武本睦子あっちこっちポルトガル

ポルトガルあっちぶらこっちぶら報告です。

どんどん伸びる不思議なキャベツ

2012-12-07 | 各国いまどき報告


もしあなたがポルトガルを旅していると、田舎を走るバスや汽車の窓から、または町なかの庭の片隅に不思議な野菜を見かけることでしょう。
私も初めてポルトガルを旅した時、畑の縁や庭のすみっこや鉄道の線路脇など、ほんのわずかな土地にでも植えてある変な植物を見て、首を傾げたものです。


9月のコーヴ・グレガはすっかり伸びきっている。

それは1メーター以上にも高く伸びた棒状の茎で、てっぺんに広い葉っぱを数枚つけた、なんだかこっけいな姿でした。
棒状の茎には葉っぱをもいだ跡が段々に残っています。
最初見かけた時は、それが食べられる野菜であり、しかもキャベツの一種だとは知りませんでした。


花が咲いたコーヴ・グレガ。奥ではコーヴ・ポルトゲーサが育っている。


その後、ポルトガルに住み始めてメルカド(市場)の野菜売場に何回か行くうちに、見るからに硬そうな緑の葉っぱが束ねてあるのに気がつきました。
旅の途中で何度も見た棒状の変な野菜の葉っぱにそっくりです。
触るとゴアゴアと硬く、まるで観葉植物のようです。
常連客が次々と来て葉っぱの束を品定めしながら買っていきます。
店の人に「これはどういうふうに食べるのですか?」と尋ねると、「細かく刻んでソッパ(スープ)に入れたら美味しいよ」ということでした。


メルカドの棚にネギと一緒に並んだコーヴ・グレガ


日本では見たこともない野菜です。ひと束買うととても使い切れないので、どうしようかな?とためらっていると、「ここに刻んだのもあるよ」と横の棚を指差しました。 機械で細く刻んだものを測り売りしているのです。
「バタータ(じゃがいも)とセボーラ(玉ねぎ)とアホ(ニンニク)とこれを一緒にぐつぐつと煮込んだら、カルド・ヴェルデ(緑のスープ)ができるよ」
そうか、カルド・ヴェルデに入っていた菜っ葉はこれなのだ~とその時初めて知りました。


機械で細く刻んだコーヴ・グレガ


最近になって日本の健康食の本を開いていたら、「青汁」の材料「ケール」の写真が載っていました。
ケールはおおきくわけて、ツリーケール(背が高い)、パセリのような葉のちぢみケール、そして背の低いポルトガルケールと3種類あるそうです。
この3種類ともポルトガルで見かけます。
ちぢみケールはあまり見ませんが、あとのふたつはメルカドで売っています。
私はそのどちらもコーヴ・ポルトゲーサ、つまりポルトガルキャベツだと思っていました。
背の低いのがどんどん伸びてツリーケールになるのだろうと今日まで信じていたのですが、違う種類なのです。


これがコーヴ・ポルトゲーサ

背の低いのがポルトガルキャベツで、ということはポルトガル生まれ、じゃこのツリーケールは何というのかと友だちに尋ねたら、「コーヴ・グレガ」というらしいです。「グレガ」は辞書を引くと「ギリシャ」と言う意味があるので、「ギリシャ生まれのキャベツ」でしょうか? 
どっちにしても健康食品のケールです。
ポルトガル人は昔から健康に良い物を食べているのですね。

ポルトガルはソッパが美味しいので、私たちはレストランに行くとまずソッパを食べます。
数あるソッパの中でも「カルド・ヴェルデ」は素朴で飽きのこない基本的なソッパです。


カルド・ヴェルデ(緑のスープ)

そのヴェルデ(緑)の材料であるコーヴ・グレガはどんな場所でもすくすく育つ、とてもタフな野菜です。
作ろうと思えば植木鉢でも育つのではないでしょうか。
4人前のカルド・ヴェルデを作るのに葉っぱがせいぜい1枚か2枚あれば充分。
だから家庭では雨の多い冬の間に庭の隅に数本の苗を植えて、ソッパを作るたびに必要なだけの葉っぱをもいで使うのです。

コーヴ・グレガは育つたびに葉っぱを取られるので、茎は棒のようになり、それでもぐんぐん伸びて、春になると先の方がいくつもに枝分かれして白い小さな花が咲きます。
それはキャベツの花や大根の花に似ています。
その花も束にして売っていて、ソッパに入れたり煮物にそえたりします。
茎以外はほとんど食べられるとても重宝な野菜です。

6月から8月の間は全くといっていいほど雨が降らず、焦げるように強い太陽にさらされる過酷な気候ですが、それにもけなげに耐えて枯れることなく、栄養たっぷりの緑の葉っぱを提供してくれます。
焼きたてのどっしりパンとカルド・ヴェルデ、少しのチーズとチョリソ、そして赤ワイン。これだけあれば充分です。

別な種類の、背の低いコーヴ・ポルトゲーサを使ったものに「コジード・ア・ポルトゲーサ」(ポルトガル煮込み)という料理があります。
代表的な煮込み料理で、豚足と豚の耳、数種類のチョリソ、鶏肉、じゃがいも、ニンジン、カブやキャベツ、豆などとコーヴ・ポルトゲーサの葉っぱを数枚、これらを一緒にぐつぐつと煮込んであります。


コジード・ア・ポルトゲーサ(ポルトガル煮込み)を作ってみました。


伝統的な料理だし、それを手軽に作りたい人のために、スーパーの棚には豚足や豚の耳と数種類のチョリソなどをセットにして売っています。
また、レストランでは毎週木曜日に「コジード・ア・ポルトゲーサ」を出す店も多いです。
肉類もゴアゴアしたコーヴ・ポルトゲーサや他の野菜もふっくらと柔らかく、とろけるような味わいです。

ポルトガル人は健康食品「青汁」の材料ケールを日常の食事でなにげなく食べているのですね。
「どんどん伸びる不思議な野菜」は内側に不思議なパワーを秘めているのです。