ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

016. ソッカ、クレープ、パンコッカー

2018-11-02 | エッセイ
 

ソッカ、クレープ、パンコッカー
この三つには共通点があります。
どれも材料は粉。
粉を溶いて鉄板などで焼いて食べます。

ソッカはフランスのニースの名物。
頭の尖がった豆、(ポルトガルではビコという名前、日本ではヒヨコ豆と訳されている)
その豆を粉に引いて水で溶いたのを巨大で丸い平らな銅板に薄く伸ばしてパリッと焼いたものです。

ニースの旧市街は細い路地の入り組んだ迷路のようになっていて、土産物屋や小さなレストランなどがひしめきあっています。
そうした一角にひときわ行列のできているソッカ屋を見つけました。

行列に並んでいる間に、店のショウケースに置いてある小皿の中から気にいったのを選んで注文。
私たちはサラダや小魚の唐揚げをたのみました。
やっと私たちの順番が来て行列の先頭に着くと、目の前で店のおかみさんがふうふういいながら、ソッカを四等分しています。
奥では若い男が巨大な銅鍋で次々とソッカを焼き、焼きあがった熱々をおかみさんの所へ運んできます。
私たちは受け取った熱々のソッカと小魚の唐揚げにサラダを持って空いたテーブル席へ。
この店は長い行列ができるほどお客さんが多いのですが、なにしろ簡単な料理なので食べる時間も短く、空席がすぐにできます。
さて、席に着くともう一仕事。
たえずクルクルと忙しそうに走り回っているウェイターをつかまえて、飲物を注文です。
よく冷えたビールと熱々のソッカと小魚の唐揚げ。
昼食にはもってこいです。
なんとなくアラブ的な食べ物です。

フランスの北西部、ブリュターニュ地方の名物は生牡蠣とシードル(リンゴ酒)とそば粉のクレープです。
海からの強風が吹き荒れる気候の厳しい地方で、
小麦はあまりできず、育つのは蕎麦ぐらいだったと聞きます。
そのせいで蕎麦粉の入ったクレープがパンの替わりになり、ブリュターニュ地方の名物になっています。

今回旅したブリュターニュの町や村にはクレープ専門のレストランはもちろんですが、クレープを製造販売している小さな店が必ず一軒はありました。
6枚とか12枚とかの単位で販売していて、食事時には近所の人たちが買いに来ているのを見かけました。

キャンペールでは美術館が開くのが10時からなので、その時間を利用して市場を見に行きました。
まだ朝8時前なので市場の店は準備中の所が多く、魚や野菜、それにお惣菜などを並べるのに忙しそう。
そんなに大きな市場でもないのに、クレープ屋さんが三軒もあるのには驚きました。
パン屋さんはどこにあるのか目につかなかったほどです。
クレープ屋の二軒はまだ準備中で、一軒だけがクレープを焼き始めていました。
孫の数人もいそうな年配の上品な感じのおかみさんが、一人でてきぱきと仕事をしています。

隣に店を出している人の注文らしく、焼き上がったらさっそく受け取りにきました。
次に私たちも注文。
ニースのソッカを焼くのは巨大で平らな丸い銅板ですが、キャンペールのクレープは備え付けの丸い鉄板で、サイズは4分の1ほどでしょうか。
傍らには薄く溶いた粉が二種類、ステンレスのボールに入っています。
普通の白い小麦粉を溶いたものと、もうひとつは薄茶色。
それがたぶん蕎麦粉の入ったものです。
蕎麦粉入りを注文すると、おかみさんは鉄板の上にたらたらと垂らし、T字型の小さな棒で全体に薄く伸ばしました。
見る間にパリッとしたクレープの出来上がり。
それにジャンボン(ハム)とカマンベールを別々に挟んでもらいました。

ホテルで朝食をたっぷり取った直ぐあとなのに、熱々のクレープがすっすと入ります。
その朝は公園のベンチに薄っすらと霜が降りて、花壇の土には霜柱が立っている寒い朝でした。
ポルトガルの、私たちが住んでいる町では絶対に見られない霜と霜柱に驚き、感激です。
そんな中を熱々のクレープをほうばりながら歩き回りました。

パンコッカーはスウェーデンの食べ物で、パンケーキのことです。
これは小麦粉を水で溶かしたもので、最初小さ目のフライパンに入れて焼き、片面が焼けると鉄板の上に乗せてもう一方の面を焼きます。
焼きあがったパンコッカーを二枚ほど皿に盛り、その上にカリカリに焼いたベーコンを乗せ、リンゴンジャムを添えてできあがり。
リンゴンジャムはコケモモの実のジャムで、甘酸っぱい味です。
それをパンコッカーに塗りながら、時々カリカリベーコンを食べて、ちょっと変な組み合わせの料理です。

ポルトガルでこうした粉を溶いて鉄板で焼く料理はあるのかな…、思い当たりません。
あ、でも粉を溶いて…油であげるフォルチューラスというのはあります。

町角ではほとんど見かけませんが、露店市には何軒ものフォルチューラス屋が出ています。
沸々とたぎる油鍋の中に、溶いた小麦粉を入れた大きな注射器みたいなものを全身で抱えて搾り出し、巨大な蚊取り線香のような渦巻きを作ってジュワジュワとあげます。
やがてこんがりとあがった巨大ドーナツを引きあげる。ここまでは体力がいるので男性の仕事。
それをハサミでチョキンチョキンと三十センチぐらいに切っていくのは女性の仕事。
そして全体に砂糖をまぶしてできあがり。
熱々のフォルチューラスを片手に持って、食べながら露店市をぶらつくのは日曜日の楽しみです。
MUZ

©2003,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい。

 

(この文は2003年12月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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