真夜中に、雨が窓を叩く音で、目が覚めた。雨の夜は、ちょっと寂しい。
また姿が見えるようになってから、サンディはなるべく私の傍に居てくれたけれど、どうしても彼女が留守にしなくてはならない時で、リッカたちも夜番で部屋に一人きり。そんな雨の夜は、なおさら寂しかった。星空を見上げることすらできなかったから。だからそんな夜は、無理やりみんなのお手伝いに行ったりして、ちゃんと寝なきゃダメとよく叱られた。
今日もサンディは留守で、みんな夜番。でも。この頃は、前と違う。
同じ部屋の少し離れたベッドで、イザヤール様が眠っている。
従業員価格で泊めてもらっている私たちが、部屋をいくつも使ってしまうのは悪いから、私たちは同じパーティメンバーとして、ひとつの部屋を共同で使っている。冒険者には、よくあること。
お互い着替えるときとかは場を外すし、私とイザヤール様は元師弟で、ひとつの部屋に居ることに慣れているから・・・何も、問題ない。・・・大丈夫。・・・ドキドキしているのは私だけで、イザヤール様はなんとも思っていないんだから・・・。だからこそ、一緒の部屋にこうして居られるんだから・・・。
こんなふうに夜中に目を覚ましてしまっても、同じ部屋にイザヤール様が居てくれる。それがとっても幸せなの。・・・ちょっと苦しい、そんな贅沢、言っちゃだめ・・・。
それでもときどき怖くなる。こうしてイザヤール様が居てくれることが、夢だったらどうしよう。目が覚めたら、もうひとつのベッドは空っぽで、使った形跡もなかったら・・・。そんなことを考えてしまうと、眠るのが怖くなる。
でも大丈夫、夢なんかじゃない。ほら、ちゃんと居てくれるもの、毛布にくるまって、向こうを向いて眠っているイザヤール様。雨の夜、目を覚ましても、もう大丈夫なんだから。だから、眠らなきゃ。
雨か。今日もミミたちと共に、やりがいのあるクエストをこなした。体は充実感を伴う疲労、寝具の寝心地は最高。だが・・・。同じ部屋にミミが居る。そう思うと、眠るのに少し苦労する。
向き直れば、可愛らしい寝顔が見えるかもしれない。もしくは、少し丸まって眠る可愛い背中が見えるかもしれない。ずっと昔、ソファーの上でそんなふうに眠っているところを、見たことがある。
ミミは、私のことを、未だに師匠扱いしている節がある。すぐに仲間としてフランクに扱え、というのは、ミミのような性質の子には、少々酷だろう。それは仕方ない。
・・・だが・・・師匠だから、一緒の部屋に眠っていても平気な男と思われているのは・・・どうなのだろう・・・。
いや、平気な者でなければならない。ミミを守っていくと、誓ったのだから。ミミの信頼を二度と裏切りたくない、そう思っているのだから。
捨ててしまえ。この腕に抱いて眠りたいと、別々の部屋よりも切ない距離だと、浅ましく叫ぶ心を。
情欲・・・それだけならば、いっそ楽だっただろう。限りなく愛しくて。二度と傷付けたくなくて。信頼の証の微笑みを失いたくなくて。その思いが、余計に複雑に心を縛る。
傍に居たいから耐える、昔と・・・同じだ。・・・それでいい。ミミの傍に居る為だ、それで、いい。だからこそ、こうして一緒に居られるのだから。
こんな葛藤をしているのは私の方だけ。何とも滑稽な、一人相撲だ。
欲張るな。こうして傍で見守ることがまたできる、命を落としていたら、それすらできなかったのだから。
ここで、イザヤールは、ふと気付いた。かすかに、身じろぎする気配がする。ミミが、目を覚ましている。
「どうした、ミミ?」
「あ、イザヤール様・・・起こしてしまって、ごめんなさい」
「いや、起きていた」
「そうなんですか?」
「少々寝付けなくてな。おまえもか?」
「はい、寝よう寝よう、って思うと、余計眠れなくなっちゃって。でも、奥の手があります」
「奥の手?」
「ゆめみの花、飾ります」
それを聞いて、イザヤールは笑った。昔ミミは、それと知らずに「ゆめみの花」を部屋に飾り、居眠りをしてしまったことがあるのだ。
「そんな眠り方は良くないのではないか」
「でも・・・眠らないと・・・」
「無理に眠ろうとすると眠れない、そうだろう」
それから二人は、今日の冒険のこと、天使だった頃の思い出、明日の予定などを、とりとめなく、ぽつりぽつりと語り合った。雨の音が、優しい伴奏とリズムをつける。
切ない思いが鎮まり、心が穏やかな幸福感に満たされるのを感じ、いつの間にか二人とも眠りに落ちていた。〈了〉
また姿が見えるようになってから、サンディはなるべく私の傍に居てくれたけれど、どうしても彼女が留守にしなくてはならない時で、リッカたちも夜番で部屋に一人きり。そんな雨の夜は、なおさら寂しかった。星空を見上げることすらできなかったから。だからそんな夜は、無理やりみんなのお手伝いに行ったりして、ちゃんと寝なきゃダメとよく叱られた。
今日もサンディは留守で、みんな夜番。でも。この頃は、前と違う。
同じ部屋の少し離れたベッドで、イザヤール様が眠っている。
従業員価格で泊めてもらっている私たちが、部屋をいくつも使ってしまうのは悪いから、私たちは同じパーティメンバーとして、ひとつの部屋を共同で使っている。冒険者には、よくあること。
お互い着替えるときとかは場を外すし、私とイザヤール様は元師弟で、ひとつの部屋に居ることに慣れているから・・・何も、問題ない。・・・大丈夫。・・・ドキドキしているのは私だけで、イザヤール様はなんとも思っていないんだから・・・。だからこそ、一緒の部屋にこうして居られるんだから・・・。
こんなふうに夜中に目を覚ましてしまっても、同じ部屋にイザヤール様が居てくれる。それがとっても幸せなの。・・・ちょっと苦しい、そんな贅沢、言っちゃだめ・・・。
それでもときどき怖くなる。こうしてイザヤール様が居てくれることが、夢だったらどうしよう。目が覚めたら、もうひとつのベッドは空っぽで、使った形跡もなかったら・・・。そんなことを考えてしまうと、眠るのが怖くなる。
でも大丈夫、夢なんかじゃない。ほら、ちゃんと居てくれるもの、毛布にくるまって、向こうを向いて眠っているイザヤール様。雨の夜、目を覚ましても、もう大丈夫なんだから。だから、眠らなきゃ。
雨か。今日もミミたちと共に、やりがいのあるクエストをこなした。体は充実感を伴う疲労、寝具の寝心地は最高。だが・・・。同じ部屋にミミが居る。そう思うと、眠るのに少し苦労する。
向き直れば、可愛らしい寝顔が見えるかもしれない。もしくは、少し丸まって眠る可愛い背中が見えるかもしれない。ずっと昔、ソファーの上でそんなふうに眠っているところを、見たことがある。
ミミは、私のことを、未だに師匠扱いしている節がある。すぐに仲間としてフランクに扱え、というのは、ミミのような性質の子には、少々酷だろう。それは仕方ない。
・・・だが・・・師匠だから、一緒の部屋に眠っていても平気な男と思われているのは・・・どうなのだろう・・・。
いや、平気な者でなければならない。ミミを守っていくと、誓ったのだから。ミミの信頼を二度と裏切りたくない、そう思っているのだから。
捨ててしまえ。この腕に抱いて眠りたいと、別々の部屋よりも切ない距離だと、浅ましく叫ぶ心を。
情欲・・・それだけならば、いっそ楽だっただろう。限りなく愛しくて。二度と傷付けたくなくて。信頼の証の微笑みを失いたくなくて。その思いが、余計に複雑に心を縛る。
傍に居たいから耐える、昔と・・・同じだ。・・・それでいい。ミミの傍に居る為だ、それで、いい。だからこそ、こうして一緒に居られるのだから。
こんな葛藤をしているのは私の方だけ。何とも滑稽な、一人相撲だ。
欲張るな。こうして傍で見守ることがまたできる、命を落としていたら、それすらできなかったのだから。
ここで、イザヤールは、ふと気付いた。かすかに、身じろぎする気配がする。ミミが、目を覚ましている。
「どうした、ミミ?」
「あ、イザヤール様・・・起こしてしまって、ごめんなさい」
「いや、起きていた」
「そうなんですか?」
「少々寝付けなくてな。おまえもか?」
「はい、寝よう寝よう、って思うと、余計眠れなくなっちゃって。でも、奥の手があります」
「奥の手?」
「ゆめみの花、飾ります」
それを聞いて、イザヤールは笑った。昔ミミは、それと知らずに「ゆめみの花」を部屋に飾り、居眠りをしてしまったことがあるのだ。
「そんな眠り方は良くないのではないか」
「でも・・・眠らないと・・・」
「無理に眠ろうとすると眠れない、そうだろう」
それから二人は、今日の冒険のこと、天使だった頃の思い出、明日の予定などを、とりとめなく、ぽつりぽつりと語り合った。雨の音が、優しい伴奏とリズムをつける。
切ない思いが鎮まり、心が穏やかな幸福感に満たされるのを感じ、いつの間にか二人とも眠りに落ちていた。〈了〉
そしてお話を読みながら「早く二人とも結ばれろー!!」と心の中で叫んでいた私(笑)
ちなみに現在私はせっせと小説を書き溜めているんですが、ちょっと問題が発生
うちのイザ主、泊まってる部屋を別々の部屋にするか、津久井さんの所のように同室にするかスッゴい悩んでます
今のところ私の頭の中では同室フラグが一歩リードしてるんですが
本当にどうしよう・・・
(;ー ー)
こんばんは☆じれったくてすみません状態でしょうか(笑)再会からサンディ言うところのコクるまでがなかなか長い当サイトです。
おお~、小説書き溜められていらっしゃるのですね☆
ストックがあると、嬉しいですよね♪・・・なかなかストックができない津久井(涙)
う~ん、同室か別々かは重大問題w、悩みますよね・・・何せ、どちらの状況もそれぞれおいしい!(爆)
これはシミュレーションするしか?(またもや無責任発言)