食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

イタリア系移民の食-アメリカの産業革命と食(9)

2022-11-12 17:44:33 | 第五章 近代の食の革命
イタリア系移民の食-アメリカの産業革命と食(9)

アメリカは移民国家です。アメリカへの移民は、19世紀の終わりまでは、イギリスやアイルランド、ドイツ、北欧からのものが主でしたが、19世紀末以降は、イタリアやポーランド、ギリシア、ロシア、そして中国や日本からの移民も多くなりました。

そして、各民族は混ざり合うことはなく、それぞれが独自の民族集団を作っていました。食文化も同様で、それぞれの民族が独自の料理を作り、食べていたのです。これらがアメリカの食として一般化して行くのは、20世紀に入ってからのことです。

今回は、ピザやスパゲッティのように、現代のアメリカの食の中でも大きな存在感を示しているイタリア移民の食について見て行きます。

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中世以降、イタリアは小国に分裂していたが、19世紀の中頃から最北部のサルデーニャ王国を中心に統一戦争が展開され、1861年にイタリアは統一された。その結果、シチリア島やイタリア南部の人たちは冷遇され、生活も困窮した。特に小作農は日々の食べ物にも事欠く有様で、生きて行くために移民や出稼ぎとして国外に出たのである。

最も多くのイタリア移民が向かった先はアメリカ合衆国だった。彼らの多くは、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアなどの東海岸北西部の都市に定住した。特に、ニューヨークのマンハッタンやブルックリン、ブロンクス、クイーンズの各地区は、イタリア系移民の街として発展して行った。また、一部のイタリア系移民は、大陸を横断して、カリフォルニアなどの西海岸に居を構えた。

イタリアからの移民のほとんどは小作農出身で、イタリアでは、オリーブオイルやチーズ、肉、パスタなどはほとんど口にしたことがなかった人たちだった。しかし、アメリカにやって来た彼らは、働きさえすれば食べるものに困らなくなった。そして、アメリカで手に入る食材で、金持ちのイタリア人が食べていた料理を作って食べるようになったのである。と言っても、高い食材をふんだんに買えるほど豊かでなかったため、自宅で豚やヤギ、ニワトリなどを育てたり、家庭菜園でトマトなどを育てたりしていたらしい。

イタリア系移民の多くが南部出身だったため、パスタ、トマトソース、オリーブオイルなどを主に使用するナポリ料理やシチリア料理がアメリカではよく食べられるようになった。

これ以降は、現代でも広く食べられているアメリカのイタリア料理(Italian American Foods)について見て行こう。

ミートボールスパゲッティ(Meatball Spaghetti/Spaghetti and Meatballs/Spaghetti with Meatballs)

この料理は、アメリカのイタリア料理では定番になっている。ナポリの祭りではスパゲティを食べた後にミートボールを食べる風習があるそうだが、これがアメリカに持ち込まれた時に、パスタの上にミートボールを乗せて食べるようになったのだ。ただし、ミートボールはイタリアのものより小さなくなっているという。

映画『ゴットファーザー』では、マフィアを毛嫌いしていた主人公のマイケルが、いよいよマフィアの世界に入ろうとしていた時に、古参のマフィア幹部からこの料理の作り方を教わる印象深いシーンがある。この料理を作れてこそマフィアの一員であるという意味があるのかもしれない。ちなみに、マイケルの父ヴィトーは、シチリア出身の移民という設定である。


Markéta (Machová) Klimešová のPixabayからの画像

ガーリックブレッド

これは、バゲットなどのパンの切り口にたっぷりのガーリック(ニンニク)とバターを塗り、さらにオレガノなどのハーブをのせてからトーストした料理だ。

イタリアでは、古代ローマ時代から焼きたてのパンの上にオリーブオイルを塗って食べていた。15世紀頃には焼きたてのパンに少しだけのニンニクとオリーブオイル、塩を乗せて食べるブルスケッタ(Bruschetta)という料理がよく食べられるようになった。これがアメリカに持ち込まれたのだが、アメリカではオリーブオイルが手に入りづらかったため、代わりにバターが使われるようになったのである。また、ブルスケッタよりもニンニクをたくさん使うようになった。

チキンピカタ(Chicken Piccata)

日本のチキンピカタやポークピカタは、鶏肉や豚肉に粉チーズを入れた溶き卵をからませて焼いた料理だ。アメリカのチキンピカタは、鶏肉を皮付きで揚げ、レモンとバターなどで作ったソースを和えた料理で、イタリアン・アメリカン料理の代名詞ともいえるものだ。通常は、パスタと同じ皿で供されることが多い。

イタリアでは薄切りの仔牛の肉を使うのが一般的だ。ピカタは槍の一突きが語源と言われており、薄い肉をフォークでひっくり返して両面を焼いて作ったことからこう呼ばれるようになったとされている。

チキン/子牛のパルミジャーナ(Chicken/Veal Parmigiana)

元祖イタリア料理のパルミジャーナは、揚げた薄切りナスにパルミジャーノチーズ(パルメザンチーズ)とトマトソースを重ねて焼き上げたものである。カンパーニャ州やシチリア州などの南部地域が発祥の地とされている。

アメリカやカナダでは、ナスの代わりに鶏肉や仔牛肉が使われ、パスタが添えられることが多い。また、パルミジャーノチーズの代わりに、手に入りやすかったフレッシュチーズが使われることが多かった。


Jenni Pattee の Pixabayからの画像

チョッピーノ(Cioppino)

これはサンフランシスコ発祥とされる海鮮シチューで、魚やカニやエビ、貝などの様々な魚介類をトマト入りのスープで煮込んだ料理だ。

チョッピーノは、サンフランシスコのノースビーチに定住したイタリア人漁師(多くは北イタリアのジェノバ出身者)が、その日に獲れた魚介類の残りを使って作ったシーフードシチューだった。もともとは出漁中の漁船や家庭で作られていたが、波止場近くの旅館や食堂で供されるようになると大人気の料理となった。


Mogens Petersen の Pixabayからの画像