転倒。86歳。
一人息子と、嫁に囲まれ、
毎日を過ごす日々。
息を吸い、息を吐く。
ただそれだけの毎日。
散歩が日課。
でも散歩でこけて右肩受傷。
痛くてたまらないその右肩を
かばうようにして歩く姿を見て、
なんとも言えない感情が胸をよぎる。
心の中で何かが音を立てる。
“治したい”
耳のすぐ近くで誰かがつぶやく。
きっとそれは私自身で。
初めに、
私の手の感覚をばあちゃんに伝える。
優しく触り、
手のひら全てをさらけ出し、
自分の
想いを伝えようと必死に触れる。
少しこわばったばあちゃんの肩の筋肉がゆるむ。
だから、嬉しい。
第一関門突破。的な?
ばあちゃんの右肩は、
私に触れられることを認識し、
記憶しながら感じる。
不快か・・・快か・・・
最後に右肩の筋肉が答えをくれる。
そう信じているから、
最初から最後まで絶対気を抜けない。
ばあちゃんが、痛みにこらえる表情から、
ふと変わる瞬間があった。
ばあちゃんは話し出す。
『わたしゅいね~。こけたくてこけたんやないんでしゅ。
せやのに、ひど~おこられましてん。
なんでなんにもないところでこけたんでしゅか~!って。
ふるえあがりましゅいたわ~。』
と。
あら~…と思いながら息子さんの姿を思い浮かべた。
『誰にそんなひどいこと言われたん?』
そう問う私に、
ばあちゃんは肩をすくめてこういう。
『ひゃひゃひゃ。。。』
かすれるような笑い声、
いきなり胸を張って眼を見開いて、
『そりゃ~誰にもいえましぇん。』
と。
なんとなくわかった気がした。
それは・・・息子では・・・ないな??
『ええひとなんでしゅけどね~。
かわっておるひとなんでしゅ。』
と、また背中を丸め、
いつもの口調でそう言った。
ばあちゃんの横顔がリアルだった。
嫁姑。
怖いけど、人ごとならおもしろい。
45度しか挙がらなかった腕が、
95度まで挙がった。
痛みのない関節の動きにばあちゃんは満足した。
『ひゃひゃひゃ・・・
またおねがいしましゅね。』
低いところから見上げながら、
ばあちゃんは私にそう言う。
『はい。』
と答えた。
どうせなら?甘え上手な嫁になりたい。
どうせなら?甘え上手な姑になりたい。
ひゃひゃひゃ。
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