歯科医と劇作家、「二足のわらじ」で生む戯曲とは
河合穂高(34)さんは劇作家の顔を持つ歯科医師だ。本職は口腔(こうくう)がんを専門とする岡山大医歯薬学総合研究科の助教。これまでに手がけた戯曲で上演にこぎ着けたのは約20本に上る。上演が1時間半にも及ぶ作品もある。
神戸市出身。幼い頃から劇づくりや絵本創作が好きだった。中学から高校にかけても文化祭で上演される演劇の脚本を手がけるなどして、卒業後はその道を志そうとも考えた。
そのとき頭をよぎったのは、抽象画家の母・美和さん(61)が繰り返してきた言葉だ。「芸術で生活していくのは難しい」
歯科医師の家系で、親類には昆虫や猿の研究者、医者が多かった。人間の体に関わる職業に就きたい、という思いも自然と芽生えた。歯科医師の父は本格的な登山家でもある。自分も二足のわらじをはこう。道を定め、岡山大歯学部に進んで演劇部に入った。
研究で多忙な中、執筆は2人の幼い子が寝静まった夜に始める。12月4、5両日に岡山市の県天神山文化プラザで上演予定のSFミステリー「春の遺伝子」を着想したのは、2018年、JR山陽線での通勤中。窓からの風景に、人々が強制移住させられた世界を思った。
岡山が原発事故で帰還困難区域となったという設定で、記憶を失った男が保護される。同時期にこの男と同じ遺伝子情報を持つ死体が見つかった。iPS細胞を利用して生まれた動物が物語のカギを握り、男の正体を探るために遺伝子解析も行われる。これらに研究者としての知識も採り入れたという。
「研究と創作は自分の両輪。両方をバランスよく全力で回す」。そんな理想に近づいている。(菅野みゆき)
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