ここのところヤマトの完結編を繰り返し見ていて
やっぱり島君の・生きていたら・の可能性を考えました。
気持ちのままに書いてみようと生まれてきたのが
今回のお話しとなりました。
年末に一作書き上げる事が出来ました事も感謝な事だと
思います。
毎回「描ききれてない」と思いながらもアップする時
読んで下さって、もしかして、何がしかの力になるとか、
気晴らしになるとかの様な事があったら、と、生意気とは
思いますが、そんな風に考えております。
閲覧下さる方々の幸を思います。
では、お読みいただけましたら幸いです。
宜しくお願いいたします。
「え?!自分が“教官”に・・・・・ですか?」
「ああ、藤堂校長直々の推薦でな」
困惑する大介に司令長官は言った。
「教官と言う仕事は経験が物を言う。もちろん、その
経歴が勝れた物である事もだがな。」
大介は長官の瞳をじっと見た。
「君ほどの経歴を持つ人物はいない。それに今
これだけの“宇宙時代”には、より秀逸な人材が
多く必要なのだよ。それは君にもわかるだろう。
是非、君の力を借りたいのだ。」
大介は両手をぎゅっと握り締め少しうつむき直ぐに
顔を上げて言った。
「少し・・・・少し時間を頂けませんか?」
西暦2211年
地球は繁栄の時代を向かえ人々は宇宙に進出していた。
太陽系はもちろん外宇宙にも開拓の手は伸びて
どのような人々でも気軽に宇宙に出かけてゆく
そんな事が当たり前の時代となっていた。
そのような中に有って『パイロット』は必要不可欠な
存在となっていたのである。
そんな中、地球防衛軍パイロット島大介は
9年目の節目を迎えようとしていた。
「よう島!元気か?」
「古代!」
背後から呼ばれて振り向いたそこには親友の
古代進の姿が有った。
「教官に?」
「うん、そうなんだ。」
指令本部のロビーのソファーで向き合っていた。
「何も迷う事ないんじゃないのか?お前の性質考えると
充分出来ると思うがな、それに藤堂校長
(藤堂と言う人物は大介達が地球の大戦時代の指令長官だった。)
の推薦じゃ・・・・すごいじゃないか島!」
「う・・・・ん、そうは自分でも思うんだが・・・・・。」
「なんだ、なんかすっきりしない返事だな。」
苦笑いする古代に大介は言った。
「なんで、ちゅうちょしてるのか自分でもよくわからないんだ。」
顎の下で硬く拳を握る大介を見て古代は言った。
「なら、なんで迷うのか“何”が迷わせるのか、そこに焦点を置いて考えたら
すっきりしやすいんじゃないか?」
大介は驚いたような顔で古代を見た。
「そうだな、その通りだよ古代、今すごいアドバイスもらったなと
思ったよ。」
「今の若い奴らは大変なんだよ。俺だって成長しなきゃな。」
護衛艦艦長として働いている古代ならではの言葉だと大介は感じた。
「ありがとう古代。」
大介は立ち上がると古代に握手を求めた。
少し驚いた古代だったが大介を応援したいと思った。
硬く握手をした。
「じゃ、すまん俺はもう出航の時間だ。」
「ああ、今日お前に会えて嬉しかったよ。お互いに過密
スケジュールだからな。神様の恵みかもな。」
「大げさだな」
古代は楽しそうに笑って見せた。
ーじゃーとお互いに背を向けたが古代が肩を叩いてきた。
「なあ、島、知ってるか?歴史でエジプト時代って教わっただろう」
振り向きながら言葉に耳を向ける。
「太古の昔の壁画に[今の若い者は]ってグチの文字が彫ってあるそうだぜ。」
「ほんとか?」
大介は声を挙げて笑った。
そして、その笑い話も後進を育てる事になるかもしれない自分に贈ってくれた
ように感じた大介だった。
「おかえりなさい」
自宅のチャイムを押すより先に開いたドアに大介は驚いた。
「た、只今・・・・よく僕だって解ったね澪。」
「そりゃ~貴方の事、愛してるもの!」
「み・・・お。」
妻の澪はクスクスと笑い大介の照れたような顔を見て言った。
「貴方と結婚して8年経ってるのよ。足音で解ったの。」
「そうか・・・・。」
そんな二人の間に一人の女の子が分け入るように立った。
「あれ?この子は?」
「千世実の保育園での友達なの。あんまり二人で楽しそうにしてるから
夕飯一緒にと思って・・・・・連絡しないでごめんなさいね大介さん。」
「いや、別にかまわないよ。じゃ、とにかく中に入ろうか。」
大介は娘の友達の頭をなでた。
「名前はなんていうのかな」
リビングで娘とふざけあう姿に大介は聞いた。
澪はかがむと女の子の肩を叩き両手を大きいリアクションで
動かして見せた。大介はハッとした。それは手話だった。
少女は大介の方を見ると指文字(手話の記号)でゆ・め・こ・と
伝えてきた。
「手話はパイロット養成でやったでしょう?次郎君が(大介の弟の名)
そんな事おしえてくれたんだけど・・・・解る?」
大介はうなずくと『ゆめこちゃん良い名前だね。』と手話で伝えた。
ゆめこは、にっこりと笑って見せた。
「ゆめこちゃんのゆめって夢を見る、の夢で夢子ちゃんなの素的な
名前よね。」
「そうか・・・・・いい名前だ。」
大介は夢子を慈しむような瞳で見詰めた。そんな大介を澪はじっと見た。
「あ!でも千世実は手話解かるのか?」
「さっきからの二人をみてれば解かるでしょう。」
千世実は、まだ4歳である。夢子が聞こえない事などお構いなしに
話しかけていた。しかし夢子はそんな千世実を受け入れて楽しそうに
じゃれあっていた。
「夢子ちゃんのお父さん耳が聞こえないの。」
大介はベットでホットミルクを飲みながら澪の話を聞いていた。
「でも、どうしてもパイロットになりたいって、民間の学校に通ってるん
ですって、諦めたくないって・・・・すごい人よね。」
「そうか・・・・頑張れば確かに操縦する機種は限られてくるけど、やれない事は
ない。・・・・・そうか・・・・そんな人が居るのか・・・・・。」
大介はマグカップを両手で囲むようにして澪に言った。
「澪・・・・実は今日、上司から『教官にならないか』って話があったんだ。
そんな人が頑張ってるなら僕もひるんでられないな。そう思うだろう澪。」
澪は束ねた髪をほどいている手を止めて大介の顔をじっと見た。
「大介さん・・・・・・まだ『現役』でいいんじゃないの?もっと勉強する事
あるんじゃないかしら・・・・・。」
当然、自分の意見に賛成してくれると思った妻の口から出た言葉は大介の
心に突き刺さった。
澪はそれ以上何も言わずに眠る支度に入っていった。
「夢子ちゃん、もうすぐ、おやつね。今日はなにかしらね。」
澪は手話で、そう話しかけながら、おやつの支度を進めていた。
「島さん、ご主人がいらしてるって、ここは私やるから、受付行って見て。」
「え!?主人が?・・・・・何か有ったのかしら・・・・・」
今日は非番である筈の大介を思って走った。
「大介さん!どうしたの?」
息をきらした心配そうな澪の様子に大介は申し訳なさそうに言った。
「いや、いきなり、ごめんよ。なんでもないんだけど・・・・たまには
君の仕事ぶりが見たいと思って・・・・・。」
澪はホッとしたように言った。
「なんだ、おどかさないで。良かった、なんでもなくて。」
ごめんと頭を下げる大介に言った。
「みにきてくれて嬉しいわ。でも、何もしてあげられないわ。」
「職場なんだから、当たり前だよ。解かってる。ただ見たいだけなんだ。」
「そう、じゃ、戻るわね。」
そう言って背を向けた時もう一度振り向いて
「見てくれるなら、良く見て行ってね。」と念を押すように言った。
大介は強くうなずいて見せた。
おやつの時間の様子を大介は窓越しに見ていた。夢子の姿をみつけると
自然、目がひきつけられた。
皆で「いただきます」をした後、夢子は嬉しそうにフォークをおやつのケーキに
刺そうとした。その時となりに座っていた男の子が夢子のおやつを、お皿こと
とりあげてしまった。夢子は半泣きになりそうになりながら、おやつを
取り返そうとした。他の子供に気を取られていた保育士達は誰も夢子の状況に
気が付いていなかった。二人の取り合いは激しくなっていた。
大介は思わず窓をたたきそうになったが、ぐっと、こらえ澪が気が付いて
くれないかとただ、気をもむだけで何も出来ずに居た。
夢子が泣き出してしまい始めて保育士達が状況に気が付いた。
ー私がーと澪が夢子の肩に手をかけたのをみて大介はホッとした。
夢子は澪に必死に手話で『あげて』と繰り返して言っていた。
澪は『夢子ちゃんの分なのよ』と諭したが『夢子はおうちでママにもらうから
挙げて』と必死の様子で頼んだ。『解かったわ』とそんな夢子に笑顔で返事を
すると夢子の皿から隣の男の子にケーキを移した。
なんて事をするんだと思った大介はハラハラと澪を見ていた。
一度姿を消した澪は戻って来ると新しいお皿に乗ったケーキを夢子に差し出した。
夢子は、いぶかしそうに澪を見たが澪は窓の外の大介を指差して
『千世実のパパから、帰ってからもらうから大丈夫』と笑顔で言った。
夢子は窓の大介を見たので大介は必死で笑い顔を作って手を振って見せた。
「は~結局、大介さんに助けてもらっちゃった・・・・・保育士としては凹むけど結果的には
夢子ちゃんの為になったものね。助けてくれてありがとう大介さん・・・・。」
勤務時間を終えた澪と大介は肩を並べて歩いていた。
「なあ、澪、夢子ちゃんは自分の分を取られたのを何で怒らなかったんだ?
なんで、あんなに与えようとしてたんだろう・・・・・・。」
澪はくれなずむ空を見上げて言った。
「夢子ちゃんのお父さんパイロット目指してるって言ったでしょう。
いつも言ってるんですって、宇宙に行きたい人を沢山運んであげるんだって
みんなが喜んでくれる。だから自分はパイロットになるんだって・・・・・。」
その言葉に大介は頭を殴られたようなショックを受けた。
「だから夢子ちゃんも、そんなお父さんの姿を見て“与える”って事を
自然、学んでたんじゃないかしら・・・・・・。」
大介は立ち止まって空を見上げた。
「夢子ちゃん、耳は聞こえなくても、お父さんの足音が判る・・・・そんな子なんじゃ
無いかしら・・・・・・。」
「ああ、そうだね。きっと・・・・・そうだ・・・・。」
しばし空を見上げ続けた。
「夢子ちゃんのお父さんに会ってみたいな・・・・・・。」
「きっと宇宙(そら)で会えるんじゃないかしら・・・・・・。」
二人は互いを見て微笑みあった。
「指令、先日の話ですが、お受けしたいと思います。」
「おお!本当かね、その気になってくれたか!」
「指令長官・・・・。」
「ん?」大介の真剣な呼びかけに長官は顔をじっと見た。
「僕が教えるであろう人は皆、本当に宇宙(そら)を飛びたい人ばかり
なのでしょうね。」
長官は大介の言葉にじっと耳を傾けた。
「実は、自分は教官になるのに何を目的にすれば良いのか
判らなく迷っていました。でも後進を育てる事その事こそが
目的だと宇宙(そら)を飛びたい人々の手助けをすれば良いのだと
はっきり判りました。ですから最善を尽くしたいと心から思います。」
長官は大介のその言葉に得心を受けたようにうなずきながら言った。
「あれだけ厳しい訓練を受ける覚悟で来る者ばかりだ、きっと彼らの
胸には星ぼしの輝きが見えるんだろう。」
「はい。」
笑顔で長官の言葉を聞く大介に言った。
「“教官”大変な仕事だ。頑張ってくれたまえ。私も尽力は惜しまんよ。」
「ありがとう、ございます。」
「島君、どんな出会いが待ってるか・・・・とんでもない
人物もいるかもしれんよ。」
苦笑してみせる長官に言った。
「覚悟しています。長官、エジプト時代の壁画の落書きに[今の若い者は]と
グチが書かれているという事は、ご存知ですか?」
「ああ、知っている。いつの時代も変わらんのだなあと思ったよ。
これから大変だな・島教官・」
「覚悟してます。」
大介は敬礼した。
「じゃ、行って来る」
「うん、いってらっしゃい」
最後の輸送艦艦長としての出立の朝だった。
「澪・・・・僕は・・・・・・。」
大介の決心の深さを知っている澪は
満面の笑みでフライト鞄を大介に渡した。
「応援してるから大介さん。いつだって。」
「ありがとう澪。」
空に向かう大介の足音が聞こえなくなるまで
見送る澪であった。
すみません。
小編の第四段のスミに自分のメルアドを載せたのですが
一部間違って載せているのが判明いたしました。
正しいメルアドを載せましたので、どうぞ失礼を
お許し下さい。
やっぱり島君の・生きていたら・の可能性を考えました。
気持ちのままに書いてみようと生まれてきたのが
今回のお話しとなりました。
年末に一作書き上げる事が出来ました事も感謝な事だと
思います。
毎回「描ききれてない」と思いながらもアップする時
読んで下さって、もしかして、何がしかの力になるとか、
気晴らしになるとかの様な事があったら、と、生意気とは
思いますが、そんな風に考えております。
閲覧下さる方々の幸を思います。
では、お読みいただけましたら幸いです。
宜しくお願いいたします。
「え?!自分が“教官”に・・・・・ですか?」
「ああ、藤堂校長直々の推薦でな」
困惑する大介に司令長官は言った。
「教官と言う仕事は経験が物を言う。もちろん、その
経歴が勝れた物である事もだがな。」
大介は長官の瞳をじっと見た。
「君ほどの経歴を持つ人物はいない。それに今
これだけの“宇宙時代”には、より秀逸な人材が
多く必要なのだよ。それは君にもわかるだろう。
是非、君の力を借りたいのだ。」
大介は両手をぎゅっと握り締め少しうつむき直ぐに
顔を上げて言った。
「少し・・・・少し時間を頂けませんか?」
西暦2211年
地球は繁栄の時代を向かえ人々は宇宙に進出していた。
太陽系はもちろん外宇宙にも開拓の手は伸びて
どのような人々でも気軽に宇宙に出かけてゆく
そんな事が当たり前の時代となっていた。
そのような中に有って『パイロット』は必要不可欠な
存在となっていたのである。
そんな中、地球防衛軍パイロット島大介は
9年目の節目を迎えようとしていた。
「よう島!元気か?」
「古代!」
背後から呼ばれて振り向いたそこには親友の
古代進の姿が有った。
「教官に?」
「うん、そうなんだ。」
指令本部のロビーのソファーで向き合っていた。
「何も迷う事ないんじゃないのか?お前の性質考えると
充分出来ると思うがな、それに藤堂校長
(藤堂と言う人物は大介達が地球の大戦時代の指令長官だった。)
の推薦じゃ・・・・すごいじゃないか島!」
「う・・・・ん、そうは自分でも思うんだが・・・・・。」
「なんだ、なんかすっきりしない返事だな。」
苦笑いする古代に大介は言った。
「なんで、ちゅうちょしてるのか自分でもよくわからないんだ。」
顎の下で硬く拳を握る大介を見て古代は言った。
「なら、なんで迷うのか“何”が迷わせるのか、そこに焦点を置いて考えたら
すっきりしやすいんじゃないか?」
大介は驚いたような顔で古代を見た。
「そうだな、その通りだよ古代、今すごいアドバイスもらったなと
思ったよ。」
「今の若い奴らは大変なんだよ。俺だって成長しなきゃな。」
護衛艦艦長として働いている古代ならではの言葉だと大介は感じた。
「ありがとう古代。」
大介は立ち上がると古代に握手を求めた。
少し驚いた古代だったが大介を応援したいと思った。
硬く握手をした。
「じゃ、すまん俺はもう出航の時間だ。」
「ああ、今日お前に会えて嬉しかったよ。お互いに過密
スケジュールだからな。神様の恵みかもな。」
「大げさだな」
古代は楽しそうに笑って見せた。
ーじゃーとお互いに背を向けたが古代が肩を叩いてきた。
「なあ、島、知ってるか?歴史でエジプト時代って教わっただろう」
振り向きながら言葉に耳を向ける。
「太古の昔の壁画に[今の若い者は]ってグチの文字が彫ってあるそうだぜ。」
「ほんとか?」
大介は声を挙げて笑った。
そして、その笑い話も後進を育てる事になるかもしれない自分に贈ってくれた
ように感じた大介だった。
「おかえりなさい」
自宅のチャイムを押すより先に開いたドアに大介は驚いた。
「た、只今・・・・よく僕だって解ったね澪。」
「そりゃ~貴方の事、愛してるもの!」
「み・・・お。」
妻の澪はクスクスと笑い大介の照れたような顔を見て言った。
「貴方と結婚して8年経ってるのよ。足音で解ったの。」
「そうか・・・・。」
そんな二人の間に一人の女の子が分け入るように立った。
「あれ?この子は?」
「千世実の保育園での友達なの。あんまり二人で楽しそうにしてるから
夕飯一緒にと思って・・・・・連絡しないでごめんなさいね大介さん。」
「いや、別にかまわないよ。じゃ、とにかく中に入ろうか。」
大介は娘の友達の頭をなでた。
「名前はなんていうのかな」
リビングで娘とふざけあう姿に大介は聞いた。
澪はかがむと女の子の肩を叩き両手を大きいリアクションで
動かして見せた。大介はハッとした。それは手話だった。
少女は大介の方を見ると指文字(手話の記号)でゆ・め・こ・と
伝えてきた。
「手話はパイロット養成でやったでしょう?次郎君が(大介の弟の名)
そんな事おしえてくれたんだけど・・・・解る?」
大介はうなずくと『ゆめこちゃん良い名前だね。』と手話で伝えた。
ゆめこは、にっこりと笑って見せた。
「ゆめこちゃんのゆめって夢を見る、の夢で夢子ちゃんなの素的な
名前よね。」
「そうか・・・・・いい名前だ。」
大介は夢子を慈しむような瞳で見詰めた。そんな大介を澪はじっと見た。
「あ!でも千世実は手話解かるのか?」
「さっきからの二人をみてれば解かるでしょう。」
千世実は、まだ4歳である。夢子が聞こえない事などお構いなしに
話しかけていた。しかし夢子はそんな千世実を受け入れて楽しそうに
じゃれあっていた。
「夢子ちゃんのお父さん耳が聞こえないの。」
大介はベットでホットミルクを飲みながら澪の話を聞いていた。
「でも、どうしてもパイロットになりたいって、民間の学校に通ってるん
ですって、諦めたくないって・・・・すごい人よね。」
「そうか・・・・頑張れば確かに操縦する機種は限られてくるけど、やれない事は
ない。・・・・・そうか・・・・そんな人が居るのか・・・・・。」
大介はマグカップを両手で囲むようにして澪に言った。
「澪・・・・実は今日、上司から『教官にならないか』って話があったんだ。
そんな人が頑張ってるなら僕もひるんでられないな。そう思うだろう澪。」
澪は束ねた髪をほどいている手を止めて大介の顔をじっと見た。
「大介さん・・・・・・まだ『現役』でいいんじゃないの?もっと勉強する事
あるんじゃないかしら・・・・・。」
当然、自分の意見に賛成してくれると思った妻の口から出た言葉は大介の
心に突き刺さった。
澪はそれ以上何も言わずに眠る支度に入っていった。
「夢子ちゃん、もうすぐ、おやつね。今日はなにかしらね。」
澪は手話で、そう話しかけながら、おやつの支度を進めていた。
「島さん、ご主人がいらしてるって、ここは私やるから、受付行って見て。」
「え!?主人が?・・・・・何か有ったのかしら・・・・・」
今日は非番である筈の大介を思って走った。
「大介さん!どうしたの?」
息をきらした心配そうな澪の様子に大介は申し訳なさそうに言った。
「いや、いきなり、ごめんよ。なんでもないんだけど・・・・たまには
君の仕事ぶりが見たいと思って・・・・・。」
澪はホッとしたように言った。
「なんだ、おどかさないで。良かった、なんでもなくて。」
ごめんと頭を下げる大介に言った。
「みにきてくれて嬉しいわ。でも、何もしてあげられないわ。」
「職場なんだから、当たり前だよ。解かってる。ただ見たいだけなんだ。」
「そう、じゃ、戻るわね。」
そう言って背を向けた時もう一度振り向いて
「見てくれるなら、良く見て行ってね。」と念を押すように言った。
大介は強くうなずいて見せた。
おやつの時間の様子を大介は窓越しに見ていた。夢子の姿をみつけると
自然、目がひきつけられた。
皆で「いただきます」をした後、夢子は嬉しそうにフォークをおやつのケーキに
刺そうとした。その時となりに座っていた男の子が夢子のおやつを、お皿こと
とりあげてしまった。夢子は半泣きになりそうになりながら、おやつを
取り返そうとした。他の子供に気を取られていた保育士達は誰も夢子の状況に
気が付いていなかった。二人の取り合いは激しくなっていた。
大介は思わず窓をたたきそうになったが、ぐっと、こらえ澪が気が付いて
くれないかとただ、気をもむだけで何も出来ずに居た。
夢子が泣き出してしまい始めて保育士達が状況に気が付いた。
ー私がーと澪が夢子の肩に手をかけたのをみて大介はホッとした。
夢子は澪に必死に手話で『あげて』と繰り返して言っていた。
澪は『夢子ちゃんの分なのよ』と諭したが『夢子はおうちでママにもらうから
挙げて』と必死の様子で頼んだ。『解かったわ』とそんな夢子に笑顔で返事を
すると夢子の皿から隣の男の子にケーキを移した。
なんて事をするんだと思った大介はハラハラと澪を見ていた。
一度姿を消した澪は戻って来ると新しいお皿に乗ったケーキを夢子に差し出した。
夢子は、いぶかしそうに澪を見たが澪は窓の外の大介を指差して
『千世実のパパから、帰ってからもらうから大丈夫』と笑顔で言った。
夢子は窓の大介を見たので大介は必死で笑い顔を作って手を振って見せた。
「は~結局、大介さんに助けてもらっちゃった・・・・・保育士としては凹むけど結果的には
夢子ちゃんの為になったものね。助けてくれてありがとう大介さん・・・・。」
勤務時間を終えた澪と大介は肩を並べて歩いていた。
「なあ、澪、夢子ちゃんは自分の分を取られたのを何で怒らなかったんだ?
なんで、あんなに与えようとしてたんだろう・・・・・・。」
澪はくれなずむ空を見上げて言った。
「夢子ちゃんのお父さんパイロット目指してるって言ったでしょう。
いつも言ってるんですって、宇宙に行きたい人を沢山運んであげるんだって
みんなが喜んでくれる。だから自分はパイロットになるんだって・・・・・。」
その言葉に大介は頭を殴られたようなショックを受けた。
「だから夢子ちゃんも、そんなお父さんの姿を見て“与える”って事を
自然、学んでたんじゃないかしら・・・・・・。」
大介は立ち止まって空を見上げた。
「夢子ちゃん、耳は聞こえなくても、お父さんの足音が判る・・・・そんな子なんじゃ
無いかしら・・・・・・。」
「ああ、そうだね。きっと・・・・・そうだ・・・・。」
しばし空を見上げ続けた。
「夢子ちゃんのお父さんに会ってみたいな・・・・・・。」
「きっと宇宙(そら)で会えるんじゃないかしら・・・・・・。」
二人は互いを見て微笑みあった。
「指令、先日の話ですが、お受けしたいと思います。」
「おお!本当かね、その気になってくれたか!」
「指令長官・・・・。」
「ん?」大介の真剣な呼びかけに長官は顔をじっと見た。
「僕が教えるであろう人は皆、本当に宇宙(そら)を飛びたい人ばかり
なのでしょうね。」
長官は大介の言葉にじっと耳を傾けた。
「実は、自分は教官になるのに何を目的にすれば良いのか
判らなく迷っていました。でも後進を育てる事その事こそが
目的だと宇宙(そら)を飛びたい人々の手助けをすれば良いのだと
はっきり判りました。ですから最善を尽くしたいと心から思います。」
長官は大介のその言葉に得心を受けたようにうなずきながら言った。
「あれだけ厳しい訓練を受ける覚悟で来る者ばかりだ、きっと彼らの
胸には星ぼしの輝きが見えるんだろう。」
「はい。」
笑顔で長官の言葉を聞く大介に言った。
「“教官”大変な仕事だ。頑張ってくれたまえ。私も尽力は惜しまんよ。」
「ありがとう、ございます。」
「島君、どんな出会いが待ってるか・・・・とんでもない
人物もいるかもしれんよ。」
苦笑してみせる長官に言った。
「覚悟しています。長官、エジプト時代の壁画の落書きに[今の若い者は]と
グチが書かれているという事は、ご存知ですか?」
「ああ、知っている。いつの時代も変わらんのだなあと思ったよ。
これから大変だな・島教官・」
「覚悟してます。」
大介は敬礼した。
「じゃ、行って来る」
「うん、いってらっしゃい」
最後の輸送艦艦長としての出立の朝だった。
「澪・・・・僕は・・・・・・。」
大介の決心の深さを知っている澪は
満面の笑みでフライト鞄を大介に渡した。
「応援してるから大介さん。いつだって。」
「ありがとう澪。」
空に向かう大介の足音が聞こえなくなるまで
見送る澪であった。
すみません。
小編の第四段のスミに自分のメルアドを載せたのですが
一部間違って載せているのが判明いたしました。
正しいメルアドを載せましたので、どうぞ失礼を
お許し下さい。