おい、おい、おい。待て、待て、待て。
なに!男が化粧をするだと。
ファンデーションを塗り、眉を書き、アイラインを入れるだと。
「待て」と言ったら待て。化粧は女がするものだろうが。
何気なく押したテレビのチャンネル。
何と若い男性が眉を書いている場面が映し出されていた。
ぎょっとして、妻に「今時の若い男連中は眉を書いとるぞ」そう聞いてみたら
「珍しくもありませんよ」なんて言うではないか。
男たるものが、たいがいにしろ。俺の祖父や父の時代だったら、
たちまち「打ち首ものだ!」と声を荒げたに違いなく、
この俺だって「ああ、なんて世だ」と嘆きたくなる。
だが、待てよ。俺にあの青年たちをそしる資格があるか。
この暑さに耐えかねて、日傘をさすようになったではないか。
日傘というのは「女性が使うもの」──爺さんたちはそう言ってきた。
なのに、その爺さんが日傘をさすようになったのである。
もちろん随分と迷った。「男のくせに日傘を。それもあんな爺さんが……」
なんて思われはしないか。やっぱりやめておこうと何度思ったことか。
でも、そうも言っておれなくなった。
何せ、今年の夏は例年にも増して暑い。
ここ福岡市にしてもひと月ほども30度を超す猛暑日が続いている。
「夏は日焼けが格好いい」なんて言ったのは昔の話。
強い直射日光を浴びれば肌によくないのは言うまでもない。
それだけではない。直射日光を浴びると、
体感温度が上がり熱中症のリスクが増大する。年寄りは一層要注意だ。
それで決断した。
最初は折り畳み式の黒い雨傘を使った。あまり格好良くない。
それを見た妻が誕生日祝いにと、ベージュ色のちょっとしゃれたメンズ日傘を買ってきてくれた。
なかなか良い。「男たるものが……」なんて思いも消えた。
強い陽射しの中、「どうだ」とばかり堂々と歩いている。
これも時代なのだ。そう開き直る。