銀行というと、それ自身で閉じていて、他業種との連携というものはあまり思い浮かばない。 また、担保をかたに金を貸す、預金者の金を運用し利益を上げる。 というイメージが強い。
しかし、これからは「金融」という産業は単にこのようなことをしてゆくわけではなくなるのだろう。 今後の金融の形を予感させるような記事があった。
ノジマ、スルガ銀と業務提携。
https://messe.nikkei.co.jp/rt/i/news/139529.html
記事によれば、
家電量販店大手のノジマはスルガ銀行の株式を4・98%市場で買い集めた。
株式取得には以下の狙いがあると書かれている。
・スルガ銀行と業務提携
クレジットカードやオンライン事業、営業戦略で広く連携し、
互いの顧客へのサービス向上を図る。
連携が互いの顧客へのサービス向上にどうつながるのか? 家電を買う客にスルガ銀行経由の融資を紹介する? と思ったがそれだけではないようだ。 同じ記事の末尾にこう書いてある。
①ノジマのポイントカードとスルガ銀のクレジットカードを組み合わせたり、
②スルガ銀の口座を持つ人がノジマで買い物をすると特定の恩恵を受けられたりする
といったサービスの創出を目指すという。
③キャッシュレス決済の分野でも手を組む。
①のカードの組み合わせは家電を買う客にスルガの融資を提供。ということなのだろう。
これは思いつく範囲だったのだが、ほかの2つは考えつかなかった。
==========
預金減少に悩む地方銀行にとっての預金者獲得策となるか
==========
面白いのは、②の「スルガに口座を持つ人は、ノジマでの購買で恩恵がある」という件だ。
・スルガ銀行からすれば、恩恵目当てに預金口座を他行から「乗り換え」してくれれば
預金枠が増え、運用益の拡大の可能性が出る
・預金者からすれば、どの銀行に預けても金利は等しく期待できない現在、ノジマでの
優遇があるならスルガに預金する価値が生まれる
・ノジマはスルガ銀の株主だから、スルガ銀行の業績が向上するのは自社の利益である。
銀行の一番基本のビジネスモデルは「金に金を産ませる」ことだ。その原資は預金者の預金である。 これがないと融資もできない。 だから、今回の取り組みは銀行・預金者・株主がWin・Win・Winになるバラ色の施策になるのかもしれない。
現在は日銀への預金はマイナス金利政策により利点がないが、銀行は預金を日銀に預けるだけではない。 日本がマイナス金利でも、海外の債権は利益が見込めるものがある。 それらへの投機で「金に金を産ませる」ことが可能である。
==========
本格的なデータ利活用社会に向けた布石か
==========
③のキャッシュレスの分野でも手を組む。も興味深い。
キャッシュレス決済サービスを提供する会社の思惑はなにか? と言えば、「消費行動データの獲得」である。ノジマのカードはノジマでの購買行動しか追跡できないため、自社のビジネスインテリジェンスには使えるが、それ以外の分野では価値は低い。 もし、もっとマルチに利用できる決済手段を提供できれば、ノジマでどう金を使ったか? ではなく、その人の消費行動全体が見えてくる。 そうなるとそのデータは他業種から見て価値あるものになる。 つまり、それで商売ができる。
提携の結果出来上がるキャッシュレス決済がどんなものかわからない。
例えば、「ノジマ以外の各種事業者が参加できるスマホ決済基盤」を作った場合、これが普及すれば家電以外の色々な購買履歴を収集できる。 また、銀行が提供する決済基盤だから、銀行での入出金、振込、融資、投資などの金融サービスに係わる決済情報も収集できる可能性が生まれる。
そうなると… この情報の集合体(=データレーク)はいろいろな種類の消費活動を網羅するものになり、かなり価値があるものになってくる。 決済基盤に参加する店舗などの事業者にこのデータを提供し、プロモーションに活用することもできるだろう。
さらに、金融サービスにおける決済ログはその人のライフステージやライフプランをあぶりだすことができるかもしれないものである。 例えば、教育ローンを組む人には、それが必要な子供がいるということを知ることができる。 そうすれば、その年頃の子供と親に向けたプロモートも打てる。。。
金融(=金を借りる)ということは借りた金で消費活動をするということである。 本来、金融機関は預金者消費活動やライフステージを把握できる(=データレークを持てる)立場にいるのだが、いままでそれができなかった。 その原因は何なのだろうか?
それは、決済が現金で処理されるということであろう。
預金者がATMで「金を引き出した」事実はわかっても、それが何に使われたかがわからない。だから、プロモートも打てない。 価値のないデータである。 しかし、キャッシュレス決済になると、消費ログはいつ、どこで、誰が、何に、いくら使ったか が含まれる。 ATMのログとは雲泥の差である。
振込や送金のログも従来は「何のためにその金が動かされたのか?」銀行は知りにくかった。 口座の解約や組み換えも「何のためか?」を銀行はわからなかった。 もしキャッシュレス決済で車や家まで買うようなことになると、決済をトリガーにして、預金解約や融資を連動して自動処理することができるようになる。
つまり、車を買うのに手持ちがなければ、決済システムが自動的に銀行のローンを斡旋してきて、ローンを前提に決済を行う。という一気通貫の処理が可能となる。 そうなると、車をxxxx万円で購入するためにローンが組まれて云々という情報を銀行は自動的に得られるようになる。
そう考えてみると、このノジマとスルガ銀行の取り組みは
・地方の人口減少で預金者が増えない=預金が増えない=運用資金が増えない
・地方の経済の停滞で事業性融資が伸びない=金利で稼げない
・日銀のマイナス金利政策のせいで、日銀が金のなる木でなくなった
・新しい金を産む木を作らないといけない
という状況にある地方銀行にとって「消費活動と融資活動のデータ」という金のなる木を生み出せる機会なのかもしれない。 もしかすると、この取り組みによって銀行は「データ時代の貧者」から「データ時代の富豪」に変化するのかもしれない。
地方銀行も地方企業も商圏がその地域に立脚している傾向が強いと言える。 それゆえに、その地域の人たちの経済活動(=金の動きとその目的)を知る仕組みがあるのとないのとでは大きな差があるのではなかろうか。 そう考えていると非常に興味深くなってくる。
と思ったら、こんなニュースが…
スルガ銀行創業家、全保有株をノジマに譲渡へ 日経新聞 2019/10/25
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51389590V21C19A0MM8000/
これによりノジマが有するスルガ銀株の保有比率は18%に上がるそうだ。 記事によれば、それ以前の5%の保有時点ですでに同行株を持つ筆頭株主だったようなので18%も握れば圧倒的筆頭株主になる。 そこまで投資する価値(=今後への野心)があると見ていいだろう。
東洋経済は
ノジマ、スルガ銀「創業家全株」を買い取る思惑 東洋経済オンライン 2019/10/25
https://toyokeizai.net/articles/-/310724
という記事の中で
家電量販店も飽和状態になっていて、ノジマは新たな収益源を求めていた。
そこで目をつけたのが金融事業
キャッシュレスやフィンテックなど、金融を取り巻く環境は激変しており、
旧態依然とした銀行のビジネスモデルは早晩行き詰まる。ノジマとスルガ銀
が組めば、新たなビジネスモデルを創出することができる
というノジマ関係者の言葉を紹介し、ノジマの狙いを
カード事業に食指、先進フィンテック企業に
としている。
しかし、私が思うにフィンテックは手段にすぎず、それが実現する一気通貫の「消費~決済~金融」基盤が生み出す「消費と金融に係わる行動ログ」というデータが宝の山になる。と踏んでのことではないかと思うのである。
つまり、ノジマの狙いは
金融と組んで消費活動データビジネスの勝利者に
ということではなかろうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます