目が覚めると、温もりしかなかった――
「……変だ…」
自分のソファーで読書をしている翼乃が、ボソッと呟いていた。
「てか、やっぱ変っ」
「何がだ」
呟きを聞いていた俺が言うと、「この本が」と翼乃は本の表紙を見せた。
「この本。水奈兄さんから借りた恋愛系のやつなんだけどさ」
俺には、恋愛の事は何も分からないが。
水奈は恋愛に関して、人一番知っていた。
「これさ。主人公が、好きな人が眠っているところをキスする場面があってさ。
自分が好きなのはいいけど、相手に気づいてくれないとダメじゃん。もし好きじゃなかったら、それはただの自殺行為に近いんだよ」
「……そうか」
苦笑をして言ったが。
俺は妹の話を聞いて、ある事を思い出してしまった。
いつからだったかは忘れたが。
俺が眠っている時に、近くに誰かがいた。
誰なのかは分からなかったが、唇に何か、柔らかいものがあたった。
目が覚めるといなくなっていた。
残ったのは、唇の温もりと、ほのかな花の香り。
あの香りはかいだ事がある。
花園にある、花の香り――
それに、あの香りをつけているのは一人だけ。
確かめようと、俺は寝たふりをした。
案の定、そいつは罠にかかった。
薄く目を開けると、去っていく赤みのはいった茶色の髪の、後ろ姿が見えた。
何度やっても、あの後ろ姿があった。
なぜ、あんな事をしているんだ。
なぜ俺にキスをするんだ。
『自分が好きなのはいいけど、相手に気づいてくれないとダメじゃん。もし好きじゃなかったら、それはただの自殺行為に近いんだよ』
頭の中で、翼乃の言葉が響いた。
お前は、俺が好きなのか。
俺はお前を殺そうとしているのか。
お前は一体、俺に何をさせたいんだ――
「なんであんな事、言ったんだよっ」
部屋から出ようとしたら、妹の声が聞こえてきた。
俺は扉をほんの少しだけ開け、息をひそめて聞いた。
「何か言いましたか?」
扉の向こうで話をしているのは、水奈と翼乃の二人だった。
「下で言っただろっ」
「何のことですか?」
「泳地兄さんと玲花姉ちゃんの事を、お似合いだって言っただろ!」
「……ああ。たしかにそんな事言いましたね」
「なんであんな事言ったんだよっ」
二度目の言葉は、なぜか怒りを感じた。
「好きじゃないのかよ、泳地兄さんのことっ」
「好きですよ」
「じゃあ、なんでだよ」
「好きだから、幸せになってほしいのですよ。翼乃君」
「……本当に、そう思っているのかよっ」
「ええ」
「うそつき! もう知るかよ!!」
足音が遠ざかっていく。たぶん、翼乃だろう。
「ほんと。僕って、うそつきですね……」
ポツリと呟くと、水奈も去っていった。
あいつは何を望んでいるんだ。
本当に、俺が他のやつと付き合っていいのか。
「ふざけるなっ」
どこまで、俺を振り回せば気がすむんだ。
「……バカだな、俺は…」
違う。俺が振り回していたんだ。
あいつの気持ちに気づいてやれなかったから――
だが。その日をさかいに、温もりを感じなくなった。
まさか、俺の事を諦めたのか?
そんな簡単に諦められるのかよ。
……そんなものか。
そんなものなのかよ、お前の気持ちは!
もう、兄弟とかは関係ない。
この腕に抱き締めて、二度と逃がしたくない。
他の奴なんかに渡さない。
あの日の雨が、俺をくるわせていた――
後編へ
「……変だ…」
自分のソファーで読書をしている翼乃が、ボソッと呟いていた。
「てか、やっぱ変っ」
「何がだ」
呟きを聞いていた俺が言うと、「この本が」と翼乃は本の表紙を見せた。
「この本。水奈兄さんから借りた恋愛系のやつなんだけどさ」
俺には、恋愛の事は何も分からないが。
水奈は恋愛に関して、人一番知っていた。
「これさ。主人公が、好きな人が眠っているところをキスする場面があってさ。
自分が好きなのはいいけど、相手に気づいてくれないとダメじゃん。もし好きじゃなかったら、それはただの自殺行為に近いんだよ」
「……そうか」
苦笑をして言ったが。
俺は妹の話を聞いて、ある事を思い出してしまった。
いつからだったかは忘れたが。
俺が眠っている時に、近くに誰かがいた。
誰なのかは分からなかったが、唇に何か、柔らかいものがあたった。
目が覚めるといなくなっていた。
残ったのは、唇の温もりと、ほのかな花の香り。
あの香りはかいだ事がある。
花園にある、花の香り――
それに、あの香りをつけているのは一人だけ。
確かめようと、俺は寝たふりをした。
案の定、そいつは罠にかかった。
薄く目を開けると、去っていく赤みのはいった茶色の髪の、後ろ姿が見えた。
何度やっても、あの後ろ姿があった。
なぜ、あんな事をしているんだ。
なぜ俺にキスをするんだ。
『自分が好きなのはいいけど、相手に気づいてくれないとダメじゃん。もし好きじゃなかったら、それはただの自殺行為に近いんだよ』
頭の中で、翼乃の言葉が響いた。
お前は、俺が好きなのか。
俺はお前を殺そうとしているのか。
お前は一体、俺に何をさせたいんだ――
「なんであんな事、言ったんだよっ」
部屋から出ようとしたら、妹の声が聞こえてきた。
俺は扉をほんの少しだけ開け、息をひそめて聞いた。
「何か言いましたか?」
扉の向こうで話をしているのは、水奈と翼乃の二人だった。
「下で言っただろっ」
「何のことですか?」
「泳地兄さんと玲花姉ちゃんの事を、お似合いだって言っただろ!」
「……ああ。たしかにそんな事言いましたね」
「なんであんな事言ったんだよっ」
二度目の言葉は、なぜか怒りを感じた。
「好きじゃないのかよ、泳地兄さんのことっ」
「好きですよ」
「じゃあ、なんでだよ」
「好きだから、幸せになってほしいのですよ。翼乃君」
「……本当に、そう思っているのかよっ」
「ええ」
「うそつき! もう知るかよ!!」
足音が遠ざかっていく。たぶん、翼乃だろう。
「ほんと。僕って、うそつきですね……」
ポツリと呟くと、水奈も去っていった。
あいつは何を望んでいるんだ。
本当に、俺が他のやつと付き合っていいのか。
「ふざけるなっ」
どこまで、俺を振り回せば気がすむんだ。
「……バカだな、俺は…」
違う。俺が振り回していたんだ。
あいつの気持ちに気づいてやれなかったから――
だが。その日をさかいに、温もりを感じなくなった。
まさか、俺の事を諦めたのか?
そんな簡単に諦められるのかよ。
……そんなものか。
そんなものなのかよ、お前の気持ちは!
もう、兄弟とかは関係ない。
この腕に抱き締めて、二度と逃がしたくない。
他の奴なんかに渡さない。
あの日の雨が、俺をくるわせていた――
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