鑑賞日時:9/23(月)
映画館:Morc阿佐ヶ谷
『異国』ではなくて『違国』。
違国とは?
そして日記。
今年6月公開当時、瀬田なつき監督と新垣結衣ということと作品タイトルに惹かれて観ようと思っていたのだがその前に漫画原作の評判を聞いて無料配信があることを知り、時間があるときに読んでみたらこれが驚いた。槙生と朝の関係性になんと深みがあることか。深みというのは朝のモノローグの言葉と槙生が発する言葉の豊潤さ。さらに言葉がない一コマ一コマにも絵の明暗から伝わる心理描写の臨場感。槙生という人物が大変魅力的なキャラクターなのだ。心に刺さることばかりであった。封切してから3か月。実写化作品をようやく映画館で鑑賞した。
「あなたを愛せるかどうかはわからない」。両親を亡くし孤児となってしまった中学3年生の朝(早瀬憩)に対して放つ言葉は厳しいが、自ら勢いのままで引き取ることになった小説家の槙生(新垣結衣)。朝は亡くした母親の妹である槙生と一緒に暮らす。槙生は朝の母親とは全く違う性格(朝に言わせれば変な人)。
面白いのは槙生が朝の母親である実姉を心底憎んでいるという理由が最後まで明確に明かされないことだ。理由が明かされないのは漫画原作も同様であることを強調したい。脚本も手掛けた瀬田なつき監督は原作を忠実に再現している。映像作品全体に一貫して静かに流れていて安定している。私が思うに、実はもともと憎しみの根拠自体はあやふやなものなのではないか?朝と一緒に居続けることでその嫌いなことも徐々にぶれてきていることだけは明確だろう。
ここで私が注目したい視点は槙生と朝の最たる違いが、言動とか性格とかではなく見た目の背の高さではないだろうか?新垣結衣は公称では身長169センチ。約170センチの長身である。ラスト近くで朝の両親が亡くなった事故現場に朝が花束を置いた直後に泣いてしまう場面がある。泣いている朝の隣で無言で佇む槙生の顔は朝に比べて過剰に長身のため鼻先から上が画面から切れてしまって視線は映し出されない。やがて切り替わったショットでようやく朝の頭を抱えて髪をなでている槙生の視線が映るが涙はない。ここの新垣結衣の表情がすばらしい。狙ったショットに二人の心情が見事に生きている。まさに"違国"を表現した優れた場面ではないだろうか。私が一番感動した場面だ。
本当は細部で3時間くらい語りたい今年好きなベストになりそうな作品であり、観て良かったといまだに余韻に浸っている有様である。