ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

148. セトゥーバルは砂煙の中

2018-10-01 | 風物

町じゅうの道路が掘り起こされて、駐車スペースと歩道を作っている。しかもあっちもこっちも同時多発でやっている。

我が家から見える青い家の前は、去年、道路の真ん中のスペースに石畳を敷き、その両側に横断歩道を作ったばかり。そのスペースに青い家とその両隣の住民が自分たちのクルマを置き、横断歩道を渡ってゴミ箱に通っていた。ゴミ箱の横には粗大ごみが捨ててあり、二人の男がいつもなにかお宝はないかと点検していた。ところがそのスペースが道路工事の資材置き場になって、工事の石材がうず高く積まれている。そこへ小さなショベルカーが石材を取りにきて、そのたびにもうもうと砂煙をまき散らす。青い家と両隣は塀や屋根もほこりをかぶり、真っ白になってしまった。洗濯物を干すと砂ほこりをかぶってしまうのは判っているだろうけれど、工事は何時までも続くようだから、仕方なく干している。気の毒だ。

いっぽう我が家のすぐ下の階の工事も果てしなく続いている。今年2月に一時帰国のため3か月ほど留守にした。ポルトガルに帰宅したら、まだ内装工事は終わっていなかった。

階下の工事は太った男が一人でやっているらしかった。一度階段で出会ったことがあるが、目のぎょろっとしたがっちりした体つきの男で、不愛想な感じだった。男は別な仕事の合間に階下にやって来て、コンコンガンガン、ギョウ~ンンと大騒音をまき散らす。

ある時、下を見ていると、階下の窓からもうもうと砂ほこりが出てきて、煙のように外に出て行った。騒音だけでなく砂ほこりも撒き散らしていたのだ。これでは我が家も洗濯物をうかうか干せない。

下の階には古くからF氏が住んでいた。

F氏は長いこと南アフリカで大学教授をしていたポルトガル人で、退官前にこのマンションを買ったらしい。退官後はセトゥーバルで暮らそうと思ってのことだが、退官してこの階下で暮らし始めてからも1年の半分くらいは御夫婦で南アフリカに行っていた。そして「南アフリカは美しい良いところだよ~」などと私たちにも語っていた。

私たちが住み始めたころは夫婦二人暮らしだったが、間もなく奥さんが病気で亡くなった。その後、一人暮らしのF氏は次々に女性が現れて、その中には明らかに娼婦も混じっていた。ある時、我が家のベルが鳴ったのでドアを開けると、中年の女性が立っていた。彼女もびっくりした様子で、驚いたことに片手を突き出した。とっさに物貰いを演じたのだった。F氏を訪ねてきたつもりが、階をまちがえたらしかった。

その後も付き合う女性が次々に替ったが、最後にかなり年寄りの女性が現れた。たぶん亭主が亡くなって遺産をどっさり受け継いだのではないかという様子の女性だった。セジンブラに住んでいるとのことで、しばらくしたらF氏もセジンブラに家を買ったと言って、姿を見なくなった。その後、何度か二人で来たのを見かけたことがある。でもF氏はみるみる身体が弱った様子で、階段の昇り降りもよろよろと危なっかしい様子だった。その後しばらくして、一階のマリアさんが、F氏が亡くなったと言っていた。

階下の部屋にはセジンブラの老女が太った女といっしょに来て家財道具を運び出していた。老女はF氏といた時と違って、シャキッとした感じでてきぱきと指図をしていて、見違えるようだった。

セジンブラといえば、S夫妻が20年以上住んでおられたが、お手伝いさんの親戚の男に家のリメイクを頼んだところ、前金を払ったのにもかかわらず工事はいっこうに進まない。何度も催促したあげく、男はもっとお金を払ってくれという。これにはあきれ果てて、ポルトガル人に不信感をいだき、急きょ日本に帰国されることになった。

階下で工事をしている男はセジンブラのS夫妻の工事人と同じ男のような気がする。なんの根拠もないが、工事のやり方や、あの老女の知り合いの男ということで、たぶんセジンブラの出身だろう。

ポルトガルでは、金持ち老人を狙った犯罪すれすれの行為が多いらしい。

金持ちの独身老人をターゲットに、中年の女性が近付いて、最終的に結婚をする。金持ち老人は高齢だから判断力も薄れ、後妻のいいなりに財産の贈与を承諾させられてしまう。気が付くと金持ち老人は丸裸にされて、何もかも後妻に盗られてしまっていた。という悲劇。

階下の場合は、F氏が老女の財産を手に入れようと近づいたのではないだろうか。しかし老女の方が一枚上手で、反対にF氏の財産を自分の物にしたのではないかという気がする。

砂けむりの舞い上がる町には、人間の欲望がたくさん渦巻いている。MUZ

 

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