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天使の囀り/貴志祐介

2013-06-23 18:48:31 | 日記
今回は引用部分は割愛。内容があまりにもショッキングだったので、直接レビューに入りたいと思います。

以下ネタバレ。

読み終わった今も、心臓が脈打っています。久々に真の怖さに触れた感じ。いやぁ~、怖いですね、これは。おぞましい。現実に存在しないことを祈るばかりです。

恐怖が快楽に変わるー なんて恐ろしいんでしょうか。第三段階まででも十分恐ろしいのですが、極めつけは第四段階。確かに第三段階までいったとしても、全員が自殺するのはおかしい。恐怖の対象が快楽に変わったからといって、それゆえに死ぬわけではない。快楽には逆らえないが、抑制する理性が人間には備わっているからだ。蜷川の台詞には説得力がありました。しかし、続く第四段階の絶望。大浴場のシーンの異様さは類を見ないものがあります。早苗が表していた通り、あれは死よりも遥かに恐ろしい。もはや自分の意思では死ぬことすらできない、線虫によって生き永らえている、人間でもない"何か"に変異してしまうー

私が気になったのは、線虫の力が及ぶ範囲。線虫に意思はあるのか?線虫は人を操るほどの能力があるのか?線虫に感染してしまった人々は、いつから線虫に操られているのか?彼らが発する言葉は全て線虫によるものなのか?最後少年に感染した時、なぜ線虫は少年を操ろうとしなかったのか?(少年の寿命が尽きる間際だったからといって、線虫は寄生主が死ぬことが分かればなんらかの手段を講じるはず。線虫は寿命には抗えないのか?)また、線虫とは少し話がずれてしまいますが、"天使の囀り"とは一体なんだったのか?なぜ天使が羽ばたく音が聞こえるのか?疑問は数々と浮かぶが、だからといってこの本の価値が損なわれるわけではない。存在しない現象について具体的に書こうとする作者の姿が窺えたので満足。

自分だったら何だろう。最もたる恐怖の対象。そこから自らの死に方まで予測すると身震いしてしまいます。自分は第三段階までの間に自殺するのだろうか、それとも第四段階までいって変異した"何か"になってしまうのかー ああ、どうかこれが現実で起きないように… 貴志祐介さんの話は現実味が伴っていて怖いんですよね。学者の名前がたくさん出てくるので、どこからどこまでが創作なのか、分からなくなってしまうんです。読了後の怖さはここからも来るんですね。

『十三番目の人格 ISOLA』を思い出す節がありました。愛する人が死んでしまう。早苗の場合は、二人も。それにしても貴志祐介さん、容赦なく殺しますよね~。そんなところが好きなんですが。そして女性より男性の方が死亡率が圧倒的に高い。加えて生き残る女性は芯が強く、それゆえに誰かを"守ってあげたい"思いも強い。で、そんな彼女たちはみんな美人(笑)

実は本作品、以前読もうと試みたのですが、冒頭高梨から早苗宛に送られるメールがやや難しかったため、途中断念してしまいました。かなりのブランクを経て、再び読むことにしたのです。結果、読んで良かったと思える作品でした。読み終わった後に残る(良い意味での)後味の悪さはなかなかのものです。

読んだ後はぜひ、線虫に侵された自らの死に方について考えてみてください。

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