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アメリカは「戦争が必須と考える国」トランプ大統領は変えられるか エマニュエル・トッドが語る世界の問題
トッドが語るトランプ
三島恵美子 ,大野舞(通訳)

丸3年を迎えるロシアによるウクライナ侵攻。中東・ガザ地区では1年以上も続いたイスラエルの攻撃がトランプ氏の米大統領就任前日から停戦中だ。今後、ガザの状況はどうなるのか。日本はどうすべきか。エマニュエル・トッド氏の独占インタビューの後編をお届けする。AERA 2025年2月24日号より。
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──ガザの状況はどうなりますか。
トランプの大統領就任前日から6週間の停戦に入ったわけですが、わかったことはイスラエルという国は一国では何もできない、アメリカの支援が必要だったということです。同時に、トランプが即座に停戦を実現できたということは、バイデンもいつでもこの惨状を止めることができたということです。ガザでの殺戮(さつりく)に関していかにアメリカに責任があったかが明らかになりました。アメリカはイスラエルと共にガザの人々の殺戮に参加していたとすら言えるでしょう。
ガザでの停戦はありましたがヨルダン川西岸では問題は深刻化しています。イスラエルがどんどんニヒリスト的な国になっている点も際立ってきました。物事が解決に向かっているとは思えないのが正直なところです。イスラエルという国は完全に極右の国になってしまったわけですけれども、アメリカが戦争の手段をイスラエルに与え続けることで、イスラエルはさらなる対立に進み続けてしまうだろうと思います。これは非常にばかげたことに聞こえるかもしれませんが、アメリカが崩壊したら中東にようやく平和が訪れるでしょう。
日本も含めて今ここにいる私たちは皆、西洋の人間ですね。アメリカのシステムに含まれているわけです。私たちはアメリカに守られているはずの国の人間です。そして、民主主義を重要視している国の人間です。アメリカという国は、昔は楽観的なイメージを世界に普及させてくれる国でした。私もアングロ・サクソン文化に育てられてきました。ハリウッド映画もそうですし、アメリカの音楽を聴いて育ちました。アメリカは世界中の人々に夢を見させてくれたわけです。これまでの私の発言を見てみると、アメリカに関して、少しずつ意見を変えてきていることに気づかれると思いますが、どちらかというと常にアメリカに近い立場を取ってきました。ところがここに来てアメリカこそが世界の問題だというように考えざるを得なくなっているのです。
というのも、アメリカという国が国際社会でやっていくためには戦争こそが必須の手段の一つだと考えている国になってしまったからです。平和の実現は困難だと考えている。トランプがこうなってしまったアメリカを実際変えられるなどとは到底思えません。
ロシア・ウクライナ問題でもアメリカは、停戦は難しいと考えていますが、ロシアとの平和的な解決に向かうというのは実はとても簡単なことです。ロシアの人口は高齢化していて、そういう意味でも戦争を維持していくことには無理があります。そもそもロシアは合理的な考え方も持っている国ですし、ロシア人も結局は私たち西洋の人々と根本的には変わりません。何より、ロシアの人も私たちと同じく戦争を忌み嫌っているはずなんです。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大などいろいろなファクターによってロシアは戦争を始めてしまったわけですが、ロシアだって実際は平和を願っているはずです。
ただ一つ言えるのは、トランプ自身は戦争を嫌っているということです。これは称賛に値する点ではないかと思います。戦争を嫌うというのはそれだけで素晴らしいことだと思います。ただし、トランプは勢力をあがめる人間です。勢力関係を重視する人間であり、アメリカの覇権を重要視する人間です。だから結局戦争に巻き込まれてしまうのです。
◎日本はどうすべきか
■日本はどうすべきか
──この世界の中で生き残っていくために日本はどうすべきですか。
すべての深刻な問題は今ヨーロッパにあります。だからアメリカもヨーロッパに集中しているわけです。今後アジアで戦争を始めるための手段はトランプにはないでしょう。だからアジアですぐに戦争が始まるということはないと考えます。日本は今まで通りに、鳴りを潜めて目立たなくしていることが大事です。
もちろんアジアには中国という火種はありますが、少子化で人口減少が続き、人口動態的に非常に重要な弱点を抱えている国だということを忘れてはいけません。それに、中国はアメリカという脅威も考慮しなければならないので、中国側から見てもそう簡単には戦争にはならないでしょう。
ですから日本については、すでに何度も言ってきた通り、核兵器を保有し、アメリカとの通常軍事演習にはあまり参加しないことが大事です。
◎いま起きているのは西洋世界の終焉です
問題はヨーロッパで終結するでしょう。少し前までは、中国とアメリカこそが世界の対立軸だと言われていました。もし本当に中国とアメリカの対立が起きていたら、もちろん日本は難しい状況に陥っていたでしょう。しかしそうはなっていません。いま起きているのは西洋世界の終焉です。
第1次、第2次、そして第3次世界大戦が、すべてヨーロッパを中心に起きているというのも非常に興味深い点です。おそらくこの戦争が終わった後は、多極化した世界が現れて、脱西洋化した世界になるはずです。そうなると、日本は非常に理想的な立場に置かれることになると思います。
というのも、日本というのは西洋側にいる国なのに歴史や文化的に非西洋の国だからです。そんな国は他にほとんど存在しません。アメリカ覇権が終焉した世界では、日本は交流の場となり、有望な協力の地となりうるでしょう。
最後に大事なことをひとつ。日本はもっと子どもをつくらないといけないですね。世界の問題というのは戦争ではなくて、むしろ出生率だからです。
(構成/編集部・三島恵美子、通訳/大野舞)
※AERA 2025年2月24日号より抜粋
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