■ はじめに
最近になって、デージーネットでは、ホームページをリニューアルしたり、会社案内を刷新しました。また、現在は事例集の作成に取り組んでいます。こうした活動の中で、いろいろな技術者に原稿をお願いして書いてもらう機会があります。そこで、多くの技術者に共通して感じることがあります。それは、顧客志向で文章を書いていないということです。今回は、この「顧客志向で考える」ということを取り上げます。
■ プロダクトアウトとマーケットイン
世の中には、「プロダクトアウト」、「マーケットイン」という言葉があります。辞書(大辞泉)で調べてみるとそれぞれ、次のように書かれています。
プロダクトアウト(製品指向) ~ 商品の企画開発や生産において作り手の論理や計画を優先させる方法
マーケットイン(顧客指向) ~ 商品の企画開発や生産において消費者のニーズを重視する方法
物事を発想する原点が顧客にあるのか製品にあるのかという違いです。これはマーケティング用語ですので、辞書では「商品の企画開発や生産において」と書いてありますが、実際にはビジネス活動のあらゆる側面に影響を与えます。
実は技術者の人たちの多くに「テクニカルアウト(技術指向)」とともいうべき現象が見られます。つまり、「技術」を原点として、様々なビジネス活動を行おうとするのです。
■ 技術指向、製品指向で陥る問題
顧客ではなく、製品や技術を中心に考えてしまうと、ビジネスの本質からズレた活動をしてしまうことが多くなります。ドラッカーは「現代の経営」の中で、「顧客が買っていると考えるもの、価値と考えるものが決定的に重要である。事業が何であり何を生み出すかを規定し、事業が成功するか否かを決めるのは、それらのものである」と言っています。また、「企業が価値と考えるものが、顧客に取って意味のない無駄であることが珍しくない」とも言っています。
ドラッカーは、製品からスタートした場合の例として洗剤の広告を取り上げています。「どれだけの主婦が洗濯物の白さについて熱心に話をしているだろうか」という疑問を投げかけ、「洗剤の広告は白くなることばかりを繰り返す」という現実を示しています。消費者にとっての関心は、決して「白くなる」ことだけに集中しているのではないので、的外れだということです。
実は、私たち技術者が、中心として考えがちな「技術」というのは「価値」ですらありません。顧客にとっての価値は、その技術を使って「便利になること」、「安心して使えること」などです。そのため、技術を中心に考えていると、様々なビジネス活動で「的外れ」な活動が多くなってしまうことになります。
■ 活動を振り返ってみましょう
自分たちの活動を振り返ってみて、技術指向になっていないかを考えてみてください。ここでは、提案書、仕様書、テストという3つの活動について例をあげてみます。
■■ 提案書
お客様へ提出する提案書に、「~という技術を使います」ということばかりを書いていませんか?
どのような技術が使ってあるか、どのような機能が利用できるかということは、お客様にとって重要な関心事項ではありません。「それを使って自分のビジネスがどう変わるのか?」ということが大切なのです。もちろん、機能や技術が重要でない訳ではありません。お客様は、本当に価値を実現することができるのかを確認したいと考えているからです。どのような機能を使って実現するのか、どのような技術を使うと実現できるのかということは、実現性の根拠として必要なのです。しかし、その前に、自分がどのような価値を得ることができるのか、ということが最も重要な判断基準です。
例えば、最新のプログラム言語を使ってプログラムを作成することには、それほど意味がありません。それによって、開発期間が劇的に短縮されたり、バグのないプログラムが実現できて、初めて顧客にとって価値のあることになるのです。
■■ 仕様書
どのような技術を使うのか、どのような機能を実現するのか、どのようなデータを扱うのかということばかりが列挙されていませんか?
そこに、その機能を実現する目的がないと、思わぬところで落とし穴にハマってしまうことがあります。
例えば、ログを書き出すという機能があっても、顧客がログを何のためにみるのかという目的がないと適切なプログラムにならないかもしれません。ログを見るのが、システムの利用者であれば、メッセージは日本語で分かりやすく出す必要があります。しかし、ログを見るのが管理者であれば、メッセージは詳細でなければなりません。原因を特定するのに必要な情報がすべて含まれている必要があります。つまり、単に「ログを出力します」と記載するのではなく、「~のために、ログを出力します」と目的を記載することが必要ということです。
■■ テスト
テストはどうでしょうか? 機能が満足されているかどうかのテストばかりをしていませんか?
実際には、テストで最も重要なのは提供すべき価値が満足されているかどうかです。提供すべき価値が何かがわかっていれば、運用時にシステムが使い難いと気がつくかもしれません。また、性能が足りるのかとか、上手く行かなかった場合にどうなるのか、というテストも必要になるかもしれません。
■ 顧客志向の文章を書く
さて、頭では分かっていても、実際に顧客指向で考えようと思うと、とても難しいのが現実です。私たちの会社でも、「顧客価値を優先して考えてほしい」と言っただけで考えることができる人は、ほんの一握りしかいません。では、何から始めたら良いでしょうか?
私は、メールや書類などで文章を書くときに、顧客志向になっていることをチェックすることから始めるのが一番良いと思っています。どのように文章を考えると良いのかということを、例をあげて説明します。
次の文章は、私たちの会社で事例集を書くときに、最初に上がってきた原稿です。
「クラスタソフトウェアと、ストレージミラーリングソフトウェアを組み合わせ、 メールサーバの冗長化を実現しました。問題が発生した場合、待機しているサーバへ 自動的にサービスが切り替わり、継続してサービスの提供が可能となりました。」
この原稿を読んで違和感を感じたでしょうか? 文章としては、それほどおかしくはないと思います。しかし、これは完全に「クラスタソフトウェア」、「ストレージミラーリングソフトウェア」という技術を中心に書かれています。こうした文章は、顧客にとってメリットになる項目を最初に書くことで、顧客志向に近づいていきます。この中の顧客メリットは、「継続してサービスが使えること」ですので、次のように、それを最初に持ってきます。
「ハードウェアの問題が発生しても継続して利用できるようにするために、メールサーバを冗長化しました。クラスタソフトウェアとストレージミラーリングソフトウェアを組み合わせて実現しました。」
良くよく読んでみると、顧客の要望があって、次に技術を選んで実現しているはずですので、この順序が正しいと分かります。
■ おわりに
最初のうちは、顧客志向で考えようと思っても難しいので、まずは思い通りに文章を書いてみることをお勧めします。その後、書いた文章の中から顧客のメリットにあたるものを探し、それを先頭に持ってきて書き直しましょう。これを繰り返して実施するだけで、より良い文章が書けるだけでなく、「顧客のメリット」を繰り返し意識することになります。これは、顧客指向で考える、とても良い訓練になるはずです。
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