空に続く坂道

長崎在住の宗雲征吾(そううんしょうご)が
喰ったり呑んだり、好き勝手に語ります。
時々短編小説も書きます。コメント歓迎。

コワイ小話。⑤

2007-05-30 00:41:49 | 小説の日々
 えー初めての方にはお初にお目にかかります。

 綾河岸亭 幻ノ介(あやかしてい げんのすけ)と申します。

 噺家にしては随分陰気なカオにおどろおどろしい名前やなと思われるかも知れません。それもその筈、ワタクシ「怪談」を得意の演目にしておりますので・・・。

 もっとも今宵のお話は「皿屋敷」や「わら人形」と言った古典ではなくワタクシ本人の体験談でございます・・・・・。



 ワタクシがまだ師匠の家に住み込みで修行しておりました頃の事です。

 師匠の独演会が地方でありまして、おかみさんも兄弟子たちもみなそちらに行かはったものですから、ワタクシ一人で留守を守っておりました。

 夏の晩の事、窓を開け放していつもの様に練習をしておりますと、客が一人ありました。

「御免下さい。こちらに怪談をなされる綾河岸亭 幻ノ介さんと仰られる方はいらっしゃいますか?」

「はぁ。ワタシですが。」

「急な話で申し訳ありません。今夜の集まりでぜひ一席やって頂きたいのですが、お願いできますでしょうか?」

 ワタクシも当時まだ真打ちでこそありませんでしたが、それなりにテレビやラジオから声がかかる位にはなっておりましたから、(ははぁ。夏の夜に集って怪談をやる催しかなんやあるのに、予定の出演者が出れんくなってコッチにまわってきたんやな。ラッキー。)などと思い、一も二も無く引き受けました。

 しばらくして来た迎えの車に乗り、揺られる事数十分。

 着いたのはある寺の本堂でございました。

 入ってみますと、せまい中にぎっしりと人が詰まってまして、みな演目を待っております。

 夏の夜だと言うのに、不思議と暑苦しさはありませんでした。

「さあどうぞ。」とうながされ、準備も無くいきなり舞台に上げられました。

 まぁコチラもプロ。いまさら慌てはしません。

 まず「むじな」でお客を引き寄せ、「黄金餅」で喰い付かせます。

 さらに「累ヶ淵」で震え上がらせようとしたんですが、どうもお客の反応が無い。

 あまりにも動かないんですわ。

 そのうち、妙な事に気が付きました。

 闇に目が慣れてお客の方が見えてくると、客席の中に兵隊姿の人や包帯で巻かれた人、手や足が無い人までおるんです。

「そうか・・・。ココのお客はみな亡くならはった人たちなんや・・・。」

 分かったからと言って止める訳にもいきません。

 噺を最後まで終わらせて舞台を下りました。

 帰りも車で送って頂きましたが、降りてから振り向くとすでに車は消えていました。

 

 こんな体験は後にも先にもこの時だけでございました。

 あとで人から言われたんですが、気が付いた時にすぐ逃げ出していたら殺されていたかも知れないとの事でした。

 ですが、不思議とこの時の事に恐怖を感じられんのですな。

 なにせワタクシども、普段から「お客様は神様」だと思っておりますから。

 この時だけは「お客様はホトケ様」だったというだけで。



 おあとがよろしいようで。

『さくら』

2007-05-25 01:11:46 | 小説の日々
 幼なじみの咲良(さくら)をボクは「サク」と呼んでいた。

 小柄なサクはいつもボクの後をついてまわっていたし、ボクも体が弱く病気がちなサクを守ってやらなければと、いっぱしの騎士のつもりでいた。

 だから・・・サクが病気で入院した時、ボクは情けないほどジブンが無力であると知った。

 サクは早くに両親を亡くし、親戚と呼べる人もいなかったのでサクの父の友人であったボクの親父がサクの保証人になった。

 サクの病気は何とか言う、外国の発見者の名前がそのまま付けられたような病名で、症状を抑える事は出来ても完全な治療は出来ないものであった。

 ボクは毎日のようにサクの見舞いに行った。

 そして数年後、ボクとサクは病院で結婚式を挙げた。

 病院のスタッフと入院患者に見守られたささやかな式だった。

 その翌年、症状が落ち着いて通院に切り替えていたサクは子供が出来たとボクに告げた。

 サクの身体で出産は命にかかわるとボクも医師も止めたのだが、産むと決めたサクの決意は固かった。

 そして四月の良く晴れた日、サクはまるで命を受け継ぐように一つの生命を誕生させ、自らは天国に旅立った。

 サクの命を受け継いだその子に、ボクはひらがな三文字で「さくら」と名付けた。



 サクとの結婚を決めた時から親父からは勘当された身だったので、ボクはさくらを一人で育てた。

 ボクの仕事はアーティストに楽曲を提供するフリーの作曲家なので、一日中家に居れるのが幸いだった。

 さくらはよく笑った。

 泣きそうになっても、ボクが小さな手を握るととたんに笑顔になった。

 サクは写真に撮られるのを嫌がっていたので、唯一残っているのは結婚式の時の一枚だけだ。

 ボクは部屋の壁の中心にサクの写真を貼り、その周りをさくらの笑顔で埋めた。そうする事で、この家に三人で住んでるような気になれた。


 さくらと散歩した。さくらと買い物に行った。

 さくらとご飯を食べた。さくらとお風呂に入った。

 さくらの寝顔をいつまでも飽きずに見つめた。


 この毎日は永遠でなくても、それでも今すぐに消えて無くなりはしないとボクは思っていた。

 でもそれは間違いだった。



 三歳の誕生日を間近に控えた三月の夜、ボクは何か嫌な気配で目を覚ました。

 ボクはあわてて明かりを点けた。

 ケホッケホッとさくらは咳き込みながら涙を流していた。

「さくら! どうした? 苦しいのか?」

「・・・おとうさん・・・。」顔が真っ青だった。

 涙と汗で髪が顔に貼り付き、小さな身体は震えていた。

「さくら!」

 ボクはさくらを抱きかかえると、病院へ走り出した。

 きっとこの時、ボク自身も泣いていたに違いない。



 三日間の様々な検査の末、医師から告げられた病名はサクと同じ物だった。

「それはつまり・・・さくらも死んでしまうって事ですか?」

「そうならないよう、我々も全力を尽くします。」

 担当医はそう言った。サクの担当でもあった医師だ。

「症状を抑えてその間に有効な治療法を見つけ出し・・・。」

「ふざけるな! さくらを実験材料にするつもりか!」

 ボクはさくらの居る病室に向かった。

 このまま家に連れて帰るつもりだった。

 病室のドアを開けると、そこに横たわっていたのは・・・。

「・・・サク・・・?」

 そんなハズは無かった。ベッドの上のさくらの姿に一瞬サクを重ねてしまったのだ。

 ボクはさくらの側に行くと、その小さな手を握りしめた。

「さくら、家に帰ろう。こんなトコに居る事は無いんだ。お父さんと一緒に家に帰ろう!」

 でもさくらは空いている方の手をボクの頭にのせてこう言った。

「・・・おとうさん・・・ゴメンね。」

「!!・・・何で謝るんだよ? さくらは何にも悪い事なんかしてないだろう?」

 ボクが取り乱してるのがジブンのせいなのだと幼いながらに思ったのだろうか? さくらはもう一度言った。

「ゴメンね。」

「謝るなよ・・・。さくらは全然悪くなんかないよぉ・・・。」

 ボクはさくらの手を握ったままヒザをついてぼろぼろと泣いた。

 気が付くと、いつの間にか医師が後ろに立っていた。

 ボクは涙をぬぐって立ち上がり、医師に深く頭を下げた。

「お願いします・・・。さくらを・・助けて下さい。」

「出来るだけの事はします。」

 医師はそう言ってくれた。



 ボクはそれから毎日病院に通った。

 出来れば夜もさくらと一緒にいてやりたかったのだが、この病院は完全看護なのでそれは出来なかった。

 ボクが行くと、さくらはいつも笑顔をくれた。でもカメラを持って行った時はさくらは写真を撮られるのを嫌がった。

「どうして?」と聞くと、「今はカワイクないから。」答えた。

 ボクは少しだけ、サクが写真を嫌がったワケが分かったような気がした。



 四月になった。

 三歳の誕生日の前日、ボクはさくらに聞いた。

「プレゼントは何がいい?」

 するとさくらはまるで言ってはイケナイ言葉を口にするかのように声をひそめて言った。

「あのね・・・。おうちに帰りたい。」

「・・・・そうだね。」

 ボクはさくらを抱きしめた。

「早くおうちに帰ろうな。」



 誕生日当日、ボクは大きなぬいぐるみを抱えて病院に向かった。

 前におもちゃ屋に連れて行った時に、さくらの一番のお気に入りだった犬のぬいぐるみだ。

 でもボクを待っていたのはさくらの笑顔ではなく、あわただしく走り回る医師や看護師たちの姿だった。

 さくらの姿も一瞬だけ見えたが、すぐに手術室の中に消えて行った。

 ボクは手術室のドアの前で、永遠とも思えるほどの時間待たされた。

「神様・・・サク・・・さくらを守ってくれ。」

 何度もそう祈った。

 ドアのランプが消え、医師が出てきた。

 マスクを外し、医師は言った。

「非常に・・・残念です・・・。」

 ボクはその場に崩れ落ち、泣き続けた。



 さくらが天国に行って一年後。

 さくらの誕生日にボクは歌を作った。

 いつものように曲だけでなく、詞も書いた。歌うのもボク自身だ。

 ボクの前からいなくなった、二人のさくらの為に作った歌だ。

 もしこの歌を聴く事があったなら、ぜひ考えてほしい。

 あなたが愛する人の事を。

 あなたを支えてくれる人たちの事を。

 そして今のこの幸せを。



  『さくら』word by KENITI TAKANO

*さくら さくら 会いたいよ いやだ君に今すぐ会いたいよ
 天に召します神様お願い 僕の胸つぶれちゃいそうだ
 さくら さくら 会いたいよ いやだ君に今すぐ会いたいよ
 天に召します神様お願い 僕の息止まっちゃいそうだ

 春に生まれた君を『さくら』って名付けた
 かわいらしくひらがな3文字で『さくら』
 親指くらいの小っちゃな手をにぎったら
 まだ開かない目で君はクシャクシャ笑った
 いつもいつも僕は君と一緒だったなぁ
 あきれるくらい写真をいっぱい撮ったなぁ
 君と僕が似てるって言われて嬉しかったなぁ
 君と同じふうに僕はいっぱい笑ったんだなぁ

*Repeat

五月の風 追いかけっこした土手の道
 六月の雨 窓越しに見ていた紫陽花
 八月の庭 ホースで描いた小さな虹
 九月の朝 おそろいのミッフィーの食器
 一月の雪 毛布に包まってた君
 二月の星 遠くをじっと見ていた君
 三月の街 背中が大きくなった君
 四月の夢 毎年祝った誕生日

*Repeat

 いつもとは違う声で君は泣いていた
 僕は泣きながら病院へ連れていった
 お医者さんはとっても優しい人だった
 「さよならできる」と僕はちゃんとうなづいた

 さくら さくら 会いたいよ いやだ君にホントは会いたいよ
 天に召します神様お願い 僕の瞳濡れちゃいそうだ
 さくら さくら 会いたいよ いやだ他になんにもいらないよ
 天に召します神様お願い 僕の心消えちゃいそうだ

*Repeat

 春に生まれた君を『さくら』って名付けた
 かわいらしくひらがな3文字で『さくら』
 明日晴れたらどこか遊びに行こうよ さくら
 きっと桜がいっぱい咲いてキレイだよ さくら

『さくら』 前置き

2007-05-25 01:09:43 | 小説の日々
 この小説は先日(5/19)ぶろぐ長崎の常連、ぽてとさんが紹介していた高野健一さんの「さくら」を聴いて考えたお話です。
 この曲自体、西加奈子さんの同名小説を読んでインスパイアされて作った曲らしいので、言ってみれば「小説を元に作った曲」を元に書いた小説なワケです。ややこしいな。

 ぽてとさんがこの曲を紹介したブログにワタシは「これは卑怯だ」とコメントを書きました。
 愛する人を失くす。ましてや子供を失う歌なら泣けるモノになって当然だろう。その安易さが卑怯だと思ったからです。
 でも、高野健一さんのブログを読み、そこにコメントをした人たちの思いを読んでワタシの思い違いを知りました。(元になった小説での「サクラ」が犬の名前だったというのもあります。だからって、犬だから良い子供だからダメってワケじゃないですよ。念の為。)
 愛する人を失くすという真実を正面から受け止め、真剣に考え、だからこそ日常の幸せに、ジブンを支えてくれる人たちに感謝しようという気持ちがそこにありました。

 これから書く小説は「さくら」が子供の名前だと思ったワタシの第一印象をそのままふくらました物語です。
 なので、西加奈子さんの同名小説とは全く異なるものです。
 ワタシなりにこの曲のテーマを踏まえて書いてみました。
 最後まで読んでいただければ幸いです。

                           宗雲征吾

 追記・高野健一さんの「さくら」のPVはYahoo動画で無料で見れます。
 そちらもあわせて観て頂くと興が増すかと思います。

しゃしゃやかなじぇーたく。

2007-05-20 22:52:32 | 酒の日々
「ささやかな贅沢」ね。

 酔ったかな? 舌が回らん。とか言って。笑。

 酒はそれ自体が嗜好品なのだから、酒に金使う事がすでに贅沢なのだが。

 それはまぁそれとしても、やっぱエビスは高価だと思う。

 高い酒は値段も味のうちなのだろうか? テーブルチャージみたいなモン?


 ・・・やっぱり酔ってるな。思考が滅裂してる。

 とっとと寝よう。