セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

相想う7(連作完結編)

2011年09月18日 23時59分47秒 | クエスト163以降
 ほんとあの二人、仲がいいわね。一緒に揃って帰ってきたミミとイザヤールを見送り、ルイーダは呟いた。
 カップルの冒険者もずいぶん見てきたし、その中には不快なくらい露骨にいちゃついて仲の良さをアピールする者たちもかなりいるけど。ミミたちみたいに、ただ寄り添って立っているだけで、一緒に居ることが自然であり必然であるのだと、ほのぼのとした思いを抱かせる恋人たちは、そうそうたくさんは居ない。
「どうしたの、ルイーダさん?楽しそう」
 夕食の仕込みを終えて戻ってきたリッカが首を傾げると、ルイーダは笑いながら答えた。
「ほんとに仲がいいわねあの二人、そう思ってたのよ」
 リッカもまた、階段を上がっていくミミたちの後ろ姿を見て、そうだよね、と嬉しそうに笑った。
 その会話が聞こえていない筈のミミは、くちゅん、と一つ、くしゃみした。
「大丈夫かミミ?」
 特に埃もないのにくしゃみをした彼女に、イザヤールが少し心配そうに眉をひそめると、ミミは恥ずかしそうに笑った。
「大丈夫です。・・・誰かに、噂されてるのかも?」
「いい噂だといいな」
 互いに顔を見合わせて微笑んだ。それからイザヤールは、また僅かに顔に憂いを浮かべ、囁いた。
「風邪だといけないから、今日は早く休め」
「私、こう見えても丈夫です」
「それは知っている。だが、だから無理していい、ということにはならないぞ」
「・・・はい」
 いつも使っている部屋に戻ると、恐縮がるミミを半ば強引に浴室に押し込み(よく温まるようにと念を押して)、イザヤールは装備品の手入れを始めた。
 一通り手入れを済ませ、ふと窓の外に目をやると、いつの間にか、黄昏の空に星がいくつも輝き始めていた。からかうように、瞬いたりしながら。
(・・・過保護だとでも、ラフェット辺りが、思っているのかな)
 ガラス越しに空を見上げ、彼は苦笑し、そっとカーテンを閉めた。
 入浴を済ませたミミを、今度は半ば強引にベッドに押し込み(待たないで先に眠るのだぞと念を押して)、イザヤールは浴室に向かった。
 浴槽に身を浸しながら、僅かに感じる不安を、頭の中で整頓した。

 私はミミを突然失ってしまう可能性を、心のどこかで恐れている。丈夫だと思われていた人間が、あっけなく命を落とすのを数えきれないくらい見てきたから。
 いくら強くても、人間になってしまったこの命は、天使と比べ格段に脆いことは自覚している。歳月を重ねていくに従って、その脆さはますます顕著になっていくだろう。
 私は心のどこかで恐れている。私が知らずにミミに与えた苦しみ。遺された者の、苦しみ。運命がその仕返しをすることを、恐れている。私が、遺された者になってしまう。その可能性を、恐れている。
 死からも、守り通してやりたい。だが、それは不可能なのだと、皮肉にも、守護天使だったからこそ、わかっているのだ・・・。
 ・・・しっかりしろ。必要以上に、恐れなくていい。だからこそ、儚い時間と知っているからこそ、共に過ごす日々がいっそう愛しいのだから。必ず守るのだ、気を付けてやれば、避けられる死から。

 イザヤールが寝室に戻ると、ベッドの上で毛布にくるまったミミは、目をぱっちりと開けていた。気のせいか、その瞳が心なしか潤んでいる。
 それが発熱によるものかとイザヤールは一瞬動揺し、彼女の額に手を当てて、微熱であることを確認して、いくらかの心配と、いくらかの安堵の吐息をした。
「イザヤール様、心配しすぎ」
 ミミは微笑んで恋人を見上げる。
「・・・そうだな」
 彼は彼女の額に当てていた手を、そのまま髪や頬に滑らせ、何度も繰り返しなでた。微笑みを浮かべながら。
「そうだな・・・心配しすぎ、過保護すぎはいけないな」
 だから。彼は囁いた。なんともないなら起きて、私にキスをしてくれ。
 ミミはそれを聞いて目を見開き、頭をぷるぷると振って断った。
「だめ・・・。風邪、うつしちゃう」
「やはり風邪なのか?」
「あ、違います。・・・でも、もしも、万が一そうなら、絶対うつしたくないもの」
 そう呟いて顔を枕に押し付け、隠そうとしたミミを、また半ば強引に捕らえた。
「・・・もしそうだったら、仲良く寝込むとしよう」
「そ・・・」
 そんな、という言葉は、唇を相手のそれで塞がれ、途切れた。
 ようやく解放されて、彼女は本当に発熱したかのような、ぼうっとした表情で、イザヤールを見つめた。

 今日のイザヤール様、少しだけ変。・・・どうしたのかな・・・。・・・あ。目を見ていたら、わかった・・・。吸い込まれそうで、わかった・・・。
 私がイザヤール様を失うのと同じくらい、イザヤール様も・・・私をなくすこと、怖がってくれて・・・いる・・・。
 大丈夫、大丈夫だから、イザヤール様。私は・・・何処にも行かないから。人間になってよかったことのひとつ、体はなくなっても、魂は愛しい人の傍に居られる。そんなことを言うと、悲しませるから、言わないけれど。

 イザヤールはミミの瞳を覗き込み、うめくように言った。
「そんなこと・・・考えるなっ」
「え・・・どうして・・・」
「もう、おまえの考えていることくらい、言わなくてもわかるっ」
 彼は今度は叫ぶように言い、彼女の顔を両手で優しく、だが動かないように挟んだ。
「私はおまえと同様幽霊の姿を見ることができる、だから魂だけになってしまっても会える、そう考えているのだろう。だが・・・」
 こんなことができなくなる。そう囁いて、彼は再び彼女の唇を奪った。こうして触れ合うこと。そんなことができないのは、悲しすぎる。だから。共に生きよう。少しでも長く、幸せに。
「ミミ・・・一緒に、呆れられるくらい元気な、年寄りになろうな」
 ようやく顔を離してから、イザヤールが囁くと、ミミは瞳を輝かせて頷いた。
「・・・では、今夜は早く寝てくれ。・・・私もちゃんと休むから」
「・・・はい」
 氷枕では冷たすぎるだろうと、イザヤールは水枕を用意し、ミミの頭の下にあてがった。
「ゆっくりおやすみ」
「おやすみなさい」

 人間としての幸せも、命も、脆いものかもしれないけれど。だからこそ。共に明日も必ず迎えよう。そう毎日思い、積み重ねていけばいい。〈了〉

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2 コメント

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儚く短い命だからこそ (ちいはゲーマー)
2011-09-19 00:32:30
二人には限りある時を全て使って愛し合ってほしいです


それにしてもイザヤール師匠、凄い過保護ですね~
相手がミミさんだからこそなんでしょうけど
( ^∀^)


実は私の方も風邪ネタを用意してあるんですが、おそらく今回のミミさん達とは真逆の激甘の話になる可能性大です
(;´∀`)
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激甘風邪話の筈が (津久井大海)
2011-09-19 01:07:14
ちいはゲーマー様

こんばんは☆優しいお言葉にうるうる。当サイトバカップル、ほぼ間違いなく、人間としての短い時をイチャイチャして過ごすと思います(笑)

確かに過保護です、イザヤール様w翌日サンディに、「超ばんのうぐすり飲ませりゃよかったじゃん!」と呆れられることでしょう。

そちらの風邪話は激甘ですか☆いいですね~♪うちも激甘話にしたかった筈が、何をどう間違ったのやら。
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