JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
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アリシア 5

2007-09-01 02:01:31 | ノンジャンル
 その日はなにかが違っていた。
 吐く息をも凍らせる大気も、凍て付いた大地も変わらない。
 だが、なにかが違う。
 しいて言えば、師を前にしたときの緊張感。
 緋色の髪と、宝石のような紅い眸を持った美しい人――。

 だが、氷河は白鳥星座の聖闘士としての称号を手に入れて以来、師と会うことはなかった。
 本来なら氷河が授かった白鳥星座の聖衣を授かるのは別の人物であった。
 その男は師と同等に強靭な身体能力と精神を持った、限りない優しさを秘めた男であった。
 母を亡くし、肉親すべてを信じられない氷河に、真の友情と強さを教えてくれたアイザックは氷河の為に、今だにこの冷たい深海を彷徨っている。
 敵にも己にも常にクールに徹するように指導されていたのにも拘らず、氷河は母への思慕を断ち切ることができなかった。
 師は、甘さを断ち切ることのできぬ弟子に聖闘士としての称号は与えたが、聖闘士の証の聖衣は、与えようとはしなかった。
 氷河が聖闘士になったのは女神を護るためではない。母の亡骸を、身も凍る海底から引き上げるためだ。
 氷河は聖闘士としての力を、亡き母のみに捧げることしか考えてはいなかった。
 師は氷河の心を見抜き、氷河に聖衣は与えなかった。
 だが、日本で開催された「銀河聖戦」に聖域は激怒し、師は肉親への情を断ち切る最後の機会を、氷河に聖衣を与え日本へ向かわせることで与えてくれた。
 その機会を、氷河は生かすことができなかった。
 氷河は決して肉親の情に負け、白銀聖闘士を討ったのではなかった。
「氷河」
 木戸を開き入ってきたヤコフの呼びかけに、氷河は我に返った。
「町まで買い物に行くのに付き合っておくれよ」
 ヤコフは氷河のコートの裾を掴んだ。
 ヤコフは東シベリアの定住民の子供であった。師はこの極寒の定住民族を、害獣や災厄から護っていた。
 ヤコフは師にもアイザックにも、氷河にも懐いていた。
「解った、今日は小麦粉か」
 日常品を売る町から、はこの集落は遠い。馬車を使っても、幼いヤコフには買い物は危険と隣り合わせの困難な仕事だ。
「それと、ウォッカに野菜」
 遠い道のりを馬車で氷河と買い物に出れることを、ヤコフは喜んでいた。
「それは大変だな」
 氷河はヤコフの髪を撫でた。
 聖闘士として身につけた力ではあるが氷河はこの極寒の地で母の眠りと、このあどけない笑顔を護りながら生きてゆこうと心に誓っていた。

「続く」

 ちょっと開いてしまいました。
 毎回見に来てくださる方々、ありがとうございます。
 もっと、ちゃっちゃと書けたらいいですね(汗)
 

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