セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

プレミアムなカカオ

2011年02月11日 17時50分45秒 | クエスト184以降
 もうすぐバレンタインデーということで、ロクサーヌの店は、チョコレートを求める女の子たちで賑わっていた。
「でも、そういえばなんでチョコレートなのかな?」
 リッカが首を傾げると、ロクサーヌは微笑んで答えた。
「一説によると、恋人たちの力になった聖人の好物が、チョコレートだったそうですわ。墓前に備える習慣が、いつの間にか好きな人に贈るようになったのですって」
 ルイーダの酒場の手伝いでカウンター内に立っていたイザヤールが、目の前に座っているミミにだけ聞こえる声で囁いた。
「私の聞いた話は少し違う。遥か昔、とある街の守護天使が、天使像に供えられたチョコレートの旨さに感激して、それを供えた少女の恋が叶うよう尽力した。
そうしたら、あの街の守護天使は恋を叶えると評判になり、若き乙女たちが大挙して訪れ、天使像にチョコレートを供えるようになったそうだ。
守護天使の任期が終わり、別の守護天使に変わると、当然恋に効くという噂も人間の記憶から消え、チョコレートを贈る習慣だけ残ったのだと」
 ミミはクスリと笑って、囁き返した。
「その守護天使って、オムイ様だったりして」
「有り得るな」
 イザヤールも声を殺して笑い、ミミに小さなグラスを差し出した。
「『バーバラ』・・・ウォッカとカカオリキュールと生クリームを使ったカクテルだ」
「あ、今宿泊してるゲストさんと同じ名前です。後で教えてあげよう」
「ほう」
「でもまずは・・・オムイ様の思い出に、乾杯」
 そう言って、そっとグラスを口に運ぶミミを、イザヤールは目を細めて眺める。その頃、遥か天空で、一際輝いている星がくしゃみをしたとかしなかったとか。

 ミミがグラスを空けて、ほのかに頬を染めた頃、一段落したルイーダが、からかうように声をかけてきた。
「ミミは、今年はどんなチョコレートを彼に贈るの?」
 昨年は、ロクサーヌの店限定の「ごうかなチョコ」だった。
「これからよろしくお願いしますの挨拶代わりです、なんて懸命に言い訳してたけど、どう見ても私たちへの友チョコよりゴージャスだったわよね~」
 そう指摘されて、ミミはアルコールが原因でなしに顔を真っ赤に染めた。
「あのときみんなほぼ確信したのよね。あ~、ミミ、この元お師匠さんを好きなのねって」
「え・・・そんなに早くバレてたんですかっ・・・」
「て言うか、連れて来た日からほぼそう思ってたわよ」
 ミミはうつむいて両手で頬を覆い、イザヤールは困惑気味にミミとルイーダを見比べて、言った。
「そ・・・そうだったのか?すまん、さっぱり気付かなかった・・・」
「知らぬは本人ばかりってね」
 ルイーダは楽しそうに笑った。
 それでも去年のバレンタインデーは嬉しくて、楽しかった。ミミは思った。まさか、イザヤール様が帰ってきてくれて、チョコレートを渡すことができるなんて思わなかったから。本当に幸せだった。
 結局、それほど甘党ではないイザヤールは、それでも頑張って「ごうかなチョコ」を半分くらい食べてくれた。というより、半分に割って、一方をミミに渡し、二人で仲良く食べた。
「甘いが、旨いな」
 そう言って微笑んでくれた顔を思い出し、ミミはうっとりと瞳を輝かせる。
(・・・でも。今年はどうしよう)
 できれば、手作りチョコ作ってみたいな。そう思って何となくロクサーヌの方を見ると、その目は「手作りチョコの材料『ふつうのチョコ』もばっちり用意してますわよ」と語っている。
 でも。イザヤール様には、「ふつうのチョコ」もまだ甘すぎるかも。ミミは立ち上がり、あることを調べに、図書室へ向かった。

 それから間もなくミミは、「チョコレートの作り方」という本をめくっていた。
「ミミ、アンタそこそこ料理できんだからサ~、溶かして固めるくらい余裕じゃね?何調べてんの?」
 サンディがそう言って覗き込むと、そのページは、「カカオをチョコレートにする行程」と記されていた。
「ミミ・・・手作りチョコって・・・まさか、アンタ・・・」
「うん、カカオの実から作ってみようかな、と思って。それなら、甘さも自分で調整できるし」
 そこからかーい!図書室にミミにだけ聞こえる絶叫が響き渡った。
「やっぱりアンタ、ドコか変わってるワ・・・」
 サンディが呆れて見つめると、ミミは心配そうに尋ねた。
「やっぱり・・・おかしい?喜んでもらえないかな?」
「まあココロこもってンの間違いないし・・・喜ばれるとは思うケド・・・フツーはそこまでしないってゆーか・・・」
「喜んでもらえるなら、いいの」
 ミミは嬉しそうな微笑みを浮かべ、今度はカカオの実の産地を調べだした。その笑顔に、サンディはそれ以上何か言う気を無くして、やれやれ、と「冒険の記録」を引っ張り出し、出かける準備を始めた。
 カカオの実は、気候が熱帯湿潤、かつ高地で水はけの良い土地に自生するという。調べた本には親切にも、産地ではないがグビアナのバザーでよく売られているとまで書いてあった。
「よかったネ、ミミ、比較的簡単に手に入りそうじゃん☆」
 サンディの言葉に、ミミもにっこり笑う。本を棚にきちんと戻すと、ミミは階下に降りた。
「ちょっとお買い物いってきまーす」
 イザヤールはじめカウンターに居るメンバーに声をかける。すると、イザヤール意外のメンバーが、次々カウンターから出てきて囁いた。
「ミミ様、イザヤール様のためにカカオの実を買いにいらっしゃるのでしょう?でしたらぜひ私もご一緒に」とロクサーヌ。
「私も、酒場で純粋カカオの飲み物出したいの。カカオの実ってどんなのか気になるし」と、ルイーダ。
「私も宿屋のお客様においしい手作りココアやチョコレート出したいから、付いていってもいい?」これはリッカ。
 なんでみんな私がカカオの実を買いに行くってわかったのかな、イザヤール様にもわかっちゃったかな、ミミが心配してる間に、ロクサーヌたち三人はさっさと出かける準備を終え、イザヤールに言った。
「私たちも出かけてきまーす☆一時間くらいで戻るから、店番よろしくね~」
「あ、ああ。構わないが・・・」
 いったい何の買い物だ?注文された飲み物をマドラーで混ぜながら、イザヤールは首を傾げた。

 グビアナ城下町にルーラであっという間に到着して、バザーに向かうと、すぐに「期間限定販売カカオの実」と書かれた看板が目に付いた。さっそく近寄ってみると、店の主であるらしい商人風の男が、何故か浮かない顔をしていた。
「はああ、どーしたもんか・・・」
 溜息をつくその様子に、なんかイヤな予感するわね、と囁くルイーダ。
「あの・・・すみません、カカオの実、売ってくださいますか?」
 ミミがおそるおそる尋ねると、店主はすぐに笑顔になり、商売モードになった。
「いらっしゃい!究極の手作りチョコに、上等のカカオの実は必須だよ!」
 と、ここで、彼の顔がまた暗くなった。
「・・・極上のは、今はないけど・・・」
「何かあったんですか?」
 ミミが尋ねると、店主は頭を抱えてこう答えた。
「実はね。極上の『ゴールデンカカオ』もあったんだけど、ちょっと油断した間に、金ぴかなものマニアのゴールデンスライムに盗まれてしまってね。
普通の宝の地図の洞窟なら、頑張って取りに行くけど、奴はよりによって、旧グビアナ地下水道に逃げ込んだんだよ。
あの上は乙女の沐浴場だろう?どこからどう見てもおっさんの私じゃあ入れてもらえなくて・・・そんなわけで、今年はゴールデンカカオは売れないのさ、悪いね」
「そういうことなら」ミミはにっこり笑って言った。「私たちが取り返してきますよ」
「ええ?こんな綺麗なお嬢ちゃんたちがかい?ダメダメ、ゴールデンスライムは、強敵だよ。マダンテくらったら、強者の兵士さんだって危ないってのに」
「私たち、こう見えてもその辺の兵士の皆様より強いんですのよ」
「特にミミは、世界最強って言ってもいいくらい強いんだから」
 ロクサーヌとリッカが自信たっぷりに言うと、店主は半信半疑ながら呟いた。
「そうかい?じゃあお願いしちゃおうかな」
 こうして、クエスト「プレミアムなカカオ」を引き受けた!

 さっそく四人は、沐浴場から地下水道へ潜った。この辺りの魔物は、もう彼女たちの敵ではないのでこそこそ逃げていったが、いつ少し手強いゴールデンスライムに遭遇するか油断はできない。
「先週に引き続きイレギュラーなモンスター出現よネ~」サンディがぼやく。
 以前ロクサーヌと来たことのある、墓場やら牢屋から、アノンが逃げ込んだ最下層まで見たが、ゴールデンスライムらしき気配はない。
「あんなにキラキラしてるから、すぐ見つかるはずなのに、変だよね」
 リッカが困惑顔で言った。すると、ロクサーヌが何かひらめいたらしく、ぽん、と手を叩いた。
「そういえば!以前、宿六会が、この地下水道に抜け道があることを匂わせていましたわね!そこに逃げ込んだのかもしれませんわ」
 なるほど、と一同は頷き、まずは牢屋に戻って投獄されている宿六会のメンバーに、抜け道の場所を聞き出した。墓場の下の、更に奥にあるらしい。
「この辺のはずだけど・・・」
 全員で辺りの壁を叩いて調べると、一ヶ所音が違うところがあった。とりあえず押してみると、壁の一部が横にずれて、なんと抜け道が現れた!
 抜け道はずいぶん奥まで続いているようだが、全員今はそれには関心がなかった。何故なら、抜け道のすぐ入り口付近で、ウキウキした顔のゴールデンスライムが、何か詰まっているらしい袋を開けようとしていたところだったからである。
「あっ!それ、ゴールデンカカオでしょ?お願い、返して!」
 ミミが言うと、ゴールデンスライムは通路の奥に逃げ出そうとした!しかし、通路が狭すぎて逃げられなかった!
 逃げられないと見るや、ゴールデンスライムは、いきなり襲いかかってきて、しかもマダンテを放ってきた!
 不意討ちの大ダメージをくらった四人だが、すかさず賢者のロクサーヌがベホマラーを唱え、盗賊のルイーダは素早くカカオの袋に近付き、魔法戦士のリッカはバイキルトをミミにかけた。
 そして。バトルマスターであるミミは、「グレートアックス」を構えると、渾身の力を込めて、「まじんぎり」を放った!
 ゴールデンスライムは呆気なくのびてしまい、ミミたちはカカオの袋を取り戻した。
「これが、ゴールデンカカオ・・・」
 袋から一つ取り出してミミが呟くと、のびていたゴールデンスライムが、切れ切れの声で呟いた。
「え?・・・ゴールデンていうから・・・てっきり金色だと思ってたのに・・・違うの?」
 価値の高さを表す単なる形容詞だったのかー!ゴールデンスライムは恥ずかしそうに呟き、逃げていった。

 カカオ店の主に、ゴールデンカカオを渡すと、彼は涙を流して受け取った。
「ありがとう!お嬢ちゃんたち、お礼にたくさん持ってってくれよ!このトレイごとな!」
 ミミはゴールドトレイに盛られたゴールデンカカオを手に入れた!
「やった~、これだけあれば、たくさん手作りチョコができるねっ」リッカがウキウキと言う。
「チョコレートリキュールもね」ルイーダも嬉しそうだ。
「ミミ様、私のショップで、手作りチョコ用の香り付けエッセンスや特別なナッツ類も販売してますけど、如何?」とロクサーヌ。
「うん、ありがとう。・・・どんなチョコにしようかな・・・」
 帰ってさっそくいろいろ作ってみよう、楽しそうに笑いさざめきながら、この華やかなパーティーは帰路に就いたのだった。

 余談だが。その頃、チョコをロクサーヌの店に買いに来た女の子の恋愛相談に成り行きで乗るハメになったイザヤールが、ようやく解放されてから、ひとこと呟いた。
「ずいぶん長い一時間だな・・・」〈了〉

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