はしきやし

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いい娘がいるわよ

2009-10-04 | Vocal

Peggy_benny Peggy Lee & Benny Goodman
 
The Complete Recordings 1941-1947
 Columbia Records C2K 65686

 ペギー・リーことノーマ・デロリス・エグストローム(Norma Deloris Egstrom)は北欧移民の娘。1920年、ノース・ダコタ州ジェイムズタウンに生まれている。8人兄弟の7番目。母親はノーマが4歳の時に亡くなった。あるバイオによれば父親は思うような職にありつけず酒に溺れ、家庭内暴力が絶えなかったと伝えられる。言葉の問題が大きかったようだ。幼いノーマは早くから聖歌隊や学校の合唱部で歌い始め、やがてセミプロのバンドに参加したりして、みずから金を稼ぐようになっていった。

 プロとして本格デビューしたのはベニー・グッドマンのバンドシンガーとして。ヘレン・フォレストの後任に採用されたのだった。二十歳そこそこのノーマを「発見」したのはグッドマン本人ではなくて奥さんだったそうである。ペギーがあるホテルのクラブで歌っているのを聴いて気に入り、「あなた、いい娘がいるわよ」と紹介したのだという。無名の歌手はそんないきさつで、人気絶頂の「スウィングの王様」とともにステージに立つことになった。

 写真のアルバムはそのグッドマンとの初録音“Elmer's Tune”(1941年8月)から“For Every Man There's a Woman”(1947年12月)までの米コロンビア録音を集めた2枚組。のちの姉御ふうの貫禄はまったくなく、キュートなお嬢ちゃんの初々しいヴォーカルが聴かれる。SP時代の録音だが音はいい。
 ペギーはわたしに洋楽をはじめて意識させたシンガーだった。小学生時代、NHKのテレビでペギーが『フィーバー』を歌うのを見て、外国にはこんなかっこいい曲があるのかと思ったのだ。彼女はそのときすでにアンニュイなおばさんだった。だからこのコロンビア録音はまったくの別人のように思える。どうもデッカ時代あたりから唱法を変えたようである。

DISC:1
01. Elmer's Tune
02. I See a Million People
03. That's the Way It Goes
04. I Got It Bad (And That Ain't Good)
05. My Old Flame
06. How Deep Is the Ocean?
07. Shady Lady Bird
08. Let's Do It (Let's Fall in Love)
09. Somebody Else Is Taking My Place
10. Somebody Nobody Loves
11. How Long Has This Been Going On?
12. That Did It, Marie
13. Winter Weather
14. Ev'rything I Love
15. Not Mine
16. Not a Care in the World
17. My Old Flame
18. How Deep Is the Ocean?
19. Let's Do It (Let's Fall in Love)
    DISC:2
01. Blues in the Night
02. Where or When
03. On the Sunny Side of the Street
04. Lamp of Memory (Incertidumbre)
05. If You Build a Better Mousetrap
06. When the Roses Bloom Again
07. My Little Cousin
08. Way You Look Tonight
09. I Threw a Kiss in the Ocean
10. We'll Meet Again
11. Full Moon (Noche de Luna)
12. There Won't Be a Shortage of Love
13. You're Easy to Dance With
14. All I Need Is You
15. Why Don't You Do Right?
16. Let's Say a Prayer
17. Freedom Train
18. Keep Me in Mind
19. For Every Man There's a Woman

  知り合う前のカノジョの写真を見せられてあまりの印象の違いにとまどうような、そんな感じ。こんな素朴な娘だったのか。スウィングバンドの時代、バンドシンガーはオマケみたいな扱いだったので、こういうストレートな歌い方でもかまわなかった。主役じゃなかったから、グッドマンを食ってしまうような個性、存在感は不要だったのだ。そんなわけで、38曲も続けて聴くとさすがに単調に感じてしまう。
 それにしても、この時代をリアルタイムでは知らないのに、懐かしいような気がする不思議。ジャズがダンスミュージックだった頃の記録。

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バラードかバラッズか

2009-09-25 | Vocal

Allyson1  コルトレーンのベストセラー“Ballads”を『バラード』と読むのは抵抗がある。教育的見地からも『バラッズ』でないといけない。そして『バラッズ』の好きな人はこのアルバムを聴かないといけない。カリン・アリソンがあの『バラッズ』をそのまま歌っているのだ。8曲全部、順番もそのままで。
 ありそうでなかった企画。仮に思いついたとしても、地味なバラッド集になりゃしないかと二の足を踏んだかも知れない。しかしアリソンは自信があったのだ。バラッドの表現力に不足はない。アレンジやソロイストの変化(サックス奏者が3人!)で飽きずに聴きとおせる、それどころか思わず引き込まれる名作アルバムを完成させた。

Karrin Allyson: Ballads-Remembering John Coltrane
Karrin Allyson, vocals
James Williams, piano/ John Patitucci, bass/ Lewis Nash, drums
Bob berg(2,6) or James Carter(1,4,9), tenor saxes
Steve Wilson, soprano sax(3,8,11)
-Recorded 2000
Concord Records CCD-4950-2

 コルトレーン盤の順番どおりというのは、コルトレーン盤を聴きなじんだ人への配慮であり、アリソン本人がコルトレーン盤を愛聴していたことにもよるのだろう。順番は変えられないのだ。“Say it”の冒頭からすっとそのまま、コルトレーン盤を髣髴させるしっとりした世界が始まる。ていねいで情感のこもった歌唱は大人向けといった印象。バラッド集とはいえミディアムテンポの曲もあるので単調にはならない。アリソンお得意のスキャットがあまり出てこないが、曲が曲だし、アルバムとしての統一感があって落ち着いてじっくり聴ける。

 オマケの3曲はコルトレーン・ファンならニヤリとしそうな選曲。(9)は『ジャイアント・ステップス』から、(10)はケニー・バレルとの共演盤から、(11)は『マイ・フェイヴァリット・シングス』から採られている。それにしても『ナイマ』のヴォーカル・ヴァージョンとは意表をついてくれたものだ。

01. Say it (Over and Over Again)
02. You Don't Know What Love is
03. Too Young to Go Steady
04. All or Nothing at All
05. I Wish I Knew
06. What's New
    07. It's Easy to Remember
08. Nancy (With the Laughing Face)
09. Naima
10. Why was I Born?
11. Ev'rytime We Say Goodbye

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湯檜曽のため息

2009-09-24 | Vocal

Merrill_1 かつての同僚、このアルバムを「湯檜曽」と呼んでいた。もちろんヘレン・メリルと群馬の温泉とは関係がない。人気の『帰ってくれてうれしいわ』(2)の歌い出し、“You'd be so nice to...”のところが「ゆびそ~」と聞こえるというのだ。昔はラジオでもこの曲「ゆびそ」はよくかかっていた。メリルの代表曲だったのだ。いや、今でもそうかも知れない。
 録音は50年以上昔の1954年。しかしわたしらの学生の頃にも(20年ほど経っていたが)このアルバムはジャズヴォーカルの象徴的名盤だったし、今でも一定の人気を保って売れ続けている。メリルにしてみればデビューアルバムが今でも代表作というのは納得がいかないだろう。しかし事実は変えられない。

Helen Merrill
Helen Merrill, vocals
Clifford Brown, trumpet/ Danny Bank, flute, baritone sax & bass clarinet
Jimmy Jones, piano/ Barry Galbraith, guitar
Milt Hinton, bass/ Oscar Pettiford, cello, bass
Osie Johnson or Bobby Donaldson, drums
Quincy Jones, arrangements
-Recorded 1954
EmArcy Records 814 643-2

 はじめて聴いたときの衝撃はよく憶えている。ドキリとするほどのハスキーヴォイス、深い情感、粋なアレンジとクリフォード・ブラウンの抒情的なソロ。初心者でもコロリと虜になるだけの魅力を備えていた。『言い訳しないで』(1)や『ホワッツ・ニュー』(3)など、深夜に灯りを落として聴いていると寂寥感が込み上げてきたりして、自分が失恋したかのように涙が出たものだ(したことあるのか?)。
 もちろん『恋に恋して』(4)とか『スワンダフル』(7)とか、陽気な曲もある。しかし底抜けの明るさはなく、落ち着いた大人の雰囲気で統一されている。その辺もまた、初心者の憧れをくすぐるには最適なのだった。

01. Don't Explain
02. You'd be so Nice to Come Home to
03. What's New
04. Falling in Love with Love
    05. Yesterdays
06. Born to be Blue
07. S'Wonderful

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冒涜のひととき

2009-09-09 | Vocal

Sarah5 Sarah Vaughan: Songs of the Beatles

 2009年9月9日世界同時発売ってぇことで、行列ができましたな。ボジョレぬーぼーではございませんで、ビートルズのリマスター盤と申すもの。知人にビートルマニアがおられるので、もしやとニュース画面を見ておりましたが、お姿は見えませなんだ。
 以前そのお方にコンピレーションCDを作って差し上げて、失敗いたしました。ビートルズの曲をクラシックのオーケストラが演奏したもの、ジャズシンガーが歌ったもの、民族楽器で演奏したものなど、あれこれ集めたアンソロジーでございます。喜んでいただけるかと思いましたら、反応は二文字。

「冒涜」

でございました。ボウフラでなくてボウトクと読みます。で、マニア氏によりますと、ビートルズの曲はビートルズが演奏するからよいのであって、他人が歌ったり、ましてや「勝手にヘンキョク」するなどもってのほか、なのでございました。

 するってぇとナンでございます、わたくしめは冒涜が大好きということに…。ご本人たちのアルバムも(音のよろしくないものを)持っておりますが、何年も聴いたことがございません。ヲリヂナルは一種類しかありませぬが、カヴァーなら何種類も楽しめます。料理人ごとに調理が異なるのでありますから。

 ビートルズは中学生で初めて聴きましたが、第一印象はヘンな音楽でありました。サビから始まったり、長調で始まったと思ったら二小節目から同名短調になってしまったり、4/4拍子の曲が字余りで5/4拍子になったり、5小節単位で書かれていたり…。しかしですな、その「ヘン」が印象に残るのですな。
 編曲するにも少々ヘンなくらいがやりがいがあろうというものです。中にはヘンな編曲でさらにヘンにしてしまおうというヤカラもおりますから、冒涜の極みでございましょう。

 さて、ウチコレの中で最もまともで最も貫禄のあるのが、このサラ・ヴォーンおばさま。名匠マーティ・ペイチさんがご子息のデヴィッド君と組みまして、キレのよいアレンジで有名どころをたっぷり楽しませてくれまする。“Come Together”はR&Bのよう、“I Want You”のバック・コーラス、ブラスの扱いもソウルフルでございます。要するにロックと申しましても黒っぽいのでありますが、バラッドのしっとりしたアレンジもまた格別で。
 メンバーを見ますとギターがリー・リトナーでして、トゥーツ・シールマンスの口笛とハーモニカも聴こえます。サラおばさん余裕しゃくしゃくですが、手を抜いてるわけじゃない。あたしロックンロールもうまいでしょって感じでふわっとリズムに乗るあたり、さすが女王さま。バラッドもさらっと流しますが、“The Long and Winding Road”なんぞはしんみりと泣かせますぞ。

01. Get Back
02. And I Love Her
03. Eleanor Rigby
04. Fool on the Hill
05. You Never Give Me Your Money
06. Come Together
07. I Want You (She's So Heavy)
    08. Blackbird
09. Something
10. Here There and Everywhere
11. The Long and Winding Road
12. Yesterday
13. Hey Jude

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【追悼】クリス・コナー

2009-09-02 | Vocal

Chris_1 Chris Connor sings Lullaby of Birdland
 Chris Connor, vocals
 The Ellis Larkins Trio
 The Vinnie Burke Quartet with Art Madigan*
 Sy Oliver Orchestra+
 -Released in 1955
 Bethlehem Records R2 79851

 8月29日、クリス・コナーが亡くなった。1927年11月8日の生まれなので、81歳だったことになる。スウィングバンド解体の時期にバンドシンガーからソロシンガーへの転向に成功した歌手のひとり。キャリアはかなり長いが、1950年代中ごろから10年ほどの間が最盛期だったと考えていいだろう。
 クリスはひとつの典型だった。白人女性ジャズシンガーはハスキーで小粋でちょいセクシーであるという、ジャズファン暗黙の了解にぴったりの歌手だったのだ。ジューン・クリスティ、アニタ・オデイらと並ぶ人気を誇り、ことにキュートな親しみやすさで愛された。といっても音域は低いほうである。写真は大口を開けているが、シャウトするタイプじゃないので誤解のなきよう。

 このアルバムはクリスの十八番(おはこ)をアルバムタイトルにした『バードランドの子守唄』。ベツレヘムレーベルとしても代表的名盤といえる。いやになるくらい(なるなよ)有名なスタンダードが多いアルバムで、ここいら辺の曲はジャズファンなら九割がたどこかで聞いたことがあるだろう。『バードランド』が人気なのは分かっているが、個人的には『トライ・ア・リトル・テンダネス』がベスト。高校時代にオーティス・レディングの録音を聴き倒すほど聴いていたのに、クリスを知ってからはあっさり乗り換えてしまった。だってこの声でこんな歌い方をされたら、申し訳なかったと思っちゃうでしょうに(心当たりでもあるのか)。
 ゴードン・ジェンキンスの『グッバイ』もお気に入り。この曲は涙なしには聴けないシナトラの絶唱があるわけだが、クリスのさらっとした歌いまわしもけっこう哀しい。これじゃとても立ち去れないよ。

01. Lullaby of Birdland
02. What is there to say?
03. Try a little tenderness
04. Spring is here
05. Why shouldn't I
06. Ask Me+
07. Blue silhouette+
08. Chiquita from Chi-Wah-Wah+
    09. A cottage for sale*
10. How long has this been going on?*
11. Stella by starlight*
12. Gone with the wind*
13. He's coming home*
14. Goodbye*
15. Why shouldn't I (alt. take)

 伴奏はエリス・ラーキンス・トリオ、ヴィニー・バーク・クァルテット+アート・マディガン、サイ・オリヴァー・オーケストラという3種類。ヴィニー・バークのグループはクラリネット(フルート持ち替え)、アコーディオン、ギター、ベースというユニークな編成。お洒落なサポートぶりが素晴らしい。オリヴァーのオケは少々古風だが、クリスのキュートさを際立たせる巧みなアレンジが光る。

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