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横道世之介/吉田修一

2014-04-26 23:15:01 | 日記
大切に育てるということは「大切なもの」を与えてやるのではなく、その「大切なもの」を失った時にどうやってそれを乗り越えるのか、その強さを教えてやることなのではないかと思う。

横道世之介/吉田修一 -二月 バレンタインデー-

ここのところ本は読んでいるのですが、感想を文字におこせていません。今回時間の都合がついたため、久々の更新。

以下ネタバレ。

あたたかい涙がこぼれる作品です。うん、こういう話、好き。

最後の手紙にはやられます。ベタなのかもしれない、でも感動してしまいます。世之介という人物を愛してしまったからには、もうだめなんです。いつの間にか世之介の人柄に魅入られてしまったから。

この儚さがいい。祥子さんと世之介が写真を渡さず別れてしまっていることがいい。その写真を見て何も思い出さないことがいい。別れた理由が書かれていないのもいい。

世之介と関わった人が、世之介を忘れてしまっていることがいい。顔も名前も思い出さない、死んだことすら分からないで生きている人ばかり。でもそれがいい。人と人との繋がりの希薄さ。世の中なんてそんなもの。だからこそ。

この本には大学一年間のことしか書かれていません。ほんの短い期間を共にした彼ら彼女らが、何十年も先に世之介のことを覚えていろという方が無理なこと。けれど読者には分かります。伝わるんです、大学一年間を見ただけで。どうして世之介が線路に飛び込んだのか。

人は変わります。倉持と唯ちゃんはこれからどうなるのか分からないし、千春や祥子さんは世之介が大学生の頃からは想像もつかない位違う未来を生きていた。けれど世之介の人柄は変わらなかった。変わっていくばかりの世界で、あなたは変わらずに生きていた。

私はあなたのこと、大学の一年間しか知りません。でもあなたがカメラマンとして生きた20年間を思い描くことができます。そんなあなたの人生を、もう少し見ていたかった。その先を、願いたかった。

世之介のお母さん、私も世之介を誇りに思います。「ダメだ、助けられない。」ではなくて、「大丈夫、助けられる」と思った世之介を、誇りに思うんです。きっとこの本を読んだみんながそう思ってる。

お母さん、祥子さん、私も世之介の思い出話に混ぜてください。私たち読者しか知らない世之介の思い出話、いっぱいあると思うんです。

最後あとがきがないのも良かった。余韻溢れる一冊です。

ところで、加藤の現代の話が印象的だった。同性の好きな人の母親に「早く結婚しろっていつも言ってるのよ」と言われる気持ち。このシーンは胸が締め付けられる。倉持と唯ちゃんの現代の話も衝撃的だった。いつまで我慢すればいい?という台詞には脱帽した。これからどうなってしまうんだろう。

しかし、すべての人に希望がある終わりを見出さなかったところがやはり良い。当たり前のことだが、みんながみんな幸せに生きているわけではないのだ。青春の無邪気さとのギャップもなかなかぐっとくる。

最近は角田光代さんの「私の中の彼女」と「八日目の蝉」を読了しました。どちらもお気に入りの作品なのでいつか文字として残したいです。
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