Tony's One Phrase

観察日記

「雨のウェンズデイ」色恋忘れ解釈

2019-07-21 17:17:34 | EACH TIME

〇「雨のウェンズデイ」色恋忘れ解釈。
  あるいは、菫色の雨に濡れている”ワーゲン”の色を追え!(2019.07.28,31 Updated!)

 
〇菫色の雨に赤い車。

 先日、『新譜ジャーナル・ベストセレクション’70s』という書籍をパラパラと読んでいて、1973年の項で、次の記事が目に留まりました。

  

 この記事のとおりだとすると、細野晴臣は1973年当時、"真っ赤なフォルクス・ワーゲン"に乗っていたようです。細野氏が、20代後半の頃にボルボのアマゾンという中古車に乗っていた、と話をした記事をネットでみつけました(*1)が、小ぶりの車で、1973年当時に乗っていたフォルクス・ワーゲンの種類も、同じように小型の”ビートル”だったのではないかなと推測しています。

 

図ーVOLVO 132 AMAZONとVolkswagen Typ 1(Beetle)

 

 この”ワーゲン”という単語は、当然ながら、ナイアガラ・ファンを強く引きつけるパワー・ワード(*2)の1つです。

「雨のウェンズデイ」は、実に詩情あふれる歌です。週の中ごろに雨が降った時には、よくこの歌のことを思い出しますし、街に出歩き、ふとワーゲンをみかけた時や、TVのニュースでワーゲンの話題が出た時などについても、条件反射のように「壊れかけたワーゲン」の”ボンネット”を思い浮かべてしまいます。

 しかし、これまで「この車は何色をイメージして書かれているんだろう?」と、車の色を強く意識したことはありませんでした。自分の中のイメージでは「雨のウェンズデイ」に登場するワーゲンは、雨の日らしく、”水色”でした。海の近くで赤いワーゲンが雨にあたっているさまはこれとは対照的であり、これまで何度も歌を聞いて刷り込まれてきた風景とのギャップがあり、なかなかうまく思い描くことがしづらかったです。たぶん、雨は一切を洗い流すような装置となるのですが、赤に血のイメージがあり、コントラストが強すぎるのでしょう。

 ここで、自分は水色と思っていたワーゲン、皆はどんな色をイメージしているのだろう?そもそも作詞家松本隆氏ご本人の見立てと同じ色なんだろうか?という疑問がわいてきました。

 「雨のウェンズデイ」は、菫色の雨だけが1点集中のように着色されていて、登場人物や登場する物は、全て雨の中で浄化されてしまうのか、色遣いが瞭然としないのです。

 


〇さよならの風を集めて。

 『ロング・バケーション』はいくつものパターンで別れの歌を集めています。例えば「君は天然色」は、恋人について歌った歌ではなく、松本隆が病弱で亡くなった妹のことを書いた歌だったというエピソードはご本人があちこちで話していて有名です。そこで、『ロング・バケーション』というアルバムは、恋人同士ではない二人の別れの風景を歌った歌もいくつも交じっているのではないか?という仮説を立ててみました。

 別れにもいくつもの別れがあります。夫婦、自分、子供、恋人、友人(*3)

 この中で「雨のウェンズデイ」は、男性の”友人”との別れの歌だったのではないか?と空想してみました。記事からイメージを想起した「赤色のワーゲン」と「菫色の雨」との結びつきを強めるための空想です。いうならば、”さよならの風”が心に吹き荒れている「君」は、カーブのたびに悲鳴をあげた「助手席の君」と同じなのではないか?という考えです。

 今回の記事作成は、この友人との別れの線で、イロコイを忘れた、新たな解釈に挑んでみるチャンスだと思っています。「恋するカレン千早ぶる解釈」よりは、いくぶんまともでも、迷解釈には違いありませんが、一生懸命勉強して頑張ります。

 なんてったって、ワーゲンうちだよ色恋を 忘れて 勉強をセドリック」(by小林旭)ですから(^^)。

 

 
〇黄色いジャガー。

  松本隆は「雨のウェンズデイ」を「1969年のドラッグレース」の後日譚として(先に)書いたという線で、車は何色だったのか?という推理をもう少し続けます。
 
 今回はジャケットの色で車の色を「黄色」や「緑色」と判断するわけではありません。レコード会社の意向で同じ車がいかようにも何度も使い回しされながら変化しますから。あくまでも歌詞前後の文脈や他の文献などを大切にします。(そもそも、雨のウェンズデイのシングル盤のジャケットは2種類あるが、どちらも車は描かれてないため、車の推理としては参照不可)
 
  ”車”の出て来る大滝詠一の曲をもう1曲はさみ、ホットロッド3部作として、登場人物の変遷を追ってみることにしました。別れまでの流れを整理するとこんな感じになるでしょうか。

 Ⅰ 何処か遠くにドライヴするたび、仲間で「バックシートにギター積んで」、バンド結成!

 ↓

 Ⅱ 雨が降る前に(一雨来るね 黒雲スピードをあげて)バンドメンバーとさよならすることを決めた。具体的には、作詞・作曲の共同作業をやめて、お互いの道を歩こうと宣言した(気まずいサヨナラを決めた)。ところが、"車が故障"して、送るに送れない状態になってしまった(送ってくはずだった)。

 ↓

 Ⅲ 傷つけあう言葉が波より多い関係になって、雨も降ってきてしまった。

Ⅰ「1969年のドラッグレース」⇒Ⅱ「ガラス壜の中の船」⇒Ⅲ「雨のウェンズデイ」という流れになります。
 『イーチ・タイム』から『ロンバケ』へ遡ることになり、まさに未来は過去になる、です(^_^)。
 

この三つのストーリーの間、登場人物はずっと同じ車に乗っているという可能性にそって、推理を進めます。  

Ⅰ「1969年のドラッグレース」で思いつく車の色は、やはり黄色(クリーム色)です。
 
 「ドラッグレース」に強い影響を与えている曲が、力強いボ・ディドリー・リズムと軽快なピアノのデイヴ・クラーク5の「Try Too Hard」だからです。
このジャケットに載せられたロボコンとカネゴンの間のような車。
 
The Dave Clark Five 「Try Too Hard」
 
 
 
 
車に詳しくないので少し時間かかりましたが、なんていう車かいろいろと探してみると、この車はジャガー(E-Type)だという記事にたどり着きました。 
 
 
  
The Dave Clark Five - Jaguar E-Type(*4)
 
 
 
 細野晴臣によるとバンドメンバーは3人から始まったそうです。
 
「ある日、大瀧から電話がかかってきた。いっしょにやりたいっていうんだ。それで、3人で集まって、これはできるっと思った。で、3人で車で十和田湖まで旅したんだ。そのたびの中で、大瀧はいろんな曲を作り出して、松本は、とにかく日本語でやろう、というアイデアを出してきた。つまり、これまでは、ロックは踊るための音楽だったわけ。そうじゃなくて、むこうのフォーク・ロックバンドというのは、みんな、すわって聴くっていう。そういうのをやろうってこと。」
 
 十和田湖まで3人で行った旅行に使った車の車色にこだわった文章は見たことがありません。1969年当時から細野晴臣が赤いワーゲンに乗っていたとしたら、その「赤いワーゲン」の可能性はあります。でも、松本隆の頭の中に黄色いジャガーがあった可能性は低いものと思われます。この「Try Too Hard」という曲は、「ドラッグレース」とはサウンド的に共通点があり、ジャケットを気にするとしたら、どちらかというと大瀧サイドかなと思っています。
 
  
CBSソニー出版「レコード・プロデューサーはスーパーマンをめざす」細野晴臣より
 
 
  Ⅱ「ガラス壜の中の船」の詞からは、思いつく色がありません(TT)。
 どんよりした色かなぁとは思いますが、これといった決め手に欠けます。もし、これが「銀色のジェット」だったら、青白い空を破って飛ぶ機体に、これは銀色だ!と、すぐに頭に色のイメージが思い浮かんだのですが(当たり前)、「ガラス壜の中の船」を聞いているときには、これまで車の色を考えたことがありませんでした。
 詞の中にも手がかりになりそうなものが、特にないことから、ギブアップして、次へと進みます。
 
 
 Ⅲ「雨のウェンズデイ」の詞から、手がかりになりそうなものは・・・ありません。
 
 けれども、有名四人組グループの「解散」ということに絞ってみると、ある色が浮かび上がりました!
 左のワーゲンに注目です。そう、白です。ワーゲンは解散のメタファーなのか?
 
 
 
 
 これ以上探すと、どうしても白ではなく、「色恋」をさけては通れなくなりました。
 
 
 
〇黄色の360

 1999年12月に発売された『風街図鑑』の中で松本隆は「雨のウェンズデイ」について、次のようなコメントをしています。

「「雨のウェンズデイ」はプライヴェート・ソング(笑)。高校時代、ロシア系のクォーターの女の子がいて、彼女をモデルにして書いた。本当はワーゲンじゃなくてスバル360だった。その後、脚色して小説の『微熱少年』にも書いた」

 

 つまり、作曲を手掛ける友人でなく、私的な体験にもとづく女の子との別れの歌だということが、ハッキリ明言されてます。

 

ここで、松本隆が自分でも少し脚色したと言及している『微熱少年』は、映画化もされていますが、本の中ではたとえば、こんなことが書かれています。

「菫色の雨が降っていた。

 霧のように細かい雨粒が、空中を漂いながら肩に舞い降りてきた。雲の切れ間から六月の太陽が顔を出すと、雨粒は水晶の粉をまぶしたようにキラキラと風に踊った。

 浅井にせがんで借りた、スバル360のまるいカーブのついたボンネットは、鏡のように流れる雲を映してた。ドアによりかかって、ぼくは海を見ていた。」

 

『微熱少年』松本隆(新潮社)

 

 このスバル360はどんな色か、ほかのページでも本には記載がされていませんが、映画の中の車も、本のタイトルや帯も黄色が基調になっています。

   

また、ワーゲンについても次のような文章も見つけることが出来ます。

「反対側の歩道でタクシーを降りると、ぼくたちは赤信号で通りを渡った。クラクションを鳴らしながら黄色いフォルクス・ワーゲンが通り過ぎた。」

 

〇黄色 VS 青色。

 ご本人が監督をした作品で、黄色のすばる360を登場させているので、ワーゲンの色は黄色!という線が濃厚ですが、まだまだあらゆる可能性をさぐってみようと思います。赤色、黄色、ときたら、次に進む方向、検討すべき色は決まっています。そう、青。「雨のウェンズデイ」シングル盤のジャケットもその方向で「進め」と応援してくれています(^_-)。

  

*信号はどこへ向かうのか。雨のウェンズデイと恋するカレンのAB面を逆にして作られたカップリング。

 この他、一生懸命、作詞研究の研鑚を積んだところ、松田聖子『Candy』というアルバムに入っている松本隆が書いた「星空のドライブ」という曲を発見しました。この曲、"ワーゲン"が色つきです! 

「星空のドライブ」作詞:松本隆、作曲:財津和夫

「青いワーゲン ホロを外して

やけにビュンビュン 飛ばしてるのね

カッコいいのは わかるけどまだまだ 夏じゃない

風邪をひいたら あなたのせいよ

そんな 寒けりゃ そばにおいでよ

ハハーン あなたの計算も意外と単純ね

星の降る街を 飛んでいるみたい負けたわ 」

 

 

 松田聖子『Candy』(1982)
*黄色の籠の黒いバイシクル(車名不明)
 
  松本隆作詞で、ワーゲンの色まで指定した歌はこれしかないのではないかなと思います。この車には「幌」がついているとのこと。オープンカーになるのはドライブにはよいですが、
 
雨にあたるシチュエーションでは不安が残ります。天気雨と青いワーゲンより、黄色いワーゲンとの組み合わせのほうが、いくぶん明るい色調となり、ピアノの音色にもあっているとおもいます。

 

  

 JD・サウザー『You're Only Lonely』(1979)

 *ロンバケ作成のきっかけの1つとなったJDサウザーのLPジャケット。色使いも青と黄色が基調になっており、この2色は相性が良い。
 

〇全ては白になる。
 
 他の可能性がないか、さらに検討を進めます。「微熱少年」という本は、『60年代に高校時を過ごした少年たちの「微熱」の日々をリリカルなタッチで描く、都会の吟遊詩人・松本隆の処女長編』です。
 
 再度、「微熱少年」を読むと、こんな表現があることに気づきました。年上のバンドマンと演奏して、楽器を車に運ぼうとすると、ぼくが屋根にビールの空き缶をおいた車だった、というシーンです。
 
 「「あれだよ」
   葉の隙間に白いカルマン・ギアが透けて見えた。」
 
 
 
 
 ここで出て来るカルマン・ギアは、フォルクスワーゲンなのです。「雨のウェンズデイ」登場は白という可能性もまた再浮上です。
 
  
 karman gear(出典:bringatrailer)
 
 
 
 
もう1つ、違う車ですが「白」い車が登場します。
 
「表参道と246の交差点で右折しようとしていると、浅井が左肩をつついた。そしてサイド・ウィンドウを指した。人差し指の向こうに、幌をたたんだ白いオープン・カーが止まっていた。フェアレディだった。
「何だよ。フェアレディなんて珍しくないじゃないか」ぼくは言った。
「お前、どこに目をつけているんだよ、背中か。あれ、エリーじゃないのか?」
その瞬間、瞳が望遠レンズになった。
 
 なお、このシーンは映画では、白ではなく、赤い車で登場します。
 
 
 つまり、「黄色のすばる360」という現実はあるが、歌詞にするときは少し背伸びをして「白い車」(白いフォルクス・ワーゲン。ビートルかカルマン・ギア)を登場させたという可能性もあります。
 
これは、松本隆の願望も詞に入れこんで、詩的世界を高める道具としてワーゲンが機能した、という解釈もなりたつかなと思います。

 

〇想い出は・・・。
 
 赤、黄、青、白と色々と検討をしてきました「雨のウェンズデイ」のワーゲンの色は何色なのか問題。
 
 自分なりの結論を言います。
 
 モノクローム。
 
 ということで、”後は各自で”。色をつけてくれ、です。お後、大勢さま_(._.)_。
 
 映画『微熱少年』(1987)パンフレットより
 

 

 
(*1) LET'S TALK ABOUT MUSIC & VOLVO SPECIAL TALK ピーター・バラカン×細野晴臣 , June 14, 2018より

(*2) 『ロング・バケーション』には、聞くものの想像を掻き立てる効果的なパワー・ワードがいくつも並んでいます。「ディンギー」、「カナリア諸島」、「カレン」、「シベリア鉄道」・・・。

 私事ながら、自分も「カレン」に憧れ、一時期トヨタのカレンの中古車を購入しようかと検討した時期がありました。カレンのスペルが"CURREN"と"KAREN"でなかったことから、最後に思いとどまりましたが、危ないところでした。

 

 脱線ついでに、「カレン」ネタをもう1つ。うちの子どもは車の中でロンバケを聞いている(聞かされている)ことが多いのですが、歌詞を教えておらず、耳だけの英才教育のため、この曲の「Oh! KAREN~♪」というところを「おつかれ~♪」と歌っています。千早ぶる解釈をするのもむべなるかな、です(^^; 

(*3)たとえば、こんな迷解釈が成り立つかもしれません。

・「Velvet Motel」は、別居間近の"夫婦"の別れ(一度は愛し合えた~♪)。

・「カナリア諸島にて」は、”自分”との別れ(自分が誰かも忘れてしまうよ~♪)。

・「スピーチ・バルーン」は、東京に就職した"子供"との別れ(投げたテープ絡まり~♪)

・「さらばシベリア鉄道」は、女性から"男性"への別れ(一人で決めたわ~"彼"を♪)

「スピーチ・バルーン」のモチーフとした光景で、松本隆が語った、別れた彼女が船でさっそくナンパされていたといったエピソードなどは無視します。

(*4)ちなみにLP盤『Cath Us If You Can』ではお得意そうに同じ車に寝そべっていますが、よくみると、ちょっとづつ撮影アングルが異なるのも一興です。
 


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