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「総理大臣になれない政治家」小川淳也議員に「わからない」をぶつけ、デスマッチしてみた
熱い理想を追い続け、清廉潔白を貫きながらも永田町では出世できない50歳の政治家がいる。立憲民主党の小川淳也議員(50)だ。全国公開されたドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)で、その名を知った人もいるかもしれない。映画では、いかに気高い政治思想があっても、権力を手繰り寄せる”才能”がなければ「政治家に向いていない」と言われてしまう小川議員の姿が映し出されていた。その小川議員に「政治知識はゼロ」と自称するライター・和田静香さんが「わからない」を解決するために質問をぶつけて本にまとめた。著者の和田さんに、和田さんだからこそ知る「小川淳也像」を書いてもらった。
【写真】夫・小川淳也に「97点」をつけた妻・明子さん

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コロナ禍になって最初の緊急事態宣言が解除された直後の2020年6月中旬、1本の政治ドキュメンタリー映画が公開された。
最初は都内2館のみでの上映だったものの、たちまち話題を呼んで超ロングランに。上映館は83館に及び、3万人以上を動員した。衆議院議員・小川淳也さんを主人公にした『なぜ君は総理大臣になれないのか』だ。
筆者(私)は昨年7月、AERA dot.で小川さんと、監督の大島新さんにインタビューしている。
「映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題の小川淳也衆議院議員 涙で語った娘の一言『父が総理大臣になったら…』」(2020年7月18日)と、「映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が見せた希望と絶望 “勝てない”政治家・小川淳也が語った本音と覚悟」(2020年7月19日)の前後編がそれだ。
このインタビュー時、小川さんがくりかえし何度も、「あきらめない」という言葉を語り、とても驚いた。コロナ禍という先が見えない暗闇の中にあって、衆議院5期目にもなるベテラン議員が躊躇なくそう語るのに胸打たれ、インタビュー記事を発表した少し後、やみくもに「いっしょに本を作りたい」と手紙を書いて打診した。一度は断られたもののあきらめきれず、もう一度お願いをするとOKをもらい、対話を重ね、1年をかけて1冊の本を作った。
文字にすれば数行だが、筆者は元々エンタメや相撲について書くライターで、政治の知識はゼロ。「財政」って言葉の意味さえ分からずググるところから始まる大作業となったと言ったら、驚かれるだろうか。いやはや、受験勉強のようでした。そんな何も分からない1ライターのつたない問いかけにしかし、小川さんは飽きず、嫌がらず、熱心に語った。それは今の日本が抱える問題、それゆえに苦しい生活、立ちふさがる壁、それをどう変えていくか?
その対話から見えた、次世代のリーダーとして注目が集まる小川淳也とは果たしてどんな人か? 今回は人物像を書いて欲しいと編集部から頼まれた。それは映画で皆さんがご覧になった通りだと思いますと答えたいが、それでは雑なので、プロの政治記者ではない市井の目で書いてみる。
小川さんとは様々な事柄について対話を重ねたが、それを筆者は「面談」と呼び、小川さんは「デスマッチ」と呼んだ。呼び方ひとつにもそれぞれのキャラクターは出るものだが、尋ねる側は常に「分からないもんっ」と言ってりゃいいわけで、逆に素人の突飛な質問に答える側の小川さんの方がずっと大変。「デスマッチ」と感じていたのも、ふむふむなるほどだ。お疲れ様でした。
小川さんは時に筆者のあまりの理解力の低さに、「和田さんに分かるように話すのが至難の業だ」と汗をかき、「和田さんに分かるように話すことは国家的課題だから、政治家がやらなくてはいけないことだ」とまで言い出した。国家的課題?! マジかっ? ブッ飛んだが、政治の何が何やら分からない1ライターが理解できるように語るということは、その先にいる読者という日本に住むあらゆる人々への理解へつながるのはもちろんのことで、国の代表者たる国会議員の小川さんは、主権者である私たち皆へ向け、必死になって全力で、国家が抱える問題、それを一体どうしていくべきか?を語ったことになる。「何が問題か見えること。そこに向かって半歩でも歩き出した時点で最大の解決となる」というのが小川さんの考え方の基本にあるそうで、とにかくまずは問題が何か、それを分かってもらいたいと言い続けていた。
本にも書いたのだが、小川さんは最初に衆議院議員に立候補した2003年、32歳のとき、集まった支援者たちに向けて「ただただ今まで、政治を何か遠いもののように感じておられた多くの市民の手に、取り戻したい。どうかあきらめずに、一緒に歩いてください。心からお願い申し上げます」と大きな声を張りあげて言っていた。当時のTVドキュメンタリーにその映像が残っている。ちなみに小川さんは元野球部だ。
その言葉にある「市民と一緒に歩いて行く」という信念を、「国家的課題」とまで言って必死に語り続ける熱さに、つくづく実感した。小川さんは最初からずっと変わらず、ひたすらに市民と共に歩もうとする政治家だ。
しかし、その熱さゆえに話がちと長い。筆者の友人なぞ、定期的に小川さんが配信する「千本ノック」という動画を、「話が長くて最後まで見終えられたことがない」とまで言っていたが(あはははは)、問題の原因がどこにあるのか、それに対する具体的な政策、及び自分がどうしてそう思うに至ったかまで事細かに丁寧に説明しなくてはおられない性分らしく、しかもそこに修飾語や比喩表現までちりばめたりして、やたら長い。電話であれこれ原稿について相談していたとき、「この問題を話したのはたしか1、2月頃で」と言うのに、「あれは梅の花がほころびかけた頃だったか」とか、何やら美しいことまで言い出したときにはちょっと笑ってしまった。すみません。
でも日ごろ、政治家が語るキャッチフレーズのような、実態を伴わない言葉や、上から威圧し、強く言い切った者勝ちみたいな物言いにはうんざりしてきた。誰か他の人が書いた作文みたいな言葉を棒読みされたって、何一つ伝わるものなんて、ありゃしない。
だから、回りくどくて長くても、何やら修飾語がちりばめられていても、伝えたい思いを積み重ねている言葉。それの方がずっと聞きたい。質量の重い言葉を、ずっしり聞いて、咀嚼し、こちらもじっくり考えたい。小川さんの言葉とは、そういうものだ。何度も何度も対話を重ねながら、意見が合わないことも多々あって、言い合いになったこともあったけど、その言葉に飽きたことは一度もなかった。
驚いたのは小川さんがけっこうな編集者っぷりを発揮したことだ。いや、まぁ、優秀な人は何をしても優秀なんだろうけど、「原稿にたとえ粗さが目立っても、勢いや衝動が生きている方がいい」と、さんざ書き直したとある原稿を第一稿に戻すようとアドバイスしてくれたときには、ハッとした。結果、その通りだった。そういうことは何度かあって、政治家を辞めて編集者になってくれたらいいのになぁ~などと、めちゃくちゃ失礼なことを思っていた(ほんと、すみません)。
とはいえ、もちろん逆もあって、「それは無理っす~」と筆者が突っぱねたこともある。突っぱねても別に怒ったりはしないのだが、ふと、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の中で選挙活動に苦しみ、「試練やなぁ」とつぶやいていた表情を思い出して、悪いことしたかなぁと後から思ってみたりした。まぁ、だからって、無理は無理だけど。
と、新しいリーダーとして期待される小川淳也像を書こうとしたのに、あれ? ぜんぜん総理大臣ぽくないし、リーダー云々も見えない。見えないが、一体、その、総理大臣ぽさとか、リーダー像とか、このコロナ禍にあって、何が好ましいのか? 何を求めてるのか? 実は自分自身がしっかり抱けてないと気がつく。抱けていないからこそ、いつまでも、望むリーダーを持てないのではないか? 小川像云々の前に、まずはそこからしっかりと描けなければ、話にならないのではないだろうか。どういう人にリーダーとなって、この国をひっぱってもらいたいかというか、共に歩んでいきたいか。よくよく、じっくり考えなければいけない。それはこれから訪れる選挙前に、有権者全員が考えるべきことだろう。
それで最後にもう一つ。1年前に話したとき、「あきらめない」ということを何度も言っていた小川さん。1年後も「あきらめない」ことを語っていた。
「あきらめない奴にはかなわないものだし、あきらめないことが唯一できることだし、あきらめない限り、勝負は続いているよね。どんなにうちのめされても、どんなに失意の底にあっても、あきらめない奴は強い、そういう奴には敵わない。あきらめないことだけが唯一絶対とは言わないけれど、唯一できることだと思っている」
ああ、そうだ。小川淳也像とは? あきらめない人。決してあきらめない政治家なんじゃないだろうか。若い頃は「50歳になったらきっぱり引退」などとたわ言を語っておられたようだが、それも撤回(注:今年で50歳)。年齢などに囚われず、「あきらめない」を進み続けている。
ちなみに筆者が書いた本は『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)。ずっと最低賃金でアルバイトばかりしてきた1ライターが、国会議員に聞いてみた、という内容で、8月末に発売されます。

●和田静香(わだ・しずか)
1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。8月末発売の『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)
刊行記念のトークイベントが9月1日、下北沢の「本屋B&B」にて開かれる。出演者は著者の和田さんと国会議員の小川淳也さん、作家の星野智幸さん。予約はコチラから。
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