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余白が広すぎる

数学の話とかをちまちまと

平行線を追いかけて

2012-07-07 | 数学

前回「定理と定義と、ときどき公理」において、公理について触れました。

最後に出した問題のを答えあわせから始めましょう。

 

 

問:以下の定義と公理を定める。

定義1.点は部分のないものである。

定義2.線は幅のない長さである。

 

公理1.任意の点から任意の点へ直線を引ける。

公理2.有限直線を連続して一直線(無限に伸びる線)に延長できる。

公理3.全ての直角は等しい。

 

定義:一直線Lと一直線Mが平行であるとは、LとMが共に、ある1つの線Nとのなす角が直角(すなわちLとNが垂直で、かつMとNも垂直)であることと定義する。

 

このとき「任意の異なる2本の平行な直線は交わらない」の真偽を答えよ。

 

答えは「偽」です。

 

 

 

 

この問題、「平行線は交わらない」は真か偽かという事を聞いています。

小中高と数学を勉強してきた中で、平行線は小学校のころから出てきました。

そこでみなさんは、「平行線はどこまでも伸ばしても交わらない」と教わってきたはずです。

「じゃあ答えは真だろ!」って思うかもしれません。そこが今回のポイントなんです。

今まで皆さんが教わってきたことは正しいです。ただし、それが全てであるとは限らないのです。

 

ちょっと話を紀元前に戻しましょう。

前回お話したとおり、公理という考えはユークリッド原論から始まっています。

原論は、幾何学(図形を扱う数学の分野)について多く書いてあります。

その中で、作図という平面図形に関する行為を明確にしている5つの公準(公理とほぼ同じと思ってください)が存在します。

1.任意の一点から他の一点に対して直線を引くこと
2.有限の直線を連続的にまっすぐ延長すること
3.任意の中心と半径で円を描くこと
4.すべての直角は互いに等しいこと
5.直線が2直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる。

このうちのいくつかは前回公理として使いました。

公準は現在では公理とほぼ同義として扱われているので、上の5つの公準は証明なしに扱ってよい約束事です。

そのうちの5つ目、すなわち第5公準に注目しましょう。

 

【第5公準】直線が2直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる。

 

これはすなわち、「平行でない2直線は内角の和が180度より小さい側で交わる」という事を言っています。

この第5公準は、他の公準に比べてあまりにも長く、自明とするには少々疑問の残るものでした。なので昔の人々は「この第5公準は他の公準から導ける、すなわち公理ではなく定理なのではないか」と考え、第5公準を他の公理、公準から示すために議論を重ねました。このことを【平行線問題】とも言います。

しかし、どんなに頑張っても第5公準を示すことが出来なかった。すなわち、平行線問題は解決にいたらなかったのです。

 

ところが、時にして19世紀、ついに平行線問題に終止符が打たれました!

しかしそれは今までの期待を裏切り、「他の公理(公準)を満たし、かつ第5公準を満たさないような空間の発見」により、平行線問題は「否定」という形で決着がついたのです。

なので、前回の問題も「偽」となります。

 

それでは、今まで我々が習ってきた「平行線は交わらない」というのは嘘だったのか。間違ったことを教わってきたのか。

そんな心配をするかもしれませんが、その必要はありません。安心してください。

我々が今まで習ってきた幾何学、すなわち図形の問題は「第5公準を含めた空間」の中で行われています。

すなわち、「平行線は交わらないし、平行でない直線は交わる空間」で我々は図形と戯れてきたわけです。

この自然に考えられる空間を、ユークリッドの原論で設定した空間なのでユークリッド空間と呼び、ユークリッド空間の中で扱われる幾何学をユークリッド幾何学と呼びます。

すなわち、我々は今までユークリッド幾何学を学んできたわけです。

 

第5公準を満たさない空間、すなわち、平行じゃないのに交わらない直線が存在する空間で扱う幾何学を双曲幾何学とよび、

平行線が交わるような空間で扱う幾何学を楕円幾何学と呼びます。(交わらない直線を平行線と呼ぶ場合、この書き方はあまりよろしくないのですが…)

この2つに代表されるような、ユークリッド幾何学でないものを、非ユークリッド幾何学と呼びます。

 

この非ユークリッド幾何学とは、自然から離れた突拍子も無い概念というわけでもないのです。

楕円幾何学のもっとも身近な例として、地球を考えて見ましょう。

赤道に対して、経線は必ず垂直になっています。なので、全ての罫線は平行になっていると考えてよいでしょう。

しかし、経線は北極と南極で交わります。すなわち、「平行な直線が交わっている」という現象が起こります。

加えて、実は宇宙は非ユークリッド空間なのではないか、という話があるそうです。詳しくは良く知りません。

宇宙については、本当に謎がつきません。正直、何次元なのかもわかってません。次元についてもいつか書きます。

 

 

「平行線は交わらない」と教わったこと自体は何も間違っていません。しかしそれはユークリッド幾何学という限られた世界の中での話です。

第5公準に疑問を持ったからこそ、非ユークリッド幾何学という新たな真実が見えてきました。

数学において疑うという行為は、決して蔑ろにしてよいことではないのです。


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2 コメント

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Unknown (もにもあう)
2012-07-08 01:26:05
アライさんは例えがわかりやすいので、少し難しくても中身が自然と面白く感じられます!
最初真だと考えてたんですけど、経線は並行なのに交わっててなるほどと思いました!
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もにもあうさんへ (アライ)
2012-08-03 20:41:11
ありがとうございます。
なるべくわかりやすい文章が作れたら良いなーと思いながら頑張っていますが、まだまだ力が足りないみたいです…
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