見出し画像

SWAN日記 ~杜の小径~

月イチ企画SS《7月》◆サクランボ◆

ベルばら/月イチ企画SS《7月》◆サクランボ◆

*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*・*:.。..。.:*

えぇと。
7月の月イチSS、三が日に向けて別のお話を書き進めていたのですが、なかなか内容的に進行しないので一旦ストップ、明るいSSにしようと新しく季節モノで書き始めたら、何だか妙な着地点で仕上がりました。
このオスカルとアンドレは既に両想いの設定です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

◆◆◆サクランボ◆◆◆

オスカルとアンドレが子どもの頃から楽しみにしている季節。
6月あたりからフランス南西部の地域では果物の旬が多く《サクランボ》もその一つだった。
ジャルジェ家の長女マリー・アンヌの嫁ぎ先である公爵家の領地がフランス南西部の村にあり、毎年6月下旬〜7月初旬に大量のサクランボ (チェリー) がジャルジェ家にも届けられていた。
そしてノエル前にはチェリーのリキュール…チェリーブランデーが送られてくる。
オスカルが大人になるにつれ、届くリキュールの量も増えていた。
酒類は底なしのオスカルの為ともいえるが、豊作と聞いた年は楽しみにしていた。

夜。
毎夜の習慣でトレイを持ったアンドレがオスカルの部屋にやって来た。
トレイを見て長椅子に座っていたオスカルは口元に笑みを浮かべる。
「今年はマリー・アンヌ姉上の領地も豊作らしいな」
「うん。昨日たくさん届いたって、おばあちゃんが言ってた。…ということで、今夜のデザートはサクランボのブランデー漬け。昨日の晩から漬けておいたんだ。あとは食べ頃のサクランボを少々と…ワインを持って来た」
「ふふ。気が利くな」
オスカルに指で手招きされ、アンドレもオスカルの隣に座った。
この時季の好物を用意してくれたアンドレを見上げてオスカルは嬉しそうに笑う。
グラスにワインを注ぐアンドレを見ながらオスカルは言った。
「なぁ…アンドレ。チェリーブランデーとチェリーリキュール…どちらが正しいんだ?」
「ん〜。製法はブランデーの工程とは違うみたいで、リキュール寄り?なのかな。果実系のリキュールに分類されるみたいだけど、ベースにブランデーを使用することが多いから一般的にはチェリーブランデーで通ってるらしいね。サクランボをベースになる蒸溜酒で漬け込んで、シナモン他の香辛料と糖類を加えて作る製法みたいだけれど、マリー・アンヌ様の領地では加える香辛料にこだわりがあるのかもしれないね」
「うん。他のものよりも美味だからな。…そうか、リキュール系ではあるがチェリーブランデーとして世間では浸透しているということか。アンドレ詳しいな」
「あぁ…昨年のノエルの時期にオスカルの姉上様達ご家族がジャルジェ家にいらっしゃった時に、マリー・アンヌ様のお屋敷の従者の一人に聞いたんだよ。果実類やサクランボの産地である領地の自信作だと言っていた。公爵家の待遇も良いから生活しやすいらしい」
「…ん…。マリー・アンヌ姉上の領地の銘柄はベルサイユでも人気があるようだし、毎年送っていただけるのは嬉しいな。ジャルジェ家の領地アラスも良いところだが、姉上の領地も羨ましい限りだ」
「毎年この時季になると羨ましいって言ってるね。オスカルが十代の頃、公爵とマリー・アンヌ様の領地をベタ褒めしたもんだから、毎年恒例で豊作の年はドッサリ送られてきてるし、その結果子どもの頃からアルコール類に鍛えられたジャルジェ家の末のお嬢様は底なしに強くなった?」
「ふん。言ってろ」
「オレも一緒に鍛えられたけどね」
二人で顔を見合わせてクスクスと笑う。
「子どもの頃から公爵家の領地が羨ましくてベタ褒めしていたら『何かの時には貴女に領地を任せても良い』と主人も言ってるわよ…と姉上に笑われたんだぞ」
「うん、覚えているよ。公爵家にはボルドー付近の領地もあるからね…という公爵の言葉に、これ以上酒が底なしに強くなったらどうするんだと旦那様や奥様にも笑われていた」
「そうだ。あの時は晩餐の席でマリー・アンヌ姉上は腹を抱えて大笑いしていたんだ。まったく失礼な」
フンと鼻で笑うお嬢様の額にそっと口付けるとアンドレは微笑む。
「そんな底なしのお嬢様でも愛しているよ」
「ふふ。お前だってザルに近いじゃないか」
「従僕たるもの我が主より先に潰れるワケにはいかないからね」
またクスクスと笑い合う。
コトリとアンドレの肩に頭を預けてオスカルは言った。
「あぁ…そうだアンドレ。今年は例年よりも沢山送っていただいたから…明日、衛兵隊の厨房に差し入れ出来るか?昼食に添えてもらえれば皆んなで食べられるし…」
「そうだね。お屋敷で食べるにも限界があるし。傷んでしまったら勿体ないっておばあちゃんも言ってたんだ。この時季の旬だし、衛兵隊の厨房に差し入れなら奥様もおばあちゃんも喜んでくれると思う。朝イチにおばあちゃんと厨房に確認して、明日にでも持って行けるようにしようか?」
「うん。そうしてもらえると嬉しい」

オスカルはブランデー漬けされたサクランボを一つ口に含み、ニッコリと笑う。
「うん。やはり美味だな」
小皿に種を出し、オスカルは懐かしそうに口元に笑みを浮かべた。
「お?懐かしね」
口をモゴモゴしているオスカルを見て、アンドレも笑いながらサクランボを口に含んだ。
今年豊作なのであれば、12月に届くチェリーブランデーも楽しみになる。
チェリーブランデーはストレートは勿論、カクテルや菓子類、デザートにも相性が良いため、オスカルのお気に入りだった。
子どもの頃はノエル近くになるとチェリーブランデーを使った菓子やデザートを楽しみにしていたオスカルは歳を重ねる毎に多彩な酒類を楽しむようになり…底なしになった。
一緒に付き合わされたアンドレも酒に強くなったのは言うまでもない。
オスカルとアンドレはワインとサクランボ2種を味わいながら楽しんだのだった。

翌朝。
木箱にドッサリ入ったサクランボを馬車の荷台に積み込み、二人は衛兵隊に向かった。
兵舎に到着するとアンドレは木箱を担いでオスカルに告げる。
「オスカル、ちょっと厨房に声かけてサクランボを届けてくるから、先に行っててくれるかい」
「うん。わかった。上手く伝えておいてくれ」
「了解」
アンドレの背中を見送ったオスカルは司令官室に向かった。

迎えた昼休みの食堂は賑やかだった。
オスカルの昼食を用意するため食堂に入ったアンドレにアランから声がかかる。
「よぅアンドレ!サクランボの差し入れ、隊長の屋敷からだって?」
「うん。オスカルの姉上の領地で豊作だったらしくて沢山届いたから、オスカルの案で衛兵隊にお裾分けだよ」
「流石に旬の果実は美味いねぇ。この手の酒も美味そうだな」
こいつオスカルと同じ趣向か?と思いながらもアンドレは口元で笑う。
「アンドレ!甘くて美味しいよ。隊長にお礼言っておいてね」
食後にサクランボを頬張るフランソワに続いて兵士達もウンウンと頷いている。

司令官室に昼食のトレイを持って戻ったアンドレは笑いながらオスカルに告げる。
「サクランボ、好評で皆んな喜んでいたよ。アランやフランソワをはじめ他の兵士達もオスカルに礼を伝えてくれって。新鮮な旬で食べ頃だからね」
「ふふ。それは良かった」
「おれも食堂で昼飯にしてくるよ。天気も良いから食後は中庭にでも出てみるかい?」
「…そうだな。少し寛いでこようか」
頷くオスカルを見て、アンドレは笑みを浮かべて司令官室をあとにした。

昼食後。
オスカルとアンドレは中庭に来ていた。
アラン達が何やら楽しそうに談笑している姿が見える。
一緒に居るのはフランソワとジャン。
3人は木陰に座り込んでいて、アランの手にはサクランボが入った袋。
背後にいるオスカルとアンドレに気づかず、3人とも何かに夢中になっているようである。
「これ難しいよね」
「こ…っコツがあるのかな?」
「コレが出来る奴なんてぇのは器用だから舌技も上手いんだろうさ」
「アラン、何で下ネタにいくのさ。せっかく隊長のお屋敷から貰った美味しいサクランボなのに」
「美味いものは最後まで楽しまなきゃ損だろ。これ、アンドレと隊長、上手かったりしてな」
「えぇ?まさか〜」
「ア…アンドレって上手く出来そうな気がする、けど…」

「ほぅ?私たちが出来そうって何だ?」
背後からの声に3人は驚いた。
「…で?私よりアンドレの方が上手そうなのか?」
興味津々にオスカルは首を傾げている。
また、しょ〜もない話をしていたのだろうとアンドレは想像できるが、天然気質のオスカルが気付く筈も無い。
〜と、アンドレはオスカルの背後で苦笑いをする。
「えっ…あのっ、隊長!サクランボ美味しくいただきました!」
「ご…っご馳走さまですっ」
慌てるフランソワとジャンを横目にアランは唇の端を上げて笑う。
「いやね、サクランボの枝を口の中で結ぶ…っていう遊び。食堂でも一部の兵士達で盛り上がってたようだが誰も成功しなくてさ。器用なアンドレなら出来そうかとね」
「ん?そんなコトか?アンドレは子どもの頃から得意だぞ?」
「「「は?」」」
3人はアンドレを見る。
「…オスカルも出来るけどね」
マジで!?
アンドレの言葉に3人はアングリと口を開いた。

「昨夜も作って遊んだぞ。な?」
オスカルはアンドレを見る。
「…遊ぶというか、毎年この時期になると食後のクセみたいなものだろう?」
「クセか。確かに無意識にやっているな」
口元で笑うオスカルを見上げてフランソワが声をかけた。
「何で隊長とアンドレ出来るんですか?」
興味深々らしいのフランソワの言葉にオスカルは肩を竦めながら笑う。
「アンドレの故郷は南フランスの村で…庭にサクランボの樹があるのも当たり前らしくてね。屋敷に送られてくるサクランボも姉上の嫁ぎ先の領地がフランス南西部にあるからで…毎年楽しみにしているのだが、アンドレは子どもの頃から上手かったな。アンドレの故郷の子ども達は皆んな出来るようで…わたしも練習して出来るようになったんだ」
へ〜…と頷くフランソワとジャンの隣でアランは呆れ声で言った。
「…練習ね。アンタの場合、負けず嫌いの本領発揮っぼいけどな」
「当たり前だ」
即答するオスカルと隣でお手上げポーズをとるアンドレにフランソワとジャンも大笑いする。
「隊長とアンドレ、面白すぎです。ね、アンドレ。やってみてよ?」
「え?いま?」
首を傾げたアンドレの手にアランはサクランボを一つ手渡した。
「じゃあ…」
〜と、先ずはサクランボの実を食べたアンドレは片手に種を出し、枝を口に入れてモゴモゴした後で。
「こんな感じ? 」
指で持った枝を見せる。
指先には丸く結ばれた枝。
「すごいアンドレ!」
「ア…アンドレは何やっても器用そうだ。た…っ隊長のも見たいかも」
「わたしもか?」
口元で笑うオスカルはアランからサクランボを一つ受け取り、アンドレと同じく口をモゴモゴさせた後。
「ほら」
オスカルの指先には結ばれた枝。
「隊長すごいです!」
感動しているらしいフランソワとジャンにオスカルも呆れ笑いの表情をする。
「そんなに凄いことでも無いと思うが…」
「うん。おれの故郷の村では出来る子どもも多かったから当時は普通かと思ってた」
「普通、ハイハイと出来るような事じゃ無えだろ」
「…アランに褒めらると変な気分だが…珍しく褒められたお礼にブランデー漬けチェリーを味見してみるか?」
「ブランデー漬け?」
アランはニヤリと笑う。
アンドレはポケットから小さな硝子ケースを出した。
蓋を開けた中にはブランデー漬けのサクランボが6つ。
ブランデーと果実の香りが辺りに漂う。
「わたしの好物だ。昼食後のデザートにアンドレが持ってきてくれていて…中庭で食べようと思っていてね。兵舎はアルコール禁止だが…これはデザートだからな。他の兵士には内緒だぞ」
「はいはい《秘密》っすね。良いねぇ…この響き。隊長自らブランデー漬け持参とは」
「アラン。デザートだと言っただろう」
デザートだと主張するオスカルの隣でアンドレは硝子ケースを差し出すと、アランは一つを口に含んだ。
芳醇なブランデーの香りが上品に口中に広がる。
果実もしっとりとして、しっかり漬け込みされていた。
「美味いな。こんなので子どもの頃から鍛えてりゃザルにもなるわな」
味わうアランと隣でフランソワとジャンもブランデー漬けチェリーを口に含んだ。
「お…美味しい。初めて食べた」
「うん。これだけで酔いそう」
3人の様子に満足したらしいオスカルも一つ口に含んで微笑む。
「うん。やはり美味だな」
アンドレも一つ口に含んで、最後の一つをオスカルに手渡した。
「他の兵士達には内緒だからな」
ニヤリと笑うオスカルにアランとフランソワも口元に笑みを浮かべて頷いた。
「…ところで。」
「おいオスカル」
疑問を聞く体勢に入ったオスカルをアンドレが静かに制御しようとしたが無理だった。
「…先程の3人が話していた舌技って何の事だ?」
ずっと気になっていたらしいオスカルの疑問に男達は噎せそうになる。

「隊長…アンタね」
「…何だ?」
「天然もいいコトだが、下ネタにまで耳を傾けるんじゃ無えよ」
「…アラン、もう止めてくれ」
困り顔のアンドレの言葉は無視してアランは続けた。
「舌先が器用ならば夜の営みの舌技も上手いのだろうという不世話な話っすよ。〜で、アンドレは上手いだろうとね」
一瞬意味が解らず、目をパチパチさせたオスカルもアランの言葉を頭の中で理解した途端、真っ赤になって動揺していた。
『言っちゃったよ』という言葉は飲み込んで、フランソワとジャンも口をパクパクさせている。
〜自ら地雷を踏んでしまったお嬢様を助けるべく、アンドレはフランソワとジャンの肩にポンと手を置き。
「おれの故郷の村では子どもの頃から出来る奴が多いって言っただろう?」
そろそろ昼休みも終わりだぞ、と告げた。

顔を朱色に染めたオスカルは踵を返し、兵舎に向かって歩き出した。
「ご馳走さん。ある意味、アンタら最強カップルだな」
オスカルの背中に向かって声を上げたアランは、後を追おうとするアンドレの耳元で囁く。
「…ったく隊長は判りやすいよな。あれじゃ肯定してるようなモンだろ。お前さんの役目だ、上手くご機嫌を直しておいてくれ。ま、仲がイイのは良いこった」
2人の仲を感づいているらしいアランの肩にアンドレはグーで軽くパンチして、オスカルを追って走り出したのだった。

◇◇◇

そして時は流れ。
1794年夏。フランス南西部の村。
5年前の夏、フランス衛兵隊として出動した2人は相次いで銃弾に倒れ瀕死の重傷であったが密かに生き延びていた。
ベルナールとアランが流した死亡説が浸透していた為、2人の生存を知るのは極一部。
公爵家の領地を引き継いだオスカルとアンドレは療養しながら新たな生活をおくっていたのだった。

◆ おわり ◆
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ベルばら/二次創作SS」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事