キノの旅 Ⅲ the Beautiful World (キノの旅 3)
時雨沢 恵一 (著) , 黒星 紅白 (イラスト)


「…………。興味ありません。残念ですが」☆☆☆☆☆
キノとしゃべる二輪車エルメスが旅をして色々な国を訪ねる物語の3冊目です。
色々な文化程度の、それぞれの風習がある城壁に囲まれた国々が点在する世界。
この巻では、
シズのたどり着いた城壁の無い国では「歌で敵から国民を守っている」と説明をうける。「愛と平和の国」や、
キノが歓待を受ける遊牧民の国「城壁の無い国」、
キノが、まだ師匠のところにいたときの話「説得力」
他との比較をしないため、自分達の現状を理解できない「差別を許さない国」などが、載っています。
とくに時系列の前後する「雲の中で.a/b」の雲による場面の展開と、
「機械人形の国」での機械人形たちの問いかけに対するキノの冷たい返答が「キノらしい」です。
また「同じ顔の国」の住民達の明るさが清清しくて楽しい読後感でした。
どのお話も、とても面白い本でした。
キノの旅〈3〉the Beautiful World (電撃文庫)
以下個人的な感想です
お話の重要な部分がわかる記述がありますので、未読の方はご遠慮ください。
『ひとり「キノの旅」まつり』4冊目のレビューは「キノの旅」3巻です。
「愛と平和の国」
城壁が無いけれど愛と平和の歌で敵国の軍勢は改心させる事ができる。という国
マクロスだ!と思いました。
「雲の中で.a/b」
白い雲の中での会話の後、ちょっと前にあった出来事が書かれる時系列逆転した話。
雲が晴れたらきれいさっぱりなくなっていたらいいのに、という会話のb
山のガスがかかる前にキノ達は毒草を食べて全滅したキャラバンを発見していた。a。
(これは15巻で名前が付く「フォト」という少女がいっしょにいた行商人のキャラバン。
3巻の発売時点ではまだそういった話にはなっていません。)
「城壁の無い国」
放牧民の国に歓待されたキノが、お嫁さんとして国に取り込まれそうになる話。
キノを助けてくれた人物は、昔この国に取り込まれた旅人ラウハーでした。
ラウハーは中毒性のある草なしでは暮らせなくなった大人たちを全滅させて、まだ草の中毒になって居ない子ども達だけを助けようとします。
子ども達は自分の親達を殺害した彼を殺し、自分達も大人になるつもりで草を吸うのでした。
ラウハーはめずらしくキノより強い人物です。(師匠も強いけど)
どうやら故郷の特殊部隊にいた人物で任務ゆえに旅人にならざる得なかったようです。
キノ以外は全滅という鬱展開ですが、面白いです。
雰囲気が映画の「ダンスウイズウルブズ」みたいね、とちょっと思いました。
「説得力」
キノが師匠のところで修行していたときの話。
3人の盗賊が師匠に「ありったけ出せ」と請求し、キノに殴られゴム弾を打ち込まれ財産を巻き上げられる。
師匠はおっとりした物言いの老婆だけれど、凄腕のパースエイダー使い。
エルメスの運転や扱いにはうとくてエルメスは転ばされてしまいます。
エルメスと師匠のやり取りが、とぼけていて可愛いです。
「同じ顔の国」
SFです。
クローン技術で人口を増やした平和な国
キノが「また遊びに来てもいいな」というくらい良い国
でも近隣国はクローン技術が理解できず「同じ顔をもつ」住民達の「悪魔の国」と、この国を爆撃して滅ぼしてしまいます。
キノや軍隊が去った後、地下シェルターにもぐっていた住人達が出てきて
「生き残ろうとする意思があれば、そんなに簡単に滅びはしませんよ」
と国を再建しようとするところでお仕舞い。
住民が明るくて、思いやりがあって、技術も発達した良い国です。
爆撃されても、ちゃっかり地下シェルターに隠れていたという明るい終わりが楽しいです。
ハサップのポスターを見るとコノ話を思い出して笑っちゃいます。
(顔が同じ人ばっかりの男女の国の話、
ロイス・マクマスター ビジョルド のミラー・ダンスの下巻に同じような殖民惑星が登場するのを思い出しました。
同じ顔の人ばかりなので主人公がやっぱりぎょっとするんです。
ストーリーは全然違います。)
「機械人形の国」
キノは森の中で道に迷い、老婆に会います。
「自分はある一家に使えている機械人形だ」というその老婆の勧めで、彼女が使えている家に泊めてもらい、家族の不思議な暮らしぶりを見たり、老婆の料理をご馳走してもらいます。
湖の底にある滅びた国を見せてもらった次の日、老婆は寿命が尽きるのでした。
キノが問いかけると、老婆が使えていた一家は真相を語ります。
一家は老婆が昔作った機械人形たちで、老婆は家族を戦争で失った悲しみのあまり記憶が違ってしまった人。
老婆のために「老婆をメイドとして雇っている家族」を演じてきた事。
そして、人間の役に立つために生まれた機械人形は人間の役に立たなければ存在の意味が無い事。
キノは機械人形たちに主人になってくれと頼まれますが断り去っていきます。
ちょっと可愛そうなんですが、ふしぎと後味の悪くないお話。
人形達の言い分もキノの言い分も間違ってないよな、と思います。
キノのクールな言葉が次々出てきて、キノの旅らしい冷たい雰囲気にまとめあげてあります。
キノは機械人形たちに
「必要とする人はいませんか」と問いかけられて
「…………。興味ありません。残念ですが」
「今のところはいませんね自分以外は」
「人間って誰かのために生きていないと辛いものなのでしょう?」と聞かれて
「よりけり、です」
とバッサリです。
キノ、自分以外は必要ないんだ……。
でも、機械人形に依存して生きるのもまずいから答えはこれでいいのか。
老婆がたくさん美味しそうな料理を作るのですが、材料はドコから仕入れているのか疑問。
バターやベーコンや卵が自家製だとしたら牛も豚も鶏も飼育してなくちゃいけないですよ。
……お話だから突っ込むところじゃないね。ごめんなさい。
「差別を許さない国」
ハタから見たら、とんでもないけど当事者は全然気がついていない。
恐ろしく不潔な国です。
城壁の外に暮らす入国管理官だけが健康な国。
こういうのもあるよね。と思わせる寓話。
「終わってしまった話」
作者が、キノの旅3を最終巻のつもりでいて書いたお話だそうです。
旅人をやめてしまったキノの語りかな、と思わせておいて、全然違う人物の語り。
イーニッドと呼ばれる女性が、キノに負けたことで海賊になるのをあきらめた少女時代を語っています。
このイーニッド、乱暴な男言葉で登場するので、男性と思わせておいて女性だったというお話にもなっています。
ところが私「学園キノ 3」を先に読んじゃったせいで、
「あー、イーニッドここに出てきてたんだ。金髪美少女だよね」となっちゃって、そのぶん面白さ半減でした。
やっぱり続き物は作者が書いた順番に読んだほうがいいみたい。
「学園キノ」から読んでしまった私は、色々損しています。
以上、3巻を読み返して思いつくまま書いた感想でした。
時雨沢 恵一 (著) , 黒星 紅白 (イラスト)
「…………。興味ありません。残念ですが」☆☆☆☆☆
キノとしゃべる二輪車エルメスが旅をして色々な国を訪ねる物語の3冊目です。
色々な文化程度の、それぞれの風習がある城壁に囲まれた国々が点在する世界。
この巻では、
シズのたどり着いた城壁の無い国では「歌で敵から国民を守っている」と説明をうける。「愛と平和の国」や、
キノが歓待を受ける遊牧民の国「城壁の無い国」、
キノが、まだ師匠のところにいたときの話「説得力」
他との比較をしないため、自分達の現状を理解できない「差別を許さない国」などが、載っています。
とくに時系列の前後する「雲の中で.a/b」の雲による場面の展開と、
「機械人形の国」での機械人形たちの問いかけに対するキノの冷たい返答が「キノらしい」です。
また「同じ顔の国」の住民達の明るさが清清しくて楽しい読後感でした。
どのお話も、とても面白い本でした。
キノの旅〈3〉the Beautiful World (電撃文庫)
以下個人的な感想です
お話の重要な部分がわかる記述がありますので、未読の方はご遠慮ください。
『ひとり「キノの旅」まつり』4冊目のレビューは「キノの旅」3巻です。
「愛と平和の国」
城壁が無いけれど愛と平和の歌で敵国の軍勢は改心させる事ができる。という国
マクロスだ!と思いました。
「雲の中で.a/b」
白い雲の中での会話の後、ちょっと前にあった出来事が書かれる時系列逆転した話。
雲が晴れたらきれいさっぱりなくなっていたらいいのに、という会話のb
山のガスがかかる前にキノ達は毒草を食べて全滅したキャラバンを発見していた。a。
(これは15巻で名前が付く「フォト」という少女がいっしょにいた行商人のキャラバン。
3巻の発売時点ではまだそういった話にはなっていません。)
「城壁の無い国」
放牧民の国に歓待されたキノが、お嫁さんとして国に取り込まれそうになる話。
キノを助けてくれた人物は、昔この国に取り込まれた旅人ラウハーでした。
ラウハーは中毒性のある草なしでは暮らせなくなった大人たちを全滅させて、まだ草の中毒になって居ない子ども達だけを助けようとします。
子ども達は自分の親達を殺害した彼を殺し、自分達も大人になるつもりで草を吸うのでした。
ラウハーはめずらしくキノより強い人物です。(師匠も強いけど)
どうやら故郷の特殊部隊にいた人物で任務ゆえに旅人にならざる得なかったようです。
キノ以外は全滅という鬱展開ですが、面白いです。
雰囲気が映画の「ダンスウイズウルブズ」みたいね、とちょっと思いました。
「説得力」
キノが師匠のところで修行していたときの話。
3人の盗賊が師匠に「ありったけ出せ」と請求し、キノに殴られゴム弾を打ち込まれ財産を巻き上げられる。
師匠はおっとりした物言いの老婆だけれど、凄腕のパースエイダー使い。
エルメスの運転や扱いにはうとくてエルメスは転ばされてしまいます。
エルメスと師匠のやり取りが、とぼけていて可愛いです。
「同じ顔の国」
SFです。
クローン技術で人口を増やした平和な国
キノが「また遊びに来てもいいな」というくらい良い国
でも近隣国はクローン技術が理解できず「同じ顔をもつ」住民達の「悪魔の国」と、この国を爆撃して滅ぼしてしまいます。
キノや軍隊が去った後、地下シェルターにもぐっていた住人達が出てきて
「生き残ろうとする意思があれば、そんなに簡単に滅びはしませんよ」
と国を再建しようとするところでお仕舞い。
住民が明るくて、思いやりがあって、技術も発達した良い国です。
爆撃されても、ちゃっかり地下シェルターに隠れていたという明るい終わりが楽しいです。
ハサップのポスターを見るとコノ話を思い出して笑っちゃいます。
(顔が同じ人ばっかりの男女の国の話、
ロイス・マクマスター ビジョルド のミラー・ダンスの下巻に同じような殖民惑星が登場するのを思い出しました。
同じ顔の人ばかりなので主人公がやっぱりぎょっとするんです。
ストーリーは全然違います。)
「機械人形の国」
キノは森の中で道に迷い、老婆に会います。
「自分はある一家に使えている機械人形だ」というその老婆の勧めで、彼女が使えている家に泊めてもらい、家族の不思議な暮らしぶりを見たり、老婆の料理をご馳走してもらいます。
湖の底にある滅びた国を見せてもらった次の日、老婆は寿命が尽きるのでした。
キノが問いかけると、老婆が使えていた一家は真相を語ります。
一家は老婆が昔作った機械人形たちで、老婆は家族を戦争で失った悲しみのあまり記憶が違ってしまった人。
老婆のために「老婆をメイドとして雇っている家族」を演じてきた事。
そして、人間の役に立つために生まれた機械人形は人間の役に立たなければ存在の意味が無い事。
キノは機械人形たちに主人になってくれと頼まれますが断り去っていきます。
ちょっと可愛そうなんですが、ふしぎと後味の悪くないお話。
人形達の言い分もキノの言い分も間違ってないよな、と思います。
キノのクールな言葉が次々出てきて、キノの旅らしい冷たい雰囲気にまとめあげてあります。
キノは機械人形たちに
「必要とする人はいませんか」と問いかけられて
「…………。興味ありません。残念ですが」
「今のところはいませんね自分以外は」
「人間って誰かのために生きていないと辛いものなのでしょう?」と聞かれて
「よりけり、です」
とバッサリです。
キノ、自分以外は必要ないんだ……。
でも、機械人形に依存して生きるのもまずいから答えはこれでいいのか。
老婆がたくさん美味しそうな料理を作るのですが、材料はドコから仕入れているのか疑問。
バターやベーコンや卵が自家製だとしたら牛も豚も鶏も飼育してなくちゃいけないですよ。
……お話だから突っ込むところじゃないね。ごめんなさい。
「差別を許さない国」
ハタから見たら、とんでもないけど当事者は全然気がついていない。
恐ろしく不潔な国です。
城壁の外に暮らす入国管理官だけが健康な国。
こういうのもあるよね。と思わせる寓話。
「終わってしまった話」
作者が、キノの旅3を最終巻のつもりでいて書いたお話だそうです。
旅人をやめてしまったキノの語りかな、と思わせておいて、全然違う人物の語り。
イーニッドと呼ばれる女性が、キノに負けたことで海賊になるのをあきらめた少女時代を語っています。
このイーニッド、乱暴な男言葉で登場するので、男性と思わせておいて女性だったというお話にもなっています。
ところが私「学園キノ 3」を先に読んじゃったせいで、
「あー、イーニッドここに出てきてたんだ。金髪美少女だよね」となっちゃって、そのぶん面白さ半減でした。
やっぱり続き物は作者が書いた順番に読んだほうがいいみたい。
「学園キノ」から読んでしまった私は、色々損しています。
以上、3巻を読み返して思いつくまま書いた感想でした。