今日も忙しい一日を終えて、ミミは充実感を伴う疲労で、くたりと気持ち良さそうに大きなクッションにもたれていた。
入浴を終えて部屋に戻ってきたイザヤールは、そんな彼女を見つめ、呟いた。
「考えてみたら、おまえは人の頼みごとばかりしていて、自分ではあまり頼みごとをしないな」
そう言われて、ミミは閉じていた長い睫毛を持ち上げて、きょとんとイザヤールを見つめた。
「え?そんなことないですよ」
「そうかな?」
イザヤールはしばらく考えていたが、やがて微笑んで囁いた。
「たまには、おまえが私にクエスト依頼をする、というのはどうだ?なんでもいいぞ」
「え・・・」
でも。ミミは、少し考え込んだ。イザヤール様は、魔王戦にも錬金素材集めにも、いつも喜んでついてきてくれるし。綺麗な物もときどきプレゼントしてくれるし。頼みごと・・・。
なでなでしてください、とか、キスして・・・とか、は・・・。クエストじゃないし・・・。あれ、でも、前にイザヤール様に「頬にキスしてくれ」ってクエスト受けたことがあったっけ。でもでも。・・・クエストにしなくても、してくれるように・・・なったし・・・。
考えているうちに頬が染まってきたのを、イザヤールに見咎められた。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです・・・」
「ひょっとして、良からぬ依頼か?」彼のからかうような笑顔に、艶然とした気配が加わった。「どんな依頼だ?言ってごらん」
ミミがクッションに隠れるようにして首をぷるぷる振ると、イザヤールはミミの傍にしゃがみこんできて、濃い紫の瞳を覗き込んで、熱っぽく囁いた。
「言いなさい」
「ほんとに・・・思いつかないんです・・・だって」ミミは瞳を潤ませ、イザヤールを見上げた。「今、幸せなんだもの・・・。この幸せが続きますように、それしか願いごと、ないんだもの・・・」
「ミミ・・・」
彼は恋人の名を呟くと、彼もまた幸せそうに吐息して、瞳を閉じ、先ほどミミが思った「クエストでなくてもしてくれること」をしてきた。
ようやく顔が離れて、ミミは頬を染めたまま呟いた。
「あ・・・ひとつ、思い付きました」
「なんだ?」
「実は明日の晩、またダンスの前座頼まれているんです。今回も一緒に踊って頂けませんか」
「喜んで」
イザヤールはクエスト「たまには依頼側」を引き受けた!
「・・・イザヤール様と一緒に踊ってもらえるなんて、天使だった頃には夢にも思いませんでした・・・」
幸せそうに呟くミミ。
「私もまさか、人前で踊るようになるとは、そもそも踊ることがあるとは思わなかった」
彼は答えて、愉しげに笑った。
「あ、でも、お礼はどうしよう」
ミミが少し悩み始めると、そんなに厳密にしなくても、とイザヤールは苦笑する。
「礼はキスがいい」
彼が笑って言うと、お礼じゃなくてもします、とミミが口を滑らせた。
「そうか。ならまたさっそく」
冗談めかした口調でイザヤールが目を閉じると、意地悪、とミミは少し目を潤ませてから、彼の指先に唇を触れた。
「これもキスには違いないです」
「・・・おまえこそ意地悪だな」
やられた。そんな表情で、彼はまた苦笑した。
翌晩。大喝采の中無事舞台も終わり、二人きりの急ごしらえの楽屋で、ミミは少し緊張した顔で、イザヤールを見上げた。
「どうした?出番前より緊張した顔をして?」
彼が首を傾げると、ミミは消え入りそうな声で囁いた。
「クエストの、お礼・・・」
華奢な腕が逞しい首に回され、少しためらうように、ゆっくりと花びらのような唇が、イザヤールのそれに重ねられてきた。
「・・・っ」
今宵の衣装は、二人とも、肌を大胆に露にしたもの。舞い終えた汗ばむ体が、いつもより広く直接触れ合う。それが更に熱を増していく。優しさや愛情だけでないものが、互いの体を支配していった。
火を点けた。そんな言葉が相応しく、その熱に僅かにミミは怯え、だがすっかりその熱に囚われた。一時解放され、覗き込んでくる瞳は、その熱全て封じ込めたように、熱い。
壁の向こうから聞こえる拍手が、二人に今居る場所を思い出させた。名残惜しそうにもう一度軽く唇を重ねてから、二人は体を離す。そして間もなく、メインの踊り子が、上機嫌で楽屋に入ってきた。
「おかげで今日も大成功~♪ま、あたしとあなたたちなら、当然よね、祝杯に行きましょ☆」
これは一晩中付き合わされそうだ。続きはまた当分、お預け。
イザヤールはまたもや苦笑し、ミミは恥ずかしそうに目を伏せてローブをはおり、一同は酒場へと向かった。〈了〉
入浴を終えて部屋に戻ってきたイザヤールは、そんな彼女を見つめ、呟いた。
「考えてみたら、おまえは人の頼みごとばかりしていて、自分ではあまり頼みごとをしないな」
そう言われて、ミミは閉じていた長い睫毛を持ち上げて、きょとんとイザヤールを見つめた。
「え?そんなことないですよ」
「そうかな?」
イザヤールはしばらく考えていたが、やがて微笑んで囁いた。
「たまには、おまえが私にクエスト依頼をする、というのはどうだ?なんでもいいぞ」
「え・・・」
でも。ミミは、少し考え込んだ。イザヤール様は、魔王戦にも錬金素材集めにも、いつも喜んでついてきてくれるし。綺麗な物もときどきプレゼントしてくれるし。頼みごと・・・。
なでなでしてください、とか、キスして・・・とか、は・・・。クエストじゃないし・・・。あれ、でも、前にイザヤール様に「頬にキスしてくれ」ってクエスト受けたことがあったっけ。でもでも。・・・クエストにしなくても、してくれるように・・・なったし・・・。
考えているうちに頬が染まってきたのを、イザヤールに見咎められた。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです・・・」
「ひょっとして、良からぬ依頼か?」彼のからかうような笑顔に、艶然とした気配が加わった。「どんな依頼だ?言ってごらん」
ミミがクッションに隠れるようにして首をぷるぷる振ると、イザヤールはミミの傍にしゃがみこんできて、濃い紫の瞳を覗き込んで、熱っぽく囁いた。
「言いなさい」
「ほんとに・・・思いつかないんです・・・だって」ミミは瞳を潤ませ、イザヤールを見上げた。「今、幸せなんだもの・・・。この幸せが続きますように、それしか願いごと、ないんだもの・・・」
「ミミ・・・」
彼は恋人の名を呟くと、彼もまた幸せそうに吐息して、瞳を閉じ、先ほどミミが思った「クエストでなくてもしてくれること」をしてきた。
ようやく顔が離れて、ミミは頬を染めたまま呟いた。
「あ・・・ひとつ、思い付きました」
「なんだ?」
「実は明日の晩、またダンスの前座頼まれているんです。今回も一緒に踊って頂けませんか」
「喜んで」
イザヤールはクエスト「たまには依頼側」を引き受けた!
「・・・イザヤール様と一緒に踊ってもらえるなんて、天使だった頃には夢にも思いませんでした・・・」
幸せそうに呟くミミ。
「私もまさか、人前で踊るようになるとは、そもそも踊ることがあるとは思わなかった」
彼は答えて、愉しげに笑った。
「あ、でも、お礼はどうしよう」
ミミが少し悩み始めると、そんなに厳密にしなくても、とイザヤールは苦笑する。
「礼はキスがいい」
彼が笑って言うと、お礼じゃなくてもします、とミミが口を滑らせた。
「そうか。ならまたさっそく」
冗談めかした口調でイザヤールが目を閉じると、意地悪、とミミは少し目を潤ませてから、彼の指先に唇を触れた。
「これもキスには違いないです」
「・・・おまえこそ意地悪だな」
やられた。そんな表情で、彼はまた苦笑した。
翌晩。大喝采の中無事舞台も終わり、二人きりの急ごしらえの楽屋で、ミミは少し緊張した顔で、イザヤールを見上げた。
「どうした?出番前より緊張した顔をして?」
彼が首を傾げると、ミミは消え入りそうな声で囁いた。
「クエストの、お礼・・・」
華奢な腕が逞しい首に回され、少しためらうように、ゆっくりと花びらのような唇が、イザヤールのそれに重ねられてきた。
「・・・っ」
今宵の衣装は、二人とも、肌を大胆に露にしたもの。舞い終えた汗ばむ体が、いつもより広く直接触れ合う。それが更に熱を増していく。優しさや愛情だけでないものが、互いの体を支配していった。
火を点けた。そんな言葉が相応しく、その熱に僅かにミミは怯え、だがすっかりその熱に囚われた。一時解放され、覗き込んでくる瞳は、その熱全て封じ込めたように、熱い。
壁の向こうから聞こえる拍手が、二人に今居る場所を思い出させた。名残惜しそうにもう一度軽く唇を重ねてから、二人は体を離す。そして間もなく、メインの踊り子が、上機嫌で楽屋に入ってきた。
「おかげで今日も大成功~♪ま、あたしとあなたたちなら、当然よね、祝杯に行きましょ☆」
これは一晩中付き合わされそうだ。続きはまた当分、お預け。
イザヤールはまたもや苦笑し、ミミは恥ずかしそうに目を伏せてローブをはおり、一同は酒場へと向かった。〈了〉
あっ、下記は個人的意見ですので無視していただいて構わないです
先程のミミさんたちにはフリージアでしたが、肌を露出したこのダンスシーンのイメージだとコルチカムが合うかもしれませんね
ちなみに花言葉は"危険な美しさ"
おおお、こちらにも!申し訳ないやらありがたいやら・・・!
自分でも三本は更新し過ぎだと、ちょっと反省しました。読む方の身にもなれ、と。捏造クエストシリーズ休みたくなくてつい・・・///もう当分やりません(爆)
コルチカムってサフラン系だったんですね、鮮やかな色が印象的な、綺麗な花ですね☆(検索機能万歳)
再会話から約一年半経つとこうなってる、みたいな感じになってしまいましたw