まずはお久しぶりです。
そして今でも時々、このブログを見てもらってありがとうございます。
今回は、エヴァ漫画版の最終巻である、14巻の最後に載っていたEXTRASTAGE「夏色のエデン」の、感想と雑考です。
勿論ネタバレ有りなので、ご注意下さい。
時は1998年。
場所は京都大学内の、かつて冬月が教授として働いていた、形而上生物学第1研究室にて。
ミンミン蝉がよく鳴いている、ある夏の日。
そこには、研究室でヨダレを垂らしながら、幸せそうな顔をして眠っているユイと、その様子をじっと見ている、一人の女子大生が居ました。
(ヨダレ…)
その女子大生は、ユイの頬っぺたを軽くつねります。
それでも起きずに、そのまま眠り続けるユイ。
(幸せそうな顔しちゃって…)
(憎たらしい…)
と、ユイの寝顔を見ながら思う女子大生。
その女子大生に、別の女子大生が、
「ちょっと、あんた。
学長が呼んでるって」
と声を掛け、
「あ、はい」
と言って、ユイの元から女子大生は立ち去りました。
「ん…」
その後、目を覚ましたユイは、ぼーっとしたまま辺りを見て、
「あれ?
私のメガネ…」
と、自分のメガネが無くなっている事に気が付きます。
その頃、学長から呼び出された女子大生は、学長室で、学長と話し始めます。
「特別研修生?」
「イギリスのセントフォード大学のアレックス教授が、優秀な人材を集めている」
「条件が合えば、留学費用も全額免除だそうだ」
「君、確か歳は――」
「16です。
2年飛び級して入学したので」
「16か…。
だが君の成績なら申し分ないだろう」
「まあ、君が良ければの話だが」
と、どうやらイギリスの有名な大学に留学をしないか、という話だった様です。
その提案に、
「私より、もっと適した人材がいると思いますけど?」
と女子大生は言いました。
そして、
「…というと?」
と言う学長の言葉に対して、女子学生は視線を窓の外の、大学のキャンパス内の庭を歩いているユイに向け、
「碇ユイさんですよ」
「何故あの人を推薦しないんです?」
「私よりよほど、才能も実績もあるのに」
と言いました。
その言葉に学長は、
「碇くんか」
「彼女は特別だ」
「お国が放さんよ。
すでに政府直属の研究機関からも誘いがかかっている」
「無理だろう」
と言いました。
またこの時、庭を歩いていたユイは、どうやらゲンドウと待ち合わせをしていた様で、手を振りながらゲンドウと合流し、満面の笑顔を見せるユイ、そしてゲンドウ。
そして、その様子を気に入らなさそうな顔で見る、女子大生。
その後ゲンドウと別れた後に、ユイは女子大生と、学長が呼んでいると教えてくれた、恐らくユイの友達だと思われる女子大生と一緒に飲み物を買って、一休みしようとしていました。
そして、ユイが自動販売機で飲み物を買いましたが、
「あっ、間違えた。
オレンジ買おうと思ったのに」
「メガネ、まだ見つからないの?」
「うん。どっかで見なかった?」
「知らないわね-。
もう、いっそコンタクトにしちゃいなさいよ」
「せっかく美人なんだから」
と、どうやら未だにメガネが見つからずに、苦労している様でした。
「それにしても。
学部中の男は泣いてるわね」
「天下の碇ユイが選んだのが、あの六分儀ゲンドウだなんて」
と、話題はユイの彼氏である、ゲンドウに移った様です。
「かっこいいでしょ、ゲンドウくん」
と、笑顔で語るユイ。
それに友達は、
「…まあねえ。
あんたの目には、そう見えるんだ」
と言い、
「ものっすごい変人てウワサだよ」
「暗いし、何考えてるかわかんないし」
と言いました。
それに対して、ユイは不満そうな顔で、
「みんな、そう言うのよね」
「そんなことないのに」
と言い、ゲンドウと始めて会った時の事を語り始めました。
「始めて会ったのはね、学食なの」
「ゲンドウくんが私の前に並んでて」
「B定」
と、定食を頼むゲンドウに、
「あ!
私も」
と、ユイも言いますが、
「悪いねぇ。
定食、この人で終わり」
「え!?」
と、ゲンドウの分で、B定食は無くなった様です。
それでユイは子供の様に、軽く頬を膨らませながらゲンドウを見て、それを見たゲンドウは、
「取り替えてやるから。
そっちくれ」
と、仏頂面で、自分の分のB定食を譲りました。
「あ…。
ありがとうございます」
と、言うユイに、
「いいよ。
じゃあ」
と言って、ユイが座っているテーブルとは別の所に行こうとするゲンドウ。
そのゲンドウに、ユイは、
「あの…。
一緒に食べません?」
と言って、ゲンドウを誘います。
そのユイの提案に、
「え?」
と驚きながらも、
「イヤですか?」
「ひとりの方が好きなんでね」
と言って、別の場所に行こうとするゲンドウに、
「そんなこと言わずに――」
と、それでも諦めずに誘ってくるユイに対して、面倒臭そうな、迷惑そうな顔をするゲンドウ。
「マジでイヤそうだったなあ、あの時。
こっちもあの仏頂面、意地でも崩してやろうと思って」
「いろいろ話しかけてたら」
「やっと笑ってくれて」
「そしたら」
「かわいかったの」
「すごく」
そう言って、とても愛おしい人を想っている様な表情になるユイ。
そのユイの言葉と表情を見て、女子大生は、
「………」
「ゲンメツ」
「あたし」
「ユイ先輩の口から、
そんなこと聞きたくなかったっす」
「もう行きますね」
「次、授業だから」
と言って、言葉通り、ユイに幻滅したかの様な表情をして、立ち去って行く女子大生。
その女子大生に対して、友達は、
「キツイわね――」
「あの子、何かとユイに対して厳しくない?」
と言い、そして、
「くやしいんじゃない?」
「ずっと自分がトップでいたのに」
「大学に来たら、絶対に勝てない相手がいてさ」
と言いました。
そんな女子大生を気がかりそうに見るユイ。
その後、女子大生は大学の他の学生達が居る建物内を歩いており、その際に、一人の男子学生に声を掛けられても、涼しい表情で無視していました。
と、その時、女子大生は、相変わらずの仏頂面のゲンドウとすれ違います。
その際に、声を掛けられた訳でもないのに、何故か頬を赤らめる女子大生。
そして、ヒグラシの鳴く日暮れ。
冬月が教授をしている形而上生物学第1研究室の前で、女子大生は、
(やばい)
(私としたことが)
(ぼんやりしすぎて、レポートの提出忘れてた)
(もっと、しっかりしないと…)
と思いながら、
「冬月教授?
いらっしゃいます?」
コンコン
と、ドアをノックしました。
すると中から、何か大きな物を引っくり返した様な音がし、ドアを開ける女子大生。
そこには、部屋中に散らばったネズミと、その飼育ケースとその中身、倒れたコロのついたイス。
そして女子大生の方を見ながら、地面に手を付いて前かがみになって、床に座っているユイが居ました。
「…なにやってんですかユイさん」
と聞く女子大生に対し、ユイは、
「棚の上の資料取ろうとして……」
「手が届かないからイスに乗ったんだけど、コロがついてたからイスがずれてバランス崩して、落っこちたらラットのケージの上で………」
と言い、そのユイの言葉を聞きながら、しょうがないなぁ、という様な顔をしながら服の袖を捲り上げ、
「わかったから、早くとっ捕まえますよ」
と言って、女子大生は、ユイがケージから逃がしてしまった、ラットを捕まえるのに協力します。
「そっちに一匹行きました」
「早く袋かぶせて」
「わ、わかってるけど……」
「えいっ。
あっ、失敗」
と、一匹捕まえるのにも苦労するユイに対して、
「もうっ。
どんくさいっすね」
と言いながら、両手で二匹のラットを素早く捕まえる女子大生。
と、その時、女子大生の顔に一匹のラットが飛びつき、それを見たユイは、
「そのまま動かないで」
「え!?」
と言って、女子大生を押し倒す程の勢いで、女子大生の顔に袋を掛け、
「捕まえた」
と言って、ユイも何とか一匹捕まえました。
そんなユイの行動を、
「バカなんですか?先輩」
と起き上がりながら、呆れながら女子大生は言いながらも、何とか無事、二人協力して、全てのラットを元のケージに戻せました。
「は――。
全部ケージに戻せてよかった~」
と、安堵するユイと、
「いたたたたも~~。
コンタクトずれた~~~」
と、顔に袋を掛けられ、押し倒された際にコンタクトがずれて、痛がる女子大生。
それを見たユイは、
「ごめんね。
髪の毛メチャクチャ」
と言って、女子大生の髪に触れようとします。
しかし、自分の髪の毛を触ろうとしたユイの手に気づいて、女子大生は慌てて飛び退き、その際に自身のポシェットに肘を当ててしまい、ポシェットは置いていた机から落ち、その中から、ユイのメガネが転がり出てきました。
「あれ?これ、私の…」
と言いながら、メガネを拾うユイ。
「なくして困ってたのよ。
どうして、あなたのカバンに…」
その言葉に困った様な、照れた様な顔をする女子大生。
「憎らしいんですよ、先輩」
「きれいでかわいい所も、
頭脳明晰な所も、
優しすぎる所も、
ちょっと抜けてる所なんかも、
すべてが、憎らしい」
「あたしの気持ちに気づいても、
そうやって態度が変わんない所も」
そして…。
「わかっちゃったんでしょ」
「あたしが、あなたを好きってこと」
と、女子大生は言いました。
それに対してユイは、
「座って。
髪の毛、直してあげる」
と言って、椅子に座った女子大生の髪を、櫛を使って、丁寧に直し始めました。
「ごめんなさい。
憎らしいなんて言って」
「あたし、留学するんです。
来月からイギリスに」
と、自分の気持ちを素直に言えて、スッキリした様な顔をしながら話す女子大生。
それを聞いたユイは、
「そう…」
「メガネ。
欲しいんならあげるわよ。
あなたには度が合わないと思うけど」
と言って、女子大生に自分のメガネを掛けました。
そして、
「ふふ。できた」
「かわいい」
と言うユイに、女子大生は照れながら、
「やめて下さい」
と言いますが、その表情はどこか嬉しそうでもありました。
「女子校生みたい」
「当たり前でしょ。
16歳なんだから」
そして女子大生は、
「先輩、あたし。
ゲンドウくんとの幸せを願ってますよ」
と言いながらも、切ない顔をした後、
「遠い空の向こうから」
と、優しく微笑みながら言いました。
それにユイも、同じく優しく微笑みながら、
「うん…」
「ありがとう。
真希波…、マリさん」
と言い、外は、まるでそんな女子大生…、マリの言葉の様に、ユイとゲンドウの幸せを祝福する様な、大学を照らす夕日の光で満ちていました。
――FIN――
それでは、全体的な感想と雑考です。
エヴァ漫画版の最終巻である、14巻の最後に載っていたEXTRASTAGE「夏色のエデン」は、大学生時代のユイとゲンドウと、ユイの後輩(飛び級して大学に入っており、短編の時点で16歳)の女子大生の話でしたね。
ユイは何と言うか、一見隙だらけで、でもものすごく優秀で掴みどころの無い、不思議な人、という印象でした。
また、ゲンドウとの馴れ初めも、何とも微笑ましかった。
そして、ゲンドウがユイと会っていた時に見せていた、本当に穏やかで幸せそうな笑顔を見ると、12巻STARG.78「父と子」で、ゲンドウがシンジに言っていた様に、ゲンドウにとってユイは唯一の「光」で、本当に大切な存在だったんだな、と改めて感じました。
そして、ユイに好意を持っていて、ユイとゲンドウとの幸せを願った女子大生が「真希波・マリ・(イラストリアス?)」だったとは少し驚きました。
既にネット上で言われている様に、新劇の「マリ」は、ユイとゲンドウの知人の可能性が一番高くなりましたね。
唯、エヴァは基本的に14歳(または、14歳に準ずる肉体)で無ければ乗れなかった筈だし(新劇では違うかもしれませんが)、今回の短編の時点で16歳で、更にエヴァの開発がこの後なので、エヴァの起動実験等をやり始める頃には、とっくに肉体的に成人してそうだし、何より漫画版のマリと新劇のマリの性格はかなり違う様に感じました(もっとも、庵野監督と貞本先生で、単にマリの性格が違うだけ、という可能性も十分有りえますが)。
なので、(あくまで個人的な推測ですが)新劇のマリは漫画に出てきたマリのクローンで、使徒の魂が入っているから、カヲルと同じで14年経っても成長も老化もしなかったし、マリのオリジナルから色々と、ユイやゲンドウの事を聞いていたから、「Q」でゲンドウ君なんて気安い呼び方をしていたのかな、と思いました。
それと個人的に興味深かったのは、マリがゲンドウとすれ違う際に頬を赤らめたシーンです。
このシーンの前に、マリは男子学生から軽く挨拶されても無視をして涼しい顔をしていたのに対し、ゲンドウとすれ違う際は、ゲンドウは挨拶も何もしなかったのに、何故かマリは頬を赤らめていました。
この事と、ユイとゲンドウが始めて会った際も、ゲンドウはユイの残念そうな顔を見て、仏頂面で不器用ながらも、自分の定食をユイに譲っていた事等から、同じように、以前、ゲンドウはマリが困っていた際に、親切にした事があったのではないか、と思いました(マリは飛び級で大学に入っているので、最初は上手く周りと馴染めずに苦労していた所を、ゲンドウが手助けしてくれたのかも、と)。
そして、そういったゲンドウの良い所をマリも知っているからこそ、自分の好きな人であるユイとの幸せを願えたのかもしれません(マリにとって、ゲンドウは優しい兄の様な存在で、ユイは一緒に居ると心安らぐ、大切な人という風に感じました)。
また、漫画版に出てきたマリもユイには及ばないものの、とても才能のある女性の様なので、もしかしたら新劇に於いて、アスカの義母が実はこの人なのかも。
もしくは、アスカの母親と共にエヴァ開発をしていて、それでまだ小さく、「お姫様」の様に大切に育てられているアスカを見て、「Q」でマリは、アスカの事を姫と呼んでいたのかも…。
とは言え、やはり断片的な情報なので、個人的には、
「昔(少なくともエヴァ漫画版に於いては)、ユイに好意を寄せていた後輩がおり、その後輩の名前が真希波・マリ・(?)」
という所だけ知っていれば問題無しかな、と感じました。
後は、もし出来れば新劇の最新作で、マリの事がいつか説明されればいいな、と思いました。
今回の感想と雑考はここまでです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
これが参考になれば、嬉しい限りです。
それでは、また。
そして今でも時々、このブログを見てもらってありがとうございます。
今回は、エヴァ漫画版の最終巻である、14巻の最後に載っていたEXTRASTAGE「夏色のエデン」の、感想と雑考です。
勿論ネタバレ有りなので、ご注意下さい。
時は1998年。
場所は京都大学内の、かつて冬月が教授として働いていた、形而上生物学第1研究室にて。
ミンミン蝉がよく鳴いている、ある夏の日。
そこには、研究室でヨダレを垂らしながら、幸せそうな顔をして眠っているユイと、その様子をじっと見ている、一人の女子大生が居ました。
(ヨダレ…)
その女子大生は、ユイの頬っぺたを軽くつねります。
それでも起きずに、そのまま眠り続けるユイ。
(幸せそうな顔しちゃって…)
(憎たらしい…)
と、ユイの寝顔を見ながら思う女子大生。
その女子大生に、別の女子大生が、
「ちょっと、あんた。
学長が呼んでるって」
と声を掛け、
「あ、はい」
と言って、ユイの元から女子大生は立ち去りました。
「ん…」
その後、目を覚ましたユイは、ぼーっとしたまま辺りを見て、
「あれ?
私のメガネ…」
と、自分のメガネが無くなっている事に気が付きます。
その頃、学長から呼び出された女子大生は、学長室で、学長と話し始めます。
「特別研修生?」
「イギリスのセントフォード大学のアレックス教授が、優秀な人材を集めている」
「条件が合えば、留学費用も全額免除だそうだ」
「君、確か歳は――」
「16です。
2年飛び級して入学したので」
「16か…。
だが君の成績なら申し分ないだろう」
「まあ、君が良ければの話だが」
と、どうやらイギリスの有名な大学に留学をしないか、という話だった様です。
その提案に、
「私より、もっと適した人材がいると思いますけど?」
と女子大生は言いました。
そして、
「…というと?」
と言う学長の言葉に対して、女子学生は視線を窓の外の、大学のキャンパス内の庭を歩いているユイに向け、
「碇ユイさんですよ」
「何故あの人を推薦しないんです?」
「私よりよほど、才能も実績もあるのに」
と言いました。
その言葉に学長は、
「碇くんか」
「彼女は特別だ」
「お国が放さんよ。
すでに政府直属の研究機関からも誘いがかかっている」
「無理だろう」
と言いました。
またこの時、庭を歩いていたユイは、どうやらゲンドウと待ち合わせをしていた様で、手を振りながらゲンドウと合流し、満面の笑顔を見せるユイ、そしてゲンドウ。
そして、その様子を気に入らなさそうな顔で見る、女子大生。
その後ゲンドウと別れた後に、ユイは女子大生と、学長が呼んでいると教えてくれた、恐らくユイの友達だと思われる女子大生と一緒に飲み物を買って、一休みしようとしていました。
そして、ユイが自動販売機で飲み物を買いましたが、
「あっ、間違えた。
オレンジ買おうと思ったのに」
「メガネ、まだ見つからないの?」
「うん。どっかで見なかった?」
「知らないわね-。
もう、いっそコンタクトにしちゃいなさいよ」
「せっかく美人なんだから」
と、どうやら未だにメガネが見つからずに、苦労している様でした。
「それにしても。
学部中の男は泣いてるわね」
「天下の碇ユイが選んだのが、あの六分儀ゲンドウだなんて」
と、話題はユイの彼氏である、ゲンドウに移った様です。
「かっこいいでしょ、ゲンドウくん」
と、笑顔で語るユイ。
それに友達は、
「…まあねえ。
あんたの目には、そう見えるんだ」
と言い、
「ものっすごい変人てウワサだよ」
「暗いし、何考えてるかわかんないし」
と言いました。
それに対して、ユイは不満そうな顔で、
「みんな、そう言うのよね」
「そんなことないのに」
と言い、ゲンドウと始めて会った時の事を語り始めました。
「始めて会ったのはね、学食なの」
「ゲンドウくんが私の前に並んでて」
「B定」
と、定食を頼むゲンドウに、
「あ!
私も」
と、ユイも言いますが、
「悪いねぇ。
定食、この人で終わり」
「え!?」
と、ゲンドウの分で、B定食は無くなった様です。
それでユイは子供の様に、軽く頬を膨らませながらゲンドウを見て、それを見たゲンドウは、
「取り替えてやるから。
そっちくれ」
と、仏頂面で、自分の分のB定食を譲りました。
「あ…。
ありがとうございます」
と、言うユイに、
「いいよ。
じゃあ」
と言って、ユイが座っているテーブルとは別の所に行こうとするゲンドウ。
そのゲンドウに、ユイは、
「あの…。
一緒に食べません?」
と言って、ゲンドウを誘います。
そのユイの提案に、
「え?」
と驚きながらも、
「イヤですか?」
「ひとりの方が好きなんでね」
と言って、別の場所に行こうとするゲンドウに、
「そんなこと言わずに――」
と、それでも諦めずに誘ってくるユイに対して、面倒臭そうな、迷惑そうな顔をするゲンドウ。
「マジでイヤそうだったなあ、あの時。
こっちもあの仏頂面、意地でも崩してやろうと思って」
「いろいろ話しかけてたら」
「やっと笑ってくれて」
「そしたら」
「かわいかったの」
「すごく」
そう言って、とても愛おしい人を想っている様な表情になるユイ。
そのユイの言葉と表情を見て、女子大生は、
「………」
「ゲンメツ」
「あたし」
「ユイ先輩の口から、
そんなこと聞きたくなかったっす」
「もう行きますね」
「次、授業だから」
と言って、言葉通り、ユイに幻滅したかの様な表情をして、立ち去って行く女子大生。
その女子大生に対して、友達は、
「キツイわね――」
「あの子、何かとユイに対して厳しくない?」
と言い、そして、
「くやしいんじゃない?」
「ずっと自分がトップでいたのに」
「大学に来たら、絶対に勝てない相手がいてさ」
と言いました。
そんな女子大生を気がかりそうに見るユイ。
その後、女子大生は大学の他の学生達が居る建物内を歩いており、その際に、一人の男子学生に声を掛けられても、涼しい表情で無視していました。
と、その時、女子大生は、相変わらずの仏頂面のゲンドウとすれ違います。
その際に、声を掛けられた訳でもないのに、何故か頬を赤らめる女子大生。
そして、ヒグラシの鳴く日暮れ。
冬月が教授をしている形而上生物学第1研究室の前で、女子大生は、
(やばい)
(私としたことが)
(ぼんやりしすぎて、レポートの提出忘れてた)
(もっと、しっかりしないと…)
と思いながら、
「冬月教授?
いらっしゃいます?」
コンコン
と、ドアをノックしました。
すると中から、何か大きな物を引っくり返した様な音がし、ドアを開ける女子大生。
そこには、部屋中に散らばったネズミと、その飼育ケースとその中身、倒れたコロのついたイス。
そして女子大生の方を見ながら、地面に手を付いて前かがみになって、床に座っているユイが居ました。
「…なにやってんですかユイさん」
と聞く女子大生に対し、ユイは、
「棚の上の資料取ろうとして……」
「手が届かないからイスに乗ったんだけど、コロがついてたからイスがずれてバランス崩して、落っこちたらラットのケージの上で………」
と言い、そのユイの言葉を聞きながら、しょうがないなぁ、という様な顔をしながら服の袖を捲り上げ、
「わかったから、早くとっ捕まえますよ」
と言って、女子大生は、ユイがケージから逃がしてしまった、ラットを捕まえるのに協力します。
「そっちに一匹行きました」
「早く袋かぶせて」
「わ、わかってるけど……」
「えいっ。
あっ、失敗」
と、一匹捕まえるのにも苦労するユイに対して、
「もうっ。
どんくさいっすね」
と言いながら、両手で二匹のラットを素早く捕まえる女子大生。
と、その時、女子大生の顔に一匹のラットが飛びつき、それを見たユイは、
「そのまま動かないで」
「え!?」
と言って、女子大生を押し倒す程の勢いで、女子大生の顔に袋を掛け、
「捕まえた」
と言って、ユイも何とか一匹捕まえました。
そんなユイの行動を、
「バカなんですか?先輩」
と起き上がりながら、呆れながら女子大生は言いながらも、何とか無事、二人協力して、全てのラットを元のケージに戻せました。
「は――。
全部ケージに戻せてよかった~」
と、安堵するユイと、
「いたたたたも~~。
コンタクトずれた~~~」
と、顔に袋を掛けられ、押し倒された際にコンタクトがずれて、痛がる女子大生。
それを見たユイは、
「ごめんね。
髪の毛メチャクチャ」
と言って、女子大生の髪に触れようとします。
しかし、自分の髪の毛を触ろうとしたユイの手に気づいて、女子大生は慌てて飛び退き、その際に自身のポシェットに肘を当ててしまい、ポシェットは置いていた机から落ち、その中から、ユイのメガネが転がり出てきました。
「あれ?これ、私の…」
と言いながら、メガネを拾うユイ。
「なくして困ってたのよ。
どうして、あなたのカバンに…」
その言葉に困った様な、照れた様な顔をする女子大生。
「憎らしいんですよ、先輩」
「きれいでかわいい所も、
頭脳明晰な所も、
優しすぎる所も、
ちょっと抜けてる所なんかも、
すべてが、憎らしい」
「あたしの気持ちに気づいても、
そうやって態度が変わんない所も」
そして…。
「わかっちゃったんでしょ」
「あたしが、あなたを好きってこと」
と、女子大生は言いました。
それに対してユイは、
「座って。
髪の毛、直してあげる」
と言って、椅子に座った女子大生の髪を、櫛を使って、丁寧に直し始めました。
「ごめんなさい。
憎らしいなんて言って」
「あたし、留学するんです。
来月からイギリスに」
と、自分の気持ちを素直に言えて、スッキリした様な顔をしながら話す女子大生。
それを聞いたユイは、
「そう…」
「メガネ。
欲しいんならあげるわよ。
あなたには度が合わないと思うけど」
と言って、女子大生に自分のメガネを掛けました。
そして、
「ふふ。できた」
「かわいい」
と言うユイに、女子大生は照れながら、
「やめて下さい」
と言いますが、その表情はどこか嬉しそうでもありました。
「女子校生みたい」
「当たり前でしょ。
16歳なんだから」
そして女子大生は、
「先輩、あたし。
ゲンドウくんとの幸せを願ってますよ」
と言いながらも、切ない顔をした後、
「遠い空の向こうから」
と、優しく微笑みながら言いました。
それにユイも、同じく優しく微笑みながら、
「うん…」
「ありがとう。
真希波…、マリさん」
と言い、外は、まるでそんな女子大生…、マリの言葉の様に、ユイとゲンドウの幸せを祝福する様な、大学を照らす夕日の光で満ちていました。
――FIN――
それでは、全体的な感想と雑考です。
エヴァ漫画版の最終巻である、14巻の最後に載っていたEXTRASTAGE「夏色のエデン」は、大学生時代のユイとゲンドウと、ユイの後輩(飛び級して大学に入っており、短編の時点で16歳)の女子大生の話でしたね。
ユイは何と言うか、一見隙だらけで、でもものすごく優秀で掴みどころの無い、不思議な人、という印象でした。
また、ゲンドウとの馴れ初めも、何とも微笑ましかった。
そして、ゲンドウがユイと会っていた時に見せていた、本当に穏やかで幸せそうな笑顔を見ると、12巻STARG.78「父と子」で、ゲンドウがシンジに言っていた様に、ゲンドウにとってユイは唯一の「光」で、本当に大切な存在だったんだな、と改めて感じました。
そして、ユイに好意を持っていて、ユイとゲンドウとの幸せを願った女子大生が「真希波・マリ・(イラストリアス?)」だったとは少し驚きました。
既にネット上で言われている様に、新劇の「マリ」は、ユイとゲンドウの知人の可能性が一番高くなりましたね。
唯、エヴァは基本的に14歳(または、14歳に準ずる肉体)で無ければ乗れなかった筈だし(新劇では違うかもしれませんが)、今回の短編の時点で16歳で、更にエヴァの開発がこの後なので、エヴァの起動実験等をやり始める頃には、とっくに肉体的に成人してそうだし、何より漫画版のマリと新劇のマリの性格はかなり違う様に感じました(もっとも、庵野監督と貞本先生で、単にマリの性格が違うだけ、という可能性も十分有りえますが)。
なので、(あくまで個人的な推測ですが)新劇のマリは漫画に出てきたマリのクローンで、使徒の魂が入っているから、カヲルと同じで14年経っても成長も老化もしなかったし、マリのオリジナルから色々と、ユイやゲンドウの事を聞いていたから、「Q」でゲンドウ君なんて気安い呼び方をしていたのかな、と思いました。
それと個人的に興味深かったのは、マリがゲンドウとすれ違う際に頬を赤らめたシーンです。
このシーンの前に、マリは男子学生から軽く挨拶されても無視をして涼しい顔をしていたのに対し、ゲンドウとすれ違う際は、ゲンドウは挨拶も何もしなかったのに、何故かマリは頬を赤らめていました。
この事と、ユイとゲンドウが始めて会った際も、ゲンドウはユイの残念そうな顔を見て、仏頂面で不器用ながらも、自分の定食をユイに譲っていた事等から、同じように、以前、ゲンドウはマリが困っていた際に、親切にした事があったのではないか、と思いました(マリは飛び級で大学に入っているので、最初は上手く周りと馴染めずに苦労していた所を、ゲンドウが手助けしてくれたのかも、と)。
そして、そういったゲンドウの良い所をマリも知っているからこそ、自分の好きな人であるユイとの幸せを願えたのかもしれません(マリにとって、ゲンドウは優しい兄の様な存在で、ユイは一緒に居ると心安らぐ、大切な人という風に感じました)。
また、漫画版に出てきたマリもユイには及ばないものの、とても才能のある女性の様なので、もしかしたら新劇に於いて、アスカの義母が実はこの人なのかも。
もしくは、アスカの母親と共にエヴァ開発をしていて、それでまだ小さく、「お姫様」の様に大切に育てられているアスカを見て、「Q」でマリは、アスカの事を姫と呼んでいたのかも…。
とは言え、やはり断片的な情報なので、個人的には、
「昔(少なくともエヴァ漫画版に於いては)、ユイに好意を寄せていた後輩がおり、その後輩の名前が真希波・マリ・(?)」
という所だけ知っていれば問題無しかな、と感じました。
後は、もし出来れば新劇の最新作で、マリの事がいつか説明されればいいな、と思いました。
今回の感想と雑考はここまでです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
これが参考になれば、嬉しい限りです。
それでは、また。
私も最新刊を少し立ち読みさせて頂き、マリが居たことに驚きました。ただ、ゲンドウに対してやたら気安い理由は納得できました。
カオルには使徒の魂が入っていると言いましたが、使徒そのものではないということですか?
私は、人の形をした使徒だと認識していました。
そして、お久しぶりです。
最終巻にマリ(?)が出てきたのは色々考えさせられますが、少なくとも一部の関係者には、既にマリの正体は庵野監督から明かされているのでしょうね。
カヲルは正確に言えば、人の形をした器に使徒の魂を入れた人工使徒、という感じです(少なくとも旧劇、漫画版では)
以下wikipediaの渚カヲルのページからの一部引用です(旧劇の設定)。
”正体は第17使徒タブリスとされるが、その魂は第1使徒アダム本人のものであり、アダムの復活を目指すアダム計画の一環として、ゼーレによりサルベージされたアダムの魂に人型の肉体が与えられ、それが渚カヲルとなる[2]。なお、その肉体はセカンドインパクトの際にアダムにダイブされた人の遺伝情報を基に、アダムにより生み出された肉体だと考えられる。
自身は攻撃能力を持たないが、極めて強力なA.T.フィールドを展開し、空中を自在に浮遊できる。またアダムの魂を持つがゆえ、魂さえ無ければアダムベースのEVAならば自在に操り、同化することができる[2]。劇場版でゼーレが投入した量産機に使用されたダミープラグは、この渚カヲルのパーソナルを用いたものである。”
ちなみに自分が新劇のマリが今回出てきたマリ(?)のその後とは思いにくいのは、新劇のマリの(特に「Q」)悲惨な世界でも自分なりに楽しんで生きている性格や、複数のエヴァを操縦出来た事等、どちらかといえばアスカよりもカヲルに近い存在に感じるからです
(とはいえ、あくまで個人的な考えなのであしからずです)。
それでは、また。