作家・安部公房が1973年に発表した同名長編小説を、
「狂い咲きサンダーロード」「蜜のあわれ」などの鬼才・石井岳龍監督が映画化。
ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、
覗き窓から世界を覗いて妄想をノートに記述する「箱男」。
それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた存在だった。
カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われ、
自らもダンボールを被って箱男として生きることに。
そんな彼に、数々の試練と危険が襲いかかる。
1997年に映画の製作が決定したもののクランクイン直前に撮影が頓挫してしまった幻の企画が、
27年の時を経て実現に至った。
27年前の企画でも主演予定だった永瀬正敏が“わたし”を演じ、
“わたし”をつけ狙って箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者役で浅野忠信、
箱男を完全犯罪に利用しようともくろむ軍医役で佐藤浩市、
“わたし”を誘惑する謎の女・葉子役で白本彩奈が共演。
2024年製作/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年
これは箱男についての記録である。
ぼくは今、この記録を箱のなかで書きはじめている。
頭からかぶると、すっぽり、ちょうど腰の辺まで届くダンボールの箱の中だ。
つまり、今のところ、箱男はこのぼく自身だということでもある。
箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけているというわけだ
安部公房 小説を生む発想
「箱男」について
箱男
都市には異端の臭いがたちこめている。人は自由な参加の機会を求め、永遠の不在証明を夢みるのだ。そこで、ダンボールの箱にもぐり込む者が現われたりする。かぶったとたんに、誰でもなくなってしまえるのだ。だが、誰でもないということは、同時に誰でもありうることだろう。不在証明は手に入れても、かわりに存在証明を手離してしまったことになるわけだ。匿名の夢である。そんな夢に、はたして人はどこまで耐えうるものだろうか。
— 安部公房「著者のことば」
安部公房全集24 1973.3‐1974.2 新潮社
箱男と山口果林
「怖い人たちが来て、僕を禁治産者にする手続きをしようとしていたんだ」山口果林『安部公房とわたし』