K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

ハニーランド 永遠の谷

2020年11月14日 | 映画
ご無沙汰しております。最近文章を書く気力もなかったのですが、気を取り直して久しぶりに投稿します。

そろそろ年の瀬、今年のベスト10を決めなければならない時期に差し掛かってきました。今回は今年上半期で一番面白かった映画を『ハニーランド』をご紹介します。




《Story》
主人公は、首都スコピエから20キロほど離れた、電気も水道もない故郷の谷で、寝たきりの盲目の老母と暮らすヨーロッパ最後の自然養蜂家の女性。「半分はわたしに、半分はあなたに」それが持続可能な生活と自然を守るための信条。しかし、彼女の平和な生活は、エンジン音とともに7人の子供と牛たちを引き連れてきた一家の襲来で激変する…。(「『ハニーランド 永遠の谷』公式サイト」より)

本当に奇跡のようなドキュメンタリー映像でした。映像の力に圧倒される100分間、この感覚は6年前に観た、ニューベッドフォードを舞台にしたドキュメンタリー映画『リヴァイアサン』以来かもしれません。
「事実は小説よりも奇なり」を地で行く作品でしす。



本作はヨーロッパ最後の自然養蜂家と言われる女性、Hatidze Muratovaとその母を追ったドキュメンタリー映画です。
撮影期間は3年、合計400時間以上の映像から編集された一人の女性の物語。
基本的な会話はトルコ語がベースで、意外と内容が聞き取れたのが嬉しかったですね。語学の先生に聞いてみたところ北マケドニアはトルコ語を話す人も多いそう。

Yarım bana, yarım sana.


自然と「共生」することで養蜂業を営む女性、Hatidze Muratova。彼女のポリシーは、蜂の巣を全て収穫するのではなく、半分収穫し半分はそのままにしておくというもの。
そうすることで持続可能な収穫が得られると体験でわかっているのです。
盲目で寝たきりの母を看ながら、たまに街へ出て蜂蜜を売り生活を営む彼女。自由に生活ができないことに少し不満を抱えつつも、昔ながらの生活様式で慎ましく暮らしていました。
そんな彼女の居住区に、突如外からトルコ人親子が移住してきます。



彼らは放牧民らしく牛たちと移動しながら各地を転々とし主に酪農で稼ぎを得る一家でした。
結婚せずにずっと母と暮らしてきたHatidzeは、子供や家庭に対する憧れを隠せず、徐々にトルコ人家族と親交を深めていきます。



しかし、彼らの自然に対する態度は「共生」ではなく「掠奪」、彼女の思想とは相反するものでした。彼らは自然のために確保しておいた蜂の巣を完全に収穫し、焼畑農法で森を焼き、女性とともにあった生態系を破壊していきます。



見方によっては資本主義の侵略とも捉えられるかもしれません。時々カメラが捉える遠くを飛ぶ飛行機の姿も、文明・資本主義との埋めようのない隔たりを示唆しているようです。


事実は小説よりも奇なり
そんな彼らの自然に対する蛮行に対し、盲目で寝たきりの母が呟いた「天罰が下る」という言葉ーーここから、奇跡のような出来事が始まります。

突然トルコ人一家の生活の糧である家畜が疫病に見舞われるのです。牛たちが次々と死んでいく中、彼らはやむを得ずその地を後にすることに。
まさに「掠奪」に対する天罰が降りたかのようなシーケンスに、自然の意志、神の見えざる手を感じます。

トルコ人家族は去り、盲目の母も亡くなり、最後に最後にHatidzeに寄り添うのは一匹の犬の姿。
自然と生きる一人の女性の力強い姿に胸を打たれる作品です。




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