英語タイトルを“Field Mass”というので『野のミサ』、あるいは『野外のミサ』と表記されることが多いが、『戦場のミサ』というのが内容にふさわしいだろう。マルティヌーがこの作品を書いたのは1939年。ナチスによるチェコスロヴァキア解体に対抗するため結成された義勇軍に捧げられた。ただ演奏機会はすぐには訪れず、戦争終結後の1946年、プラハで初演されている。
イントロから普通のミサ曲とは様相を異にする。使用されている楽器が管楽器、打楽器、ハーモニウム（チェンバーオルガン）、ピアノという風変わりな編成なのだ。中でもトランペット、スネア、ハーモニウムが要所要所で重要な役割りを果たし、尋常ならざる情景を描出する。声楽はバリトンと男声合唱。歌詞はラテン語通常文ではなく、「聖書」から採られた祖国や戦いに関する詩句から構成されている。
悲愴感はあまり感じられず、祖国への愛、祈り、願いの込められた感動的な声楽曲。終結部は特に印象的で、勝利を祈りながら静かに、消え入るように締めくくられる。バリトンはマルティヌーやヤナーチェクの録音の多いヴァーツラフ・ジーテク、合唱はチェコフィル合唱団。チェコ語は分からないのに、なぜか胸に突き刺さる。
Bohuslav Martinů: Field Mass
1. Field Mass (1939)
2. Double Concerto for Two String Orchstras, Piano and Timpani (1938)
3. Les Fresques de Piero della Francesca (1955)
Václav Zítek, baritone (1)
Czech Philharmonic Chorus/ Lubomír Mátl (1)
Czech Philharmonic Orchestra/ Charles Mackerras (1)
Josef Růžička, piano (2)/ Jan Bouše, timpani (2)
Prague Radio Symphony Orchestra/ Charles Mackerras
-Recorded 1982 & 84(1)
Supraphon SU 3276-2 931
『二群の弦楽合奏とピアノ、ティンパニのための二重協奏曲』は、おそらくマルティヌーの数ある協奏曲の中で最も緊迫感のある作品だろう。管楽器を用いず、打楽器もティンパニのみという一見地味な編成から、想像もつかない恐怖の音楽が生み出される。標題音楽ではないのだが、どうしても1938年のヨーロッパを連想させずにおかない。あの『リディツェ追悼』を上回る怖さ。迫り来る危機を感じさせる第一楽章。疑心暗鬼の緊張感を持つ第二楽章（ピアノの独白が効果的）。アレグロの最終楽章は二群の弦が奏する焦燥感が聴き手を言い知れぬ不安に突き落とす。くれぐれも寝る前には聴かないことをお奨めする。
口直しということもないだろうが、交響組曲『ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画』が最後に入っている。ヨーロッパ各地を転々としていた晩年の作品であり、色彩的ではあるが落ち着いた印象の作品。フランチェスカの『聖十字架物語』に感銘を受けて作曲したという。ただルネサンス絵画のような調和はなく、不協和音が大胆に用いられている。
クーベリックがロイヤルフィルを振った美しい演奏（EMI）があったけれど、マッケラスの録音はそれに較べると少々力が入っているように感じる。