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支流からの眺め

安倍晋三氏の非業の死

 元首相の安倍晋三氏は、2022年7月8日の昼前に大和西大寺駅前で演説中に狙撃を受け、午後5時過ぎに逝去された。この非業の死は、文字通り世界中を貫く衝撃波となり、多くの人々に驚きと恐怖を与えた。特に故人と縁のある方、政府や行政に近い方は、悲しみと憤りの混じった不条理に心を撹乱され、底知れぬ深い喪失感と絶望感に陥ったことだろう。

 安倍氏は、平安時代の陸奥の豪族から長門市の名家となった安倍家と、岸信介と佐藤栄作を輩出した岸家との血筋を引く政治家一家の嫡子として、1954年に生を得た(享年67)。1993年に衆議院議員に初当選し、自民党幹事長、内閣官房長官を経て、2006年に52歳の若さで総理大臣となった。途中5年間の下野を挟んで、通算9年弱の戦後最長の期間、総理大臣としてわが国を導いた。

 その業績には、憲法改正国民投票法・特定秘密保護法の成立、放送法・海洋基本法・教育基本法・国家公務員法の改正、国家安全保障会議の創設、防衛庁の省への昇格、集団的自衛権を含む防衛システム強化などがある。外交では、日米(特にトランプ氏との)関係の深化、QUADの提唱の他、対中・露・韓・北鮮ではわが国の立場を強く打ち出してきた。特異な案件では、オリンピック招致、退位特例法などもあった。

 これらは総じて治安維持や安全保障に益し、その保守思想と実行力は誰もが認めるところであった。その一方で、モリ・カケ・桜などで批判に晒され、問題発言で何度か撤回を強いられた。とはいえ、その政治手腕は強大であり、安倍氏を欠いた自民党、政府、日本国の行く末が案じられる。これだけの大人物が、どこにでもいそうな山上徹也なる人物に狙撃されたのである。今ここで、3つのことを思う。

 まずは、狙撃の動機である。政治的抹殺が動機のテロかもしれない。モリ・カケ・桜など対する義憤かもしれない。しかし、聞く所では、安倍氏と宗教団体との(関連の乏しい?)関係への恨みが理由らしい。精神分析も含めた今後の捜査の展開はどうなるのか。2つ目は、安全神話の崩壊である。あの程度の周到さでも、安倍氏のような人物を殺せる、狙われたら終わりなのである。模倣犯が現れないことを祈るしかないのだろうか。

 3つ目は、無常である。朝に紅顔ありて夕べに白骨となる、である。責の問えない事故や急性疾患による死は諦めもつこう。しかし、こちらに落ち度がないところに、違法行為によって死が突然に訪れることもある。保守政治家たる安倍氏の死が訴えることは、日々生きることの大切さだけではあるまい。安全神話に幻惑された国民に、国家としての体を保ち守ることの大切さを訴えているのではなかろうか。


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