池田 悟≪作曲家≫のArabesque

・・・深くしなやかに・・・(音源リンクしてます)

合唱と信仰

2007-05-10 | 作曲/言葉・声

海外のコンペのために宗教的な音楽作品の準備をしている。宗教作品というと難解で高尚で、構えてしまいそうだが、それらを覚悟した上でやりがいを感じ、のびのびと作曲したい。そのためにはどのようなモチベーションが必要だろう。

『ルネサンスへの音楽手紙』だとしたら…。
現代に生きる僕がもしルネサンスの作曲家たちと深い交流をしたいなら、日本語では不可能だ。ルネサンスの言葉で語らねば。クラシック音楽即ち宗教音楽だった、その時代の。
こう思えば作曲規定に設けられた、現代の作曲技法を封印せざるを得ないような制約も、むしろ共感を持って受け入れる事が出来る。
ただしルネサンスの模倣になっては意味が無い。同じ言語で、しかもルネサンスには在り得なかった音楽を作るのでなければ。そのためにはさらにどんなモチベーションを付加すべきだろう。

『自分へのレクイエム』だとしたら…。
いつか必ず訪れる自分の最期に、レクイエムとして演奏する曲を、自らの手で作曲する。力のすべてを尽くし、飾らず、自画像のように…信仰の表明として。

作曲の条件に、英語の巨大な宗教的文学作品(写真)からテキストとして抜粋すること、とある。今はまだ、呪文のようなその和訳を斜め読みしている段階。
〆切まで数ヶ月あるものの精読していては間に合わないし、第一飽きてしまう。ざっとページを眺め、邪悪な言葉、崇高すぎる言葉、熱病的な恋愛表現などは消去法で素通りする。
同時に曲のスケッチもほぼ毎日書く。後でどんなテキストになっても対応できるよう、細部までは決めず、断片的なものを少しずつ。
英語の音楽的リズムをつかむために英語の歌も時々聴きながら。クラシックの歌曲に英語のものは無いので、ポップスや黒人霊歌などだが、これも新鮮で楽しい。
昨年末オルガンの小品を書いた事がこの宗教作品へつながれば…。

器楽曲の場合、作曲家は楽器のメカニズムを考慮し、どういう弾き方でどういう音やフレーズが出せる…ということを大抵は念頭に置いて音符を書くが、声の場合、それに相当するのは横隔膜や声帯や口腔内のことであり、それらの機能について作曲家は器楽のように配慮したりはしない。
つまり声楽は器楽と違い、作曲家は音を出すためのテクニックには殆ど責任を負わず、どう効果的に使いこなすか、ということのみに心血を注ぐことになる―言わば「ハード」より「ソフト」か。
その巧拙は無伴奏であれば如実に表れる。

結婚式やお葬式で音楽を演奏するとしたら、宗教の如何を問わず第一に選ばれるのは、やはり声の音楽だろう(お経も)。
声が心に直接訴える力は生死に関わる場面では圧倒的だ。歌を書けば作曲家の内面がさらけ出されるし、狙った通りに千変万化の表情を生み出すのは容易ではない。

まずは古典の名曲をとことんリサーチすることにした。パレストリーナ、バッハ、モーツァルト、ブラームス、フォーレ、シェーンベルグ…合唱作品のソプラノからバスまで、使われている音域の作曲家による違い、曲による違いを調べる。
音域の拡大がどんな効果をもたらしたか、それによって失ったものがあるとすれば何か。
さらに、一つのD音でもソプラノではこう響く、アルトではこう、テノールでは、バスでは…。それらの実例として、モーツァルトのレクイエムのある箇所でテノールがこのDを輝かしく響かせているが、同じ音を別の箇所では響きにくいアルトに歌わせ、陰の効果を出している…ヴェルディだとこんな用法もしている…等。
声の音域は器楽に比べ、より限られている分、優れた合唱作曲家は、音を一つ上げ下げするのにも綿密なプランで構成しているのが分かる。



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2 コメント

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以前 MX-TV で石原都知事がなかにし礼氏に対... (Amicizia)
2007-05-10 01:02:13
以前 MX-TV で石原都知事がなかにし礼氏に対して、一度 フォーレのレクイエムをお経をテキストにして作詞してみて欲しいと発言していて、個人的にあきれてものが言えなかった記憶があります。 僕にとってフォーレのレクイエムはカラオケではなく、楽曲とテキストと宗教の三位一体の作品です。 石原氏に対してはそれ依頼スノッブという見方をしてます。 三善晃の宗左近のテキストによる一連の作品等、合唱曲においてはそのテキストの選択も非常に大切ではないかと思いますが。 今回の作品はテキストはどうされるのでしょうか?ご自身で作詞されるのでしょうか?
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Amiciziaさん (I)
2007-05-10 02:56:45
いつもありがとうございます。
テキストは、5月1日付けの記事に書いた、英語の宗教的大作から選ぶことになっています。
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