タイで行われている人身売買や強制売春、臓器移植の実態を描いた作品。まずは、この生々しくおぞましいテーマに挑んだ姿勢に敬意を表したい。作品として物足りない箇所はあるものの、これほど志が高い商業映画に出会えることは滅多にないだろう。
つくづく暗澹たる気分にさせられるのは、あらゆる局面で幼い子供たちが犠牲になっている、という事実だ。いくらかの金銭と引き換えに親が手放した子供たちは、牢獄のような場所に閉じ込められる。そして、金持ちの欧米人や日本人の性欲を満たすための玩具となるのだ。病気になった子供は無造作にゴミ袋に入れられて遺棄され、健康な子供は臓器を奪われる——つまり、殺される。
その臓器は高額な金銭と引き換えに、日本人の子供の身体に移植される。この映画では、それを阻止しようとボランティア団体の女性が子供の親に詰め寄る場面がある。観客の多くは、この女性(宮崎あおい)の率直すぎる物言いに抵抗を感じるだろう。いかにも市民運動家っぽい発言だから、ということもあるが、それ以上に「あの親の気持ちが理解できる」というのが大きな理由ではないだろうか。僕自身、その一人だ。現実から目を背けて、我が子を救うのか。見知らぬ子供を一人でも救うために、我が子を見殺しにするのか。実際に自分がその立場にならなければ、どちらを選ぶのか分からない。あの親たちのように手術を断行しようとする可能性だって、大いにあるのだ。
※ここからは、物語の結末に触れています。観ておく価値が充分すぎるほどある作品なので、ぜひご覧になってからお読みください。
売春をめぐる場面も痛ましい。いわゆる変態的な嗜好の持ち主によって子供たちは弄ばれ、精神的にも肉体的にも凄まじい苦痛を受けるのだ。でっぷり太った中年の白人は、まだ10歳にも満たないであろう少年を犯す。幼い子供同士に性交させ、それを鑑賞する者もいる。トランクに子供を入れてホテルに運び込んだ日本人は、拘束した子供の姿を撮影してネット上で自慢する。子供に薬物を過剰に摂取させて殺した白人たちは、なんと夫婦であるようだ。高額な金銭を即座に払えるということは、それなりに高い社会的地位があるのだろう。見た感じも、ごく普通である。しかし、その中には忌まわしい欲望が満ちあふれているのだ。なんとも虚しい気分になっちまう。
子供を性の対象として見る嗜好そのものは、ある意味で「仕方ない」と思えるものではある。それは持って生まれてしまったものだからだ。しかし、おそろしく想像力に欠けた自己中心的な人物以外は、一線を越える——つまり、実際に子供を対象に性行為を行う——ことはできないはずだ。もし、それなりに真っ当な道徳観念や倫理観を持った者が一線を越えようとしたなら、その瞬間からずっと罪の意識に苛まれ続けるだろう。自分が行ったこと、行おうとしたことへの懺悔の想いを常に抱き続けながら生きることになるだろう。この映画の主人公がそういう人物であることは、最後の最後に明かされる。ここでまた観客は、どうにも苦い後味を噛みしめることになるのだ。真人間に見える男の内面にも、まがまがしい闇の部分が隠されていたのである。
それにしても、撮影はものすごく大変だったのではないか。タイの裏社会はもちろん、タイ政府からもクレームを付けられそうな内容だからだ。現地の子供たちを使う際にも、細心の注意が払われただろう。やたらとリアリズムを追求するあまり、彼ら彼女たちの心に傷を残してはいけないのだ。ショッキングな題材である割に扇情的な描写が少ないことには、作り手の見識が窺える。
いささか惜しいのは、原作を読んだ時に感じたのと同じく、日本人によるドラマの部分が薄っぺらに感じられることだ。もう少し個々の人物像を掘り下げてほしかったとも思うが、この題材でこのボリュームなら、それは致し方ないことかもしれない。
ともあれ、「痛ましい現実を世に知らしめる」という社会的意義を持った立派な作品だった。そして、こうした現実が世の中に存在することを忘れちゃいけない、と強く思った。
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