今日は大村勤務最終日。
あー・・・3年通った大村も最後か・・・
今日は何だか風景が違うな・・・
いつもと同じ風景に、いつもとは違う感覚を抱きながら、
通勤路を走る。
突然、後方からのエキゾーストに体が反応する。
「きた・・・ヤツだ」
イエローカラーの
GG3S。
バックミラーを覗くと、そいつはいつもの様に俺を目掛けて
突進してくる。
こちらも、いきなりフルスロットル。
既に後方50mに迫ったGG3Sとの
「いつも通りの朝のバトル」は、幕を明けた。
最初のコーナーに差し掛かる。
ここが一つ目の(勝敗の分かれ道)だ。
「さぁ、ライトか、レフトか・・・どっちだ
・・・・ライトだぁぁぁ!!」
右車線に陣を取り、クリッピングポイント目掛けて
コーナーを刺す。
と、目の前にバスがぁぁぁ!!!
「そうだ・・今日は金曜日。この時間ならライトはダメだ!」
時計を見ると、0802時を指している。
金曜のこの時間は、いつも長○付属高の通学バスが居るのだ。
何て初歩的なセレクトミスだろう。
しかし、ヤツは黙っちゃいない。
こちらがライトに陣を取るラインを刺した時点で、
ヤツはレフトのクリッピングポイントを刺していた。
バスの時速は、およそ40km/hくらいか。
頭を抑えられたハンマーヘッドの隙をついて、
GG3Sが、猛然と加速を開始する。
「ヤバイぃぃぃ!やられるぅぅぅ!!」
GG3Sは、
「判断ミスしたな。プッ・・」と言いたげに、
俺の前に出た。
俺もすかさず、後を追う。
そして爆走する二台は、二つ目のポイントに差し掛かる。
ブラインドコーナーが連続する難解なポイントだ。
片側2車線のこの道路では、ライトに陣を取るか、
レフトに陣を取るか、で勝敗を左右する。
最初のブラインドコーナー。
俺はライトに陣を取り直し、GG3Sを追う。
二台の車間は、20m程に詰まっている。
そのままコーナーを刺す二台。
「ぬぉぉぉぉ!右折野朗が居るぅぅぅ!!」
またもや頭を押さえられるハンマーヘッド。
二台の車間が50mほどにひらく。
工業団地内は、ブラインドコーナーの連続と、
右折左折車の連発だ。
その中を二台は、予測と経験で全開する。
コーナーの先に見える僅かなコーナー先の状況を伝えるサイン。
その一つでも見逃せば、
勝利の女神は去ってしまうのだ。
そして二台は、50mほどの車間を保ったまま、
高速道路へ。
二台ともETCを装備していないので、
高速チケットを取るのも、タイムが絡んでいる。
ブレーキペダルを使わずに、
アクセルに足を乗せた状態で、ローギアに叩き込み減速する。
そしてチケットをゲット。
そのままアクセル全開。
二台の車間は、30mほどに縮まった。
高速に入ると、二台とも○50km/hほどで走るのが、
暗黙の了解だ。
馬力ではこちらが有利だが、
馬力で勝って、何の誇りになるだろう。
ドラテクと戦術で勝つ、これこそ俺達が求める名誉なのだ。
そして物語は、最終章へ。
最後のポイント、「高速料金所」だ。
この料金所を越えた十字路が、俺達の終着駅なんだ。
料金所はいつも通り、2つのゲートが開いている。
「さぁ、どっちだ?!ライトか?!レフトか?!
ん?・・・俺は、ライトだぁぁぁ!!」
幸運にもヤツはレフトに向かう。
その瞬間、俺は自分の勝利を確信した・・・・
その先は、言うに及ばない。
俺はヤツを差し置いて、ゲートを潜り、勝利を手にしたのだ。
ライト側のゲートで待つ前車が、(長崎ナンバー)で、
レフト側のゲートで待つ前車が、(福岡ナンバー)だった。
(福岡ナンバー)のクルマは、ミニバンで商用車には見えなかった。
現金で精算するであろうその前車は、精算額が、3000円を越えるだろう。
(長崎ナンバー)のクルマは、商用車で、
出島から高速に乗っていたとしても、精算額は多くて1000円。
しかもハイウェイカードを使う可能性が高く、
精算はミニバンよりも、スマートだと踏んだのだ。
そして、俺の最後のバトルは終わった。
the battle is over
料金所で前車に頭を取られたGG3Sが、バックミラーに写る。
「最後はお前にくれてやるよ!」とでも言いたげな、その視線。
朝の日差しは、一段と照りつけている。
バックミラーに写るGG3Sのイエローは、
太陽の光に反射して、まるで陽だまりの中で風に揺れる
黄色のハンカチのようだ。
幸運なハンカチが、舞い踊る中、
俺は再びアクセルに力を入れていった・・・