いらっしゃいませ。
居酒屋亀山亭へようこそ。
おや、三丁目の若旦那。お久しぶり。
お仕事、忙しかったんですか？
たまには覗いてくれないと、若旦那の顔忘れちゃいますよ（笑）。
ところで、せっかく来ていただいて申し訳ないんですが、今日は活きの地魚が無いんです。
ここ数日、時化続きで水揚げが無かったんですよ。
魚は干物しかありませんが、それでもよろしいですか？
すみませんねえ。
とりあえず、こちらからどうぞ。
ええ、そうです。セリですよ。
懐かしい味？
そうですか、それはよかった。
私たちが子どもの頃は、春になるとそこらへんの小川の傍でよく摘んだものですけどね。
最近はとんと見かけなくなりましたね。
さあ、お次はこちらですよ。
タケノコとワカメの「若虫ﾏ」です。
どちらも今が旬の地の物ですよ。
若旦那の好物でしょ。
ええ、もちろん覚えてますとも。
若旦那が一番好きなものもね（笑）。
早く出せって？
ダメです。
しばらく顔見せなかった罰です。
おあずけです（笑）。
え？お願いだから出してくれって？
それを食べたい一心で、こっそり仕事抜け出してきたんですって？
おやおや。そうだったんですか。
それは失礼しました。
いえね、実をいうと私も、今夜あたりそろそろ若旦那がいらっしゃる頃なんじゃないかと思って、用意しておいたんですよ。
はいどうぞ。これでしょ。
タケノコの「姫皮」。
甘くて柔らかくて、とっても美味しいところですよね。
スーパーで売ってるパック入りの水煮には付いてないから、最近の若い奥さんは知らないでしょうね。
うちの奥さんもそうだって？
でも、若旦那の奥さん、料理がお得意だっておっしゃってたじゃないですか。
え？泥つきのタケノコを一から料理するなんて手のかかることは絶対にしない？
そうですか。奥さんもお忙しいでしょうからね。
お子さん達の世話もなさっているのでしょう。
仕方がないですよ。
まあ、こういうめんどくさい仕事は、私みたいな暇人にまかせてくださいな（笑）。
よろしかったら、奥さんの分もお包みしますよ。
今日は早く帰って、奥さんと一緒に晩酌の続きをされてはいかがですか？
