少年トッパ

しりとりバトンを止めたらバチが当たった!

 一昨日、実家の近くのスーパーでの出来事。

 自分以外には誰もいない男子トイレで小用を済ませようとしていると、女の人が大きな声で何かを言っているのが聞こえた。どうやら自分の子どもに呼びかけているようだ。ちょっと、どこ行ったの。返事しやぁ。おろおろした様子が目に浮かぶような声色だ。
 どうやら子どもが迷子になったようである。そりゃ心配だろうなぁ。そう思っていたら、僕の背後から別の声が聞こえた。ちょっと待っとって、という男の子の声だ。振り向くと、ドアを開けたままの個室の中で、3歳ぐらいの男の子が洋式便器にちょこんと座っている。あわわ、びっくり。てっきり誰もいないと僕は思っていたのだ。
 アンタ、なんでそっちに入るの。お母さん、困るがね。そう咎める女性の声が聞こえた。そっか、この男の子はウンチがしたくなって、母親と一緒にトイレに来たんだ。で、母親は女子用トイレへ行こうとしたのだが、男の子はさっさと男子用に入ってしまったのだろう。お母さんは男子用トイレに入るわけにはいかず困っている、というわけだ。
 いいから待っとって。そう叫ぶと、ほどなくしてウンチを済ませた様子の男の子は便座から立ち上がった。ホッ。首を曲げて男の子の様子を眺めていた僕は、他人事ながら安心する。ほら、さっさと手を洗ってお母さんのとこに戻ったりゃあ。しかし、男の子はそのまま動かない。ズボンは膝の少し上の位置までしか上がっていないので、お尻が丸出しだ。
 洗面台で手を洗いながら僕は躊躇する。手助けした方がいいのか? しかし、このご時世だ。下手にヨソの子どもにちょっかいを出せば不審人物だと思われるだろう。変質者と勘違いされる可能性もある。う~ん、どうしよう。
 十数秒待ったが、男の子は尻を出して立ったままだ。外から再び女性の声が聞こえる。一人でできるのアンタ、と問う声だ。個室の中の男の子は困ったような顔をしている。うむむ、やはり様子だけでも見ておくか。
 どうした、大丈夫か? 人畜無害の安全な男であることを強調した声色で僕は男の子に話しかけ、個室に入った。あわわ、けっこうな量のウンチじゃん。流さなきゃ。あ、そうか、この子、流せなくて困ってたんだ。
 洋式便器の蓋を上げた状態だと、水を流すためのレバーを押すのは子どもには難しい。だから、どうしようかと悩んでいたのだろう。ほら、これで問題解決。僕がレバーを押すと、無事にウンチは流れた。めでたし、めでたし。さ、早く手を洗ってお母さんのとこに行きゃあ。
 しかし、男の子はそのまま動かない。……んんん? どうしたの。尻を出したまま立っている男の子の姿を見て、僕はようやく理解した。そ、そうか、お尻を拭いてほしかったんだ。そして次の瞬間、これが天からの自分への仕打ちだと思い知る。

 そう、これは「しりとりバトン」を終わらせたバチなのだ。しりとりをストップさせた者が尻を拭く。なるほど、理に適ってる……のかどうか分からないけど、まったく神様も意地悪だぜ。

 というわけで、その子のお尻をトイレットペーパーで拭き、洗面台で手を洗ってあげて、外へ出した。そして、恐縮して何度も頭を下げるお母さんに会釈すると、僕はささっと姿を消したのであった。

 普段あんまり行かないショッピングセンターなので、あの親子に会うことは二度とないだろう。
 だが、僕は信じている。あの男の子は、おそらく30年後には青年実業家として大成しているだろう。卓抜した発想で事業を成功に導き、巨万の富を得ているだろう。
 黒い革張りの椅子でペルシャ猫を撫で、ワイングラスを傾けながら、ある日、青年は老いた母親から聞かされた話を思い出す。アンタは小さい頃、江南のショッピングセンターで見ず知らずの男の人にお尻を拭いてもらったんだよ。そのおかげでアンタはお金持ちになれたんだわ。ありがたや、ありがたや。
 あの人に会ってお礼を言いたい。そう思った青年は、興信所を幾つも使い、お尻を拭いてくれた人を捜す。金に糸目は付けない。しかし、手がかりがほとんどないので見つけられない。いたずらに時間だけが過ぎる。途方に暮れた青年は、ついに最終手段に出る。藁にもすがるような想いで、ハガキをしたためる。宛先は――もちろん、「探偵!ナイトスクープ」だ。

 それから数週間後、僕のもとに青年と痩せた老人が訪ねてくる。アルマーニのスーツに身を包んだ青年が僕に問う。あの、30年ほど前に僕のお尻を拭いてくれた方ですか? 青年の手首で燦然と輝くロレックスを凝視しながら、僕は頷く。うん、そうじゃよ。わしがあの時の男じゃ。がっはっは。げほげほっ。
 いやぁ、良かったでんなぁ。めでたしめでたし、ですわ。ひゃあっはっはっ……げほげほっ。咳き込んだ老人の顔を見て僕は驚く。あ、ああっ、小枝さん! アンタ、まだ探偵やっとらっせるとは。お身体、大丈夫で……げほげほっ。

 青年との再会を喜びつつ、僕は小枝探偵に提案する。小枝じいさん、せっかくだからパラダイスへご一緒しませんか、げほげほ。そう言って僕らは桃太郎神社へ行き、しゃがれた声で「パぁラダイス、パぁラダイス」と唱和するのである。あ、ついでに田縣神社にも寄りたいな。

*   *   *   *   *   *   *   *   *   *

 というわけで、このブログ、今年はこれでオシマイです。最後までしょーもない話で申し訳ありません。十大ニュースとか歌のベストテンとかも選ぼうと思ってたんですが、時間がなくなっちまいました。まあ、やろうと思っていたことが半分以上できないのが人生ですから。って、そんなことで達観しちゃアカンか。

 じゃ、みなさん、良いお年を!

コメント一覧

トッパ
いや、でもバチが当たって良かったのよ。だって、
30年後には大金持ちになった青年が恩返しに来て…
…以下略。
くるぶし
わっはっはっ!
あ~よかった、止めなくて。ぐふっ。
トッパ
●SKDさん

いや、妄想じゃなくて途中までは事実です(笑)。

とりあえず部屋は少し片付けました。これ以上スッ
キリさせようと思ったら、引っ越さなきゃ無理!
(笑)

ホントに今年もお世話になりました。感謝しており
ます。良いお年を!

●KOUさん

笑ってもらえて何より! でも、しょーもないこと
書きやがって、と怒った人もいるかも(笑)。

来年もよろしくね~。良いお年を!
KOU
あはははは・・・・っ!!!
大晦日にえらい笑わせて貰いました8(>o<)8
バチっていうからどんなえらい事かと心配したら、心温まる笑いor素敵な話じゃありませんか(^0^)b
年の最後でこんなに笑ったら来年もいい年になりそうです!

来年もよろしくお願いしますm(_ _)m
SKD
大晦日にこんな妄想しているとは・・・
コラー!大掃除のお手伝いしなさい!
私?私は今仕込みの途中で10分間の時間待ちで書いてます。
最後まで色々お世話様でした。
来年も宜しく~(^o^)ノ
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