クリスティーナ・アギレラの歌いっぷりが素晴らしい。SEが止められて無音となったステージで彼女が歌声を発するシーンには鳥肌が立った(予告編で何度も見ていたせいで感動がやや薄れた感は否めないが)。地鳴りのような低音から始まった歌はそこにいる者すべてを魅了し、一緒にステージに立つ者たちの気持ちを昂らせ、やがて華やかで迫力あるショーが繰り広げられる。この数分間だけでも、この映画には充分すぎるほど価値があった。歌が持つ説得力、音楽が放つ求心力を観客に知らしめる名場面だったと言える。
しかし、それ以降の展開には、何よりも大切な要素が欠けている。クラブが経営難になり、その苦境を脱するための方法を登場人物たちは考えるのだが、最終的には主人公が「法の抜け道」めいたもの(もちろん、それ自体は正当な権利なのだろうが)を見つけたことで万事めでたし、という結末になってしまうのだ。
実際の出来事ならば、彼女の着眼点は「お見事」と褒められるべきものだろう。しかし、この手の映画でそうした現実的な解決策を提示されて、観客はどう楽しめばいい? 定石すぎるかもしれないが、ここはやっぱり「クラブを救うために何かイベントを行い、それが成功して窮地から救われる」というような展開にすべきだろう。主人公の歌やダンサーたちの踊りが誰かの心を動かし、物事を変えていく――つまり、物語の根幹に「音楽」を据えるべきだった。そう考えると、この映画の作り手たちは、もしかしたら「音楽の力」を信じていなかったんじゃないか、とさえ思えてしまった。
もうひとつ注文がある。せっかくシェールが出ているのだから、一回ぐらいはアギレラとステージ上で共演させるべきだろう。でなきゃ、シェールをキャスティングした意味がほとんどないのではないか。そもそも、この二人が共演すると知って多くの観客が期待したのは、二人が一緒に歌う場面を見ることじゃないだろうか。
劇中での歌やダンスは、どれも豪華で力強く、素晴らしかった。それだけに、実に惜しい作品だったと思う。ああ、もったいない!
というわけで基本的にはオススメ作品なので、DVDやブルーレイが出たらご覧になってくださいませ。『ドリームガールズ』や『シカゴ』が好きな方には特にオススメ!
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