ホルストの東洋趣味

2009-11-21 | Classical

《閉鎖ブログ『歩きながら話そう』より転載（大幅改変）》

　グスターヴ・ホルストの『サーヴィトリー』は『マハーバーラタ』の一挿話『サーヴィトリー物語』による。サーヴィトリーはあと一年の命と予言された王子サティヤヴァット（オペラではサティヤヴァーン）を、それを承知で夫に選ぶ。王子は森に追放されていたため二人は森の中で一年を過ごすが、一年後、予言の通り死の神ヤマ（日本の閻魔に相当）が訪れ、夫を連れ去ろうとする。サーヴィトリーはみずからの能力、知力の限りを尽くして死の神とわたりあい、ついに夫を取り戻す。

　森の夕暮れ、姿なき死の神がサーヴィトリーに呼びかけるシーンから始まり、神がサーヴィトリーを称えて去っていくまでの間、音楽は大きな高揚を見せずに推移する。音楽のついた対話劇といった趣だ。旋律や旋法がインドふうに書かれているわけではなく、英国に多い標準的な室内オペラと思っていい。
　写真のヒコックス盤ではメゾのフェリシティ・パーマーがサーヴィトリー、テノールのフィリップ・ラングリッジがサティヤヴァーン、バスのスティーヴン・ヴァーコーが死の神を歌う。ヴァーコーがあんまり怖くないが、パーマーの熱唱が夫を救おうとするヒロインのひたむきさを充分に表現している。控えめに書かれている管弦楽もヒコックスの細やかな気配りによって魅力的に響く。

　ホルストは東洋思想への興味が強く、インドに関連する作品もいくつか発表している。サンスクリットにも通じており、『サーヴィトリー』のリブレットはみずから書いたものだ。ヒンドゥーの大叙事詩に取材したこの作品は、ホルストのインド研究の成果として高く評価されているという。

Gustav Holst: Savitri, The Dream-City
1. Savitri, Op,25
2. The Dream-City*
Felicity Palmer, mezzo soprano
Philip Langridge, tenor
Stephen Varcoe, bass
The Richard Hickox Singers
Patrizia Kwella, soprano*
City of London Sinfonia/ Richard Hickox
-Recorded 1983
Hyperion Records CDA66099

　ホルストには7つのオペラがあるが、録音が手に入るのは他に『放浪学者（The Wandering Scholar）』だけらしい。『完璧なアホ（The Perfect Fool）』は舞曲のみが組曲として演奏される。序曲は『フーガ風序曲』として独立して演奏され、こっちはそこそこ録音がある。
　東洋趣味の作品では東洋的組曲『ベニ・モラ』、『リグ・ヴェーダによる合唱讃歌』、『二つの東方絵画』などが知られている。バレエ音楽『日本組曲』というのもあるのだが、聴いたことがない。

　オペラが30分ほどで終わってしまうので、このアルバムにはオーケストラ伴奏の歌曲が収められている。『12の歌作品48』から10曲を選び、コリン・マシューズがオーケストレーションを施したもの。独唱はソプラノのパトリツィア・クヴェラ。幻想的な内容でなかなか魅力的な曲集だ。

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