〇「雨のウェンズデイ」色恋忘れ解釈。
あるいは、菫色の雨に濡れている”ワーゲン”の色を追え!(2019.07.28,31 Updated!)
〇菫色の雨に赤い車。
先日、『新譜ジャーナル・ベストセレクション’70s』という書籍をパラパラと読んでいて、1973年の項で、次の記事が目に留まりました。
この記事のとおりだとすると、細野晴臣は1973年当時、"真っ赤なフォルクス・ワーゲン"に乗っていたようです。細野氏が、20代後半の頃にボルボのアマゾンという中古車に乗っていた、と話をした記事をネットでみつけました(*1)が、小ぶりの車で、1973年当時に乗っていたフォルクス・ワーゲンの種類も、同じように小型の”ビートル”だったのではないかなと推測しています。
図ーVOLVO 132 AMAZONとVolkswagen Typ 1(Beetle)
この”ワーゲン”という単語は、当然ながら、ナイアガラ・ファンを強く引きつけるパワー・ワード(*2)の1つです。
「雨のウェンズデイ」は、実に詩情あふれる歌です。週の中ごろに雨が降った時には、よくこの歌のことを思い出しますし、街に出歩き、ふとワーゲンをみかけた時や、TVのニュースでワーゲンの話題が出た時などについても、条件反射のように「壊れかけたワーゲン」の”ボンネット”を思い浮かべてしまいます。
しかし、これまで「この車は何色をイメージして書かれているんだろう?」と、車の色を強く意識したことはありませんでした。自分の中のイメージでは「雨のウェンズデイ」に登場するワーゲンは、雨の日らしく、”水色”でした。海の近くで赤いワーゲンが雨にあたっているさまはこれとは対照的であり、これまで何度も歌を聞いて刷り込まれてきた風景とのギャップがあり、なかなかうまく思い描くことがしづらかったです。たぶん、雨は一切を洗い流すような装置となるのですが、赤に血のイメージがあり、コントラストが強すぎるのでしょう。
ここで、自分は水色と思っていたワーゲン、皆はどんな色をイメージしているのだろう?そもそも作詞家松本隆氏ご本人の見立てと同じ色なんだろうか?という疑問がわいてきました。
「雨のウェンズデイ」は、菫色の雨だけが1点集中のように着色されていて、登場人物や登場する物は、全て雨の中で浄化されてしまうのか、色遣いが瞭然としないのです。
〇さよならの風を集めて。
『ロング・バケーション』はいくつものパターンで別れの歌を集めています。例えば「君は天然色」は、恋人について歌った歌ではなく、松本隆が病弱で亡くなった妹のことを書いた歌だったというエピソードはご本人があちこちで話していて有名です。そこで、『ロング・バケーション』というアルバムは、恋人同士ではない二人の別れの風景を歌った歌もいくつも交じっているのではないか?という仮説を立ててみました。
別れにもいくつもの別れがあります。夫婦、自分、子供、恋人、友人(*3)。
この中で「雨のウェンズデイ」は、男性の”友人”との別れの歌だったのではないか?と空想してみました。記事からイメージを想起した「赤色のワーゲン」と「菫色の雨」との結びつきを強めるための空想です。いうならば、”さよならの風”が心に吹き荒れている「君」は、カーブのたびに悲鳴をあげた「助手席の君」と同じなのではないか?という考えです。
今回の記事作成は、この友人との別れの線で、イロコイを忘れた、新たな解釈に挑んでみるチャンスだと思っています。「恋するカレン千早ぶる解釈」よりは、いくぶんまともでも、迷解釈には違いありませんが、一生懸命勉強して頑張ります。
なんてったって、「ワーゲンうちだよ色恋を 忘れて 勉強をセドリック」(by小林旭)ですから(^^)。
〇黄色いジャガー。
Ⅰ 何処か遠くにドライヴするたび、仲間で「バックシートにギター積んで」、バンド結成!
↓
Ⅱ 雨が降る前に(一雨来るね 黒雲スピードをあげて)バンドメンバーとさよならすることを決めた。具体的には、作詞・作曲の共同作業をやめて、お互いの道を歩こうと宣言した(気まずいサヨナラを決めた)。ところが、"車が故障"して、送るに送れない状態になってしまった(送ってくはずだった)。
↓
Ⅲ 傷つけあう言葉が波より多い関係になって、雨も降ってきてしまった。
この三つのストーリーの間、登場人物はずっと同じ車に乗っているという可能性にそって、推理を進めます。
1999年12月に発売された『風街図鑑』の中で松本隆は「雨のウェンズデイ」について、次のようなコメントをしています。
「「雨のウェンズデイ」はプライヴェート・ソング(笑)。高校時代、ロシア系のクォーターの女の子がいて、彼女をモデルにして書いた。本当はワーゲンじゃなくてスバル360だった。その後、脚色して小説の『微熱少年』にも書いた」
つまり、作曲を手掛ける友人でなく、私的な体験にもとづく女の子との別れの歌だということが、ハッキリ明言されてます。
ここで、松本隆が自分でも少し脚色したと言及している『微熱少年』は、映画化もされていますが、本の中ではたとえば、こんなことが書かれています。
「菫色の雨が降っていた。
霧のように細かい雨粒が、空中を漂いながら肩に舞い降りてきた。雲の切れ間から六月の太陽が顔を出すと、雨粒は水晶の粉をまぶしたようにキラキラと風に踊った。
浅井にせがんで借りた、スバル360のまるいカーブのついたボンネットは、鏡のように流れる雲を映してた。ドアによりかかって、ぼくは海を見ていた。」
『微熱少年』松本隆(新潮社)
このスバル360はどんな色か、ほかのページでも本には記載がされていませんが、映画の中の車も、本のタイトルや帯も黄色が基調になっています。
また、ワーゲンについても次のような文章も見つけることが出来ます。
「反対側の歩道でタクシーを降りると、ぼくたちは赤信号で通りを渡った。クラクションを鳴らしながら黄色いフォルクス・ワーゲンが通り過ぎた。」
ご本人が監督をした作品で、黄色のすばる360を登場させているので、ワーゲンの色は黄色!という線が濃厚ですが、まだまだあらゆる可能性をさぐってみようと思います。赤色、黄色、ときたら、次に進む方向、検討すべき色は決まっています。そう、青。「雨のウェンズデイ」シングル盤のジャケットもその方向で「進め」と応援してくれています(^_-)。
*信号はどこへ向かうのか。雨のウェンズデイと恋するカレンのAB面を逆にして作られたカップリング。
この他、一生懸命、作詞研究の研鑚を積んだところ、松田聖子『Candy』というアルバムに入っている松本隆が書いた「星空のドライブ」という曲を発見しました。この曲、"ワーゲン"が色つきです!
「星空のドライブ」作詞:松本隆、作曲:財津和夫
「青いワーゲン ホロを外して
やけにビュンビュン 飛ばしてるのね
カッコいいのは わかるけどまだまだ 夏じゃない
風邪をひいたら あなたのせいよ
そんな 寒けりゃ そばにおいでよ
ハハーン あなたの計算も意外と単純ね
星の降る街を 飛んでいるみたい負けたわ 」
JD・サウザー『You're Only Lonely』(1979)
(*1) LET'S TALK ABOUT MUSIC & VOLVO SPECIAL TALK ピーター・バラカン×細野晴臣 , June 14, 2018より
(*2) 『ロング・バケーション』には、聞くものの想像を掻き立てる効果的なパワー・ワードがいくつも並んでいます。「ディンギー」、「カナリア諸島」、「カレン」、「シベリア鉄道」・・・。
私事ながら、自分も「カレン」に憧れ、一時期トヨタのカレンの中古車を購入しようかと検討した時期がありました。カレンのスペルが"CURREN"と"KAREN"でなかったことから、最後に思いとどまりましたが、危ないところでした。
脱線ついでに、「カレン」ネタをもう1つ。うちの子どもは車の中でロンバケを聞いている(聞かされている)ことが多いのですが、歌詞を教えておらず、耳だけの英才教育のため、この曲の「Oh! KAREN~♪」というところを「おつかれ~♪」と歌っています。千早ぶる解釈をするのもむべなるかな、です(^^;
・「Velvet Motel」は、別居間近の"夫婦"の別れ(一度は愛し合えた~♪)。
・「カナリア諸島にて」は、”自分”との別れ(自分が誰かも忘れてしまうよ~♪)。
・「スピーチ・バルーン」は、東京に就職した"子供"との別れ(投げたテープ絡まり~♪)
・「さらばシベリア鉄道」は、女性から"男性"への別れ(一人で決めたわ~"彼"を♪)
「スピーチ・バルーン」のモチーフとした光景で、松本隆が語った、別れた彼女が船でさっそくナンパされていたといったエピソードなどは無視します。