見出し画像

SWAN日記 ~杜の小径~

◆ ベルばらSS ◆ 〜密会②〜


✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

密会②です。
〜その後のお話。
懲りずにジェローデルも絡んでマスヽ(´▽`)/

✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

◆ ベルばらSS ◆ 〜密会②〜

オスカルの部屋。
ショコラを飲みながら二人は長椅子で寛ぐ。
オスカルはアンドレの肩にもたれかかった。
これもオスカルの甘え方だ。
アンドレも肩を抱き寄せ、指でオスカルの髪を優しく梳く。
「…そういえば……以前ジェローデルが…」
オスカルは何かを思い出したように呟いた。
〜が、言いかけて口を噤む。
愛するアンドレとのひと時、会話にジェローデルの名を出してしまったことに一人落ち込む。
アンドレがジェローデルを避けているのは側から見ていても判る程だったのだ。

「うん?なに?」
肩を抱いていた手を髪に移し優しく梳く。
俯くオスカルの顔を覗き込み、アンドレは気にしない様子で微笑んだ。
「ジェローデルの話をして嫌ではないのか?」
「ん〜…もう大丈夫かな」
オスカルが近衛にいた頃から近くにいた男だし、性格なども把握している。
今でも彼女を大切に想っているのも判る。
根は悪くない奴なのだ。
長い片想いをしていた頃の…オスカルとジェローデルが婚約中のアンドレ自身であれば、心は辛く殺気立っていただろう。
でも、今はオスカルと想いが通じたことで心に余裕が持てるようになったのだろうと思う。
「いまはオスカルと想いが通じて、こんな風に一緒に過ごせる時間が持てているから……、以前より心の余裕が少し持てるようになったなのかな。ジェローデル少佐もフェルゼン伯も…アランもだけどオスカルを大切に想っているのは判るから」
「…うん…」
オスカルは頷いた。
ジェローデルもフェルゼンもアランも、わたし達が恋人となったと知った上で黙認し、今まで通りに接してくれている。

「〜で?少佐からグライウルの花を貰ったことがあるけど、スルーしてしまった?」
アンドレは苦笑する。
「知らなかったんだ!ジェローデルがジャルジェ家の晩餐に来ていた頃、いつもは薔薇を持って来てくれていたが、一度だけ違う花があったんだ。珍しいな?と思ったから覚えてた。今思えばグライウルだった…」
〜って、オスカルらしい顛末だけど。
色恋に疎くて未熟なオスカルに《恋の駆け引き》なんて難しいだろうし、密会の合図など気付く筈も無い。
少佐とてオスカルの天然気質は解っているだろうに…何事も無かったようにスルーされたであろう彼に同情もしたくなる。
「何色のグライウルだったのかな?いくつ花を咲かせていたんだろうね」
「…白とピンクだったのは覚えている。今夜は庭園で涼むのに気持ち良い夜風ですとか言っていたような……」
《密会》と《たゆまぬ努力・ひたむきな愛》か。
ジェローデルらしい。
密会の場所は庭園、花の数で時刻も伝えていただろうに。
「わたしは知らなかったし…晩餐後は部屋に篭って一人でワインボトルを一本空けて爆睡した。珍しく早く帰宅できた日だったし疲れていたから」
あの頃はアンドレも夜は外出していたようだったし、誰も制御する人間がいなければワイン一本くらい空けてしまう。
「あぁ…オスカルの飲酒の量が多いって侍女もおばあちゃんも心配していた頃だ」
「今は少ないだろう!」
ムキになるオスカルの髪を梳ながら「ゴメン。オレも居なかったから」とアンドレは謝る。自分も屋敷から外出してアラン達と飲みに行っていた時期だったからオスカルを制御する人間がいなかったのだ。
「うん。今は適量に飲んでると思うよ。オスカルの適量だから微妙だけどね」
オスカルには適量でも平均以上だ。
「微妙とは何だ」
頬をふくらませたオスカルは笑うアンドレの肩にグリグリと頭を押し付けた。
ふいにオスカルが動きを止めた。
「よし。ジェローデルにも仕掛けてみようか」
「あぁ?おいオスカル」
本気でしょうか お嬢様。
唇の端を上げて笑うオスカルをみる。
この表情をするときは本気も本気。
面白いことを思いついた時のオスカルの癖だ。
「来週、ジェローデルを含めた近衛の部下を晩餐に招待すると父上が言っていたのだ。早めに帰宅できるなら同席をと言われている。昇格した者がいるのであろうな」
「旦那様のご意向なら、晩餐の同席は判るけど…晩餐後にジェローデルに会う?」
アンドレ自身、顔が不貞腐れているのが判る。
気にしないとは言っても内心落ち着かない。
ジェローデルもオスカルを傷つけるような言動はしないし、紳士的な振る舞いは崩さない男だと判っていても…だ。
「ん〜…あの晩の事をとりあえず謝っておこうかと。ジェローデルにすっぽかされたらわたしも少し落ち込みそうだな」
「アイツがすっぽかすなんて考えられないけど」
少々不貞腐れ気味の恋人にオスカルは『ただ謝りたいだけだ』とアンドレの首筋に顔を埋める。
以前のアンドレはオスカルに判るような不貞腐れた言動は滅多になかったのに、想いが通じて二人だけの時には判りやすくなった。
それがオスカルには嬉しく思える。
従者としての仮面を徹底するのは公の場だけであってほしい。
「夜涼み、お前も一緒に来るか?」
オスカルの『来るか?』は『来い』ということだ。
「良いのか?」
「……アランがいうところの番犬?腰巾着?だったか。心配性で過保護すぎな恋人だからな」
「オスカルに対してだけだよ。これはおれの特権だから誰にも譲れない」
アンドレはオスカルの唇に口付けたのだった。

翌週の夜。
近衛のジェローデルを含めた三名がジャルジェ家の晩餐に招かれていた。
ジェローデルを始め二名の元部下達もオスカルの同席を喜んだ。
近衛隊や衛兵隊の様子などを話しているとジョルジェットがクスクス笑い出す。
「レニエもオスカルも…職務の話になると時間を忘れてしまうのかしら。近衛の皆様もオスカルとお会いするのは久方ぶりでしょうから仕方ないのかもしれませんね」
ジャルジェ当主夫妻を始め、招待された近衛の者達もオスカルが求婚を募る舞踏会をブチ壊したのも記憶に新しいため心配はしていたものの、当のオスカルとジェローデルは割り切っているのか笑顔も絶えず会話を楽しんでいる。
安心できると自然と会話も弾んだ。
微笑むジョルジェットの言葉に招待客達も苦笑いをしながら頭を掻くも、和やかな晩餐を楽しんだ。

ジョルジェットもジェローデル少佐が婚約は白紙にしたいと申し出た経緯はレニエから聞いている。
その後、オスカルとアンドレの雰囲気に変化が出たのも母親ゆえ直ぐに気が付いた。
オスカルは和やかな空気を纏い、アンドレの表情から険が無くなった。
この二人の為にジェローデル少佐は身を引いたのだろうと判った。
おそらくレニエも気づいているのだろう。
家の為、わたくしの為とはいえ、オスカルの性を捻じ曲げてしまったことにレニエも後悔しているのだ。フランスの現状をみれば末娘が心配になる。
結婚話も末娘を安全な巣へ逃そうと急ぎ過ぎてしまっただけ……レニエの親心を否定は出来ない。
オスカルは次期当主として教育されてきたといえど、わたくしにとっては末娘。
娘の幸せを願わない親などいない。
わたくし同様、ジェローデル少佐も二人を見守ってくれているのだろうと思うと安心感も大きい…とジョルジェットは微笑み、食後のデザートを味わっていた。

晩餐が終わったのは夜も遅い時刻。
近衛の者達も帰宅の準備を済ませ、玄関ホールにいた。
「あ、そうだジェローデル。来月の会議の事なのだが…少し良いか?」
玄関ホールに見送りに来ていたオスカルはジェローデルを手招きする。
「はい?何でしょう?」
ジェローデルは部下達を見送り、オスカルに続いて廊下に向かった。
オスカルに続いて玄関ホール脇の部屋に入ると、クルリと振り返った彼女はテーブルに置いてあった花束を持ち、ジェローデルの胸に押し付けた。
「夜の涼みに一杯付き合え!」
「……はい?」
一瞬、目をパチクリさせたジェローデルも直ぐに理解し、満面の笑みを浮かべた。
「お誘い有難うございます」
三本の白いグライウルの花は計11である。
置時計を確認すれば10分前。
部屋を出るオスカルは言った。
「好みのワインはあるか?」
「貴女にお任せいたします」
ジェローデルの言葉にオスカルは笑って頷いた。

夜の庭園。
ジェローデルもジャルジェ家の晩餐に招かれていた頃、帰宅が遅く滅多に同席しないオスカルに申し訳ないとジャルジェ夫人のお誘いで庭園を良く散歩していた。
ジャルジェ家の庭園、中ほどにあるテーブルと椅子がある場所もわかっている。
玄関ホールにいたジャルジェ夫人に「少し帰宅が遅くなります」と告げ、一旦部屋に戻ったジェローデルはグライウルを持って庭に出て行った。
ジョルジェットは微笑みジェローデルを見送った。
ジェローデル少佐も信用できる人物であるし、オスカルの側にはアンドレもいるだろうから心配も無い。
最近、庭のグライウルの花が茎から摘まれていると思っていたが、オスカルであったのかと判ると口元も綻んだ。

今夜は月明かりも優しく庭園を照らす。
ジェローデルが庭の中央に向かうと、テーブルのランタンに照らされた二つの人影が見えた。
一人は座り、一人は立っている。
夜の涼み……場所は庭園だ。
三本のグライウルは《三人》の意味合い。
「マドモアゼル、お待たせいたしました」
グライウルを抱えたジェローデルは優雅にお辞儀をする。
「その呼び方はやめろ」
「では…オスカル嬢、美しい月夜にお誘いを有難うございます」
「まったく懲りない奴だな」
呆れるオスカルにジェローデルも笑って頷いた。
オスカルに促され、ジェローデルも椅子に座ると脇に立っていたアンドレが二人にワインを注いでゆく。
「やはりジェローデルは直ぐに気づいたな」
「…はい?」
「グライウル。以前一度だけジェローデルから手渡されたが何も知らなくてな。あの時のことを謝ろうかと思って」
「あぁ…お気にならさないでください」
「いや、あの時ジェローデルは何か話があったのだろうかと気になったんだ」
あぁ…とジェローデルは微笑む。
「あの夜の二日後に貴女から呼び出されました。わたしくしがお話しようと思っていたことはその時に確認できたのです」
首を傾げるアンドレに口元に笑みを浮かべるジェローデル。
ワインを飲んでいたオスカルは咽せそうになりながらソッポを向いた。
「オスカル!?」
「大丈夫ですか?」
顔が赤らむのが判る。
あの時のジェローデル言葉……、そして暴徒に襲われ助けてもらったフェルゼンに発した言葉でアンドレへの想いを確信できたオスカルであるが、目の前で言われると少々恥ずかしい。
大丈夫だとウンウンと頷きながら、またグラスを口につけた。
「そ…そうか。あの時は何も知らなくて申し訳なかった」
瞳を閉じるオスカルをみて、またジェローデルは微笑む。
「お知りにならなかったのですから仕方ありません。今宵はお誘いいただき大変嬉しいです。彼に教えてもらったのでしょうか?」
「…うん。知らなかったとはいえ〝スルーしたのか〟とアンドレに呆れられてだな……。白色のグライウルは『密会』の意味合いがあるらしいが三人でも密会になるのか?」
「ええ。充分に密会だと思いますが…」
ジェローデルのグラスにワインを注ぐアンドレも頷いている。
「貴女の可愛らしい素の表情も拝見できて有意義な夜ですね」
「おい、可愛いとは何だ…ッ」
頬を膨らませるオスカルをみて、ジェローデルはクスリと笑う。
頬を染めて顔を背けたり、頬を膨らませたり、ムキになる彼女も可愛らしく見えるが本人は自覚もないのだろうと思う。
彼女が心ごと身を委ねて安心できるのは隣に立つ男である。
それでも。
二人の関係を知りつつ見守る愛を誓って身を引いた自分の前でもリラックスしているからこそ垣間見ることが出来る彼女の一面。
秘密を共有している者としては三人でも密会に値する。
「ここにアンドレ・グランディエもいるからでしょうね」
「ジェローデル少佐もいらっしゃるからだと思いますが……」
二人揃って肩を竦めて笑った。
「二人揃って何がおかしいんだ!」
また膨れるオスカルを見て二人は微笑む。
アンドレはオスカルのグラスにワインを注いだ。
「ほらオスカル」
ふん!とオスカルはワインを一気に飲み干し、おかわりを要求する。
行儀が悪いぞ、と苦笑しながらオスカルに小言を言ったアンドレはジェローデルのグラスにワインを注ぎながら言う。
「おそらくオスカルは無意識です」
「そうでしょうね」
頷きながら、ジェローデルは言葉を続けた。
「オスカル嬢。また、わたくしからグライウルをお贈りしても宜しいでしょうか?」
「またか!?」
お前って本当に懲りない奴だな…と呆れ顔で呟いた。
「最近、諸国の酒を収集しておりましてね」
ジェローデルの言葉にオスカルの瞳が輝く。
そんなオスカルにアンドレは呆れ顔になり、ジェローデルも笑いだす。
月明かりとランタンに照らされながら、三人は夜涼みの密会を楽しんだのだった。

◆おわり◆

〜お読みいただき有難うございました〜

✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ベルばら/二次創作SS」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事