タイムラプスいろいろ

タイムラプス映像への飽くなき追求


タイムラプス・フォトグラファー 岡 浩一郎
www.skypix.jp

音楽における「1/fゆらぎ」の実証

2020年09月10日 | 日記

はじめに

「1/fゆらぎ」はそれを見たり聞いたりする人が最も心地良く感じ、リラックスし、癒されるという、音楽や静止画や動画に現れる特定の周期の変化(ゆらぎ)の事を言います。セラピーへの関心の高まりと共に近年益々注目されているものです。

「1/fゆらぎ」そのものの解説はいくつかの研究者により詳細な分析と検討がされていますので、それらをご参照いただくとして、ここではごく簡単にわかりやすく嚙み砕いた説明をさせて頂きます。 人間が心地良さを感じる知覚には視覚と聴覚がありますので、これは静止画(写真)、動画、音楽にかかわる話となります。 動画写真家である私の関心は職業柄「動画」にあるのですが、まずはとっつきやすそうな音楽から実証して理解を深めることにしました。

 

「1/fゆらぎ」とは

まず音(音楽)について考えなければならない最初の入り口は、すべての音は多数の音程(周波数)の音が混ざったものであると言う事です。 科学的には実際に測定した音(音楽)の不規則な波形を数学的に分解すると規則性のある複数の周波数の音に分解されることで証明できます。

問題はこの分解された複数の周波数の音の構成とひとつの曲の中で展開される変化(ゆらぎの周波数)なのです。 最も単純な音は、「ポ~」という時報のような音で一般に正弦波と呼ばれるものです。一つの純粋な周波数だけの音です。この音は一定なのでゆらぎがまったくありません。(ゆらぎの周波数ゼロ) 一方最も複雑な音は「ザ~」という、FM放送や昔のTVのアナログ放送での空きチャンネルで流れるうるさい音(ホワイト・ノイズ)です。一定に留まる音成分は無く(ゆらぎの周波数無限大)、それらが無限に交錯していると言える状態です。

人間が最も心地よく感じる音の変化はこのふたつの音のちょうど真ん中だそうで、それが「1/fゆらぎ」と呼ばれています。ひとことで言うと音の大きさ(パワー・スペクトラム)と高低に散らばったゆらぎの周波数の分布状態が反比例(ゆらぎの周波数が高いほど音量は反比例して下がる)になる状況です。反比例なので数式で「1/f」(fは周波数を表す)と呼んでいるのです。 別の見方をすると、規則正しい正弦波と最大不規則なホワイト・ノイズの間にあるこの音の変化は、「一定の規則性を包含しつつ、同時に適度な不規則性を混在している音の変化」と言うことができます。

*「ゆらぎの周波数」とは音自体の持つ周波数(音程)ではなく、それらが曲の進行の中で変化する繰り返し周波数です。(わかりにくければ読み飛ばして頂いて差支えありません)

 

どうしたら客観的に測定できるのか

「1/fゆらぎ」自体は数学的に明確に定義されていますので、それをソフトウエアで数学的に分析する事は簡単にできます。簡単とは言っても実際にひとつの音楽から音をサンプリング(摘出)して音程(周波数)に変換する際に、たくさんの楽器や声が混ざっている状況で正確に適正に分析するとなると実はかなり奥が深く、とても簡単とはいえるものではないことがわかります。ただ、学術的に極めようとするのではなく、ひとつの傾向を掴もうとするのであれば、すでに開発されているソフトウエア(フリーソフトもいくつかあります)でかなり役に立つ分析が可能なことがわかりました。

私もいくつかのソフトウエアを試してみましたが、一番現実的でかつ分析手法など詳細に解説されていて研究者にとっても信頼性と有用性が高いLogical Arts研究所の「ゆらぎアナライザー」を使用して実証実験をしてみることにしました。

測定結果は1.0を中心にした係数で表され、1.0がまさに反比例の「1/fゆらぎ」に一致しており、それより大でも小でも乖離するほど「1/fゆらぎ」から遠ざかることになります。 一般的には0.9~1.1の範囲内であればまずまず「1/fゆらぎ」に近いと考えていいようです。 この係数が1.0より大きいというのはゆらぎの変化が小さ過ぎてより正弦波に近いことを意味し、1.0より小さいというのはゆらぎの変化が大きすぎてよりホワイト・ノイズに近いことを意味します。

 

測定結果

私は色々な曲を(各ジャンル均一に選択したわけではありません)96曲測定してみました。

測定結果値が1.0の場合完全な[1/fゆらぎ」になります。したがって大でも小でも1.0から離れるに従って理想から遠ざかっていきます。つまり乖離値が小さい程理想の「1/fゆらぎ」に近いと言うことになります。

1.0からの乖離幅が0.01以下(測定値0.99~1.01)は特に注目しました。まず文句なしの「1/fゆらぎ」と言えるでしょう。乖離幅が0.02以下と、0.05以下(測定値0.95~1.05)も色分けしてありますが、十分に「1/fゆらぎ」に近いといえる値です。 乖離幅が0.1を超える測定値0.9以下および1.1以上は論外として色付けしていません。

 

 

1. まず、自分のカラオケを録音したファイル50数本がPCに保存してあったので、それを試してみました。

2. 自分のカラオケでもっとも大切にしている歌が2つあります。ひとつがフランク永井の「おまえに」、もうひとつが布施明の「マイ・ウェイ」です。この2つの歌は自分の30年間にわたるカラオケ歴史の最初と終わりのようなものです。 「おまえに」は8トラック・カートリッジ・テープでカラオケ音楽が流れるスナックの片隅のステージで歌詞本を見ながら歌う時代に、初めて熱唱した歌です。歌い込み量は半端なく完全に自分の歌になっています。 一方マイ・ウェイは、30年間没頭してきたカラオケの世界で最後にたどり着いたマイ・ベスト・ソングです。この歌が自分の人生のすべてを歌っていると感動する、自分のカラオケの終着駅です。

3.驚いたのはこの「おまえに」と「マイウェイ」が他の50数曲を圧倒して1/fゆらぎ曲線との乖離誤差が極めて少なかった(理想曲線1.0に対し乖離0.02以内)ことです。 どちらも自分のカラオケ人生で最も自分を惹きつけ支配してきた曲であるだけに、やはりそれだけの歌だったのだと感慨深いものがありました。

4.次に手持ちのCDで色々と試してみることにしました。

5. 前評判の高かったべートーベンの「運命」やモーツアルトは確かにスコアは高かった(1/fに近い)が、特に抜きんでるほどではありませんでした。 色々なCDで最も驚きを感じたのはあの有名な韓国ドラマ「冬のソナタ」と「秋の童話」の効果曲で、その突出した高いスコアには鳥肌が立ちました。この測定結果の上位を埋め尽くす様子を見てください。  この2つのドラマはDVDでも何度も見ていますが、あのいくつかある効果曲(歌)が流れてくると本当に体中が締め付けられ自分の中から感情というものが絞り出される感じがして、気が付くと涙が込み上げて来ます。果たしてそれらは1/fゆらぎのせいであったのです。  それにしてもさすが「感情の国民」、韓国人の作った音楽です。日本人には絶対まねできないと思います。

6.意外と言えばスペインのフラメンコです。これはタブラオという酒場で10人くらいの舞踏演奏団が踊って床を踏み鳴らし手を叩きギターを奏でながら歌う哀愁に満ちた音楽です。自分はスペイン留学時代にタブラオでこれにはまって夜9時開演から朝3時看板まで舞台かぶりつきで熱狂していました。ジプシーによって広められたこれらの歌は悲しい哀愁を帯びていながら感情のボルテージは極めて高い特徴的なもので、共鳴をする者を本当に虜にしてしまうのです。とは言ってもあの激しい音楽が全く曲風や感性の異なる前述の韓国ドラマの効果曲とならんでトップスコアグループに参入するとは思いませんでした。 「1/fゆらぎ」とは、癒し=おだやかな静かな曲とは限らないようです。人を共鳴する力なのかもしれません。

7.ちなみにこの実験で、自分のカラオケや実際の歌手の歌をごったにして計測しましたが、歌い手のうまい下手は必ずしも測定結果に直接的には反映していないように思えます。 例えば第3位となった「白い恋人たち」は私の妻が習いたてのころ発表会で演奏したたどたどしいエレクトーン演奏の録音です。ところが有名オーケストラが演奏した同じ曲のCDもほんのわずかな違いでトップ・グループに並びました。声にしろ楽器の演奏にしろ、瞬間の音程(周波数)を切り出して、曲全体の中でのその周波数の変化を捉えているからだと思います。声の質や歌い方は直接的には関係はしていないと思われます。忠実にメロディの進行を追跡して分析しているようです。

 

おわりに

最初は「1/fゆらぎ」って言うけど本当にそんなものが客観的に存在するのだろうかと半信半疑でした。しかしもしそんなものが存在して、更にそれが数値化して測定できるとしたら、それは凄いことだと思いました。つまり人間の感性に訴える作品を創るときに逆にそれを活かせるのではないかと思ったからです。

サンプルに使った曲は全てのジャンルを網羅しているわけではないし、また分析の仕方も測定値、すなわちグラフ(パワースペクトラムと周波数の対数グラフ)の傾きのみを注視しているので、周波数によるパワースペクトラムの直線性の評価はしていません。しかし、これだけで十分信頼に足る結果を得れたものと確信しています。

当初の疑いは全く不要でした。そして誤差はあるとしても定量的に測定できることがわかりました。 こうなってくると私の関心事は静止画や動画など視覚に訴える物の「1/fゆらぎ」です。 ここでの実証は動画作品を完成させるときのBGM選びに大いに生かせると思います。