少年トッパ

『10Stories』は、甲斐離れを食い止められたか。<その1>

 じゃ、『10Stories』の感想を。

 まずはジャケット。これはカッコいい。大満足。僕が理想とする甲斐よしひろ像が見事に一枚の写真に凝縮されている、という感じ。クレジットを見たら、アートワークを担当したのは「風とロック」関係の面々のようだ。やるじゃん。そういえば、『HIGHWAY25』の時は信藤三雄だったよね。そういうところに旬の人材を起用するという姿勢は、素直に良いと思う。
 ちなみに、過去のアルバムで僕が好きなジャケットは『英雄と悪漢』『甲斐バンド・ストーリー』『地下室のメロディー』『エゴイスト』『幻惑されて』など。基本的に、アーティスト本人がカッコよく写ってるのが好きなのよ。

 さて、肝心の中身。1曲ずつ、ゆっくりと語っていこう。

1) 今宵の月のように(オリジナル:エレファントカシマシ)

 エレファントカシマシを熱心に聴いてきたわけではないが、この曲にはハマった。宮本浩次すごいじゃん、と感嘆した。倦怠感と閉塞感に苛まれ、先の見えない日常をシラけた気分で過ごしながらも、心の中に灯った希望の灯を絶やさずに生きていこうじゃないか――そんな決意が歌詞からもメロディーからも、それに宮本浩次の歌声からも放たれている。シンプルなバンドサウンドも、その世界観にピタリと合っていた。まさに名曲。さあ、これを甲斐よしひろは、どう料理するのか。

 イントロが耳に飛び込んできた瞬間、僕は声を上げそうになった。ええええっ? こ、これが『今宵の月のように』? そ、そんな……。
 実を言うと、その後何度か聴くうちに、次第に耳に馴染んでいくようになった。なので今これを書いている時点では「これはこれでアリかな」と思っている。でも、ここではとりあえず最初に聴いた時の印象を書こう。
 率直に言うと、ものすごく失望した。ガッカリ。なんでこんなアレンジ? せっかくの名曲を冒涜されたような気持ちになり、腹立たしくさえ思った。そして、暗澹たる気分になった。これが「現在の甲斐よしひろ」だったら、もう聴きたくないや。そんな風に感じたのだ。
 念のために書いておくと、演奏やコーラスワークのレベルが低いと思ったわけではない。ド素人の僕には分からないが、おそらく技術的な水準は高いのだろう。ただ、このアレンジがこの名曲に合っていないのである。簡単に言えば「装飾しすぎ」。無骨さやストイックさが持ち味である曲が、過剰なデコレーションのせいで台無しになっているのだ。極上の食材を人工甘味料まみれにした感じ、と言えば分かりやすいだろうか。

 エレファントカシマシの『今宵の月のように』について語ろうとする時、即座に思い付くのは「無骨」「ぶっきらぼう」「倦怠感」「男臭さ」「潔さ」「這い上がろうとする意志」といった言葉だ。そして、これらの言葉は甲斐よしひろを語る時にも使われがちなキーワードでもある。そう、『今宵の月のように』の世界観は、甲斐よしひろという歌い手のキャラクターに驚くほど合っている。もしも原曲を知らずにこの曲を聴かされたら、甲斐よしひろ自身が作った曲だと思ったかもしれない。甲斐ファンの中には、この曲と『嵐の季節』が極めて近い雰囲気を持っていることに気付く方も多いのではないだろうか。
 それほど従来の「甲斐よしひろの世界」と通ずる曲であるのだから、たとえば生ギターだけをバックに歌ってもバッチリ決まったような気がする。なのに、やたら大仰なコーラスと、打ち込みっぽいサウンド。オリジナルとカバーが別物であることは百も承知だが、原曲に惚れ込んでいた者としては「なんじゃコレ」と思うばかりである。いや、これが他のシンガーによるカバーなら、ショックでも何でもない。原曲をぶち壊しにしたカバーなんて、世の中に腐るほどあるからね。しかし、それが甲斐よしひろの手によるものであることを思うと、長年の甲斐ファンとしては切なくて仕方ないのだ。
 しかも、アレンジだけではなく歌い方も今ひとつ。かつて甲斐よしひろは「あ、ヒーロー、ヒーローになる時」と歌う後輩シンガーを小馬鹿にしていた(よね?)が、ここでは自身が「う、いつの日か輝くだろう」「あ、吐き捨てて」という感じに歌っているのだ。これは耳障り。まあ、人によっては「それも持ち味」と思うかもしれないけどね。

 上記は、あくまでも最初に聴いた時の印象。さっきも書いた通り、何度か聴くうちに「これはこれでアリ」と思うようになった。なんだかんだ言っても、やはり甲斐よしひろの声に僕は惹かれているのである。

                         <つづく>

コメント一覧

トッパ
じゃあ、そういう風に解釈しとこう(笑)。
やけ天
>やけ天と話したくなかっただけかも(笑)。

その逆で3時間半の道すがらずっと話し込んでたから音楽は耳に入ってなかったんだと思いたい(笑)
トッパ
●海くんママ

すんませんが、ありません(笑)。

●やけ天

10曲中5曲かぁ。ううっ、負けた(笑)。あ、でもスガ
シカオの『夜空ノムコウ』を入れれば、こっちも5曲
か。
ちなみに、中島美嘉の『接吻』、つじあやのの
『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』、武田
雅治の『くるみ』、岩崎宏美&佐藤竹善の『恋しく
て』、中森明菜の『色彩のブルース』とかは持って
んのよ。あと、川村結花の『夜空ノムコウ』も。な
ので、やっぱりこっちの勝ち(笑)。

>「Woo Baby~」ってのがしっくりきませんでし
た。

ああ、そうそう、その「ベイビー」にも違和感が
あったのよ。なんか空回りしている感じで。
とは言いながらも、気が付いたら鼻歌では甲斐バー
ジョンで歌っていたりするんだけど(笑)。

>『10Stories』にまったく反応を示さなかった

その女性、かかってる曲に興味がなかったんじゃな
くて、やけ天と話したくなかっただけかも(笑)。
やけ天
http://www.faith-group.co.jp/ElephantKashimashi/
発売日にAmazonから届いたものの中々最後まで通して聴く事が出来ずにいましたが先日出張に行った際に我が不死身のポンコツ車の中で往復3時間半の道程をヘビーローテーションで聴きまくりました。
ヒット曲はあまり聴かないのに10曲中5曲が我が家にもオリジナルのCDがアリ。

『今宵の月のように』は最後のサビの部分は結構イイ感じだけど「Woo Baby~」ってのがしっくりきませんでした。
オリジナルでの宮本の「い~ぃ~」「あ~ぁ~」「Oh Yeah」などの響きは大好きで思い入れも強い曲なんでけど。

余談ですがその出張に一緒に行った小5の娘さんがいる30歳の女性が車内で流れている『10Stories』にまったく反応を示さなかったのはさみしかったなぁ・・・。


海くんママ
『10Storiesの素』
あったら、わたしも欲しいな。(大爆)
トッパ
こっちは知ってる曲ばっかりだったので、余計に失
望感が強かったのかも。いや、知ってるという割に
は、この前のカラオケでは、ほとんど歌いこなせま
せんでしたが(笑)。

>甲斐さんプロデュースの「脳トレ」

偉い! まさにポジティブシンキング!(笑)

>『10Storiesの素』

僕が持ってるのは『今宵の月のように』『歌舞伎町
の女王』『色彩のブルース』『くるみ』だけなんで
すよ。あと、スガシカオ版の『夜空ノムコウ』と。
まあ、今回のはどれもレンタルCDですぐに見つかる
ようなものなので、わざわざ僕が作らなくても……
ねえ(笑)。
SKD
今回は知らない曲が多く、私にとってははほとんど“オリジナル”です。
オリジナルだとしても、正直言うと一番苦手な甲斐分野(^^;ゞ
でもそれも、たまには良いのではないかと。
人間いつも同じことをしていると、それがどんなに高度なことでも、脳みそが衰えるっていうものね~。
甲斐さんプロデュースの「脳トレ」と思うことにしました(笑)

でも横で聴いてた娘が「あ、くるみジャン♪」と言ってくれたのは嬉しかったかな(^^)
『10Storiesの素』があるといいなぁ(笑)



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