大手の塾(サ〇ックス、早〇アカ、e〇a、Z〇進学教室、T〇AS)のチラシを見ると、日比谷高校の復権がいよいよホンモノになってきたことを実感する。
手元には2015年度と2016年度の高校入試のチラシがあるが、筑駒、開成、学芸大附属レベルの、かつての高校入試の最難関と呼ばれた高校の合格者が、ことごとく第一志望の日比谷高校や西高校に進学している。早慶附属とか筑波大附属は、もはや完全に日比谷高校にとっての併願校になっている。
2016年の日比谷高校の東大合格者数は、53名。これは全国の公立高校でダントツのナンバー1だ。ほか、国公立医学部や一橋大、東京工業大といった難関国立大にも大量合格を実現している。
高校入試もそれを象徴するように、2015年、2016年と激戦が続いている。2016年は、去年よりも倍率は下がったのに、志望者の偏差値は上がったから、ボーダーラインはさらに上がってしまった。男子なら、筑駒とか開成の合格者が、その権利を保持したまま、第一志望の日比谷を受験するのだから、ボーダーラインが上がるのも無理はない。塾にとっては腕の見せ所だろうか。
日比谷高校が、高校入試で人気な理由は何なのだろう。
今年の4月、高校関連のコンサルタントで知られる岡林秀明さんが、「東大合格市場 あの超進学校がやっていること」という本を出版した。
この本では、なぜ日比谷など都立トップ校が圧倒的な支持を受けるのか、真の理由が書かれていて興味深い。
「日比谷、西、国立の最大の強み、競争優位は「3年制高校」であること」
本書ではこう結論付けている。都内の進学校は今や、猫も杓子も中高一貫、中高一貫、中高一貫……どこも中高一貫教育を売りにしてる。
逆に、日比谷高校のような3年制高校で東大に大量合格する進学校はほとんど無くなってきている。だからこそ、日比谷高校というのは、高校受験生にとって魅力に映る。
しかも、本書の指摘することによると、東大合格者数ナンバー1の開成高校ですら、外部進学生の学力が相当に落ちたせいで、内部進学生と比べて進学実績が悪化。高校から入学する生徒だけを抽出した進学実績では、日比谷高校のほうが開成高校よりも東大合格者数が多いという逆転現象が起こる。
私立・国立のトップ校は、中高一貫教育を売りにする性質上、どうしても高校受験生は補完的な扱いになり、3年間で伸ばすことに特化した日比谷高校には敵わなくなる。これが、高校受験生の間で知られるようになってきた。
横一線の学校生活のスタートは、内部進学生に追いつくための無理やりの勉強が必要ないし、内部進学生との人間関係の悩みもない。教育メニューも3年間で東大に合格できるよう計算されてつくられている。
こうした点を踏まえ、東大を目指す中学3年生にとって、たとえ筑駒や開成に受かっても、日比谷や西のほうが魅力たっぷりに映ることを本書で指摘している。
この本の通り、これだけ高校受験で筑駒や開成の人気が落ちると、高校受験自体を完全に止めるのも時間の問題かもしれない。(2015年の開成高校入試は、100名の枠で2倍の200名合格者を出しても、まだ入学者を満たすことができず繰り上げ合格を出している。開成高校は合格しても入学する率が低い学校になってしまった)
日比谷生の行事への熱はハンパない! 予想を裏切る青春感!
ただ、やっぱり東大だけでは、日比谷高校の人気は説明できないと思う。
たとえば、星陵祭を見に行って、日比谷高校のイメージがガラリと変わったと話す中学生は多い。日比谷高校と言えば超エリート校のイメージが強いので、なんとなくガリ勉で勉強ばかりしてそうなイメージを持つ。ところが、星陵祭に行くと、その圧倒的な生徒の行事に対するパワーに気圧されっぱなし。高3生が全力で取り組むクラス演劇は完成度が高く列ができる人気だ。良い意味で予想を裏切る熱気。日比谷生の全力の青春感!
SSHに指定され、東大の安田講堂を全部借りてノーベル賞受賞者を呼んで講演会を行うという、どう考えても全国で日比谷にしかできないようなことを普通にやる。アメリカのハーバード大学への交流会、ハワイのすばる望遠鏡を訪問する行事。戦前から続く勝山臨海合宿、スキー教室や夏山キャンプなどの多すぎるほど充実している宿泊行事。
意外にも日比谷の教育は、東大一直線、受験一辺倒ではなく、日比谷にしかできない大胆な行事もあるが、真の教養を身に着けさせるという王道をいくものだ。
日比谷の3年間は短くあっという間だが、とにかく濃密。中高一貫校ではできない教育。先ほどの本にあったように、3年制高校でしかできない教育。こういう学校が、まだ東京都内に残っていることは、高校受験生にとって本当にありがたいことだ。今後も日比谷は伸び続ける。そして、高校受験生のハートをがっちりつかみつづける、王道の進学校であり続けると思う。