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なごみchan

毎日の中で起こる、ひとコマ、その中で分かち会いたい。そんなページです。

挑戦、第七段 『貴方の足音』 ~希望に向かって~

2008-12-19 15:52:53 | 小編(小説)
ここのところヤマトの完結編を繰り返し見ていて
やっぱり島君の・生きていたら・の可能性を考えました。
気持ちのままに書いてみようと生まれてきたのが
今回のお話しとなりました。
年末に一作書き上げる事が出来ました事も感謝な事だと
思います。

毎回「描ききれてない」と思いながらもアップする時
読んで下さって、もしかして、何がしかの力になるとか、
気晴らしになるとかの様な事があったら、と、生意気とは
思いますが、そんな風に考えております。
閲覧下さる方々の幸を思います。

では、お読みいただけましたら幸いです。
宜しくお願いいたします。


「え?!自分が“教官”に・・・・・ですか?」
「ああ、藤堂校長直々の推薦でな」
困惑する大介に司令長官は言った。
「教官と言う仕事は経験が物を言う。もちろん、その
経歴が勝れた物である事もだがな。」
大介は長官の瞳をじっと見た。
「君ほどの経歴を持つ人物はいない。それに今
これだけの“宇宙時代”には、より秀逸な人材が
多く必要なのだよ。それは君にもわかるだろう。
是非、君の力を借りたいのだ。」
大介は両手をぎゅっと握り締め少しうつむき直ぐに
顔を上げて言った。
「少し・・・・少し時間を頂けませんか?」

西暦2211年
地球は繁栄の時代を向かえ人々は宇宙に進出していた。
太陽系はもちろん外宇宙にも開拓の手は伸びて
どのような人々でも気軽に宇宙に出かけてゆく
そんな事が当たり前の時代となっていた。
そのような中に有って『パイロット』は必要不可欠な
存在となっていたのである。
そんな中、地球防衛軍パイロット島大介は
9年目の節目を迎えようとしていた。

「よう島!元気か?」
「古代!」
背後から呼ばれて振り向いたそこには親友の
古代進の姿が有った。

「教官に?」
「うん、そうなんだ。」
指令本部のロビーのソファーで向き合っていた。
「何も迷う事ないんじゃないのか?お前の性質考えると
充分出来ると思うがな、それに藤堂校長
(藤堂と言う人物は大介達が地球の大戦時代の指令長官だった。)
の推薦じゃ・・・・すごいじゃないか島!」
「う・・・・ん、そうは自分でも思うんだが・・・・・。」
「なんだ、なんかすっきりしない返事だな。」
苦笑いする古代に大介は言った。
「なんで、ちゅうちょしてるのか自分でもよくわからないんだ。」
顎の下で硬く拳を握る大介を見て古代は言った。
「なら、なんで迷うのか“何”が迷わせるのか、そこに焦点を置いて考えたら
すっきりしやすいんじゃないか?」
大介は驚いたような顔で古代を見た。
「そうだな、その通りだよ古代、今すごいアドバイスもらったなと
思ったよ。」
「今の若い奴らは大変なんだよ。俺だって成長しなきゃな。」
護衛艦艦長として働いている古代ならではの言葉だと大介は感じた。
「ありがとう古代。」
大介は立ち上がると古代に握手を求めた。
少し驚いた古代だったが大介を応援したいと思った。
硬く握手をした。
「じゃ、すまん俺はもう出航の時間だ。」
「ああ、今日お前に会えて嬉しかったよ。お互いに過密
スケジュールだからな。神様の恵みかもな。」
「大げさだな」
古代は楽しそうに笑って見せた。
ーじゃーとお互いに背を向けたが古代が肩を叩いてきた。
「なあ、島、知ってるか?歴史でエジプト時代って教わっただろう」
振り向きながら言葉に耳を向ける。
「太古の昔の壁画に[今の若い者は]ってグチの文字が彫ってあるそうだぜ。」
「ほんとか?」
大介は声を挙げて笑った。
そして、その笑い話も後進を育てる事になるかもしれない自分に贈ってくれた
ように感じた大介だった。


「おかえりなさい」
自宅のチャイムを押すより先に開いたドアに大介は驚いた。
「た、只今・・・・よく僕だって解ったね澪。」
「そりゃ~貴方の事、愛してるもの!」
「み・・・お。」
妻の澪はクスクスと笑い大介の照れたような顔を見て言った。
「貴方と結婚して8年経ってるのよ。足音で解ったの。」
「そうか・・・・。」
そんな二人の間に一人の女の子が分け入るように立った。
「あれ?この子は?」
「千世実の保育園での友達なの。あんまり二人で楽しそうにしてるから
夕飯一緒にと思って・・・・・連絡しないでごめんなさいね大介さん。」
「いや、別にかまわないよ。じゃ、とにかく中に入ろうか。」
大介は娘の友達の頭をなでた。

「名前はなんていうのかな」
リビングで娘とふざけあう姿に大介は聞いた。
澪はかがむと女の子の肩を叩き両手を大きいリアクションで
動かして見せた。大介はハッとした。それは手話だった。
少女は大介の方を見ると指文字(手話の記号)でゆ・め・こ・と
伝えてきた。
「手話はパイロット養成でやったでしょう?次郎君が(大介の弟の名)
そんな事おしえてくれたんだけど・・・・解る?」
大介はうなずくと『ゆめこちゃん良い名前だね。』と手話で伝えた。
ゆめこは、にっこりと笑って見せた。
「ゆめこちゃんのゆめって夢を見る、の夢で夢子ちゃんなの素的な
名前よね。」
「そうか・・・・・いい名前だ。」
大介は夢子を慈しむような瞳で見詰めた。そんな大介を澪はじっと見た。
「あ!でも千世実は手話解かるのか?」
「さっきからの二人をみてれば解かるでしょう。」
千世実は、まだ4歳である。夢子が聞こえない事などお構いなしに
話しかけていた。しかし夢子はそんな千世実を受け入れて楽しそうに
じゃれあっていた。


「夢子ちゃんのお父さん耳が聞こえないの。」
大介はベットでホットミルクを飲みながら澪の話を聞いていた。
「でも、どうしてもパイロットになりたいって、民間の学校に通ってるん
ですって、諦めたくないって・・・・すごい人よね。」
「そうか・・・・頑張れば確かに操縦する機種は限られてくるけど、やれない事は
ない。・・・・・そうか・・・・そんな人が居るのか・・・・・。」
大介はマグカップを両手で囲むようにして澪に言った。
「澪・・・・実は今日、上司から『教官にならないか』って話があったんだ。
そんな人が頑張ってるなら僕もひるんでられないな。そう思うだろう澪。」
澪は束ねた髪をほどいている手を止めて大介の顔をじっと見た。
「大介さん・・・・・・まだ『現役』でいいんじゃないの?もっと勉強する事
あるんじゃないかしら・・・・・。」
当然、自分の意見に賛成してくれると思った妻の口から出た言葉は大介の
心に突き刺さった。
澪はそれ以上何も言わずに眠る支度に入っていった。


「夢子ちゃん、もうすぐ、おやつね。今日はなにかしらね。」
澪は手話で、そう話しかけながら、おやつの支度を進めていた。
「島さん、ご主人がいらしてるって、ここは私やるから、受付行って見て。」
「え!?主人が?・・・・・何か有ったのかしら・・・・・」
今日は非番である筈の大介を思って走った。
「大介さん!どうしたの?」
息をきらした心配そうな澪の様子に大介は申し訳なさそうに言った。
「いや、いきなり、ごめんよ。なんでもないんだけど・・・・たまには
君の仕事ぶりが見たいと思って・・・・・。」
澪はホッとしたように言った。
「なんだ、おどかさないで。良かった、なんでもなくて。」
ごめんと頭を下げる大介に言った。
「みにきてくれて嬉しいわ。でも、何もしてあげられないわ。」
「職場なんだから、当たり前だよ。解かってる。ただ見たいだけなんだ。」
「そう、じゃ、戻るわね。」
そう言って背を向けた時もう一度振り向いて
「見てくれるなら、良く見て行ってね。」と念を押すように言った。
大介は強くうなずいて見せた。


おやつの時間の様子を大介は窓越しに見ていた。夢子の姿をみつけると
自然、目がひきつけられた。
皆で「いただきます」をした後、夢子は嬉しそうにフォークをおやつのケーキに
刺そうとした。その時となりに座っていた男の子が夢子のおやつを、お皿こと
とりあげてしまった。夢子は半泣きになりそうになりながら、おやつを
取り返そうとした。他の子供に気を取られていた保育士達は誰も夢子の状況に
気が付いていなかった。二人の取り合いは激しくなっていた。
大介は思わず窓をたたきそうになったが、ぐっと、こらえ澪が気が付いて
くれないかとただ、気をもむだけで何も出来ずに居た。
夢子が泣き出してしまい始めて保育士達が状況に気が付いた。
ー私がーと澪が夢子の肩に手をかけたのをみて大介はホッとした。
夢子は澪に必死に手話で『あげて』と繰り返して言っていた。
澪は『夢子ちゃんの分なのよ』と諭したが『夢子はおうちでママにもらうから
挙げて』と必死の様子で頼んだ。『解かったわ』とそんな夢子に笑顔で返事を
すると夢子の皿から隣の男の子にケーキを移した。
なんて事をするんだと思った大介はハラハラと澪を見ていた。
一度姿を消した澪は戻って来ると新しいお皿に乗ったケーキを夢子に差し出した。
夢子は、いぶかしそうに澪を見たが澪は窓の外の大介を指差して
『千世実のパパから、帰ってからもらうから大丈夫』と笑顔で言った。
夢子は窓の大介を見たので大介は必死で笑い顔を作って手を振って見せた。



「は~結局、大介さんに助けてもらっちゃった・・・・・保育士としては凹むけど結果的には
夢子ちゃんの為になったものね。助けてくれてありがとう大介さん・・・・。」
勤務時間を終えた澪と大介は肩を並べて歩いていた。
「なあ、澪、夢子ちゃんは自分の分を取られたのを何で怒らなかったんだ?
なんで、あんなに与えようとしてたんだろう・・・・・・。」
澪はくれなずむ空を見上げて言った。
「夢子ちゃんのお父さんパイロット目指してるって言ったでしょう。
いつも言ってるんですって、宇宙に行きたい人を沢山運んであげるんだって
みんなが喜んでくれる。だから自分はパイロットになるんだって・・・・・。」
その言葉に大介は頭を殴られたようなショックを受けた。
「だから夢子ちゃんも、そんなお父さんの姿を見て“与える”って事を
自然、学んでたんじゃないかしら・・・・・・。」
大介は立ち止まって空を見上げた。
「夢子ちゃん、耳は聞こえなくても、お父さんの足音が判る・・・・そんな子なんじゃ
無いかしら・・・・・・。」
「ああ、そうだね。きっと・・・・・そうだ・・・・。」
しばし空を見上げ続けた。
「夢子ちゃんのお父さんに会ってみたいな・・・・・・。」
「きっと宇宙(そら)で会えるんじゃないかしら・・・・・・。」
二人は互いを見て微笑みあった。



「指令、先日の話ですが、お受けしたいと思います。」
「おお!本当かね、その気になってくれたか!」
「指令長官・・・・。」
「ん?」大介の真剣な呼びかけに長官は顔をじっと見た。
「僕が教えるであろう人は皆、本当に宇宙(そら)を飛びたい人ばかり
なのでしょうね。」
長官は大介の言葉にじっと耳を傾けた。
「実は、自分は教官になるのに何を目的にすれば良いのか
判らなく迷っていました。でも後進を育てる事その事こそが
目的だと宇宙(そら)を飛びたい人々の手助けをすれば良いのだと
はっきり判りました。ですから最善を尽くしたいと心から思います。」
長官は大介のその言葉に得心を受けたようにうなずきながら言った。
「あれだけ厳しい訓練を受ける覚悟で来る者ばかりだ、きっと彼らの
胸には星ぼしの輝きが見えるんだろう。」
「はい。」
笑顔で長官の言葉を聞く大介に言った。
「“教官”大変な仕事だ。頑張ってくれたまえ。私も尽力は惜しまんよ。」
「ありがとう、ございます。」
「島君、どんな出会いが待ってるか・・・・とんでもない
人物もいるかもしれんよ。」
苦笑してみせる長官に言った。
「覚悟しています。長官、エジプト時代の壁画の落書きに[今の若い者は]と
グチが書かれているという事は、ご存知ですか?」
「ああ、知っている。いつの時代も変わらんのだなあと思ったよ。
これから大変だな・島教官・」
「覚悟してます。」
大介は敬礼した。


「じゃ、行って来る」
「うん、いってらっしゃい」
最後の輸送艦艦長としての出立の朝だった。
「澪・・・・僕は・・・・・・。」
大介の決心の深さを知っている澪は
満面の笑みでフライト鞄を大介に渡した。
「応援してるから大介さん。いつだって。」
「ありがとう澪。」
空に向かう大介の足音が聞こえなくなるまで
見送る澪であった。


すみません。
小編の第四段のスミに自分のメルアドを載せたのですが
一部間違って載せているのが判明いたしました。
正しいメルアドを載せましたので、どうぞ失礼を
お許し下さい。


挑戦 第五段  『贈るエール』~君の往く路(みち)~

2008-11-20 15:18:37 | 小編(小説)
第五段が出来上がりました。
主人も母も入院加療中という状況の中で
これを書かせて頂けたという事は私の中で
大変、大きな励みとなりました。

今回も描ききれてないなあという未熟さと
戦いながら、それでも、書きたい思いに駆られて
書きました。
一段一段の話の裏には色々な事情が有ったり
苦しかったりしていますが、こうして書かせて
頂く事で力を頂けるのは本当にありがたい事と
閲覧してくださる方々に、感謝しております。
閲覧してくださる方がいらしてのブログですから。

少し長くなってしまいまたが、お読みいただけましたら
これにまさる喜びはありません。こんな時だから、なおさらです。

あいかわらずの未熟な小編ですが、少しでも、お楽しみいただけましたら
幸いに思います。

どうぞ、宜しくお願いいたします。






「大介さん、大介さん!」
澪はうなされている夫に声をかけた。
その声に応えるように大介は目を覚ました。
「大介さん大丈夫?」
大介は起き上がるとかいた汗をぬぐった。
澪はベットの側にある引き出しから
タオルと替えのパジャマを取り出した。
「大介さん、これ」
「ああ、ありがとう・・・・。」
受け取りながら、なにげなく時計を見た。
時計は午前三時半をさしていた。
「嫌な、夢でも見た?」
澪のその問いにタオルで体を拭きながら答えた。
「ああ、戦闘の夢、見てたみたいだ。」
「こんなに平時が続いてる時に、どうしたのかしらね
何か心配事でもあるの?」
不安そうにパジャマの着替えを手伝う澪。
「心配事・・・・って言うか・・・もしかして、あの事が
気に掛ってるのかもしれないな・・・・・。」
「あの事?」
取り替えた服を受け取りながら澪は聞いた。
「僕が今、教えてる生徒に難しいなって感じる子が居て・・・・
その子にどう教えたら良いのかな、とか考えながら眠ったから
そんな夢みたのかも知れないな・・・・。」
澪は大介の横顔をじっとみて
「そう、教官も大変よね・・・・・。」と
深く共感するように、つぶやくような声で言った。
「ねえ、澪、君はどうして今の仕事、続けてるんだい?保育士だって
けっして楽な仕事じゃない。」
澪は大介を見ると明るく微笑みながら言った。
「好き、今の仕事が好きだからよ。大介さん。」
その答えに大介は思わずうなずいた。
「好き・・・・・・・そう、そこなのかもしれない・・・・・・・・。」
真剣な顔で考える大介を見て
「ね、ちょっと待ってて」
服を持って部屋を出て行った。
見送りながら、まだ大介は考え込んでいた。
すぐに戻ってきた澪は飲み物を大介に差し出した。
「これでも、飲んで落ち着いて。」
笑顔の澪から受け取ると喉が渇いていたらしく一気に飲み干した。
そして、一息つくと、
「ありがとう」と少し和らいだ顔を向けた。
「ううん」と澪は首を振った。
「ね、大介さん、手、出して」
「なんだい?急に」
「明日に障るわ。貴方が嫌な夢を見ないよう
祈るわ。」
優しい笑顔でそう言う澪に大介は照れたように
「なんだか、子供みたいだな」と手を預けた。
握られている手から澪の優しさが、こぼれてくるような気がした。
「ホントにありがとう、澪。」
「どういたしまして」
そして二人は深い眠りについた。



「島主任」
軍訓練校での休憩時間に他の教官から声をかけられた。
「一之瀬なんですがね・・・・。」
困ったような相手の顔を見て話ようとしている事が判った。
一之瀬と呼ばれたその生徒は大介が危惧していた生徒だった。
「やれば出来ない生徒じゃないのに、どうしてもカリキュラム中にミスして
しまう・・・・・。原因はなんなんでしょうね・・・・・。」
大介は少し考えると
「本人と会ってみましょうか」と言った。
「はあ・・・・・カウンセリングなら我々も何度かしてますが・・・・。」
教官のその返事に
「ちょっと自分なりに聞いてみようかなと考えてた事があるんですよ。」と
納得させるように言うと
「判りました。じゃ、島主任、お願いします。」と信頼するように言った。

青々と木が茂る大きな窓のある部屋のソファーに大介と生徒は
向かい合って座っていた。
「島主任教官、主任の貴方が出て来るって事は僕はよほど問題児扱いって
ことなんですか?」
ふてくされたように、どこか自暴自棄のようにその生徒は言いはなった。
「いや、一之瀬君、そうじゃないんだ。君と対話がしたくてね。」
「対話?」いぶかしむように大介の顔を見る。
「うん、君がなにを考え、どうしたいのか、じっくり聞いてみたくてね。」
「カウンセリングなら他の教官と何度もしてます。それでもダメなんですよ」
一之瀬は吐き捨てるように言った。
大介は風にそよぐ大きな木をじっと、しばらく見ていた。
一之瀬は、そんな大介を見ているとイラついてきた。
「教官!教官は僕と話したいって言ったじゃないですか!なに呑気に外ばっかり
見てるんですか!?」
大介は、それでも木から目をそらさなかった。そして言った。
「いや、君が今、どんなに辛いかな・・・・と思うとね・・・・・僕も正直、何を聞いて
何を言えばいいんだろうと思って・・・・・木の音をね、聞いてるんだよ。」
「木の音?」
一之瀬は、いぶかしむように、それでも大介の言うように木の音など聞こえるの
だろうかと耳を傾けた。
わずかだがガラスをとおして確かに風にそよぐ木の音が耳に響いた。
「こうやって風に木は身をまかせて、こんな音を出してるんだなあ、なんか
落ち着く音だとは思わないかい?」
「島教官、自分と対話したいって言ったじゃないですか!何が木の音なんですか!
そんな事より重要な事が有るでしょう!」
喧嘩腰になる一之瀬の方に向き直って言った。
「なあ、一之瀬、ここは訓練校だから確かに、やるべき事は沢山有る。でも、今は
君と話したいんだ・・・・・だから少し余裕を持って欲しいんだ。」
大介の言葉にグッとつまったような表情を見せた一之瀬は窓に顔を向けた。
しばらく沈黙の時が続いた。
一之瀬の耳にも木のそよぐ音がしみこんできていた。
「・・・・・・僕は、島教官のような一流の躁艦者になりたいんです。だから、いつも
全力ですよ。でも、失敗する・・・・・・・。」
グッと悔しさをこらえるように両手を握り締めた。
「僕が一流なのか、それは、ありがとう。じゃ、どんな所見て一流って思って
くれたのかい?」
「それは・・・・。」
俯いていた一之瀬は一気に、勢い込んで言った。
「いつも冷静だし、絶対、失敗しないし、躁艦のテクニックは確かで輸送艦、艦長と
して運べなかった場所もないし、配送に失敗した事も一度たりとも無いし、新造艦の
スペックアップにも追いつけなかった事も無い。完璧じゃないですか!だから俺も
そうなりたいんだ!!」
「ずいぶん、褒めてくれるなあ」
大介は思わず笑いをもらした。
「俺は真剣なんです!」
「いや、すまん、すまん。」
大介は手で制して見せた。
「じゃ、そこまで言ってくれるなら何故そうなったんだと思う?」
「きまってるじゃないですか、一杯、経験積んで、一杯訓練して、努力してたからですよ」
ムキになる一之瀬に静かに言った。
「僕が始めて躁艦したのは訓練生途中だったんだ。大戦で沢山の軍人が死傷して人を
選んでられる状況じゃなかったんだよ。」
「ええ!?」
一之瀬は知らない内に身を乗り出していた。
「もちろん、その新造艦の為の訓練は受けてはいた。でも完全じゃなかった。完全じゃない
ままに発進するしかない状況になってしまったんだ。」
一之瀬は黙り込んでしまった。
「今は当たり前のワープシステムも、まだ不完全なシステムで
テキストも無いまま行うしかなかった。エンジンも訳ありでリスクを背負ってた。
それでも、ぶっつけ本番でやるしかなかったんだよ。」
一之瀬は、にわかには信じがたい様子で震える声で聞いた。
「教官・・・・島・・・教官は怖くは無かったんですか?」
大介はにっこり笑って見せた。
「怖かったに決まってるだろう。体中ガクガクしたよ。」
絶句する一之瀬に大介は言った。
「これは、でも、あくまでも僕の経験だ。今は時代が違う。システムも段違いに
向上してるし、ある意味、今の君達の方が大変かもしれない。艦は直ぐに
最新鋭になるし、カリキュラムをこなすのも・・・・。」
大介が話し終わるのを待たずに言葉をかぶせてきた。
「そんな事、軽く、当たり前みたいに言わないで下さい!ワープシステムが
ぶっつけ本番?そんな馬鹿な・・・・。」
一之瀬は大介の目をキッとして見た。
「島教官は、教官は、そんな恐怖、どうやって乗り越えたんですか?僕は
今でも・・・・今でも怖いのに・・・・・。」
その一之瀬の言葉に一之瀬のミスの原因を見つけたような気が大介にはしていた。
「言ったろう、人材が居なかったって、だから自分がやるしかなかったんだよ」
大介は次の言葉に力を入れた。
「でも、手ごたえを感じていた。いつも。成功するたびに手ごたえが確かになって
いったんだ。いつのまにか何よりも躁艦する事が好きに、大事になっていったんだよ
だから続けられたんだ。一之瀬君。」
「島教官・・・・・・。僕は・・・・・・。」
一之瀬の今までとは違う表情を見た大介は
夕べ祈ってくれた澪を思い出した。
「一之瀬君、手をかしてくれないか?」
「え?」とまどう一之瀬に満面の笑みで言った。
「君の為に祈りたい。君が本当の一流の躁艦者になれるように。」
おそるおそる出された手を大介は力強く握った。
そして、目をとじて頭をたれた。
大介の思いが伝わってきて一之瀬は胸が熱くなった。
手が触れた時、大介の手の平が、ふしくれだっているのに気が付いた。
長い間、操縦かんを繰っていた人の手だと一之瀬は思った。


「島主任、一之瀬、最近、いいですね。表情も明るくなりしたし。一体
どんな話を彼としたんですか?」
同僚の教官の質問にこう答えた。
「今は無い大艦の話を少ししただけです。」
「ああ、あの伝説の艦ですね。」
『そう、もう、あの艦は“伝説”でいい。これからは君達の時代だ。
パイロット、いや、人生からは逃げも隠れも出来ない。だからこそ、
与えられたこの人生、いっしょに、やって行こう。精一杯。』
大介は講義の為の重いテキストを手に立ち上がったのだった。


挑戦 第四段  ~約束の明日~

2008-10-21 21:08:39 | 小編(小説)
私の夫は今、入院しています。
今年二月の事故後、ずっと一緒に居ました。

今、離れていろいろな事を思わされています。

聖書の「詩篇」と言う旧約の部分に有るのですが
この詩篇と言うのはとても沢山有ります。

あの有名なダビデが時、おりおりに書いたものですが
ダビデは、ほんとに本音で神様にぶつかっています。

その気持ちが、この「詩篇」に書かれていますので
辛くなると詩篇を私は、よく開きます。

今回書いた、この小編は夫と離れている寂しさ、でも
神様が、やさしく語りかけてくださっているその
慰めを受けて澪と大介の物語にしてみました。

「詩篇121篇」に
主はあなたを守る方。
~中略~
昼も日が、あなたを打つことがなく
夜も、月が、あなたを打つことがない。
主は、すべてのわざわいから、あなたを守り
あなたの命を守られる。
主は、あなたを、行くにも帰るにも
今よりとこしえまでもまもられる。

と、あります。

足りない形ではありますが書けた事を感謝しています。

この後に続きます小編を読んでいただけましたら
心より感謝に思います。




澪は寝付けずに寝返りをくりかえしていた。
『展望室に行ってみようかしら』ふと、そう思った。

『なんだか、眠れないなあ~』大介は眠くなればと
思い本を読んでいた。いつもなら、そうしていると
気分が落ち着いてきて眠る事が出来たが、その日は
なかなか眠りに落ちる事が出来なかった。
『展望室に行ってみるか』
身を起こし上着を手に取ると靴に足を通した。

『あ~やっぱり落ち着くわここ』
澪は展望室の窓の外に、きらめく星々をみつめていた。が、
ドアが開く音に驚いて振り向いた。
「島さん!」
こんな時間に誰も居る筈がないと思っていた大介は
「澪さん!」と思わず言った。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「こんな時間にどうしたの?」
二人同時に聞いて、その声が重なった。
二人はしばらく互いを見合ったが、どちらからともなく笑顔が
こぼれた。
「なんだか、眠れなくて」
澪は髪を少し恥ずかしそうに、かきあげた。
大介は、そんな澪に
「そう、僕もなんだ。」と笑顔を向けた。

流れる星を二人は、しばし見詰めていたが大介が静かな声で
「澪さん、これからの事、やっぱり不安かい?」と聞いた。
大介の、やわらかな声に誘われるように応えた。
「ええ、やっぱり・・・・・地球って、どんな所かなって・・・・・。」
「そうか、そうだよね。」
そう返事した大介は元気付けるように澪に言った。
「でも、古代も居るし真田さんも着いてる。きっと大丈夫だよ。」
「そう・・・・・そうですよね。」
澪はそう答えながらパジャマ姿の肩を両手で、さすって少し寒そうな
そぶりを見せた。
不安を表わすかのように大介の目には見えて自分の着ていた上着に手をかけた。
「澪さん、これ、はおって」
そっと肩にかけた。
澪はほほをそめて
「ありがとう島さん」と上着で肩を包み込んだ。
「あったかい」そう澪が笑顔を大介に向けた時
その微笑をいとおしく感じた。
「島さん」
呼びかけにじっと澪の目を見た。
「不安、ふあん、だけど・・・・・私には・・・・・今は貴方が・・・・。」
大介の上着をにぎりしめ、ゆっくりと目を閉じる仕草をした。
その澪の姿が窓に映った。
「澪さん」
大介は、窓に映る澪の姿をしばし見詰め、そして、そっと
澪の腕をとった。
「僕も・・・・・・・・、いや、僕が君を守るから」
とったうでを自分の方に引き寄せ、優しく抱きしめた。
「島さん」
澪の鼓動が高鳴った。
父親に抱きしめられた時、叔父の古代に慰められながら抱きとめてもらった時
その、どの時とも違う、暖かい胸、たくましい腕。
自分のすべてを受け止めてくれるかのような大介の心に澪は自分の心が
重なって、ゆくような気がした。
涙がこぼれてきた。でも、その涙は暖かかった。
大介は少しだけ腕に力を込めた。
澪は身を預けながら、涙がほほをつたわるままに大介の愛情を
いっぱいに受けていた。


凄く考えて勇気が入ったのですが
自分のメールアドレスを載せてみようと
思いました。
「コメントではチョット言いづらい」等の事が
ありましたら、気軽に通信頂けましたら
とても嬉しく思います。
以下に載せますので宜しくお願い致します。
yz4xi9@◎bma.biglobe.ne.jp(すみません。アドレスに
抜けている箇所が有るのを12月19日現在判りました。
大変失礼致しました。)
おそれいりますが真ん中の二重丸を取って通信
いただけたらと思います(^^)

挑戦、第三段  -いつも共にー

2008-09-19 15:10:30 | 小編(小説)
今回のこの物語はだいぶ以前に小編として書いた物でした。
なんの起伏も無い話ですが、こんな事が二人の島君と澪ちゃんの
間に有ってもいいかもしれないな~と、思いながら書いたのでした。
小編と言っても今回のは少し長いので敬遠されてしまうかもと
思いましたが勇気を出して載せてみました。
読んで頂けましたら、こんなに幸いな事はありません。
もしも、読んで下さった方がおられて、何か小さな事でも
感じる処がありましたなら、本当に感謝です。
また、蛇足ではありますが普通、作品を数える時『第~弾』と
“弾”と言う字を使いますが、私は一歩ずつ作品を書いて行ければと
言う願いを込めて“一段二段”の段の字を使って表現させていただきたいと
思っております。一段一段がアクセスして下さる方にへの感謝の思いなのです。

では、どうぞ、宜しくお願い致します。



早朝の優しい光に澪は目を覚ました。
「おはよう、澪」
と、誰かに声をかけられた。澪はその声を知っていると思ったので
その声の方へ、ゆっくりと視線を巡らせた。
「し、島さん!」
澪は驚いて飛び起きた。
「何そんなに驚いてるの?」
苦笑する大介に澪は消え入りそうな声で答えた。
「だって、目覚ましたら島さんが目の前にいるから・・・・・。」
大介はベットに歩み寄り澪の額をつついた。
「僕達、結婚したんだよ」
澪は恥ずかしそうに大介の顔を見た。
「そ、そうよね、し、島さん、わたしったら」
「結婚一日目が天気が良くて良かったね。」
大介はにっこりと笑った。
「そ、そうね島さん・・・・・ほ、ほんとに良い天気・・・・。」
もじもじして掛け布団で自分を隠そうとする澪を大介は可愛いと思った。

「支度、出来たかい?澪」
朝食を食べに行こうとしていた。
「ええ、島さん」洗面室から足早に外に出た。
大介は澪の姿を見て思わず
「よく似合ってるね、そのワンピース」と感想をもらした。
「え?そ、そう?あ、ありがとう島さん・・・・。」
しどろもどろしたままの澪である。
そんな澪の緊張をときほぐそうと大介は思った。
「澪、あのさ、僕達、結婚したんだから僕の事ー大介ーって呼んで欲しいと思うんだけど。」
「え?大介・・・・・。あなたの名前?」ほほを赤らめながらそう言う。
「うん、そう。」
微笑んでみせる大介に、いっそう顔をほてらせる。
「だ・・・・いす・・・・けさん・・・・・。」
「いや、“さん”いらないし・・・・・。」大介は笑った。
「だ、だいすけ・・・・。」小さくやっと、そう呼ぶ。
「はい」笑顔で返事をする。
「だ、ダメ~!やっぱり名前でなんて呼べない~!」
両手でほほを押さえる澪を見て大介は言った。
「そっか、ま、いいか、そう呼べそうになったらでいいよ澪。」
「ごめんなさい・・・・・。」
うつむいてしまう澪。
そんな様子の澪を見て大介は手を差し出しながら言った。
「別にあやまるような事じゃないよ澪、なんでも、これからゆっくり
やって行こう。一歩、一歩ね。」
澪は差し出された手を取った。


「澪はパンでもご飯でも、なんでも食べられるんだね」
「お義父さまが好き嫌いは体によくないんだぞ!って」
「あはは、真田さん厳しいお父さんだったんだな」
「そういう所は・・・。でも何時も私の健康、気ずかって下さったんだと思うの。
なかなか父に会えない事も思いやってくれて・・・・優しい人だわ」
「そうか・・・・澪、良い人に育てられて幸せだね。」
「そうね・・・・本当にそうだわ・・・・。」
澪は大介のその言葉に慰めを感じた。父を失った悲しみにばかり気を取られ、真田から
受けていた愛情に目を向ける事が少なかったと思い改めて義父の存在に
思いを馳せた。
「僕の方が、よっぽど薄情かも・・・・君の事、忙しくて食事に誘った事もなかったね。」
大介は、にがわらいした。
「そんな事・・・・・今、こうして一緒に食事してるじゃない、これからは何時も一緒に
たべられるわ、だから、私、嬉しいわ。島さん」
「澪・・・・・。」
二人は笑顔を交し合った。
そんな二人をほほえましそうに見ている初老の婦人が居た。
二人はその婦人の視線に気が付いて目を向けた。
婦人は軽く会釈してきた。澪と大介も頭を下げた。
「どなたかしら?」
「さあ」大介は首をかしげて見せた。


二人はホテルから見える景観を楽しみながら廊下を歩いていた。
すると、食事をしていた時、挨拶を交わしたと思われる婦人がドアの前で
落ち着かない様子を見せていた。
「島さん、あの方・・・・。」
「うん、なんだか変だね。」
「聞いてみましょうか?おせっかいかしら」
「いや、澪、頼むよ。」

「あの、失礼ですが・・・・どうかなさいましたか?」
澪の声に婦人は振り返った。
「あ、先ほどは・・・・・いえ、あの、実はドアが開かなくなってしまって」
「ええ!大変!島さん、島さん!」
大介は急いで二人に駆け寄った。
「ドアが開かないんですって、どうしたのかしら」
大介は婦人に簡単に頭を下げると聞いた。」
「指紋照合の部屋でらっしゃいますよね、駄目なんでしょうか」
「ええ、何度パネルに触っても・・・・。」
「島さん、ホテルの人呼んだ方が・・・・。」
「まあ、ちょっと待って」
ポケットからハンカチを取り出すとパネルを軽く拭いた。
「これで、もう一度だけやってみて下さいますか?それで駄目ならホテルの人を
呼びましょう。」
婦人はうなずくとパネルに触った。するとカチャッと軽い音がしてドアが僅かに開いた。
「まあ!開いたわ!」
婦人は驚いて大介の顔を見た。
「こんな簡単な事で・・・・。」婦人と澪は目を丸くした。
「指紋照合は便利で安全なんですが、民間のは繊細に出来てて、誰かが汚れた手で触ったり
すると拒否反応してしまうんです。もしかすると食べ汚れた手で子供さんか誰かが、いたずらで
触って行ったのかもしれませんね。」
「そう言う物なんですか・・・・まあ~なんだか、便利なんだか不便なんだか・・・・・。」
婦人は苦笑いした。
「良かったわ。島さん、伊達にパイロットしてないわね。凄いわ。」
「やめてくれよ」大介は照れて顔を赤くした。
「本当に助かりましたわ。ありがとうございました。」
深々と頭を下げる婦人に恐縮しながら言った。
「あの、自分達は3911号室に居ます。何か、お困りの事が有りましたら声をかけてください。」
立ち去ろうとする二人に婦人は、あの、と遠慮深げに声をかけた。
「あの、大変失礼な事だとは存じますが・・・・・軍の方でいらっしゃいますか?」
澪と大介は目を見合った。
「いえ、〈民間〉〈自分〉と独特の言い回しをしていらしたので・・・・。」
「・・・・・・・はい、自分は軍のパイロットをしている者です。」
大介のその言葉に婦人はふいに涙を浮かべた。
「あ、あの・・・・」大介が困惑すると澪が
「あの、そこで宜しかったら、おかけになりませんか?」と婦人の肩に手を置いて廊下の椅子を
薦めた。



「新婚旅行でいらしたんですか・・・・・とんだ、御邪魔をしてしまって・・・・」
「いいえ、私達、今日はたっぷり時間が有って、どう過ごそうか話してた所だったんです。
邪魔だなんて少しも・・・・・・。」
「有難う御座います。お二人とも本当にお優しくて・・・・・不躾な事だとは思いながらも
お食事してらした時も、とても良い雰囲気で、お二人の和やかさに、つい心惹かれて
見詰めてしまって・・・・・新婚旅行らしい人達はここにも沢山おりますが、上手に言葉に出来ないの
ですが、お二人は何処か違っていらして・・・・・。」
澪と大介は互いを見た。
「・・・・・ごく、普通の旅行です・・・・ね、島さん」
「うん・・・・」婦人に笑顔を向けた。
婦人は穏やかな笑顔で二人をみつめた。
「そういえば・・・・」
「はい」二人で声をそろえた。
「島・・・さんとおっしゃるのは名字ですわね、先ほどから思っていたんですが、奥様は
何時もご主人を・島さん・と、お呼びになっていらっしゃるのかしら・・・・・。」
不思議そうな顔を向ける婦人に大介が照れた様子で言った。
「自分達が知り合った時から、彼女が、あ、澪と言うんですが〈島さん〉と呼んでいて
結婚したんだから名前で呼んで欲しいって言ったんですけど、どうも照れくさいらしくて
・・・・・・やっぱり変ですよね。」
大介は頭を掻いた。澪も恥ずかしそうにうつむいた。
「まあ、そうでしたの・・・・・ほほ、まあ、初々しい・・・変な事ありませんわ。ホントにかわいらしい
奥様ですわね。」
「そんな・・・」
恥ずかしさにほほを染めた澪。
「私の息子も、もしかしたら、こんな可愛らしい方と廻り合っていたかもしれませんわ」
「え?息子さんがいらしたんですか」
二人で声をそろえた質問に婦人は静かに答えた。
「手の届かない所に・・・・・・・行ってしまいましたの・・・・・軍人でした・・・・・。」
「!」
「開くはずのドアが空かなくなって・・・・お二人と思いがけなく、お話する事が出来ました。
息子のした事なのかしら・・・急な出張で息子の誕生日旅行に一緒に来れなくなってしまった
主人に、良い報告が出来ますわ・・・・・本当にありがとうございました。たのしかったわ。
お二人に感謝致します。」
婦人は深く頭を下げると静かに立ち上がり自分の部屋に向かって歩き出した。
婦人と向かい合って腰掛けていた澪は、やおら立ち上がり大介の腕を引いた。
「島さん!私と貴方、今きっと同じ事考えてない?!」
大介はうなずいて見せた。



「まあ、まあ、こんな事になるなんて・・・・・私、こんなつもりでは・・・・」
「いえ、とんでもない、僕達の方こそ強引にお願いしてしまって、でも、ほんとに時間
持て余していたんです。暇人に付き合ってやる位のつもりで一緒に過ごして下さい。」
「大勢の方が楽しいわ!私、何処も知らない所ばかりなんです。もし、良い所、子存知でしたら
是非連れて行って頂きたいんです。」
澪は心底嬉しそうな笑顔を婦人に向けた。
「この通り、妻も、もう・はじけて・ますので・・・・宜しくお願いします。」
婦人は深い笑みを浮かべた。
「こちらこそ宜しくお願いします。」




大介は海沿いの道に車を走らせ景色を楽しんだ。澪と婦人は身内の様に打ち溶け合っていた。
澪が景観の良い所にさしかかる度に、はしゃぐのに婦人もこころよく付き合っていた。
「そういえば、確か、この先に・・・・。」
「何処か思い点かれましたか?」ハンドルを握る大介が聞いた。
「ええ、大きな滝が有ったと・・・・・滝は見た事あって?澪さん」
「いいえ、一度も・・・・見てみたいわ!」
「よし、決まりだな!澪、カーナビにTakiって入力してくれるかな」
「はい!」機械が行き先を直ぐに表示した。
「そう、遠くない所ですね。直ぐに着くと思います。」
婦人と澪は笑顔で見合った。


「これが・・・・・滝・・・・・」
澪は自然の大きさに圧倒されて言葉をなくして力強い水の流れを見詰めた。
「ありがとうございます。僕達だけじゃ、こんなに素晴らしい場所に来る事は出来ませんでした。」
「いいえ、こんなに楽しませて頂いて・・・・お役に立てて嬉しいですわ。」
澪は只、滝に見入っていた。
「実は、澪は父親も母親も居ないんです。戦争で・・・・幼い頃、母親を無くし、少し前に父親も・・・・。」
「ええ!ほんとうに?!あんなに、ほがらかな良いお嬢さんですのに・・・・・そんな風には見えません
でしたわ・・・・・。」
引き込まれそうになるほど滝に夢中になっている澪の姿を婦人はじっとみつめた。
「ええ、気丈で、でも繊細で、ひたむきで、そういう処に惹かれました。」
大介は少し気恥ずかしそうに夫人に笑顔を向けた。
「そんな背景を持っている方に見えなかったのは、あなたがいらっしゃるからだと思います・・・
・・・・・・・」
「え?」
「あなたの愛情で満たされて、きっと、お幸せなのだと・・・・。」
「そうでしょうか・・・・・そうであってくれれば自分は本望ですが・・・彼女を、守ってあげられればと
願って・・・・・結婚しました。」
「あなたのその、お気持ち澪さんは充分に受け止めて喜んでいらっしゃるように私には
見えますわ・・・・。」
「ありがとうございます。」
二人はしばし力強く流れる滝を見詰めた。
「あなたも、凛々しくていらっしゃる」
「は・・・・・」
婦人の慈愛に満ちた眼差しを大介はじっと見た。
「軍人さんだから、と、言う意味ではなく・・・・・主人が言ってましたの〈男は守るものが出来て
強くなる〉と。あなたを見ていると、その通りだと思いますわ・・・・・ご自身を大切に
なさって、いつまでも澪さんを守って差し上げてください・・・・・。」
大介は夫人の言葉を厳粛に受け止めた。
子供を無くした親の悲しみからにじみ出た言葉だと思った。
「はい」
婦人に誓うようにうなずいた。
「しまさ~ん!おばさま~!もっとこっちで一緒に見ませ~ん?!」
「ああ!解った!解ったから、あんまり身、乗り出すな~澪、落ちるぞ~!」
澪にそう返事して大介は夫人に手を差し出した。
「あなたの息子さんの替わりには、とても、なれませんが自分で宜しければ息子だと思って
頂けますか?・・・・・・・・・・・・あつかましいでしょうか・・・・・。」
大介の遠慮深げな言葉に「いいえ、ありがとう、島さん」と夫人は大介の手を取った。

その後も三人は時間の許す限り、あちらこちらを見て回った。大介は夫人を気遣い歩く時には
必ず手を取った。大介と婦人の心の振れあいも深まっていった。婦人と大介達は、いつしか
婦人が他人である事を忘れていた。

「楽しい時間ってホントにあっという間に過ぎてしまうものですわね」
「すみません。あちこちと連れ回してしまいまして・・・・お疲れになったのでは・・・・」
大介のその言葉に婦人は少し寂しげな顔をした。
「いいえ、疲れなんて感じませんでしたわ。でも、私は今日、帰らなければなりません。」
澪と大介は、え?!と云う顔を婦人に向けた。
「そろそろ時間なのです。島さん、あなた方はまだ遊び足りないかもしれなくて申し訳なく思い
ますが・・・・・・ホテルに戻って頂けますでしょうか・・・・・」
澪はうつむいた。そんな澪を、ちらりと見て大介は言った。
「わかりました。戻りましょう。自分達も、もう充分楽しく過ごしましたから。」
帰りの車の中の澪は、婦人に対して普通に振舞おうとして振舞いきれない様子を見せていた。
来た時と同じ様に三人で会話を交し合ったが、澪は明らかに言葉すくなになっていた。



「島さん、澪さん、本当に楽しい時をありがとう。ここでお別れしたいと思います・・・・・。」
ホテルの玄関ロビーで婦人はそう告げた。
「え、あなたの用意が整うのを待って、空港まで送らせて頂きたいと・・・・・思っていたのですが・・・・。」
大介がそう言うと婦人は首を振って見せた。
「空港までならホテルから車も出ます。あなた方と出会えた、ここで、このホテルの中で
お別れしたいと思いますの・・・・・・。」
婦人のその言葉に澪はこらえきれなくなって涙を浮かべた。
「澪・・・・・。」大介は澪に、しっかりするよう促した。
「いいのよ、島さん」夫人は澪の手を取った。
「澪さん、ありがとう、そんなに慕って下さって・・・・・うれしいわ。私は娘は居ませんでしたが
貴方のこと、娘のように思わせてもらっていたわ・・・・・。」
「おば様・・・・・。」
「島さん、澪さん、あなたがたと出会えて本当に良かった・・・・・・私、大切な事を忘れていたと
思います。」
澪は目頭を押さえながら、大介は夫人の顔をじっとみながら言葉を聴いた。
「私と主人は息子の面影ばかり追って、今まで来てしまったと思いました。息子が生きていたらと
・・・・・・誕生日旅行もそんな寂しさばかりでした。でも、澪さんに慕っていただけて、島さんに
優しくしていただいて・・・・私はー生きているーのだと、確かに生かされているのだと思う事が
出来ました。生きていれば、こんな出会いも有る・・・・・私にも何か、まだ、出来る事が有るのでは
ないかと思えました。」
婦人は澪の手を強くにぎった。
「澪さん、私はあなたの事、決して忘れません。今日この一日を忘れる事は無いでしょう・・・・。
忘れないという事は、いつも、あなたは私と一緒にいてくださると言う事だと思います・・・・・・
いつも共にいると・・・・・。」
「お・・・ば・・・・さま・・・・。」
澪は涙にむせんで言葉にならなかった。
「島さん」
「はい」
「共に居ると言う事は幻でも何でもない、確かな存在だと・・・・・思います。始めは息子だと
思わせて頂いていました。でも、貴方は澪さんと一緒に居る生き生きとした姿を私に見せて
下さいました。あなたは私の息子ではない、島さんと言うかけがえのない一人の人、
私とふれあいを持って下さった一人の人です。」
大介はただ静かに夫人の瞳をみつめた。
「これから、何が出来るか解らないけれど、許される限り生きて、何かを成して行きたいと
思います。・・・・・・ありがとう・・・・・島さん、澪さん、本当にありがとう・・・・・。」
「僕達こそ、ありがとうございました。僕達こそ、あなたを忘れません。決して・・・・。」
「ええ、共に生きて行きましょう。島さん、澪さん。」
婦人は澪の手をそっと離した。
「おばさま、ありがとう、ありがとうございました。」
三人は肩をいだきあった。


「島さん・・・・・また、会う事が有るかしら・・・・・会えるかしら・・・・。」
涙を抑えながらそう言う澪の肩を大介は、ぎゅっと抱きしめた。
「会えるかもしれない、でも、もしも、会えなくても、あの人と僕達は共に生きて行くんだ
この地球と言う星の中で・・・・・。」
「大介さん・・・・・。」
澪は涙をぬぐいながら夫の名を呼んだ。
大介は、うん、うん、とうなずいた。
人が行きかう広いロビーの中で二人は固く手を結んでいた。






挑戦、第二段「そら(宇宙)の絆」

2008-08-29 22:08:55 | 小編(小説)
思ったよりも早く次の、お噺を書く事ができました。
これは島大介君が真田澪と結婚してからのお噺です。
島さんファンの方々は「テレサ」と言う女性とのエピソードを
とても大事にしておられる方々が多く私が作った設定に不満を
感じられるかもしれないと申し訳なく思っております。
私は宇宙戦艦ヤマトは第一シリーズしか見ておらず、
「テレサ」というキャラクターの存在を知ったのは、ごく
最近でした。なので、これは、テレサと島君の恋愛を決して無にする物では、なく
あくまでも、私の中で生まれた、物語として受け止めて頂けましたら
感謝に思います。
未熟な物語ですが、お読み頂けましたら幸いに思います。







澪が朝食の後片付けをしているとキッチンの簡易テレビから
ニュースが流れた。

「昨日ハイジャックに遭った輸送艦・冬月・ですが、犯人逮捕後の今日
実況見分が行われる予定になっており・・・・。」
ハイジャックと言う言葉が澪の心を曇らせた。

「じゃ、澪、行ってくるよ」
パイロットジャケットを羽織ながら大介が澪に声をかけた。
澪は大介の見送りのために急いでぬれた手をタオルで拭く。
「今回はちょっと長くなるけど澪、留守を宜しく頼んだよ。」
「ええ・・・・・。」澪は微笑んで見せた。
「じゃあ」と大介が背を向けると澪は思わず、その背にしがみついた。
『澪・・・・・』ハイジャックの事件の事は当然大介の知るところだった。
直ぐに澪が何を心配しているかを察した。
大介は澪の方に向き直り肩に手を置くと笑顔で言った。
「澪、今回の鳥海(輸送艦の名)の護衛をしてくれるのは古代なんだよ
何も心配いらないよ。」
「そう、そうよね、」澪は自分に言い聞かせるように大介の目を見詰めた。
「帰ったら、また、何処か美味しいところで食事でもしよう。」
大介は澪の額に軽くキスした。
「うん、楽しみにしてるわね。」笑顔を大介に向けた。



子供達の明るい声に包まれて澪の今日の仕事は始まっていた。
保育園の、その子達は皆、元気一杯だった。
『今日、大介さんに心配させたわよね・・・・私・・・・。』
砂場で子供の相手をしながら、つい、今朝の出来事に考えが行ってしまう。
そんな澪の背中に一人の女の子が抱きついてきた。
「みお、せんせい~あのね~パパねえ~きょう、しけん、なんだって」
澪は気を取り直しながら背の子供に手を回した。
「しけん?しけんって、なんのしけんなの?」
優しく聞くと子供は得意そうに言った。
「パイロットのしけんなんだって、パパお空を飛びたいんだって」
「まあ、すごいわねえ~!」と澪が感嘆してみせると子供は益々得意そうになった。
「大きい船にのって、とお~くまでいくんだって、パパしけん終わったら
あたし達をお空につれていってくれるんだよ!約束したんだあ~!」
「ええ!ほんとう!楽しみね~!」
子供は澪の反応が嬉しいらしく強く抱きついて言った。
「パパ、お空だいすきなんだよ!」
こどもの、はじけるような、その言葉に澪はハッとした。
『大介さんも空を愛している・・・・・・。』
空を見上げた。
『大介さん、ごめんなさい。』
「パパきっと、しけん大丈夫だよね!」
子供を抱き返しながら言った。
「うん!大丈夫!」



大介は操艦しながら澪の様子を思い返していた。
不安げな瞳が頭をよぎる。           
『澪、君の強さを信じているよ。』
自分に言い聞かせるように思っていると
護衛艦からの定時報告が入った。
「島、鳥海の現在の予定に狂いはないか?」
「古代護衛艦艦長、現在、鳥海は予定通りの航路を巡航中、全艦
以上無し。」
「了解!」
「いや~島、新造艦、鳥海はどうだい?」
古代が親友の顔になって聞いてきた。
「うん!いい艦だよ。これだから操艦はやめられな・・・・。」
そこまで言った時、澪の顔が浮かんだ。
「なんだ?どうかしたか?」
古代の不振そうな顔が通信画面に映し出されていた。
「い、いや、何でもないんだ。」平静さを知らない内に装っていた。


自動操縦の合間、古代から大介に通信が入っていた。
「おい、島、お前ナンか余計な事、考えながら操艦してないだろうな!」
大介はぎくりとした。
「何年、お前とつるんでると思ってるんだ!俺をなめるなよ!」
「す、すまん・・・・古代。」古代の洞察力に敵わないと認めるしかなかった。
「何が有ったのかは、知らんが、そんな、お前のままじゃ、護衛
しきれんからな!」
厳しい古代の顔が通信画面から消えた。
『何やってるんだ俺・・・・・』
大介は頭を抱えた。


就寝時間になった大介は仮眠を取っていた。
ぼんやりと、夢を見ている自分が居た。
澪が自分に微笑みかけながら言った。
『大介さん、私、信じて待ってるから、大丈夫よ・・・・。』
「う・・・・ん・・・・みお・・・・。」
自分の声に起こされた。
ぼっとしながらベットから起き上がった。
「は~全く、しょうがないな、俺、確かにこれじゃ、古代に
どやされても・・・・・。」そんな風に思っている、その時、ハッと閃く物が有った。
大介は上着を手にすると部屋から駆け出して行った。

艦橋の扉が開く音に当直スタッフの相原が振り向いた。
「あれ?島艦長、どうしたんですか?まだ就寝時間なんじゃ・・・・。」
勢い込んでいる様子の大介をからかう様に言った。
「はは~ん、澪さんの夢でも見ましたか?それで眠れなくなって来たんじゃ
ないですか?」
そんな相原に「その通りだ。」と真顔で答えた。
相原の方が顔を赤くしてしまう。
「いい、勘だな、相原、その良い勘、見込んで頼みがある!
これから俺の言う事、やってみてくれないか!」
「は、はい」と返事するしか無かった。


「う~ん、島さん、考えすぎだと思いますけど・・・・もう二十分も検索続けてますよ」
官製データを映し出す画面を見入りながら言った。
「俺もそうはおもうんだが、どうも、気になってね・・・・。」
相原がため息をついた、その時、ピーという警報音が鳴った。
「ああ!!有った!ありましたよ!島艦長!」
大介は身を乗り出した。
「これ!ニアミスです!」
相原が詳しいデータを慌てて呼び出す。
「艦長!グローバルと言う百人乗り民間機と、この鳥海が明後日同じ航路を
トレースしてます!」
相原はせわしくキーを叩く。
「ちょっと待って下さいよ!鳥海のワープ予定地点で丁度シンクロしてます!」
「良し!解った!相原、至急、本部管制室にアクセスして伝えてくれ!俺は
護衛艦に、この事を伝える!」
「解りました!」

「ナンだって!?ニアミス?ホントなのか島、」
護衛艦との通信画面の向こうで古代が緊張した様子を見せた。
「今、相原が確認してくれてる。」
そう言うと同時に相原の声が飛んだ。
「島艦長、確かにニアミスである事が今確認されました!」
大介は管制官に開かれている通信画面の前に立った。
「輸送艦、鳥海、島艦長、管制室でニアミス確認。直ちに修正を
行いますので、鳥海は予定通りの航路を航行し続けて下さい!
申し訳ありませんでした!発見を感謝します!」
「了解、鳥海は予定の航路を変更無しで続けます。宜しく!」
管制官との、やり取りを聞いていた古代が憤懣やるかたないといった
様子で言った。
「まったく!冗談じゃないぜ!信じられん!」
そんな古代に諭すように言う。
「いや~この時点で発見出来たのはホントにラッキーだったよ。大惨事になるとこだった。」
額をぬぐいながらそういう大介に
「でも、こんな事、よく解ったな、島。凄いな・・・・・。」と感嘆して見せた。
「いや~ついこの前、訓練校の教鞭でー航路過密時に置ける傾向と対策ーなんて、やった
ばかりだったから思いついただけなんだ。」
にこりと笑う大介を見た古代が言った。
「冷静な輸送艦、艦長とのコンビで安心した。」
画面に向かってウインクをして見せた。
「護衛艦、八島は引き続き鳥海の護衛任務に当たる。以上、通信を終わる。」
消えた画面を見て大介と相原は笑顔をかわした。
『澪・・・・君に助けられたんだな、・・・・・ありがとう・・・・・。』



「大介さん、お帰りなさい。」
「ただいま、澪」
二人は愛情を込めてハグした。
澪の明るい顔に大介は安堵していた。
「大介さん、私ね、園の子供に大事な事教えられたの。」
「え?子供に?どんな事?」
満面の笑みで言った。
「信じるって事。」
しばし、見詰め合う。
「そうか・・・・。」
大介は静かな微笑みを浮かべた。
『澪、僕も、同じだ。』
そら(宇宙空間)で遭った事を妻に伝えようと思った大介だった。