華やかな有紀さんの笑顔が目の前にある。

私、今夢の中かしら?

と言いながら、綾子が有紀さんの頬をつつく!

顔をのけぞらせながら、「あんがいそうかもね」と有紀さんが笑う。

そうだ、やっぱり自分は今夢の中なんだ、、、

 

誰かに呼ばれたような気がして振り向くと母がいた。

「何回呼んでも聞こえないのね、

まあずいぶん散らかしたままで、

何ぼんやりしてたの、、、お客様よ」

 

母の後ろから顔をのぞかせた女性がニコッと笑う。

え?

 

(写真はイメージアート)

 

色あせた写真、

羽音、

アオスジアゲハの透けた翅の先、

フッとよぎる思い出のひとこま、

日常は退屈で不思議!

時には、

耳元を通り抜ける微かな風が

過去と未来を木霊する

ブログで綴る小さな物語

ーーー完

 

(誰でも、ほかの物は思い切り整理しても、写真はどの一枚も処分できない、そんなこんなの・・・短い空想物語)

 

 

コメント
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