春烙

寒いなあ…

やまない 雨

2009年06月17日 20時23分24秒 | 外伝小説 2
 もう何も、信じたくない――


 いつからだろう。
 あの人を、好きになったのは……

 その思いに気づいた時にはもう、あの人の姿を追っていた。
 惹かれていた。
 そして、狂わせていた。

 あの人が眠っていると、僕はそっと近づいて安らかに眠る顔を眺めた。
 ただ眺めているだけでよかった。
 それなのに。

 僕は、あの人にキスをした。
 ほんの触れるだけの、キス。
 一度きりでよかった。
 でも、唇に残った温もりが消えると、何処か物足りなくなって――

 気がついた時には、何度も口付けをしていた。
 やめようと思っても、やめられなくて。
 あの人への思いが、積もるばかりだけ。

「早く、したいなぁ~」
 そんなある日。居間で従兄妹達と話している時。
「何が、玲花ちゃん?」
「結婚よ。もう、いい年なんだから」
「いい年なのかは知らないけど」
 玲花ちゃんに対して、冷たく言う沓馬君。
「姉さんには、早く結婚して欲しいとは思ってるから」
「それって、早くいなくなって欲しいとじゃないのか?」
「あっ。何で分かったの?」
「沓馬!」
 従姉弟の喧嘩を見ていると、思わず笑ってしまう。
 ……だけど。
「玲花姉ちゃんは、どんな男性がタイプ?」
「そうね……。カッコよくて、背の高い人ね。たとえば、泳地さんとか」
 あの人の名前が出て、僕は少し肩を震わせた。
「兄貴が好きなのか?」
「違うわよ。ああいう人が好きなのよね、私」
「つまり、兄さんみたいなのがタイプなわけなんだね」
「そうよ。きっと似合うと思うのよ」
「自分で言うかな、それ」
「いいじゃない、別に!」
 弟妹たちの話を聞き流し、僕は考えた。

 あの人は、男性で。
 同姓の僕とは、結ばれる事はない。
 ましては。
 僕とあの人は――兄弟だから
 叶わない恋だ。
 いつかは、結婚するんだ。あの人は。
「水奈さんはどう思いますか?」
 従妹に呼びかけられ、「何がですか?」ととぼけて聞き返す。
「結婚の事よ。似合うと思いますか、私と泳地さん?」
 楽しそうに言う従妹を見て、胸を苦しませた。
 とても楽しそうな顔をしていて、僕は――
「お似合いだと、思いますよ」
 胸を痛めつける、思い嘘をついた。

 その場から逃げようと二階へ行くと、翼乃君が追いかけてやってきた。
「なんであんな事、言ったんだよっ」
 表情が真剣で、彼女は怒りを抑えて言う。
「何か言いましたか?」
「下で言っただろっ」
 下……居間での話だろう
 そういえば。あの場所には、彼女もいたんだ。
「何のことですか?」
「泳地兄さんと玲花姉ちゃんの事を、お似合いだと言っただろ!」
 実の妹に、怒鳴られてしまう。
「ああ。たしかにそんな事言いましたね」
「なんであんな事言ったんだよっ。好きじゃないのかよ、泳地兄さんのことっ」
 彼女は知っているんだ。
 僕があの人を好きだという事を……
「好きですよ」
「じゃあ、なんでだよ」
 鋭い目つきで聞いてくる。あの人と似ている。
「好きだから、幸せになってほしいのですよ。翼乃君」
 あの人が幸せになってくれるなら、僕はなんでもする。
 どんな代償を、払ってでも――
 それは君が一番、知っているでしょう?
「うそつき! もう知るかよ!!」
 はき捨てて言い、彼女は僕の横を通り過ぎ去って行った。
 見えなくなってしまった実妹に、語りかけるように呟いた。
「ほんと。僕って、うそつきですね」
 自分の心に……

 限界が近いのかもしれない。
 あの人への思いが、膨らみ過ぎていくばかり。
 もうやめた方がいいかもしれない。
 あんな事をしても、傷つくの自分だけ――

 僕は傘を差さずに、雨の中を歩いた。
 雨粒が身体に当たり、冷たくて痛い。
 これは、罰だ。
 僕が汚らわしい思いを、抱いたから。
 あの人を、好きになってしまったから――
 こんな思い。

 この雨とともに、流れてしまえばいい
 すべて、忘れてしまうように――



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1 コメント

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次男もいいす! (アオヒツジ)
2009-06-18 20:11:55
早速読ませて頂きました~(^o^)丿
次男っていう響きもそれだけで萌えですね(笑)

次男のしたたかさがいいです(^o^)
しかも、あの後に関係を持ってしまうという、
先を知っていると余計ゾクゾクしますね!
弟の方からもキスしていたっていう事実も萌えました☆
あと、弟のしゃべり方だけで、ああ美少年だなってのが伝わってきます!

後編楽しみにしておりますヽ(^o^)丿
私も頑張って兄弟書かないと‥‥
キリさんの励みに頑張りまーす!
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